60話 勇気
ここで言うのもなんですが、次の章は書きあがってから毎日投稿します~
多分そっちの方が全員お得なので。
少なくとも次の章の前にエタる可能性は作者が急死する以外ありえないので、まぁ、待てる人だけ待っててくださいな~。
本当の、強さとは、何か。
その問いに、わたしはいつも、上手くは答えられないでいた。
理不尽な敵に、立ち向かえること?
敵がどうであれ、勝ってしまうこと?
周りを敵に回すことを覚悟してまで、他人のために戦えること?
自分を、犠牲にできること?
……強くありたいと、願うこと?
そのどれが、本当の強さなのだろうか。
それがわからなかったわたしは、できる限り彼の真似をした。
…………わたしにとって、彼は正に『強さの指標』だったから。
彼を目指せば、自分もおのずと強くなれるような、そんな気がして。
勿論、どこか間違えてるのかもしれないけれど、わたしはわたしなりに、『強さ』を追求してきた、つもりだった。
結果的に、それはわたしではなく、『ホムラ』という造られたキャラだった。
それは、こんなわたしではない、強いわたしだった。
今のわたしは、現実と同じく弱いままのわたし。
わたしは『ホムラ』じゃないから、強くないから、こうして────
今のわたしと同じことをしていた『あの視線』を思い出し、チクリと胸に痛みを感じた。
それでもわたしは、続ける。
────傍観、するのだ。
一連のことが終わった後。
秋人くんの紹介で半井と直接話した時、わたしは確信したのだ。
その、視線の正体が、半井であったことに。
アイツがただのクズで、わたしが虐げられているのを見て、楽しんでいたことに。
そんなわたしの醜態を目の前に、ただ、傍観していたことに。
わたしは、気づいていた。
…………それにしては、わたしは平静を保てたと思う。
そもそも語り口がわたしの好きなそれではなかったから、話している間はなんというか、言うなれば『対抗心』のような感情がわたしの心を支配した。
このゲーム内で、初めて会ったあの作戦会場の時も、そうだ。
アイツとは初めから、馬が合わなかった。
アイツの全てが、気に入らなかった。
上から目線のあの口調も、全てを知ったような態度も、死んだ目つきも。
何もかもが、わたしの癇に障った。
だからこそ、今までは無意識的に恐怖を軽減できていたのだと思う。
それらだけで、嫌う理由にはなるだろう。
しかし、実はそれら以外にももう一つ、わたしが半井を嫌う確固たる理由が存在していた。
それは、秋人くんから、好かれているということ。
ソイツに対する秋人くんの評価は、わたしによる評価と比べ、尽くが真逆だった。
わたしが知っている半井は、自分本位で、身勝手で、傍観主義。
しかし秋人くんの知る半井は、意外と他人思いで、優しくて、なんだかんだ助けてくれる良い奴。
少なくともいじめの現場を傍観するような奴ではなく、興味がなければスルーするような人間らしい。
最初わたしは秋人くんが自己紹介しているのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
それらは正真正銘、半井悠莉に対する意見だという。
最後に関してはまぁ同意ではあるが、わたしはその過大評価が、本当に気に食わなかった。
秋人くんの力を味方につけておくために、秋人くんの前でだけ媚びへつらっているのかと、わたしは勝手に邪推していた。
それは、自分でも仕方ないと思う。
わたしの知る半井と、彼の知る半井には、それほどまでの隔たりがあるから。
…………わたしより、なんであんなクズの傍にいたがるのか、本当に理解できなかったから。
…………だから、わたしはアイツのことが、大嫌いだった。
今思えば、その中には確実に、『嫉妬』という感情も含まれていたに違いない。
それがなんとなくわかっていたからこそ、わたしは『弱い人間だ』と自覚していたのかもしれない。
だから、過去のトラウマも乗り越え、『嫉妬』みたいな、嫌な感情に振り回されないような。
そんな、『強さ』が、わたしは欲しかったのだろう。
そこまで考えて、ふと自分の考えに、一つの疑問を憶える。
強さとは何なのかがわかっていないのに、ただ猿真似をするだけで、強くなれるのだろうか。
…………そしてその結果が、この『傍観』なのだろうか。
いや、それらは全て、わたしの弱さが招いたことだ。
もしわたしが、強かったら。
そう思ったのは、何度目だろう。
もしわたしが強ければ、数の力も自分で跳ね除け、無機質な視線にも一発ぶちかまし、どんな逆境でもあきらめずに戦っているのだろう。
でも弱いわたしは、部屋の端っこで、寂しく震えているだけ。
…………過去に、縛られているだけ。
強く、なりたい。
…………そうか。
ふと、気づいた。
わたしは、秋人くんみたいになりたいんじゃない。
ただ単に、強く、なりたかったんだ。
わたしは。
秋人くんを、支えるために。
彼の隣に立てる、彼に相応しい自分になるために。
わたしは、秋人くんにはできない、彼とは少し違う、わたしなりの。
自分なりの、強さ。
それが、何よりも欲しかったんだ。
誰にも真似できないような……とまでは言わない。
ただせめて、秋人くんに釣り合うような、そんな精神を持った人間に、わたしはなりたかった。
彼を支えられるような、そんな人間に、なりたかった。
わたしはもう、守ってもらい続けるのは、嫌だから。
…………彼のために、何かをしたかったから。
自分が、弱いってことはわかってる。
誰よりも、わかってるつもりだ。
でも、少しでも強くなりたいと、彼の隣に立ちたいと、そう強く思ったのだ。
今まで携帯ゲームもしなかったようなわたしが、この、とても胡散らしいゲームを始めたきっかけは、そこにあるのかもしれない。
死ぬのも怖いし、そもそも銃を撃つのも怖い。
そんなわたしが、それらの恐怖を克服できれば、今よりも強くなれるんじゃないか。
新手の詐欺手口である可能性を考慮しながらも、わたしは、このゲームを起動してしまった。
そして、自分が思うよりも、強くなってしまったのだ。
……いや、それだと少し語弊があるかもしれない。
仮初の強さに、酔ってしまっていたのだ。
別世界の自分の強さに、『ホムラ』の強さに。
わたしはただ、寄りかかっていただけだったのだ。
それをわたしは、自分自身の強さだと勘違いして。
また自分は強くなれたと、リアルのわたしも同じく強くなっていると、思い違いをして。
わたしは『ホムラ』じゃなくて、『わたし』のまんまなのに。
…………だから。
自分なりの強さを、見つけるために。
……もう一つの強さを、見出すために。
何度でも、言おう。
わたしは、弱い。
本当は怖がりで、泣き虫で、
……だけど。
強くなりたいという思いは、最初から何も変わっていない。
そして、たとえ何も変わっていなかったとしても、わたしは、変わりたいと願っている。
そのことだけは、何者にも、邪魔させない。
わたし自身の感情を、否定なんかさせない。
わたしは────
思考の世界から、現実……ホムラの現実に、意識が戻ってくる。
黒い厚手の手袋を開閉しながら、わたしは現状把握に努める。
…………どうやら、そこまで時間は経っていないみたいだ。
アイツが、片翼を斬り飛ばして地面に墜とした、その瞬間から。
思考に集中していたお陰か、アイツが使った方法がどのようなものなのかも、おおよそ見当がついた。
多分、攻勢に転じた敵との距離の近さを活かし、スモークグレネードで自分の行動に対する警戒を緩め、相手の装甲を一点集中で貫けるような武器を自慢の投擲で見事ブチ当てた、ということだろう。
…………でも、そんなもの、この世界に存在するのだろうか。
『エリアボスの装甲を、たかが投擲の威力如きで貫けるような、そんな武器』が。
……まぁ、多少考えたところでわかりやしないので、そこは置いておこう。
それより。
『あのエリアボスを、地に墜とした』。
そのことの方が、重要だ。
「…………」
震える自分を鼓舞するかのように、立ち上がろうとするわたし。
……その目論見は予想通り、叶うことはなかった。
赤いエフェクトが舞い、HPゲージの減る速度が加速し、足から力が抜ける。
回復薬を飲みながら、抗えない虚脱感にまたも座り込むわたし。
…………やっぱり、運動すると赤いダメージエフェクトが舞って、足から力が抜ける。
このまま無理矢理移動しても、回復薬が尽きて途中で力尽きるだろうと、わたしの冷静な部分が言っていた。
そしてそんなことは、最初からよくわかっていた。
ただ、それを理由に『傍観』する自分に、疑問を抱いていただけで。
出血を止めるためには、守り切った後街に戻るか、自然に止まるのを待つか。
傷口が広すぎて塞がりそうもないそれは、どうやらそのどちらの方法も取れそうにない。
むしろ今も生きているだけで、凄いといえるだろう。
それに加えて移動なんて考えるのは、明らかに愚行としか思えない。
そんな、まるでパラドックスのようなそれに対し、解決できる手段を、わたしは一つだけ知っていた。
恐ろしく原始的で、それもただの一時しのぎでしかないけど、出血を止めることができる方法。
…………戦えるかもしれない、方法を。
わたしは無言で、傍に置いておいた噴射機を手に取り、そのトリガーを握る。
片方のグリップを、常時オンの状態で固定されたそれは、わたしがいつもしていたように、『片手でも使用可能』。
また予備タンクも常備してあるので、今のタンクを交換すればまた使えるようになる。
わたしが今、するべきこと。
…………それはもう、決まっている。
わたしは慣れない片腕で、タンクの交換を始める。
その作業の中で、わたしは思い出す。
ロボットのような視線、這いずるような死の感覚、圧倒的な力量差。
怖い。
怖いに、決まってる。
でも、それ以上に。
わたしは、『人にされて嫌なことを、これ以上したくない』。
たとえそれが、自己満足でもいい。
それが、正しくなくともいい。
少なくとも、わたしが踏み出す理由になりさえすれば。
わたしが、わたし自身を、信じる理由になりさえすれば。
それで、いい。
答えは全て、手の中にある。
タンク交換を終えた、火炎放射器。
手の中にあるその噴射機を、わたしは静かに、対象へと向ける。
自分、へと。
わたしには、過去を変える権利はない。
……でも、未来を切り拓く権利は、持っている。
モラトリアムが、時間稼ぎが、必ずしも悪いことに繋がる訳じゃないと、証明するんだ。
少し間違えたからって、弱くたって、それが結果的にいい結果を生むかもしれないってことを。
…………自分を、信じれば、いつか乗り越えられる。
そう信じて、わたしは今、一歩踏み出すんだ。
強くなるための、第一歩を。
わたしは、震える指を、トリガーにかけた。
「もう、どうにでもなれぇぇえええ!!!」
HPがガクンと一気に減り、ダメージエフェクトが舞う。
赤色の脱力と熱、痛みに、わたしは必死に耐える。
回復薬によるリジェネ効果が微力ながら抗い、HPの現象を食い止める。
それでもなお、ゲージの目減りは続いていく。
「あ、ああああああああああああ……!!!!」
焼灼止血法。
タンパク質の熱による変質で出血を止めるその方法が、このゲームでも可能なのかは知らなかった。
もしかしたら他の方法でも止血は可能なのかもしれないが、今のわたしには、これしかなかった。
だから、無我夢中でやった。
後悔なんか、していない。
やらないで死ぬよりは、やれるだけやってから死んでやる!!
そう思わせてくれたのは、紛れもなくあの流星だ。
…………何より。
「負けっ放しは、性に合わないから……!!!」
だから、たとえ勝てなくとも。
一矢報いてやることくらいは、できるはず。
目にもの見せて、泡を吹かせることくらいは、できるはず。
……あの、死んだような瞳を、少しは揺らすことが、できるかもしれない。
わたしのことを、『ただの雑魚』だと考えているような、あの瞳を、わたしは────。
気づけば痛みも、熱さも、すっかりと消えていた。
大幅なダメージという代償を糧に、わたしのHPの減少は、目に見えて止まっていた。
出血を示すエフェクトも止まり、回復薬のリジェネ効果の残りが、じわりと命の灯を注ぎ足す。
それでもなお、心許ない数字ではあったが、少なくとも。
脚に力を入れ、立ち上がる。
脱力感は少し残るが、受けるダメージも微々たるもので、先程のように『歩けない』程ではなかった。
…………戦えない、程ではなかった。
まだ、戦える。
不思議と、思考がどこかクリアになった気がした。
地獄のような様相を描く窓の外を見やりながら、それとは対照的な気持ちで考える。
わたしはきっと、『英雄』にはなれない。
……でも、わたしは『英雄』になりたい訳じゃないから。
わたしの英雄は、いつだって『秋人くん』なのだから。
それを、『英雄』であろう人間を、精一杯支えること。
それが、弱いわたしが、強さを見つけるためにできること。
…………今回は癪だけど、アイツに『街を救った英雄』の座を明け渡すしかない。
……ちッ。
…………ほんっとうに、癪だけど。
でも、それが最善だとわかっているから。
だから、敵に勝つ役目は、アイツに任せる。
わたしはただ、わたしにできることをすればいい。
あのエリアボスを、破壊するために。
「今回は仕方ないから、勝ちを譲る。……でも」
わたしは確かに、歩き出す。
恐怖を、乗り越えるために。
「いつか絶対、勝ってやるから。見てなさいよ」




