54話 プレイヤー狩り
プレイヤー達が、西門で準備するよりも前。
俺は、南側の街門にて、門を開けて外に出る。
広がる景色は、沢山の背の高い木と、硬質な土の地面だった。
俺はそれを確認し、外壁に沿って西門へと向かった。
街が10キロ×10キロの正方形、というのは前にも話した通りなのだが、そこからフィールドが文字通り四方に広がっているのだ。
境界はまるで、先の欠けた三角定規の二等辺三角形、上底10キロの台形型に見える。
もし街自体が、どこかの映画の城のように浮いたとすると、四つの二等辺三角形型フィールドで正方形ができる、といった具合。
そしてそれらは繋がっており、境界を越えて隣のフィールドに侵入することが可能なのだ。
そしてもう一つ、プレイヤーの移動速度についても説明しておこう。
主にステータスのAgi値によって、出せる最高速度というのが決まっている。
例えばAgi最低値の俺なら、運動をあまりしない成人男性の走行速度レベル。
つまり俺は、現実とほぼ変わらぬ足の速さで行動できる、という訳だ。
……携行重量が、限界を超えていなければ。
そう、Strによって設定される、『携行限界重量』を超過(アイテム欄の中身、現在手に持っているものの合計)していると、最高速度にデバフがかかるのだ。
ウォータムに言わせると、その影響は顕著らしいが、詳しいことは不明。
だがStrというステータスがあることだし、Agi特化で重量オーバーになるのと、Strに少し振ってオーバーしないのとでは、流石に後者の方が速くなるだろうな。
なんにせよ、超過しない方が身のためだろう。
そして、肉体疲労という概念は存在しないため、走ろうと思えばいくらでもその速度で走ることが可能。
俺はそれらの仕様を使い、10分少々で外壁の角に辿り着く。
この場所から大体直線状に、森と市街地の境界が存在している。
つまりすぐ先に、市街地フィールドが広がっているという訳だ。
ここからは、慎重に行動すべきだろうな。
俺は外壁から遠ざかりつつ、西の街門正面付近を目指して移動する。
────
市街地の居住部に突入した。
外壁からは見えないような角度を死守しつつ、外壁から数百メートル圏内を維持する。
時折壁の様子を窺いつつ、俺は歩を進めていった。
……そして、兵士側の作戦で言う左翼正面に辿り着いた。
俺は近くの建物に入り、二階部分に潜伏する。
気を付けつつ、窓から全体の様子を確認する。
少し会話で遅れたせいか、既に戦闘は始まっており、中央から流れてきた魔物が次々と光学銃で狩られていっている。
……しかしその数は、俺の予想よりも少ないものだった。
門正面は、魔物の大群の大半が攻めてくる。
中心部はそれを流し、流れた敵を狩る、というものだったはずだ。
その原因には、二つほど考えられるな。
一つ目は、中央の兵士たちが魔物を流せないほどに緊迫した状況に晒されている。
……まぁ、これは多分ないな。
それなら左翼右翼の人員がなりふり構わず正面に移動し、なんとしても外門を破られないようにするはずだ。
それにしては弾幕に余裕があるし、何より向こうの景色がなんかおかしい。
それらの理由から、二つ目の理由、すなわち中央部が予測以上の殲滅速度を見せているということになる。
前方に見える、赤みを帯びた空。
明らかに向こう、街門正面辺りは地獄絵図になっていることだろう。
主に、火事という意味でな。
放火魔は絶対に、あのガスマスク女だろう。
……別に、壁の中から撃ってもああいった結果は出せたと思うが、まぁ確かに50メートル以内に近づけさせないというのは良いかもしれない。
援護射撃も届きやすい範囲だしな。
まぁ、どうやらこの戦況ならば、俺が今更どうこうする必要はなさそうだ。
たまに俺の方に向かってくる魔物を手榴弾で吹き飛ばしつつ、双眼鏡でプレイヤーの場所などを一人一人確認していく。
壁の随所に設置してある窓から体を出し、光学銃を構えて射撃を行っている。
────
魔物の群れが途切れ、光学銃による銃声も聞こえなくなった。
一時的に、静寂が訪れる。
俺は先程と変わらず、プレイヤーの動向を観察している。
とりあえず、人数と場所は特定できた。
後は、スタートのタイミングのみだが……。
突如、遠くで歓声のような声が聞こえ、視界の先のプレイヤーが次々と武装を解いてゆく。
月並みなタイミングではあるが、ここしかないだろう。
俺の存在にはもう気づいており、そんな俺に対するフェイクの可能性も捨てきれないが、どのみち俺にはもうこの瞬間しか残ってはいないのだ。
ここしか、ないんだ。
俺は秘密兵器(笑)を起動し、窓を蹴破って屋根の上に飛び乗る。
そして腰に付けた手榴弾の栓を外し、軌道を予測して投げ込む。
数秒後。
山なりの軌道を描くそれは窓の正面近くで爆発。
その範囲にいたプレイヤーは、何が起きたかわからないような顔をしつつ、HPを全損させて光となって消えた。
そんな間にも、俺は手榴弾をいくつも投げ込んでいた。
俺のいた位置に、反撃の光線が届く。
しかし俺は、既に他の屋根に移動していた。
銀色のコートが、まるで敵の視線を誘うかのように、煌めく。
屋根の上を跳び回りつつ、着々とプレイヤーを殺していく。
……銀色のコートがはためき、微妙に鬱陶しい。
だが、これがあるお陰で、こんなにも上手くいっている。
本当に、ありがたい。
突如走った光芒が、俺の体の中心を貫く。
クリーンヒット。
赤い、ダメージエフェクトが散る。
Vitの低い俺ならば、一撃死とはいかずとも、HPがレッドラインに入ってもおかしくないほどの攻撃。
……しかし俺のHPは、余裕で緑を保っていた。
俺は嗤い、手榴弾の栓を引き抜く。
『光学バリア』
それはアイテムの一つで、文字通り光学銃による攻撃、つまり光線のダメージを減少させる、そんな代物である。
バッテリーパックを填めることにより効力を発揮するそれには、勿論他の銃や手榴弾と同様、グレードというものがある。
制限時間はそのもののグレードや填められたバッテリーパックのグレードによって決まるが、実は最高性能のものを使うと、最高のバッテリーパックでも数分ともたないのだ(弱いバッテリーパック使うと、交換中に使いきるとかいう面白い事態になるほど)。
それは常時つけっぱなしにしていると金が面白いように吹っ飛んでいくので、余程大切な時以外使用しないのが通常。
……それに、光学銃による奇襲警戒なんかのために、そこまでする奴はほぼいないはずなのだ。
なので俺は、最高グレードのアクティブバリア『ウルフザレイ・零式』と、グレードを落として時間を優先し、常時付けっ放しにできるパッシブバリア『AOG0.50』を携帯していった。
流石にバリアの重ね掛けはできないが、流石は金食いバリアと言うべきか、それ単体でも圧倒的な効力を発揮していた。
「効かないな」
俺はその光線たちを意に介さずに、時折双眼鏡で敵影を確認しつつ、手榴弾を投げつけまくる。
そしてその光量は、いつの間にか半分以下にまで減っていた。
勿論敵が逃げたから……ではなく、単純に俺に殺されたからだろう。
単純に、左翼の戦える兵士の数が、光量に比例している。
ただ、それだけのことなのだ。
なぜ、彼らは逃げずに、俺に効きにくい攻撃を続けるのか。
その根拠に、明確なものはない。
たがしかし、あえて理由を述べるとすれば、この状況だからという結論に至るだろう。
まず、俺は戦場において、非常に目立つ格好をしている。
光を反射する銀色のコートをはためかせ、おまけに屋根の上を飛び回っているのだ。
気づかない方が、おかしい。
つまり、攻撃しない方が、おかしいという訳だ。
次に、逃げても無駄な状況であること。
結局のところ、魔物に門を突破されれば、この街も参加プレイヤーも終わりだ。
奪還されるまで、ログインしても暗い部屋で待機のままというし、逃げるのは馬鹿のみだ。
……人数を見る限り、どうやらそんな馬鹿はいないようで安心したよ。
これで、安心して全員殺せる。
最後に、俺の存在。
この状況において、プレイヤーに外部から攻撃してくる存在を想像してみよう。
……恐らくだが、大多数の人間はこう考えると思う。
『あれは、魔物の一種だ』
……そして、あそこにいる奴らの大多数の武器が、対魔物に強い光学銃ばかりだった。
あのガスマスク女を除いて、だが。
さて、ここまで言えばもうわかるだろう。
要するに、あいつらは、『目立つ俺のことを魔物だと思い込み、それに有効なはずの光学銃を向けている』ということだ。
しかし俺は光学銃への絶対的有利な要素を持っており、光学射撃がただの自殺行為にしかならず、そしてそのことに気づく頃にはもう、大多数が殺されている、ということだ。
ここのエリアボスが人型であるらしいということも、功を奏したかもな。
終わったと思って、油断してた?
残念、まだ終わっちゃいなかったんだよ。
生存者の数を、報告し終えるまではな。
そんな油断にまみれたお前らに、俺が灸をすえてやるよ。
ありがたく、思え。
あっけなく最後の一人を爆殺し、これで左翼のプレイヤーは全滅。
よし、後はこの簡単な作業を二回繰り返せばいいだけだ。
楽勝、だな。
光学バリア『ウルフザレイ・零式』のバッテリーパックを取り換えつつ、屋根の上を飛んで走る。
────
すぐに、門正面に着いた。
そこには火に覆われ、橙色に染まった地獄絵図が広がっていた。
そこに、なんとなく違和感を感じた俺は双眼鏡で見渡しつつ、呟く。
「……壁に、人気がないな……逃げられたか?」
そう、左翼では普通にいたプレイヤー達が、なぜかここにはいなかった。
というより、見当たらなかったという方が正しいだろうか。
少なくとも壁の窓から顔を出しているような奴はいなかったし、人がいそうな気配もしない。
勿論まだ断定はできないが、逃げたと考えるのが一番妥当な考えではある。
「……まずいな」
仮に逃げた、と考えてもそこそこやばいのだが、誰も逃げてなかった場合が一番非常事態だな。
……いや、正確には。
誰も、逃げきれていなかった場合、か。
誰もいない理由を俺なりに推測すると、大体三つに絞られる。
俺のみの情報で逃げた可能性、同業者と俺の情報で逃げた可能性、同業者が右翼と正面のプレイヤーを根こそぎ全滅させた可能性。
全てがあり得るが、最初のは考慮しなくても良さそうだな。
今できることが何もないし、敵が俺一人である以上、街門が突破される可能性もない。
一番安全な可能性だからこそ、それは除外しておく。
……俺が撒いた種の可能性もあるし、何より俺のできる範囲で努力すると約束しちゃったからな。
考えられる範囲で最悪を想定し、それに対する行動をするに越したことはない。
つまり、俺と理由は違うのかもしれないが、プレイヤーを狩る何者かが存在する、ということを前提に行動すべき、ということか。
……とりあえず、そいつを探し出すのが先決か。
普通に考えて、そいつの目的はプレイヤーの殲滅、どうせそう遠くないうちに接触することになるだろうからな。
それが、どちらの奇襲によるものかはわからないが。
だからこそ、用心しておくべきだろう。
双眼鏡で壁の窓、広がる火災を見回し、ふとそこに人影を見つける。
家の陰に隠れ、右翼方面を必死に気にする、影。
ここにいるということは、十中八九、前線に飛び出てきやがったあいつだろうな。
……憂鬱だな。
……だが、状況的に文句は言ってられないだろう。
もしかしたら、何か情報も知っているかもしれないしな。
俺は火の手の届いていない屋根を飛び回りつつ、その場所へと向かう。
直前でベランダや窓を利用して降り、その座標へと駆ける。
そこには、赤いエフェクトを大量に散らしながら、顔全体を覆うマスクを外したであろう、全身黒ずくめの女性がいた。
彼女は高い背の丈を器用に丸め、顔を腕の中に埋めて小刻みに震えていた。
「お前、こんな所で何してるんだ?」
顔を上げた少女の表情に、俺はなぜか、既視感を覚えた。




