タイムマシンの使い方【ショートショート】
あまり実のある内容は書きません。拙作の極みで御座います。お時間に隙間が空いた際などにご覧頂ければ幸いです。
「では、こういうのはどうでしょう」
若い男が口火を切った。
「少し前の過去に行って宝くじの当選番号を確認するんです」
これには残りのほとんどの参加者が渋面した。その内のひとり、小太りの中年男性が、
「君は科学者の誇りというものを持ちたまえ。煩悩を捨てろとまでは言わないが、人類初のタイムマシン活用方法として不適切だとは思わないか」
若い男は下を向いてしまった。開発責任者である白髪の老人が、それを見て徐に話し出す。
「まあまあ。彼は一つの案を言っただけだよ。それに人間としてはまことに素直で自然な発想ではないか。しかし、彼の言うように、これは歴史的快挙の瞬間だ。後世に記録として残ることは間違いない。それに恥じない程度の行いにすべきだろうね」
老人は言い終わると若い男の肩に手をやった。男はやっと顔を上げて、笑みを湛えて頷いた。
「では、これはどうでしょう。遥か昔に行って、――例えば中生代にリープして恐竜の卵を持ち帰る。物質を提供することであらゆる方面に貢献できます。私達のチームとしての威厳も保つことができ、功績としても申し分ないと思います」
女性の研究者がそう言い終わると、
「それは処女航海としては極めて危険だね」
老人はぴしゃりと切り捨てる。
「それほどの過去から何かを持ち帰るということは、考えられないほどのタイムパラドックスが起こる可能性がある。極論を言えば、人類が誕生しない未来を作り出してしまうかもしれない」
その言葉を最後に誰も何も言わなくなった。
このタイムトラベルは実験も兼ねているのだ。大胆なことはできない、しかし、それなりのアクションを起こさないと意味がない。丁度具合が良いものを思いつくことはなかなか容易ではなかった。
そのとき若い男が再び口を開いた。
「一時間後の未来に行くのはどうですか」
皆が視線を向ける。
「僕達がどのような結論を出したか聞きに行きましょう」
宜しければ他の短編、あるいは長編も御座いますのでご清覧下さいませ。