6話 もう、傷付けたくないの
4/16:光学銃のあたりを修正。
「……すげえな」
「……うん」
私とお兄ちゃんは、射撃場の文字通り雰囲気に呑まれていた。
外よりも強い硝煙の臭いに、断続的に鳴り響く射撃音。
……なんと言えばいいのか、自分が持っているこれが、こういうことをするために作られた物だと改めて知らされた気分だった。
腕にかかるこの仮初めの重みが、確かな重みとなった様な気がした。
「……そういえば、思ったんだが」
「何? お兄ちゃん」
「お前さ、3人でいるとき敬語になるよな」
「……」
やっぱり、気づくよね。
銃を握る手に、力がこもった。
この沈黙を何に取ったのか、お兄ちゃんは慌てたように、
「……やっぱり、その、きついのか?」
「……いえ、そういう訳ではないんです」
「ただ、ばれちゃうのが怖くて」
「……子供の頃の話だろ? あいつももう忘れていると思うが――」
「勝手なこと言わないでよ! もし万が一思い出しちゃったら――」
「――すまん、確かにそうだな」
「それに私はもう、『戦場真白』、なんだから」
「……そこまで、気に病む必要はないと思うぞ、あいつは根は優しいからな」
「…………知ってる、だからこそ」
「……もう、傷付けたくないの」
――――
気を取り直して、私達は、それぞれの武器を試用してみることにした。
私はライフルとレーザー、お兄ちゃんは光剣。
光剣は専用のスペースがあるらしく、今のところ誰も使っていなかったらしい。
「よっしゃ、貸し切りじゃねぇか!」
と言って、走り去ってしまった。
……あの明るさに、いつも助けられてきた。
お兄ちゃんを見てると、いつまでも引き摺っている自分が馬鹿みたいに思えてくる。
……こんな思考は止め止め、今は練習しなきゃ。
だって、下手なまんまじゃ、いる意味がない。
少なくとも2人の役にたてるくらい、撃てるようにならなきゃ。
私は、まず使いやすいと言われるレーザーから試してみることにした。
実弾銃であるライフルと比べ、反動も少なく、狙いもつけやすいと聞いているから。
ストレージからレーザーを選択し、実体化。
初心者用のレーザー――BGNレーザー――は、非常に簡素な形をしていた。
両手で抱えて、ようやく持てるほどの長さの銃身には、バッテリーパックを填めるための凹部があった。
銃口は細く、手元に来るほどに太くなっていく、流線形。
それには勿論、グリップや引き金といった、銃として欠かせないであろう部分は存在していた。
意匠に関しては、お世辞でしか格好いいとは言えないレベル。
その軽さも相まって、玩具だといわれたら信じてしまいそうだ。
引き金を引き続けている間は、バッテリーパックのエネルギーが切れない限り撃ち続けられる代物。
これはそう、その最低限の機能のみを有した、そんな形をしていた。
最も単純な形ゆえに、故障や暴発が起きにくい。
「……まさに初心者用って感じ」
まぁ、見た目はどうでもいいか。
問題は、反動と私の腕か。
私は的の距離を取りあえず20メートルに設定し、銃を構える。
構え方は一応、調べて実際に試したりもした。
これを初めて構えたはずなのに、なぜかしっくりときた。
引き金に、指をかける。
実際に存在しないであろうそれは、確かな感触となって自分の指を押した。
この銃には、今の所スコープなんて大層な物はない。
もう少し狙撃に適した銃を買うかもしくはスコープ自体を買えば、そうでもないのだろうが。
そんなどうでもいい思考を繰り広げる頭は、異常なほどに澄み切っていた。
集中し、慎重に狙いを定める。
瞬間。
ドォン!
的の中心を、光芒が指し貫く。
……反動は、思っていたよりはなかった。
実弾と違って、光には質量がないからかな。
よし、この調子で、実弾銃も使ってみよう。
────
「あ、たた……」
実弾銃を使ってみた感想は、やはり反動が強く、狙いはレーザーライフルより余程つけづらく、また反動も凄かった。
最初の1発は握りも予想も甘く、頭に銃身が当たって痛い思いをしてしまった。
だがそのお陰か、取りあえず近距離ならばほぼ当てられるまでにはなり、光学銃なら結構遠くからでも問題ない精度で撃てた。
……これは自分の腕が良いのではなく、光学銃の使いやすさが予想以上だったのだろう。
その結果にそこそこ満足しながら光剣コーナーに行くと、
化け物が、2人いた。
「君ィ、凄く強いねェ!」
「そちらこそ、ッ!」
大柄な男2人が、とんでもない動きで光剣を振り回していた。
……いや、1人はお兄ちゃんなのだが。
キィンキィンと剣を打ち合わせるそれは、まるでアニメのバトルシーンにも見えたし、予め踊り方の決まっている舞踏という1つの作品にも見えた。
そこまで彼等の戦闘は、隔絶していた。
お兄ちゃんはまず、回避速度とその精度が異常だ。
最初から来る場所が分かっていたかの様に回避するし、体のギリギリを何度も通過しているのに気にも留めていない。
そして相手の男性は、剣の扱いにとんでもなく長けている、というのが正しいだろうか。
その剣捌きはまるで、精度の高いサブマシンガンといえば、少しは伝わるだろうか。
そこまで見て、気付いた。
お兄ちゃんが高速で移動しているのに対し、相手は一歩も移動していない。
それを私は何故だか、チャンスだと思った。
私はライフルを構え、間髪入れず発砲。
一歩も動かない彼に、高速の銃弾が突き刺さるかに見えたその瞬間、
「……へェ」
それは、切り裂かれていた。
その男性の、光剣により。
まっぷたつに別たれたそれは、それでも直前の運動エネルギーによって、彼を避けるように飛んでいった。
瞬間、彼に1つの剣閃が煌めき。
「やるじゃん、お前らァ」
お兄ちゃんの、鋭い一撃。
彼は、それすらもかわしていた。
……丁度一歩分、足を下げた状態で。
彼は息を吐き、両手を挙げた。
「……負けだ、負けだァ。……まさか、動かされるとは思ってなかったなァ」
「……ふぅ、ありがとうございました」
「こちらこそ、いいもんが見れたァ。お前、凄ェ強いねェ」
そして、彼はこちらを向き、
「いい狙撃手だ、観察眼も悪くなィ。そして何より、いいチームワークだなァ」
「……すみません、横槍を入れてしまって」
「いんや、むしろ楽しかったから大丈夫だァ。ここではダメージが無効化されるとはいえ、久し振りに死ぬかと思ったァ」
がははと笑う彼は、悪い人間には見えなかった。
「バラキ、俺の名前だァ、2人とも、今度は戦場で会おうなァ」
「わ、私はましろです」
「俺はウォータム、まぁ、できれば味方同士で会いたいもんだな」
「違ェねェ」
お兄ちゃんと固い握手をして、彼は――いやバラキは出口へと歩いていった。
「お兄ちゃん、強かったね」
「……ああ、まさに別格だな……って、もうこんな時間か。そろそろトナカイを呼びに行くか」
「そうだね、お兄ちゃん、いこ」
私とお兄ちゃんは、先程トナカイさんの消えたゲートへと歩を進めた。
――――
「ぃいつまでやってんだよトナカイぃぃぃ!」
ゲートから野生のウォータムが飛び出してきた。
どうする?
戦う
アイテム
逃げる
……。
アイテム◀︎
トナカイの、手榴弾2連投げ!
「もう2時間も経ってんぼががああ」
おとこのきゅうしょにあたった!
ウォータムはくずおれた!
てれてて、てってってーん。
トナカイは勝負に勝った!
「……相変わらず外さないな、俺は」
二つの意味で。
というかあいつのペインアブゾーバは仕事してるのか?
今の瞬間だけ無効化されていると言われても信じそうな程の様子だ。
……まあ、面白いからいっか。
悶え苦しんでいるウォータムの横から、ましろがひょこっと顔を出す。
相変わらず小動物っぽいな。
「ところで、もう2時間も経ったのか?」
「……ああ」
「それは、ごめん」
ついつい熱中してしまった。
段々狙いやすくなっていくのと、飛距離が延びてくからつい。
「でもでも、投擲と遠投のレベルが上がってさ」
「上がったのか!? 凄いな。俺とましろも今まで試してたんだが、上がらなかったんだよな」
「もう少しで上がると考えたら、むしろ羨ましいわ」
「……物は、言いようだな」
「隣の芝を羨ましがる天才と呼んでくれ」
「……それは全く羨ましくないな!?」