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010:鋼の一撃

『でも、格好良かったですよ』

『う――アリガト……』


「全く。お惚気め……」


苦笑しながら、真弓から転送されてきたデータに目を通し、大和の現状を少しずつチェックしていく。

さっきは本当に焦った。


普通、通常物質に一定以上の魔力を込めると、その物質は霊的=物質的に崩壊する。

で、さっき大和の両腕には、限界以上の魔力が堪ってしまっていた。


「――はぁ……」


大和の両手…いや、全身に刻まれている魔術刻印をみやる。

抗魔、抗物の式が、その魔力を存分に変換してくれたおかげで機体は形を残しているのだろう。


本来であればパイロットである魔術師が現場現場に応じて書き表す魔術式を、此方は直接機体に刻印されている。…これも三人羽織のための工夫だろうか。


「どうだ、真弓。もうそろそろ救援が来ても良い頃合だとは思うんだけど」

『今さっき輸送用だと思うヘリを確認したわ。多分、あと数分』


未だ少し掛かるのか。

全く、HMのメッカとは言っても、緊急事態には弱いのだろうか。


『入学式だしね。一般の生徒は休日で人も居ないし、第一崩れた校舎をHMで上るのは危険なのよ』


……納得。

二足歩行の利点は、その汎用性に在る。

手足を持ち、人間と言う汎用性の高い存在を巨大化したHMは、多くの場面で活躍する機会を勝ち得てきた。


……が、それでも二足歩行。やはり弱点と言うものは存在する。

人間がそうで在るように、この二足歩行機械も、足場が悪い所とかではかなり行動を制限されてしまう。


例えば、校舎が全壊して、足場の確りしていない瓦礫の上とか。


「とりあえず、もう少し時間を稼げばいいわけだ。……よし。それくらいなら未だ何とかなる――陽輔、骨芯と拳に魔力を」

『……っ!? りょ、了解!!』


ガタガタと少し慌てたような音の響く胸部コックピット通信。

あいつらコックピットで何やってるんだ。


「……真弓。無線で学園側へのコンタクトを頼む」

『この機体のは旧式の近距離無線だし、上手く繋がるかは解らないけど――いいわ。やっておいてあげる』


頷いて、機体に魔力を通す。

指示通り、骨格に沿って流れていく魔力。

防御力は下がったが、出力及び機動系、プラス拳の魔力密度を高めた事で攻撃力も上昇している。


「行くぞ」


一言宣言して、大和の足を進める。


「ギョエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


此方が前へと進んだ事に対しての威嚇だろうか。奇声を上げてアンノウンがその長大な尻尾を振り回してきた。

まるで鞭のように撓るその一撃を、……掴む!


ガシッ、と機体が一瞬沈みかけるが、骨格にのみ力を回した大和の柔軟性はまた強い。

衝撃を地面へと逃がし、尻尾を持つその手を確りと握って。


「出力系を全開にっ、投げるっ!!!」


拳表面への魔力が解かれ、今度は骨格系全体への魔力密度が上がっていく。

掴んだ尻尾を大和の肩へ。

そのまま海の方向へ一歩踏み出しながら、思い切り体ごとアンノウンを海へと放り投げた。


「ギエアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


ボチャアアアアンッ!!!


飛沫と轟音を上げて、アンノウンは海面へと叩きつけられていた。


「グッド!! 追撃行くぞっ!!」

『待った、アンノウンの魔力値上昇、砲撃が来るわよっ!!』

「陽輔、魔力を前面の装甲へっ!!」


帰ってきた真由美の言葉に、咄嗟に陽輔へと指示を返す。

途端、海中から起き上がってくるアンノウン。伏せていた身体を起こし、起き上がったそのアンノウンの口と思しき部分に集う魔力の光。けれども、何故か少しその魔力の高まりに違和感を感じて。


大和の装甲正面へと集めた魔力は、そのまま装甲に刻まれた抗魔の魔術式によって変換されていく。

薄い膜のような障壁が装甲を覆うように展開され、そのまま大和を地面へと屈みこませて。


その直後に、アンノウンの魔力砲が放たれた。

威力ではなく、数。牽制打を狙っているのか、小さく、しかし爆発を起こす魔術が、幾発も幾発も打ち込まれてきた。


「く、これじゃ……」


在る意味予想通り、機体ダメージ増大を示す警告音が機体へと鳴り響いた。


『機体ダメージ増大。不味いわよ、この機体そもそも整備不足だったから、細かく衝撃を与えられて限界が近づいてるっ!?』

『此方の出力調整も限界です。今西野くんが頑張ってますけど、もう持ちませんよっ!!』


聞こえてくるのは真弓と千穂の悲鳴のような言葉。

魔術砲撃のダメージは刻々と蓄積されていっているようだ。

何とかせねばと魔力を更に込めようとして、不意に動悸が一つ。

ドクンッ。その一瞬、視界が幾重にもブレた。


不味い。不味い。

視界が少しずつ暗くなっていく。


この症状は経験が在る。魔力の酷使による枯渇と、機体からフィードバックされるダメージによる物だろう。

魔導師に反動はつき物だが……今此処で力尽きるのは不味い。


此処で魔力の燃料元たる俺が切れれば。このデカブツは、それこそただの的でしかない。

いくら魔術式が刻印されていても、電池が無ければライトは点かないのだ。


……そのまえに、せめて一撃。


「今から一撃入れる。そのタイミングで脱出するぞ」


マイクに向かって一言。

返事も聞かずに機体を前へ。クラウチングスタートのような前傾姿勢で駆け出す大和。

放たれる魔力砲撃の、その大半を両腕で受け止め、前へ前へと駆け抜ける。


「頼む、力を貸してくれっ!!」


虚空に在る存在へと祈りを呟いて。

途端、少し機体が軽くなったような気がして。

感謝を述べつつ、弾幕を駆け抜けて、漸くアンノウンの膝元へと入り込むことが出来た。


一度腰を屈めて。膝のばねを利用して一気に拳を振り上げる。

全力全壊の魔力を込めて、その一撃をアンノウンの顎へと叩き込んだ。


悲鳴を上げて、後ろのめりに転がっていくアンノウン。

脱出するとすれば、このタイミングしかないだろう。


「脱出を……」

『駄目だ、こんな場所で脱出しても逃げ切れないって!! せめて陸地に――!!』

『不味いわよ、また起き上がってきたっ!!』


モニター正面。

再び起き上がってくるアンノウンの姿がモニターに映し出されていてた。


『アレでも未だ駄目なのか!?』

『防御力、というよりは物凄くタフなんだと思うんだけど……どの道、一度陸地まで戻らないと――巧くん?」


不味い。

喉から言葉を搾り出せない。動悸が辛い。視界が暗い。


『――魔力の供給率ダウン。動力、SLSから軽油式へ……軽油残量10パーセント。もう数分も持たない!!』

『巧くん、巧っ!! ……っ、操作はこっちで入力するから、脚部に残存エネルギーを全部回しなさいっ!!』


途端大和が後ろを振り向いて一気に駆け出した。

サブモニターに映し出されるのは背面画像。アンノウンの口元に光るのは、再びの魔力砲撃だろうか。


『まゆちゃん後ろっ!!』

『解ってるわよっ、飛ぶから備えなさいっ!!』


フッ、と体を襲う浮遊感。

次いで響くのは轟音と振動。モニターに移るのは、半ば水没した大和の視界。

多分、緊急回避として側面へと飛び退いたのだろう。


『……っ、立ち上がれない!?』

『エネルギー残量ゼロ!! 不味いって!!』


逃げないと。

魔力を練り上げる。練り上げて、機体へと魔力を送り込んで……――


『其処っ、衝撃に備えろっ!!』


突如通信にそんな声が割り込んできた。


ヒュヒュヒュンッ!!!


ボチャゥ、ボチャッという嫌な音を立てて、海面やアンノウンへと突き立つ光弾。

上空から降るその光と、やがて海面へと降り立ったのは3機の小さな機体。


大和の三分の一程度のサイズのその人型機械たちは、手に持ったライフルを連射。放つ弾丸を持ってあっと言う間にアンノウンを後退させていく。


「ゲアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」


EHM−06S2、紫電改。

現役のEHMである06強風の改良……いや、改修型。


その手に持った120ミリ砲や55.6ミリマシンガンが吐き出す砲弾は、アンノウンにそんな悲鳴を上げさせて。

ついぞ、アンノウンは後方へと飛び込み、そのまま海へもぐって、何処かへと消え去ってしまった。


『ち、逃げたか――そっちの大和に乗ってる連中、無事か?』

『無事です。でも、メインパイロットが昏倒してしまって』


其処まで聞いて、限界が来た。

意識がブラックアウトしていく。

最後に視界に映ったのは、此方に向かって歩み寄ってくる三機の巨人の姿だった。





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