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012:Laboratory

そうして、ふらつく身体でなんとかラボまでたどり着いて。

震える手で静脈認証やら網膜認証で入場許可を取って。


「あ゛ー……」


ふらふら、まるでゾンビの如く施設内を徘徊している所を、顔見知りの研究員に発見され、(思い切り悲鳴を上げられたりしつつ)此方を確認してもらい、なんとか医務室へと運んでもらったのだった。


「へぇ、ついにHMでアンノウン戦をやったのか」

『ついにってなんだよ……まぁ、三人羽織だし、正直経験としては今一なんだけどなぁ』


偶々施設に詰めていた父さん。顔見知りから連絡を受けて、この医務室へと駆けつけてくれたのだとか。多分業務をサボりたかっただけだろう。


「で、如何だった?」

『……正直な話、かなり恐かったね。あのグロ肉、どんな構造してるんだか、肉の塊の癖に物凄く強靭で、しかも動きはまた凄い』


下手なHMよりも強いだろう。

ゴボゴボッ、とポッドを満たす溶液に気泡が浮かんだ。


「くくっ、しかし、お前が魔力欠乏ねぇ……。ミコトさんに言ったらどんな反応するやら」

『ちょ、それだけはマジ勘弁!! もうあのスパルタは嫌だって!!』


母さんの名前を出されて慌てた所為か、ポッドの中が更にあわ立つ。

エーテル水。魔力の原液のような力をふんだんに含んだ液体であり、浸かる事で魔力の回復は勿論、傷の治療、疲労回復などもこなす事が出来る優れ物だ。


このラボの性質上、HMの実験などで、どうしても魔力欠乏や怪我などが起こってしまう。

だからこそのこの最新設備。これだけはゴリ押しを通した父さんを認めても良い。


というか、父さんだって知っているくせに。

ちょっと憂鬱になりながら、左耳を触る。赤い金属のピアス。これさえ無けりゃなぁ。


……と、そんなことを考えていると。

医務室の壁に備え付けられた液晶ディスプレイをぐっと引き伸ばしてくる。

――こういうところはケチるのだ。グラスファイバディスプレイとかに買い換えれば良いのに。


「ほれ、今日のニュース丁度やってるぞ」


言われて、モニターを眺める。

散々な目にあったとはいえ、今日アレと関わりあったのは間違いない。

事の顛末ぐらい知っておきたかった。


テレビ画面に表示されているのは、あのアンノウンの写真。

テロップには『巨大アンノウン、LOGの巨大HMと大戦闘!!』なんてかかれている。


切り替わる画面。…ああ、大和の戦闘シーンが撮影されてる。

画面の中では、数枚の画像で表示される大和とアンノウンの戦闘シーン。


「大和か。アレは良い機体だぞ」

『良い機体って……俺としては、操作系統が一本化されてなくて、かなり扱い辛いって印象しかなかったんだけどな』

「ははは、本来HMを一人で運用しようなんて言う方が無茶なんだがな」

『はぇ?』


思わず疑問の声を上げた俺に対し、父さんは苦笑を一つ返して。


「元来、HMの操縦をするにはSLSを通して魔力を供給し、其処に意志を載せて機体を制御する必要が在る」


それは魔術的にも基本的なことだ。

意志を載せるからこそ、魔導は魔導なのだ。


「で、魔力の微調整。必要な箇所に必要な分だけ、魔力配分を最適化する行為だな」


これも魔導では重要な基礎スキルだ。

魔力を体全体から発しても意味が無い。

必要な場所に必要な分だけ。または密度を高めて術の威力を上げたりと、応用の利く基礎だ。


「仲間との通信対話、および周囲の地形情報の整理による戦況把握」


魔導師も戦闘に立つ場合、自らの状況を正しく把握する必要が在る。

魔術が扱えても、鉄砲の前に無防備に立つ馬鹿は戦場に立てない。


『ようは、ソレをこなせれば良いんだろ?』

「……普通これを一人でこなすなんて無理なんだよ」

『は?』

「――まぁ、流石俺と尊さんの息子ってだけはあるかな」


はて、俺ってば何か特別な事でもしていたのかな?

まさかね。俺は比較的一般人だ。


言った途端、父さんは何故か頬を引きつらせて。


「しまった、感性方面でミコトさんにまかせっきりにしちゃったから……」

『父さん?』

「あー、なんでもない。まぁ、適当にやれば良いと思うぞ?」

『何か投げやりでない?』


言いつつ視線をテレビへと戻す。

今度はコメンテーターがなにやら適当なケチを言いふらしていた。


『ですからね、LOGにアンノウンが進入した時点でカタをつけていれば、こんな長時間ダラダラと警戒態勢を続ける事にはならなかったんですよっ!!』

『しかし、LOGはそもそも学校ですし……』

『其処に力が在るのに行使しないなんていうのは只の怠慢でしょうがっ!!』


……普段は、こういう文句も適当に聞き流すのだけれども。

流石に、関わった本人としては、こういう痴愚を見ると無性に腹が立った。


『父さん、コイツの名前と住所控えておいて』

「……あんまり無茶な事はしないでくれよ?」

『大丈夫。ちょっと脳天に雷落とす程度』

「いや、駄目だって!」


ち、駄目か。落雷くらい良いと思うんだけどな。

事故に見せかけるなんて容易いし。落雷。


『まぁ、駄目だって言うんなら控えるけど』

「嗚呼、尊さん。最近息子は部分的に貴方に似てきてますよ」


テレビに視線を戻す。

場面は変わって、再び画像が入れ替わる。

今度のものは今朝の戦闘……防衛軍とアンノウンの戦闘風景だろうか。


「“強風”だな」

『何でアレが正式採用されてるのか……“紫電”とか、“紫電改”とかならまだしも』


紫電と紫電改は、ともに強風…EHM−06の改修機である。

改修機こそ性能は高いが、素体となる強風は特徴の無い平凡な性能の機体だ。


「コストの面とか、扱いやすさで言うと、あれも優れた機体なんだ」

『コストって……多少金を掛けたっていいだろうに』

「紫電は癖があるからな。アレは在る程度錬度のあるHM乗りじゃないと」

『癖……あるかぁ?』


言って首を傾げる。途端顔に手を当てて何か呟く父さん。

結局声が小さすぎて聞こえなかったが。







そうして。

訥々と流れていた平凡なテレビ画面が一変し、何処かで見たことの在るリポーターの顔が映し出された。

――っていうか、コイツ今朝といわずアンノウンを追っかけてた報道ウーマン。


『皆さん、御覧いただけますでしょうかっ、一時撤退したアンノウンですが、今再びLOGへの侵攻を再開しました。何か目的でも在るかのようにLOGへ直進するアンノウン。LOGも迎撃態勢を取って、現在これと交戦を開始しましたっ!!』


言って、映し出されるのは暗闇に浮かぶ赤黒い肉の塊。

歯舌のような口からはあの魔力光が薄らと光っていた。


「コイツか、お前が今日戦ったのは」

『――また出たのか』


映し出される画面。

LOGの紫電改達が55.6ミリマシンガンや120ミリ砲を次々にアンノウンへと放っていく。

本来火器の使用は民間ではご法度なのだが、LOGは過去の経験から特別に、厳重な管理化の下で特例として許可されていたりする。


ポポポポポポポポポポポ!!!!!


アンノウンの口から幾つもの光弾が発射される。

紫電改はもちろん、既にボロボロになった海岸沿いの土地にボコボコと空けられていく大穴。


『学習してる…前は一点突破しかしなかったのに…』

「今は面攻撃だな。……へぇ、手強そうだ」

『というか、このリポート班も凄いよな。ヘリコプターで光弾回避してるよ……』


迫る光弾をヘリはひょいひょいと回避してしまう。

何でこんな人材がテレビ局勤めなんだか。


そうこうしつつ、ブレる画面は、しかし現場の様子を正確に映し出している。

地上で避難する人々の様子や、怪我人を運ぶ生徒達の姿……


『……って、おい!? 何であいつらあんな所に――!?』


映像の隅。小さくだが、見覚えの在る三つの姿が。

アレは間違いなく…


『陽輔、真弓、千穂!?』

「ああ、一緒に大和に乗った三人か?」

『連中は先に帰ったはず……何であんな所に!?』


ブレる画面に何度か映し出される三人は、しかしついに画面外へ消えてしまって。

只、その逃走方向が周囲の人間とは少し違ったような気がして。


「お前を待ってたんじゃないのか?」

『……は?』

「だからさ、お前気絶してたんだろ? なら、心配してお前を待ってたんだろうが」


………………。

…………。

……。


「――感性か。巧、もう少し人付き合いを学べ」

『一因を担う父さんに如何こう言われる筋合いは無いと思うけど……』


けれども、その言葉は正しい。

そして、だからこそ。もう既に俺の決意は即決していて。


『父さん。ポッドを開いて』

「助けに行くのか? その状態で?」

『至極当然。アレは友達だ。見捨てない』


付き合いはまだ半日程度でしかないが。

けれども、彼等は俺の友達なんだ。


「――良かろう」


言って、父さんはパネルを少し操作して。

途端、ポッドの中を満たすエーテル水が徐々に抜けていく。

途端水の浮力を失い、久しぶりに重力を感じて。


次いで乾燥。エーテル水に濡れていた私服は、次の瞬間純魔力へと変換され、ポッド内部に設置された機器へと回収されていった。


カシュッ。音を立てて開くポッド。

魔力の回復度は…ほぼ100パーセント。体の何処にも異常は無い。



「よし、それじゃ……」

「行くぞホレ」

「い……は? 何処へ?」


言いつつ腕を引っ張って何処かへと俺を連れて行く父さん。

幾つもの扉を潜り、L5隔壁を通り抜け……


「ちょ、此処最重要区画――!?」

「いいから、ほら」


適当な感じにつれられてきたのは、俺も未だかつて見たことの無い、ラボの最奥に設置された小さなドッグだった。

収められていたのは小柄な菱柄を三つ組み合わせたH型の何か。

全長は16メートル程度であろうか。俺にはそれが一体何なのかさっぱり解らず。

あえて表現するならそう……。


「UFO?」

「近いな」

「近いのか!?」


ドッグの中央、その菱形の物体へと父さんは平然と近づいていく。


「PEAM−00、長門だ」

「PEAMって……はぁ!? EAMは陸奥系列の一種じゃないのか!?」


EAM…エクストラ・アームド・マキナ。

HMの支援を行う為に設計された非人型機械。

その役割は後方支援やエネルギー補給がメインで、前線に立つ事は先ず無い。

HMの発達したこの国でこそ開発されているが、この系統はまだまだ開発途上で、現在正式に存在しているのはEAM−01“陸奥”の一種の筈だ。

レストア系亜種こそ存在しているものの、長門なんていう別種の存在は初耳だった。


「こっちは開発に失敗した試作機でな。高性能を求めた結果、並の人間には到底扱えない高性能機に仕上がっちまって」

「失敗?」

「ソーサリー・シンクロ・システム。通称S3機関。SLSの次世代型で、より魔導面からのアプローチを強くし、なおかつ機械的に魔導師をサポートする機能が備わっている」


言いつつ父さんは、長門の表面に設置されたパネルをカタカタと叩いて、ハッチを開いた。


「これをお前にやる」

「……貸すじゃなくて?」

「どうせお前以外に扱える奴なんていないしな」

「そんな大げさな」


言いつつ、長門のハッチから中へと乗り込む。

内装は簡潔に纏められたサブモニターと、コックピットを360度覆う全天周囲モニター。


「武装は全部外してあるが、まぁお前の魔術で何とかしろ。PASSはお前のになってる」

「えええええ……」

「この機体の一番の特徴は、搭乗者の魔術を増幅するっていうシステムだ。有効に使えよ」


言って父さんは神束を此方へ投げつけ、コックピットから出て行ってしまう。


「搭乗者マニュアル……」


一読して、納得する。

基本的にはHMの操作と大差ない。

只この機体が航空機であり、その航行管制が少し難しそうでは在ったが。


「ま、何とかなるだろ」


言って、マニュアルを投げ捨てた。






「メインシステム起動確認。SSS同調開始。――同調完了」


意識の糸が広がっていく。

全体に満遍なく受け入れられた意識の意図は、其処から様々な周辺情報をフィードバックされてきて。

その情報整理と平行して、機体を次のシークエンスへ。


「魔力反発フィールド展開、――浮遊確認。航行用エナジーフィールド展開」


呟いて。途端、長門の背面のユニットから創り出されて、うっすらと浮き上がる4つのエナジーフィールド。


ゴウンゴウンと音を立てて上部の格納庫ハッチが開いていく。

一度父さんをモニター越しに確認して、機体を浮上させる。


「さて、……――いくか」


推力を全開に。

海の方向へ、長門は突如として加速したのだった。




    ※※※※




「いいんですか? アレあげちゃっても」

「三宅くんか。……いいさ、どうせアイツとミコトさん以外誰も扱えないんだし」


背後から現れた三宅くんが、何時もどおりオドオドとそんなことを言った。


「でも、アレって防衛軍の依頼で製作した奴でしょう?」

「失敗作だし。それは陸奥って事になったろ。武装も外して在るし、あれは此処で製作された一般機だよ」

「えー……」


まぁ、一般機と呼ぶには多少高性能すぎるかもしれない。

それに、武装でこそ無いがアレに搭載されているS3機関は半端な兵器より恐ろしい。


「ま、アイツなら大丈夫でしょ」

「信頼してるんですね」

「当然。俺と尊さんの愛の結晶だよ」


言って空を見上げる。

遠目に見える赤く燃える空だけれども。

すぐに収まるだろう。なんせ、俺の息子が動いたのだ。


「ま、俺達は大人しく仕事に戻りますか」



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