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015:大地翔る

拳一閃。その巨大な拳は、呪術的な加護をもって、その巨大な怪物にめり込んだ。


「グギエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


此方を木偶と侮ったか、アンノウンは不用意に近づいてきて。

しかし故に、その無防備な胴体に、圧縮された魔力の乗った一撃が叩き込まれて。


……想像以上に大和の機体添付術式は優秀なようだ。

膨大な魔力を余す事無く威力に変換し、唯の一撃でアンノウンに大穴を明けていた。


「グゲゴアアアアアア!!!???」


驚いたかのように飛び退るアンノウン。

……こっちも驚いた。アンノウンにあいた大穴は、即座に再生を開始している。

個体数に対して恐れられるのは、この脅威の再生力が由来の一つだというが。実際に目の当たりにすると納得だった。


「足止めするぞ。蛸殴りにしろ!!」


ギイイイイイイイイイ……。S3機関が唸りを上げて魔力を増幅させていく。

演算を加速させ、増幅された練り上げられた、それこそ俺のキャパシティーを軽く上回るほどの膨大な魔力を、しかし同時に制御するのはあっという間で。


「術式選択:磁場結界一式」


途端放たれるのは8つの小さな魔方陣。

それらはアンノウンの周囲を覆うと、その周囲に八角形を作るように地面に根付いて。

楔となった方陣から、莫大な魔力があふれ出した。


バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバイイイイィイィィィイ!!!


『巧、これは……!?』

「説明は後でしてやる。いいから殴りつぶせ!!」

『足元障害なし。陽輔君、いけますっ!!』


グゲアアアアアアアアアア!!!!!!!


悲鳴を上げるアンノウンに、魔力を帯びた大和が殴りかかる。

結界に割り込む瞬間、相殺波長を機体に流す事で、磁場結果以内での行動を限定的に許可するのを忘れずに。


『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』


グシャアアアッ!! グシャッ、グシャアアアアッ!!!

交通事故のような音が、しかし連続して響く。その巨大な拳の一撃は、しかし車の衝突どころではなく、戦車の砲弾すら上回るのではないだろうか。


「ゲゴオオおおおおオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


対するアンノウンはといえば、磁場結界の効果から満足に体を動かす事もできない様で。


電撃系魔術の亜種。超高圧の志向性磁場を発生させる事で、有機物無機物問わず、強大な負荷を掛ける事の出来る圧殺魔術だ。

本来は対HM用の術式なのだが、どうやらアンノウンにも十分効果が在ったようだ。


「そろそろ術が解ける。最後に一発かませ!!」

『蹴り動作用の魔力運営は最適化出来てるから、何時でもOKよ!!』

『大和とアンノウンの一直線上に障害はありません。今なら行けます!!』

『…おっけー、任せとけ!』


猛りを込めて、大和の体がはじける。

右足を前にすり出し、縮めた膝の発条バネが、地面から力を吸い上げて、途端に残してきた左足を引き寄せる。

グリンッ。

右足を軸として、大きくアンノウンに背を向ける回転。

背面回し蹴り。

渾身の蹴りをたたきつけられたアンノウンは、それこそ車に弾き飛ばされた人かのごとく宙を舞った。

やっぱり、何か格闘技を仕込まれてるなぁ、陽輔の奴やつ。


ズウウウンッ!!

響く地響きと立ち上る土埃に、アンノウンの視界は覆い隠されてしまって。


『やったか!?』

「……その台詞はフラグ立ったぞ」


予想通りというか。

土煙の中から放たれた触手を魔術で迎撃しつつ、陽輔に促して大和を後退させる。


あれ程の攻撃を受けて尚、アンノウンはその活動を停止させていなかった。

抉れた肉は即時に再生を開始し、それと同時に魔力を纏った膨大な質量の肉塊が攻撃を再開、機体の装甲を打ち付けてくる。


即座に損害のチェックを行い、問題部があれば修復、出来ない部分は他の箇所に代役を宛がっていく。


「ちいいい!!!」

『陽輔君、近付き過ぎてるっ!!』


内側まで接近しすぎたのだろう。通信機から香山の悲鳴のような声が響く。

アンノウンは大和を覆うように広がり、圧し掛かろうとしてきて。


――ぐりんっ


大和の動きはすばらしかった。

爪先を基点とした円形回避。アンノウンには、突如大和が消えうせたように見えたのではないだろうか。

たとえるならそれ程の見事な移動。

……まぁ、メカニックの視点からすれば、かなり爪先とか膝関節にかかる負担が大きい動作だったけれども。


考えながら計器に目を落として、さらに驚く。

アレだけの無茶な動き、幾ら魔力駆動とはいえ当然部品は磨耗する。

……する筈だ。だというのに、計器に表示されるステータスは、どこもオールグリーンだ。

履歴を確認。……魔力値の調整を確認。


……これは、なんというか。真弓、想像以上にすばらしい。

つまり、一瞬だけ大和のほぼ全身の魔力を、蹴りの動作に必要な部分だけに割り振ったのか。


感心している内に、アンノウンの側面に回りこんだ大和は、そのまま後ろ回し蹴りでアンノウンを海岸まで押し戻す。

響く悲鳴。

その開いた空間をさらに押し広げるべく、パネル上で手を躍らせる。


――術式構成、複製に次ぐ複製の後に連続起動。


大和の背中、そこに張り付いた長門の周囲で展開される、40からなる魔方陣の群。

そのそれぞれへと魔力が送られ、不規則な動きの閃光が、次々にアンノウンへと突き立った。


「ギエアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

『目標、海に落ちました』

『よっし、このまま一気に攻めるわよっ!!』

「まぁ、待て」


猛る真弓を口頭で押さえ、長門のシステムに魔力を通していく。


「現状、大和には決定打となる攻撃力が無い。何せ、武装が無いからな。このままじゃ何時までたってもアレを倒しきる事なんて出来ないぞ」

『なっ、本当かよそれ!!』

「ああ。けど、長門には……いや、長門に乗っている俺には、アレを消し飛ばす術がある」


言いながらも準備を進めていく。

何分大掛かりな術式だ。長門での起動は初めてだし、準備には少し時間が掛かる。


「香山、LOG防衛部隊に連絡を。連中の砲撃でも足止めくらいにはなるだろうし」

『了解』

「陽輔、お前は戦闘管制。真弓はパワーバランスの調整を。今まで以上に脚部に負荷が掛かるから、そのつもりでしっかりやってくれ」

『わ、わかった』

『了解。ちゃんとやっとくわよ』


其々の承諾の声。

誰とも無く頷いて、大和は大きく背後へバックし、そのまま何かを待つように片膝を地面へと沈めた。


と、香山が通信をつけたのだろう。

しばらく傍観していたLOGの部隊が、ここぞとばかりに砲弾やらミサイルやらをコレでもかと撃ち込み出した。


「良し良し」


それを見ながら術式の書き直しを進めていく。

この術式は元々俺個人が使うため……つまり、人のサイズ用のものでしかない。

それを、長門を通して大和のサイズで撃つために、添付式を少しいじくっているのだ。


夜空にひらめく閃光と白煙、ついで響くのは爆音と轟音。

LOGのHMからだけではない。

LOGの施設に埋設された、迎撃用施設からとんでもない数の攻撃が放たれていた。


大和はその身体を屈ませ、まるで時を待つかのように身を潜めている。

大和と長門のリンクを通して、術式のコンパイルを分散処理させているのだ。

つまりは、それほどの高圧縮術式。

字祷子指数なんてビックリドッキリだ。


「…………っ、よしっ!!」


漸くHM用にコンパイルしなおせた術式を、今度は長門に通し、物質顕現マテリアライズさせる。


「――術式選択:Vキャノン」

『って、お前ええええ!!!』


顕現する巨大なキャノン砲。それは大和本体に比べてもなお巨大。

両肩から突き出したフィールド調整機は大和本体よりも大きいのではないかと言う程だし、その下半身はアンカーレーザーで地面へと固定されている。

そして、宙に浮くビット。魔力を帯びた浮遊する六つのビットは、次第に回転し、その速度も等加速度的に高まっていった。

回転式歪曲場形成システム。空間の歪そのものをたたきつける、俺と父さんの合同傑作だ。


『お前、これはダメだろう!! 言わないけど、色々ダメだろう!!』

「陽輔分るのか。嬉しいね……それじゃぁ、俺はナビゲートに専念するさ」


純粋には、これは俺のオリジナルと言うわけではない。

が、こんなものやったモン勝ちなのだ。


「Vキャノンモードに移行。

エネルギーライン、全弾直結。ランディングギア、アイゼン、ロック。

チャンバー内、正常加圧中。ライフリング回転開始。Vキャノンモードに移行」

『やっぱりお前も、十分変な奴だっ!!!』

『LOG隊の人たち、撃ちますよ、退避してくださいっ!!』


ビットはすでに目に見えないほどの速度で回転して、その中心は鏡面のように空間が歪んでしまっている。

魔力圧縮も完了。すでに何時でも撃てる。

香山の指示でLOGの部隊も退避した。


「……撃てます」


最後の台詞を言い放ち、全ての魔力を術式に撃ち込む。


『……こいつでトドメだ!』


なんだかんだでノリのいい陽輔。

次の瞬間、大和のモニターが真っ白に反転した。


『うわっ』『わきゃっ!!』『きゃっ!?』


そういえば、大和側に注意を促すのを忘れていた。

赤外線モニターに移行した長門のモニターに移る映像。

それは唯々、夜空に突き立つ巨大な閃光が、海を叩き割る光景だった。


「……凄」


ちょっと計算を見誤ったかもしれない。

人間サイズのときでも、このVキャノンは撃つ事が出来る。

が、そのときの威力なんて精々車10台を貫通するかしないか程度だ。

抗魔術装甲3枚撃ち抜けるかどうか、と言ったところだ。


けっして、海を瞬間的にとはいえ蒸発させる、なんて思っても見なかった。


「……グ、ゴゴゴゴゴゴゴ…………………………」


巨大な肉の塊から、そんな声が聞こえてきて。

体の大半を消し飛ばされ、しかしそれでも体を維持していたアンノウンは。


「……術式選択:レーザー」


短縮呪文でショートカット起動させた追尾レーザー。

その一撃を食らった途端、まるで波に解ける砂のように、ぼろぼろと海中へと崩壊していったのだった。


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