4話 私、好きよ
4/26:わかりやすいように、目標を追加。
俗物的だなぁ(歓喜)
5/12:設定を変更。
ステータスによって、携行重量に制限が付くようになりました。
このゲームには、レベルという概念が存在しない。
最初にStr、Vit、Dex、Agi、Luk、Senの6つのステータスを弄り、その後は鍛えない限りステータスの変動はない。
鍛えると言っても、銃で撃ち合っていたらいつの間にか上がっていることが殆どで、条件はよくわかっていない。
だが時間をかければそれだけ上がりやすいし、理論上限界も存在しないという。
だが勿論、上げれば上げるほど上がりにくくなるので、大体は少々上がった程度で打ち止めになる。
ちなみにステータスの詳細についてだが。
Str:筋力。装備できる銃の重量や腕力に直結する。
Vit:耐久力。HPに直結する他、装備できる銃の重量にも関係する。
Dex:器用さ。装填の速度や、命中精度の下限と上限を引き上げる。
Agi:素早さ。これが高いと時間加速の恩恵を受けやすくなるらしい?
Luk:運。主にドロップ率の引き上げだが、当たり判定にも少し作用するという。
Sen:感覚器官の精度。これが高いと周りの生物を察知しやすくなる。
と言ったものだ。
ステータスポイントは初期に100ポイント与えられ、そこから自由に割り振ることができる。
ただしステータスの下限は10なので、極振りするにしても50が限界。
後は戦闘で少しずつ上がっていくから、頑張れ、ということらしい。
そしてこれが、俺のステータス。
――――――――――――――――――――
PN:トナカイ
HP:100/100
Str:50
Vit:10
Dex:10
Agi:10
Luk:10
Sen:10
メインスキル
『投擲』Lv1
『遠投』Lv1
『所持制限解除』Lv∞(3枠)
装備
頭:軍帽(緑)
メインハンド:空き
サブハンド:空き
腕:白い手袋
上:軍服(緑)・上
下:軍服(緑)・下
腰:革のベルト
足:革のブーツ
各部オプション:無し
――――――――――――――――――――
「……あり得ねえ」
「…………凄い」
俺のステータスを見て、絶句する2人。
それもそうだ、武器マスタリを所持せず、投げる系のスキルとなんかよくわからんスキルで枠を埋めているのだ。
更に筋力極振り。
俺ももし2人の立場だったら、お前馬鹿じゃねえのって叫んでいたと思うほどに、これは酷い。
「大体何だこのスキル! 確かスキル枠を3枠も食う奴だろ!?」
ウォータムは『所持制限解除』を指差して言う。
……いやまぁ、それはそうなんだが。
それよりも上の2つ、気になりませんかね……?
そもそも投げるという行為は、StrとDexに影響される。
Strは距離を伸ばし、Dexは精度を高める。
そしてこの二つのスキルはそれぞれ、
投擲スキルは何かを投げる際、Dexに上昇補正が付く。
遠投スキルは何かを投げる際、Strに上昇補正が付く。
となっている。
どちらも、手榴弾を投げるくらいでしか使わない上に、範囲攻撃なため距離や精度はそれほど重視されない。
勿論、自分が当たらない程度には遠くに投げる必要はあるが、筋力ステータスが程ほどにあるか、もしくは壁の裏から投げれば特に問題ないのだ。
ちなみに『所持制限解除』の効果は、アイテムの同時所持限界を無くす効果がある。
これはあくまで1ストックしか持てないものを何ストックも持てるというだけで、普通1ストック10個のものでも1ストックで無限に持てるようになる、みたいな効果はない。
例えば、このゲームでは銃以外の物は大抵1ストック分しか持てない仕様になっている。
薬なら20個、手榴弾は10個、弾は10000発ととても多い。
しかしそれらの上限は、他の種類もそのまま1個として考えるため、例えばアサルトライフルの弾薬を10000発持っていたとして、そこからスナイパーライフルの弾を持つことは、特殊な条件を除いてあり得ない。
しかしこのスキルを取れば、それらを2ストック以上持ち運ぶことが可能になるのである。
これだけ聞くとそこそこ良さそうに見えるが、実際はそこまで大量に使わないことも多い。
それに、ステータスによる重量制限もあいまり、全てを所持制限ギリギリで更に銃自体も持つと、それだけで重量オーバーになってしまうこともあるのだ。
俺は筋力特化だからそんなことはないが、子のスキルを取る理由としては薄い。
更に、というかこれが最大の理由なのだが、スキル枠を3枠も食ってしまう。
これを入れるくらいなら、ステータス強化系をいれた方が何倍もまし。
だが、俺がこれを取ったのには勿論理由がある。
「俺はアイテムの手榴弾メインで戦うつもりなんだ、10個じゃとても心許ない」
そう、先程も書いたが、手榴弾は種類が違うものでも合計10個までしか持てないのだ。
それしか武器がないのに、それでは到底足りるはずもない。
だから俺がこれを取るのは、最早確定事項だったのだ。
そして残りの2つも、遠距離から投げ込むのに必要なもの。
つまり俺は――
「俺はこのゲームで、砲兵をやろうと思ってる」
そう、初期武器には存在しないグレネードランチャーの代わりに、自身の腕を使おうとしているのだ。
相手の探知範囲外から、次々と投げ込まれる手榴弾。
相手は死ぬ。
これをやろうとしている。
ちなみに、ライフルの銃身下部に取り付けてグレネードを発射できるものも現実には存在している。
ただなんとなく、こちらの方が面白そうだなと思ったが故に。
後、総じて装弾数が少ないから連射には向かないしな。
「……いやいや、だからって筋力極振りは……」
「俺も正直やらかしたかもしれないとは思っているが、後悔はしていない」
手榴弾で遠くの敵を仕留めるのに、最も大切な要素とは何か。
それは、なんといっても投擲距離。
それがなければ、気づかれて撃たれてジエンドである。
それは何としても避けるべく、俺はStr重視にすることを選んだ。
だが、ここで俺の心に悪魔が囁いた。
『どうせ下限があるんだしさ、全振りしちゃわね? 少し残すよりもそっちの方が潔くて私、好きよ』
勿論最後は捏造だが、そんなようなことを呟かれた気がしたのだ。
だから俺はつい……やってしまった訳ですよ。
もう一度言うが、後悔は全くしていない。
腐っても、Str極。
距離は多分、スキルLvさえ上げれば問題はないと思う。
むしろ問題あったら砲兵とか不可能になってしまうので、問題ないと仮定しないと始まらない。
問題は精度だ。
範囲攻撃だし、更に投擲スキルもあるが、やはりDex最低値というのは不安が残る。
これは、投擲のDex上昇補正がどうなるかによって、修羅にも雑魚にもなるな。
固定値+倍率とかだったら、救いがある……かもしれない。
……まあ、天使に確認もしたし、悪い結果にはならないと願いたい。
最悪、今後鍛えて得られるステータスポイントをDexに振れば、なんとかなるだろうしな。
その場合、投擲距離的に戦えるのかどうかは、わからないが。
そのことを伝えると、2人は驚きも多少は治まったようで、
「……確かに。かく言う俺もマイナー武器だしな」
「やっぱり、凄い……」
と、暖かい目線を向けてくれた。
これでめでたしめでたし、だな。
……とでも思ったか? ウォータムさんよぉ。
「よし、じゃあ次はウォータムの番だな。わざわざ最後に回したんだ、期待を裏切ってくれるなよ?」
「…………」
俺は満面の笑みを浮かべつつ、ウォータムの肩に手を置く。
俺の制止を振り切り、トリになったんだ。
まさか俺の予想通り、なんてことはあるまいな?
気まずそうに目を反らしているが、どうかしたのかい?
「まさかマイナー武器とか言って、光剣なんて誰でも知ってるような物を選んでいる訳はないよなぁ。俺よりもっと奇抜な武器……うーん、何だろうなぁ?」
「んぐふっ!!」
ウォータムは胸を抑えつつ、むせている。
やっぱり図星か。
くくく、愉しいなぁ。
「もっと奇抜な武器ですか……手榴弾以上って中々ないですよね」
ましろも笑顔を浮かべながら、そう言ってのける。
攻めますなぁ。
天然かわざとかはわからんが、着実に兄貴を追い詰めてる……中々やるな。
だがまぁ、そろそろ飴でもやるか。
「……まあ、別に光剣を選ぶことが悪いと言ってる訳じゃない。十分に珍しいしな。ほれ、これをやるよ」
「……お、おう。後なんで飴?」
「天使に貰った」
「……今更だが、色々あったって本当だったんだな」
「まぁな、はいましろにも」
「あ、ありがとうございます」
ウォータム、当たり前だろ。
俺が一度でも嘘を吐いたことがあったか?
……めっっっっっちゃあったわ。
……この飴、結構美味いな。
────
「……ところで」
飴をゆったりと味わっていると、がりがりと音を立てて貪っていたウォータムが声をかけてくる。
味わえや、ゲームに味覚まで搭載してるってそれもうほぼ現実と変わらんぞ。
「なんだ?」
「このゲームって結局、何すればいいんだ?」
「……あー」
確かに、その疑問はあるな。
このまま順当に行くならば、とりあえずショップで準備、街の外で魔物かプレイヤーを狩りつつ武器や自身を強くしていき、フィールドの奥地にある迷宮を踏破する、というのが目標ではあるが。
それはゲーム自体の目標であって、俺達の目標ではない。
それに、少し漠然とし過ぎているような気もしないでもない。
いや、やることはほぼ決まっているのだが、なんというか、現実味が薄いというか。
なんか最終目標すぎるというか。
そんなことのために、頑張り続けるのは至難というか。
……だから、俺達は。
俗物的な理念を以て、行動するとしようか。
「じゃあ、ゲーム内で一番の金持ちになるのはどうだ?」
「……なんか、トナカイの願望が透けてないか?」
「気のせいだろ」
「……でもそれ、難しくありませんか?」
「別に、ただそれを目指すってだけだ。俺達は学生だ、時間もそこまでかけられないからな」
「まあ、悪くはないかもな。わかりやすいし」
「だろ?」
「じゃあ、それでいきましょう!」
ということで俺達、知的なトナカイと愉快な仲間達の旅は、これから始まるのだった。
……知的なトナカイって、仲間達より愉快とかいう反論は受け付けない。