7話 ましろレーダーSen30
「……んじゃあ、そろそろ実戦、と行きますか」
「そうだな、まずは……」
「魔物狩り」
「対人戦」
魔物狩りはウォータム、対人戦は俺の発案だ。
俺とウォータムの視線が交差する。
「……いきなり対人戦はないだろ、死んだら奪われるんだぞ」
「いやいや、みんな金と余裕のない今がチャンスだ、今光学バリア買えるほどお金に余裕があるやつはほぼいない、更に言えば魔物相手に負けても物は落ちるだろ」
「それはそうかもしれないが、まずは余裕のある戦闘の方が俺もお前もましろも良いだろ」
「みんなそう考えて、PKに対する注意を怠っている。そこに漬け込めば楽な戦闘になるさ」
「お前はゲスか」
俺とウォータムがやいのやいのと口論をしていたが、すぐに気付いた。
ここには、もう一人いることに。
公平に物事を決められる、審判が。
「ましろ、お前はどう思う!? 魔物狩りの方が良いよな?」
「ましろ、初陣で緊張する体験をしとけば、後々楽になる。対人戦しようぜ」
「え、えええええっと」
いきなり自分に振られ、ましろは困惑しているように見える。
数秒の時が経ち、落ち着いた審判は口を開いた。
「……普通に、魔物を狩りませんか?」
「……はい」
────
ということで、街の外に出た。
街に隣接したフィールドは4つあり、荒野、森、市街地、沼地だ。
それぞれ出る魔物の強さは同程度で、奥に進むほど魔物は強くなる。
街に近い所から、浅層、中層、深層となっている。
そして深層の奥地にはフィールドボスがおり、それを倒した先に迷宮がある。
フィールドボスや徘徊するエリアボス、迷宮にいる強い魔物などがレア武器を落とすという。
また、砂漠や海辺などのフィールドもあるらしいが、それぞれ隣接したフィールドの先にあるので、今はまだ関係ない。
ちなみに全ての迷宮は大体同じ難易度だが、フィールドに則した魔物が出るという。
大体の場合、街に隣接したフィールド→その先のフィールド→迷宮といった順番で攻略していくのがいいらしい。
さて、今回俺らが行くフィールドについてだが、まず荒野は除外。
周りが見渡せるほど広いが、それはそれだけ人が集中しやすいということでもある。
流石に人混みの中で堂々とPKしたりしたら、放っておかないだろう、という心理がはたらくためだ。
その状態で満足に魔物が狩れるとも思わないし、みんな魔物探しに集中するせいで周りの人が一人死んでも気づかない。
むしろPKが集まってきやすいのである。
PKは誰でもいいから殺すことが目的なのだ、犯人が分かりづらく獲物の多いところを選ぶに決まってる。
……人を隠すには人混みの中、とはよく言ったものだ。
まあ現状PKする際の最大効率場所は、間違いなくここだろうな。
近くに寄って光剣振り回してその場でドロップを回収して逃げればほぼ確実だ。
「こういうのをすんなり思い付く辺り、お前はかなりPK側の考えしてるよな」
「ほっとけ」
よって森、市街地、沼地の3つなのだが、うーん、難しいな。
森は視界が遮られやすく、またこちらも察知されにくい。
市街地は、位置取りが大切になりそうだな。
遠いビルの上から狙撃されたら、勝てるビジョンがあまり見えない。
沼地はそもそも人が少なそうだが、それ相応に面倒だ。
足を取られつつ歩くというのは、思っているよりもきつい。
……森か沼地かな。
だが森は敵に先に見つかったら、ほぼ俺かましろが死ぬんだよな。
「まぁ、魔物狩りを念頭に置くなら沼地、ましろの感覚に頼り、見つかる前に見つけるスタンスならば森、になりそうだな」
俺としてはましろの感覚に頼りすぎるのも良くないと思うが、沼地行くやつは大体俺と同じ考えをしたやつばかりだと思う。
そこまで油断はできないが、そういうやつは大体Senに自信のないのが多い、と俺は見ている。
恐らくましろが気を抜かなければ、沼地が一番安全なはずだ。
……どれにせよ、ましろのSenに頼っているのは少しあれだが。
「俺としては沼地を勧めたい所だが……どれにせよましろの負担が大きくなる可能性がある、ましろはどれがいい?」
「……では、沼地で」
「……沼地だぞ、本当にいいのか?」
「はい、魔物狩りをしようと言ったのは私たちですし、それくらいは我慢しますよ」
それに、トナカイさんが私たちのことを考えてくれてるのは伝わってますし、と彼女は言う。
……そこまで言われると、少しこそばゆいな。
────
「……なんだか、この沼生温いな」
「ですね……濃い霧も漂ってますし」
「……ごめん、霧までは予想してなかった、俺の落ち度だ」
「いえ、私達も予想してませんでしたし、気にしないでくださいっ」
「……ええ子や……」
くそ、このぬるっとした不快感は予想していたんだが。
流石に霧が出るとは……もう少しフィールドについて調べておくべきだったかもしれない。
「そういえばましろ、少し聞きたいことがあるんだが」
「はい、何でしょう?」
「Senが高いと、どんな感じなんだ?」
「うーん、なんか目が良くなった気がします!」
「……え、それだけ?」
「はい!」
「……えぇ……」
まぁ、その内真価を発揮してくれる……と思いたい。
流石に目が良くなるだけな訳……ないよな?
俺はSenの索敵を頼りにしてここにしたんだが……まさか失策?
「あ、後なんとなく地理と方角も分かるような気がしますっ」
「本当かましろ!?」
今までなんとか帰る方角は覚えていたのだが、もう必要なさそうか?
……いやこれは初陣だ、念のため帰れるようにはしとくか。
────
「うーん、あ、魔物があそこにいるっぽいですよ!」
ましろがいきなり、指を右前方に向けて言った。
目を凝らしてみるが、うん、全くわからない。
「……ウォータム、どうだ?」
「……全く見えないな」
「……凄いなSen30」
ついに真価を発揮したましろレーダーSen30。
どうやら見えない程の遠くにいる魔物を察知したらしい。
……霧で視界が制限されてるとはいえ、凡人が見えないのを察知するなんてやばいな。
「ましろ、見えてるのか?」
「うーん、見えているというより……正確な位置と現在の移動速度が分かる感じですかね」
「……狙撃は?」
「見えてなくても、ってことですか? 多分、可能です」
そう言ってましろは、割と簡素なレーザーライフルを虚空に向けて構える。
恐らく、その先に魔物がいるんだろう。
……うん。
こういう視界が悪い状況でましろ敵に回したら、確実に負けるぞこれ。
何かしら道具があれば違うのかもしれないが、正直勝てる気がしない。
もしかしたらギリギリ範囲外から手榴弾投げれば届くのかもしれないが、そのギリギリがわからないのでやりようがない。
そのうちに狙撃されて終わりだろう。
それは多分、ウォータムでも同じだ。
まあ、戦うことはないだろうし、大丈夫だろ。
「どうします?」
「遠距離から仕留められるんならそれでもいいが……折角の初戦闘だ、目の前で戦わないか?」
ここはまだ、街の近辺だ。
初見殺し的な魔物は存在しないだろう。
そう考え提案したのだが、
「それでいこう、ましろ、案内してくれ!」
「了解、あっちです!」
予想以上に好評、というかそれが当たり前だよな、ゲームだし。
まぁ最悪ウォータムもいるし、死に戻りすることもないだろう。