016:そして、一時間目へ
全力全壊。
そんな言葉を初めて聞いたとき、呆れると同時に感動に近い感情を覚えた。
――こいつ、馬鹿じゃね?
そんな呟きは、もしかしたら願望の裏返しだったのかもしれない。
……そう、それぐらい本気で力を使ってみたい、という。
「………………」
『………………』
『………………』
『………………』
俺の魔力は、一般人に比べて桁外れの値なのだとか。
あの母親にして俺ありというか、そんな感じらしい。
……で、そんな俺の魔力が、長門のS3機関で増幅され、しかも全力で攻撃術式に転化した場合。それが、この現場の惨状だった。
「……失敗した。長門の……S3機関をなめてた」
S3機関。そのシステムとは、術者の魔術演算の補助、および魔力そのものの増幅だ。
要は、全開の魔力を砲化する際に、長門の倍加率を見誤った、と言う事だ。
幸い砲口は海岸を向いていたが……。
「……むぅ」
『むぅ、じゃねえだろがっ!! お前、これヤバイだろっ!!』
『あわ、あわわわわ………』
『……凄い』
陽輔が怒鳴って、真弓は錯乱して、香山は呆然と呟いて。
大和の、その体。
砲術式の反動から、思い切り吹き飛ばされ、結果見事な感じに御山に埋まってしまっていた。
因みに、大和の背後に接続していた長門は、見事に山の中に埋まってしまっていた。
まぁ、幸いそう深いところではない。
「…………術式選択:砲撃」
ドオオオオンッ!!
砲撃で山の一部を吹き飛ばし、顔をのぞかせたところで一気に……長門だけ離脱する。
「ふぅ、すっきりした」
良いながら、自己の損害状況を探査していく。
が、驚いた事に、地面に埋まったと言うのに長門は全くと言って良い程ダメージを受けていなかった。
そもそもの強度に加え、様々な防護策が施されているのだろう。
……はぁ、こりゃ量産なんか出来るはずないな。
「よし、そんじゃ帰るか」
『いや、ちょっと待て!!』
「ん? 如何かしたか?」
『その前に俺等を助けていけよっ!!』
言われて眼下を見下ろす。
そこには、相変わらず行動不能となったままの大和が。
「……んーー、よし」
一つ頷いて。
「陽輔。お前、事情説明を頼む」
『は、はぁ!?』
「正直体力の限界。そろそろ俺がエンストしそう。救助はLOGの隊員さんに頼め」
言って、長門を上昇させる。
……S3機関の補助あっても、どうも今一動きが鈍かった。
幾ら回復槽に入っていたとはいえ、たかだか数時間で全快する訳でもなく。
今の俺は、正直かなりヘロヘロになってしまっていて。
「んじゃ、俺帰る。……ああ、彼女達に負担かけるなよ?」
『ならお前が説明……巧いいいいい!!!!!!!!!!』
通信機から響く怒声を切断して。
長門は、ゆっくりと、しかし次第にその速度を増して。
「術式選択:隠蔽」
その姿を霞の如く消して、そのままラボへと戻っていくのだった。
「………朝か」
眺めるモニターの光景が、不意に色合いを帯びていて。
東から上った太陽が、少しずつ世界に色を与えていった。
「……ヤバイ。今日学校あるぞ……」
学校が始まるまで、時計を見れば後数時間。
これは、少々不味いかも知れない。
アンノウンとの戦いではかかなかった冷や汗を、そんなことで背筋にうっすらと浮かべているのだった。
第一部完。
多分まだ続けます。この世界観まだまだ弄れるんで。ただし更新頻度は少なめ。
宜しければ偶に覗いて「あ、更新してるな」的な生暖かい視線で見守ってやってください。