57話 傍観
あらすじを見ていただければわかるかもしれませんが、少々改訂を行いました。
46話『せめて……優しくしてね』の後半部分と47話『異状』の前半部分を追加いたしました。
読まなくても話はわかると思いますが、読めば少しわかりやすくなるかもしれないです。
更新遅いのはほんっとうに申し訳ないですが、あくまで自分のために書いてるので、たとえ継ぎ接ぎでも、たとえ読者さんにどれだけ迷惑をかけても、自分がこうしたいと思ったことをするのでよろしくお願いします。
…………いやまぁ、多分伏線の張り方がヘタクソすぎるんでしょうがね(笑)
後遅筆がなぁ。
どうせ遅いなら、一章一章書き切ってから載せようか迷いどころです(汗)
「…………は?」
目の前で起きたその現象を、わたしは最初、理解することができなかった。
自分の目を疑うように、数度の瞬きを挟んでも。
目の前の光景は、時間による多少の推移はあれど、そこまで変わることはなかった。
────
それが起きる、少し前。
わたしは民家の中から、半井の行動を見ていた。
半井は、アイテム欄から直接、手榴弾を体中に留め始めた。
それを見てわたしは最初、自爆特攻をする気なのだろうかと考えた。
いや、空を飛ぶアイツに直接殴り込むことが不可能なことは、流石に理解しているだろう。
ならば、何をする気なのか?
わたしには、到底思いつかなかった。
半井が手に持った手榴弾の栓を抜き、ゆっくりと振りかぶるのを見て、わたしは彼の思惑を察した。
しかしそれは、わたしが次点に考えた答えであり、自爆特攻よりもあり得ないと考えたそれだった。
…………まさか、投げれば届く距離だとでも、思っているのだろうか。
あり得ない。
StrとVitに振り切ったわたしが、たとえ真下から思いっきり投げたとしても、あの高さには届かないと思う。
いや、絶対に届かないと、そう断言できた。
たとえ筋力に特化していたとしても、届かないかもしれない。
そう思わせるほどの、絶対的な高度差。
更に言えば、高度差を考慮しなくたって、二百メートル近い隔たりがあるのだ。
届くわけが、ない。
そう考えたわたしの予想を裏切るように、彼の腕は振りぬかれた。
その速度に、わたしはどこか異様さを感じた。
……まるで、人間の出せる速度ではないような、そんな違和感。
それを表すかのように、明らかに投擲の速度ではない速度で吹っ飛んでいく榴弾。
あっという間にそれは曇天に溶け、それから数秒の時が流れ。
遠くにいたあの、銀色の人型魔物が、一瞬火に包まれた。
そして爆発音が、遠くで響いた。
銀色の人型がいるであろう場所には、手榴弾が爆発したことによる硝煙が漂っていた。
どう見てもそれは、投擲によって手榴弾を当てた、という風にしか見えなかった。
そよ風が吹き、わたしの剥き出しになった前髪を揺らした。
その発生源が彼だと言われても、すぐには否定できない自分がいた。
「…………いや、やっぱそんなのあり得ないでしょ」
……でもやっぱり、理解はできなかった。
まだ何かのペテンを使ったという方が信じやすかった。
それくらい、今の光景には現実味がなかったのだ。
投擲距離が大概なのもそうだけど、それに加えて何なのあの精度!?
二百メートル以上先の人間大の相手に当てるなんて、どれだけ器用値に振ってんの!?
球技が苦手なわたしじゃ、たとえ器用値全振りでもできる気がしないんだけど。
…………いや、アイツのことだ、無意識に弾道計算や風による影響の算出ぐらいやってのけてもおかしくはないかも。
更に器用にもある程度振っていたら多分、あの人外レベルの精度も実現可能かもしれない。
……でもそれだと、あの投擲距離の謎が解けない。
筋力上昇や器用上昇を加味しても……意味がわからない。
やっぱり、何かしらのペテンなのだろうか。
それとももしかして、この銃がメインのゲーム内に、投擲関係のスキルがあったのだろうか。
……まぁ、もし聞く機会があれば聞いてみよう。
わたしがあんな奴に聞ける機会があれば、の話だけど。
……でも、少し納得がいった部分はあった。
『俺の武器は、この腕だ。メインアームは右腕、サイドアームは左腕だ』
この言葉の意味は、恐らくこういう意味だったのだろう。
手榴弾を銃顔負けの距離に投げ込めるから、銃なんて必要ない、と。
……アイツがただの雑魚キャラを創るなんてありえないとは思ってはいたけど……まさかここまでとは考えていなかった。
…………でも。
わたしは一つ、その戦術のはっきりとした虚弱性に気が付いた。
それは、このゲームで一度でも手榴弾を扱ったことがあればわかること。
…………そしてこの戦闘において、彼の勝率が格段に低い理由。
そう、それは──
「手榴弾は十個が所持制限だから、必然的に短期決戦しかできないこと」
つい先ほど、彼は一個手榴弾を使った。
つまり、残りは九個。
そんな程度の数で、あの銀色の人型をどうにかできるとは、到底思えない。
とは言っても、あの自信のありようを見る限り、アイツには手榴弾以外の対抗手段があるのだろうか。
遠距離攻撃手段と言えば、やっぱり銃?
……いや、アイツは銃を扱ったことがないと言っていた。
それなら銃マスタリを持っていないだろうし、銃自体持っていない。
……でも、手榴弾より威力の高い投擲物なんて存在していないはず。
ただでさえ威力の足りない手榴弾より威力の低い攻撃で、果たしてどうにかなるのだろうか。
わたしが考えている間にも、戦局は進んでいく。
先程から数えて、ちょうど十個目の手榴弾が銀色の人型魔物付近に炸裂。
さしたダメージを受けていないかのように、銀色の人型は先程と変わらぬ様子で動き出す。
これで彼の攻撃手段はなくなり、負けが確定した…………はず、だった。
「…………あれ」
ふと違和感を感じ、空を移動する銀翼を注視する。
その体が一瞬炎に包まれ、爆発音が響く。
……そう。
既に彼による爆撃は、今のを以て十一回目。
すなわち所持制限を超過した数の手榴弾を、彼は所持していたことになる。
そのスキルの名前に、わたしは一つだけ心当たりがあった。
「……まさか、『所持制限解除』?」
『所持制限解除』は、文字通り所持制限を解除する効果のスキルだ。
手榴弾や回復薬等の、所持できる限界数が設定されているアイテムを、その限界を超えて所持できるスキルなのだが、そこにはデメリットが二つある。
一つ目はまぁ、デメリットというより落とし穴なのだが、あくまで『所持制限』を取り払うだけで、自分の筋力以上にものを持てるようになる、という訳ではないという点。
その効果までついてきたら流石に強過ぎるだろうけど、ないと弱い。
というか、使いどころが限られるスキルになってしまった。
確かに所持制限はあらゆるものに設定されている。
弾は合計一万発、手榴弾は総計十個、といった具合に、殆ど全てのものにそれは適用されている。
しかし実際は、所持制限の限界まで大量にアイテムを使用することはないし、筋力に特化でもしていなければ制限くらいに物資を持っていれば重量がちょうどよくなることも少なくない。
それでもこの効果だけなら普通に使われててもおかしくないのだろうが、もう一つの欠点が常用をためらわせるのだ。
二つ目のデメリット。
それは、普通のスキルとは違い、スキル枠を三枠も使用する、ということである。
現在、スキル枠を初期の五枠から増やすことができないのに、わざわざそんな微妙な効果のために三枠も割こうとは思えない。
その枠にステータスアップ系のスキルを突っ込んだ方がわかりやすいし、そして強いからである。
更に言えば、スキルは付け外しが容易(一度変更すると二十四時間変更不能というペナルティはあるが)なのだが、このスキルは一度頼ると、倉庫を活用しないと外すことが難しくなってしまうのも欠点か。
頼りたいと思うタイミングもほぼないので、これを未だにセットし続けているプレイヤーはごく少数に留まるという。
つまり、微妙な効果と三枠もスキル枠を削るという点から、使い方がいまいち不鮮明なスキル。
それこそがこの、『所持制限解除』というスキルだった。
今の所所持制限を突破して手榴弾を十個以上使用できるスキルはこれしかないから、小虫がもっていることは確実。
つまりアイツは最初っから、そのことを見越していたということ。
…………流石、嫌なところで用意周到、というべきかしら。
「…………でも、不利なのは変わらない」
そうなのだ。
いくら長期戦ができようと、アイツの抱えている問題は山積み。
その一つが、対魔物性能だ。
遠距離からの手榴弾による奇襲。
それは確かに、対人戦においては効力を発揮しやすいのかもしれない。
プレイヤーは破片や銃弾が当たっただけで、容易に致命傷を負わせることができるから。
殺傷力のある破片を広範囲に、そして放射状に飛ばすことのできる手榴弾は、対人においては圧倒的な威力を発揮することは間違いない。
しかし、対魔物においては、その性能は足かせとなる。
基本的にプレイヤーよりVitが高い魔物に対しては、弾幕を張って当てることを優先するような武器よりも、一撃の威力が高い武器の方が火力役として適している。
勿論、囮役や支援役といった他の分類もあるのだが、現状は彼一人による戦闘。
後ろの二つも大事ではあるのだが、一番大切なのが攻撃であることは間違いない。
故に単独で戦闘している以上、火力がなければ話にならないのだが。
…………手榴弾はあくまで、人体破壊のために造られた武器。
狙撃銃のように弱点を狙い撃てるのならばともかく、破片の飛ぶ方向は完全にランダム。
そして四肢を吹き飛ばすくらいの威力は備えているものの、ライフル弾ほどの貫通性能はなく、防御力の高い敵だと威力が出ない。
衝撃手榴弾も距離による威力の減衰が激しく、範囲が狭いため避けられやすい。
つまりは圧倒的な、決定力不足。
そしてその決定力を補える可能性があるのは、きっと、わたししかいないのだろう。
……けど。
わたしは空を見上げ、空を飛行する人型魔物を見やる。
仮にわたしが参戦したとしても、このままでは勝てるかは怪しい。
というか、そもそも役に立てるかも危うい状況なのは、確かだ。
一応予備の燃料タンクはアイテム欄に常備しているから、いざとなれば火炎放射器はまた使用できる。
そしてそれは、当たればあの人型魔物でさえ、重傷を負うことは間違いないだろう。
もしかしたら、倒し切れるかもしれないとも思う。
それほどのポテンシャルを秘める、この火炎放射器ではあるのだが、その高火力を発揮するにはとある条件が存在している。
…………その条件は、どんな武器においても付いて回る、至極ありふれたそれだった。
「…………射程が、足りない」
そう。
アイツの現在の高度は、百メートル前後。
火炎放射器の最大射程が四十メートル程度であるため、どうあがいても届かないのだ。
更に言えば、重力に逆らうように燃料を噴射するため、勿論普通に撃ち出すよりも射程は短くなる。
そしてその射程不足という問題は、何も火炎放射器だけについて回るものではなかった。
サブマシンガン『MP5』自体も、火力不足を解消するほどのそれではない上に、射程の問題が深く突き刺さる。
サブマシンガン『MP5』も真下ら辺から撃てばある程度の精密射撃は可能だろうが、そもそも飛行速度が速く、すぐに有効射程外へ出られてしまう。
そのため待ち伏せをしても、大した損害は与えられないだろう。
……せめて持っているこれが、アサルトライフルだったらと思わざるを得ないが、流石に追加でそれを持ち歩けるほど容量に余裕がある訳ではない。
「あの高速飛行さえ、どうにかできればいいのに」
本当に、それに尽きる。
それさえできれば、少なくとも銃撃を避けられることはなくなるし、もしかしたら高度が下がり、火炎放射が当たるようになるかもしれない。
……というか、そもそもこの出血をなんとかしないと、まともに歩くことすらできない。
安易に動くと出血が悪化して、今の回復すら追いつかなくなって死ぬかもしれない。
死ぬのが怖いわたしはこうして、必死に動かずに戦況を見守ることしかできなかった。
他の建造物や火炎が邪魔をして、肝心の半井の姿は見えないが、エリアボスの動きと光線の伸びる先を見ればなんとなくは察することができる。
半井はどうやら、走りながらエリアボスの攻撃をかわしつつ、スキあれば手榴弾による反撃を見舞っているよう。
でも心なしか、先程よりもその頻度が減っているし、何より──
「……敵の動きが、変わってる?」
そう。
初期はちょくちょく止まりつつ、どちらかと言うと守りの態勢に入っていた銀翼の人型。
その動きから一転、恐らく半井を追従しつつ、ショートレンジからのレーザー連発。
敵が明らかに攻めの姿勢に入った理由は、やはり決定力不足による戦闘の長期化。
そして何より、自分に対する有効打がないと悟られたのだろう。
どちらも火力不足が原因なだけに、わたしは思わず唇を噛む。
『安全に討伐したいのならば少なくとも、十数人による徹底的な連携に加え、事前情報が必要』
その情報が重くのしかかる。
……別に、安全性を求めている訳じゃない。
わたしが犠牲になれば勝てるというのなら、突っ込んで死んでやりたいとは思ってる。
……でも、どうしても、怖いのだ。
あの、どこかで見たような目が。
どうしても、わたしを躊躇させる。
……それに、今突っ込んでも犬死にだから。
それを盾に、わたしはまた、戦いから逃げる。
そして、傍観、するのだ。
「…………いや、わたしはあくまで、合理的な判断をしてるだけだから。このままでいいの」
もう何度目かわからない、言い訳の言葉を吐きながら、戦局に集中する。
一見、先程までと変化がないように見えた地獄絵図に、わたしは一つの些細な変化を見つける。
恐らく半井がいるであろう場所付近に、黒煙がまき散らされている。
あれは多分、スモークグレネードによるものだ。
でも、なんで今のタイミングで?
風はある程度吹いてるから、すぐに吹き散らかされるのに。
銀色の人型にとっても、それは想定外の事象だったのだろう。
何が起きたのか分析するためだろうか、一瞬ぴたりと空中に静止する。
その、瞬間だった。
目に刻まれる、黒銀の軌跡。
それはまるで、空に昇る流星が起こした奇跡のように、わたしには見えた。
気づけば、あの特徴的な銀翼が、根本から切り裂かれていた。
本体と瞬く間に分離したそれは、重力に従って真っ直ぐ墜ちていく。
残された片翼で重力に抗うそれは、中空で回転するような挙動を見せながら、必死に抗うように墜ちていく。
わたしは、どこか対照的に感じるその光景を、ただ見ていることしかできなかった。
「…………」
翼を切り裂いたその黒銀は、勢いそのままに空を飛び、闇の街へと消えていく。
片翼を吹き飛ばされ、灼けた建物の陰に堕ちた銀色の人型を見やりながら。
わたしはなぜか、あの日のことを思い出す。
それは差し詰め、星の見えない夜空に浮かんだ、一条の光のような。
…………わたしが変わろうと、強くなりたいと願ったきっかけ。
彼が、わたしの英雄になった日のことを。




