49話 お望み通り
その後の男性の話を纏めると、最初の受付嬢さんの話とそこまで変更はなかったのだが。
1つだけ、これだけは特筆しておきたいという箇所があったため、自分への戒めもかねてここで反芻しておこうと思う。
まず、事前確認からだ。
これは壁に比べて強度の弱い門を守るための招集であり、ここにいる兵士は、否応なしに強制参加。
敵は基本西側からしか攻めてこないため、全兵士がその壁の中や上、その他攻撃が可能な箇所で待機。
一応、街の角までの一定距離にNPCの連絡要員が設置され、もし魔物の大群がそっちに向かった、もしくは別の魔物が現れた際に情報を伝える。
各自が攻撃をし、門を破られる前に魔物の群れを全滅させれば勝利。
敗北条件はその逆、といったところか。
そして、ここからが大切なルールだ。
『報酬額は原則五十万、生存プレイヤー全員で均等に分け合うこと』
『参加したプレイヤーは、一時的に死んでも持ち物がドロップしない』
『その代わりに、死んだ場合は待機状態に入り、兵士側が勝利、もしくは奪還されるまでは復帰することができず、また報酬も受け取ることができない』
『厳密な勝利の瞬間は、敵の殲滅確認後、残存兵士の数を私(NPC男性)に伝え、報酬を受け取ったとき』
だそうだ。
ちなみに奪還というのは、ゲーム的に言えば兵士側が敗北してしまった際に起こる事態への救済措置らしい。
街の一切のサービスが利用できなくなり、魔物が闊歩するようになる。
NPCも勿論死ぬし、プレイヤーも復活直後に殺される可能性も存在する。
その状態から戻すためには、街の中の魔物を全て殺し、門を直す必要があるという。
そうすれば街の状態は、最低限には戻る。
しかし死んだNPCは戻らないし、防衛作戦(つまりこの作戦だ)に参加していたプレイヤーは後ろ指をさされ続けるという。
実際は良いことをすれば元には戻るっぽいが、そんなんめんどくさいし嫌なので、クリアを目指すのはある意味必定だ。
かく言う俺も、NPCとはいえ知り合いが死ぬ可能性があるのに、ふざけようとは思わない。
本気で、クリアを目指していこうとは思っている。
「ではこれより、我々の戦力確認を行いたいと思う。各自使用武器を言ってくれ」
その発言とともに、武装確認という名の自己紹介が始まった。
それは確かに必要なことではあるが、どう考えても存亡1時間前の対応とは思えない。
まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。
深くはツッコむべきじゃないなこれ。
淡々と聞いていくうちに、ある程度武器編成に偏りがあることに気づいた。
狙撃手……つまりボルトアクションライフルやセミオートライフル(レーザーライフルは基本こちら)を使用している兵士、プレイヤーがあまりいないのだ。
それは、今回の殲滅戦においては有利に働く要因であり、俺にとっては喜ばしいことだ。
……あれ?
どうせ敵の攻撃届かないだろうし、これもしかして余裕なんじゃないか?
……いや、この運営のやることだ、ある程度の警戒はしておくべきか。
といっても、俺にできることなんて限られているんだがな。
とか考えているうちに、隣のデカガスマスク女の番となった。
どうやら俺は最後、つまりこの女の後になるらしい。
彼女は立ち上がり、背負うタンクに繋がる灰色の噴射機と一丁の銃を取り出し、自己紹介を始めた。
「オレはホムラ。メインアームは『携帯放射器1-1型』、サイドアームは『MP5』ダ」
『携帯放射器』。
それは、日本製の火炎放射器であり、今も自衛隊の一部が使用しているものだ。
しかし火炎放射器自体は銃に対し優位性がない等の理由で現在は戦闘兵器として用いられることはなくなった。
しかし彼女はどうしてだか、射程において絶対的に不利であろう火炎放射器をメインアームとし、それより射程も長く、汎用性も高いであろうサブマシンガン、『MP5』をサイドアームとしている。
そこにあるのは拘りか、それとも戦術故か。
……少なくとも、その辺のプレイヤーとは一味も二味も違いそうだ。
勿論、見た目的にな。
彼女のもう一つの銃、『MP5』。
これはドイツのH&K社が警察や特殊部隊向けに開発した、拳銃によく使われる弾薬『9㎜パラベラム弾』を使用するサブマシンガンだ。
自動小銃の機構をそのまま、サブマシンガンに流用したような設計になっている。
その画期的な機構のお陰で、とても命中精度が高く、100メートル以内であれば狙撃銃に匹敵する精度だといわれるほど。
反面、複雑な機構によるコストの高騰や耐久性の低さが問題で、実際はフルオートでばら撒くより、セミオートによる簡易的な狙撃銃といった役割を熟すことが多かったらしい。
……だがさ、1つ言っていいか?
「なんでお前、実弾銃紹介してんねん。魔物には光学銃がセオリーだろうが」
「生憎、光学銃は初期武器しかなくてナ。更に言えば、そんなもの個人の自由だろうガ。そういう偏見が差別を生むってこと、よく覚えておくといイ」
「……一理あるな。だが、気になったことを聞いて何が悪い?」
「質問タイムは最後に設ける、と言っただろウ」
「お前は言ってないだろうが」
「……これ以上は不毛なだけだナ、続けるゾ」
そんな2つの銃(?)を携え、息を呑む群衆に意に介さず、続けるホムラ。
「近距離なら比較的柔軟な動きが可能ダ。しかし如何せん射程の問題から、壁の中だと本領を発揮できない故、できれば1人で前線に配置してほしイ」
「……それはつまり、門の前に陣取って防衛するということか?」
「そうダ」
その言葉に、またも場が騒然となる。
ある程度の高さもあり、また突破される危険性もない壁の中にいた方がアドバンテージも安全性もあるというのに、彼女は自らそれを放棄すると言っているのだ。
そりゃ、みんな驚くだろう。
俺も驚いたもん。
馬鹿なのかこいつは。
先に言った理由もあるが、理由はもう一つある。
彼女の安全性の話ではなく、魔物が門に近づいた際の話だ。
防衛が難航し、もし魔物が門に接触すれば、みんなそれを倒そうと躍起になるだろう。
しかし、もし彼女がその近くにいたら?
このゲームにはフレンドリーファイアの無効化なんてものはないし、散弾なら巻き込んでしまうこと必至。
アサルトライフルやサブマシンガンでも、巻き込む可能性に考慮し、躊躇するべきときだ。
別にそれで彼女が撃たれたとしても別にどうでもいいが、それによって生まれる、一瞬の逡巡による弾幕の緩みは致命的だろう。
ただでさえ押されている状況でそれが起こるのだから、現状はさらに悪化。
そうなれば突破され、あえなくジエンドだ。
そんなリスクを受け入れるくらいならば、俺ならなんとしても上で防衛させるね。
……あくまで俺なら、の話だが。
そしてここにいる彼らは、どうやら俺ではなかったようである。
勿論そのリスクを理解しているものもいるのだろうが、火炎放射器というユニークな武器の活躍を見たいとか思ってるのだろうか。
もしくはそのショックに押され、多少のおかしさは目を瞑ろうとしているのか。
火炎放射器は殲滅戦において優位に働くから、彼女は必ず目覚ましい活躍を見せてくれると信じているからだろうか。
彼女の均整の取れた体つきに、目を奪われて正常な判断ができなくなっているのか。
…………最後のは流石にないわ、ごめん。
美人っぽいとはいえ、顔ガスマスクだもんな。
三つの内のどれなのかはわからないが、彼女の考えは見事に可決されてしまった。
残念ながら、その考えは甘いとしか言いようがない。
きっと、舐めているのだ。
舐め腐って、いるのだ。
火炎放射器の、射程を。
……だって、その火炎放射器の射程って、20メートルはあるぞ。
20メートル先がどのくらいかわからない人は、火炎放射器 射程とかで調べてみるといい。
興味深い動画や画像が見れるぞ。
更に言えば、火炎放射器は火そのものではなく、引火した燃料を打ち出している。
液体燃料は当然重力の影響を受けるから、問題なく下にいる敵を敵を燃やせるぞ?
壁の最下部とかに配置すれば、確実に同じような活躍を見せてくれると思うのだが。
勿論、それによる戦力低下はあるかもしれない。
いや、確実にあるとは思う。
しかし前に配置した際のリスクを考えるならば、それくらいは許容するべきだ。
個人の戦力には、限界があるのだから。
勿論、そんなようなことを言ってはみた。
しかし彼女本人に、
「別にピンチになったら、オレごと撃てばいイ。……それに、オマエの言うことはどこか信用できないしナ」
と言われ、先程の件も含めて俺の株が暴落しただけで終わった。
正論を言っただけなのに。
どうやらこの、皆が一々口を挟む俺に猜疑心を持っている状況では、説得は無理そうだ。
まぁ、戦闘にはテンションも結構関係してくるしな。
これでいいと思おう。
そもそも、窮地に陥らなければそれでいいことだし。
……多少、懸念は残るが。
「……さて、そう言うオマエはなんの武器を使っているんダ? 見た感じ、それらしきものは見えんガ」
自分を強引に納得させていると、彼女がふとそんなことを口走ってきた。
「ああ、そう言えば次は俺の番か」
「御託はいい、早く話セ」
「わかったわかった」
……さて、どんな紹介をしようかな。
できる限り、今までの形に沿ったもので行くか。
俺は少し考え、こんな言葉を放った。
「俺の武器は、この腕だ。メインアームは右腕、サイドアームは左腕だ」
────
「……オマエ、ふざけてんのカ?」
「まさか、至って真面目だ」
俺が右腕を見せつけつつ言うと、ホムラは溜め息を吐いたような動作を見せる。
「……で、本当の武器はなんダ? 一つくらい銃は携帯してるはずだロ?」
「いや、俺初期武器未選択だから、銃や剣の類は持ってないぞ……ああ」
俺はアイテム欄から1つの刃物を取り出し、見せつける。
最初に誰もが買うことになる、あれだ。
「こんなナイフなら持ってるが」
「そんなもん、誰でも持ってるだろうガ!!」
「あっ」
その答えがお気に召さないようで、癇癪を起こすホムラ。
俺の持ったコンバットナイフ、通称剥ぎ取りナイフを叩き落とし、叫ぶ。
「あ、危ないだろうが! 足に刺さったらどうするんだよ馬鹿野郎」
「……オマエ、さっきからふざけるのも大概にしろヨ? オマエはどうか知らんが、オレ達は本気で挑もうとしているんダ。その空気を壊して、何が楽しイ?」
「……俺はいつも本気なんだがな。勿論自分のために、な」
「なら、早く武器の名前を言えっつってんだロ!」
「言えと言われても」
俺は自分の右腕とナイフを見下ろす。
「俺は、このゲームでは銃も剣も扱ったことがないぞ。ナイフが剣に入るのならば、剥ぎ取りのみはしたことになるが。そもそもここで嘘を吐く理由なんて、俺にはないだろ?」
「……ならばなぜ、オマエはここにいル?」
「さあな。俺はただ、知り合いの受付嬢さんに連れてこられただけだ。そこに戦闘力なんて関係ないんじゃないか? ……あ、そうそう」
俺は受付嬢さんを指さしながら、空言を言う。
「そこの彼女には少し、実力を盛って伝えたかもしれないな。理由は勿論美女だから……ゴホン、もしこういう儲け話があった時に、即座に候補に入れてもらえるようにな」
「……!? そ、そんなこと、ある訳が……!」
「…………オマエ!!」
ホムラは俺の襟を掴み、そのまま持ち上げる。
息が詰まるような感覚を憶えながらも、俺は理解する。
この女、筋力が馬鹿みたいにある。
俺レベル……とまでは流石にいかないかもしれないが、少なくともウォータムは余裕で超えている。
流石は、火炎放射器を得物にしてるだけはある。
この不利な体勢からじゃ、もしかしたら俺でも振りほどけないかもしれない。
「オマエはこの作戦を、何だと思っているんダ? これは、街の危機なんだゾ!」
「……端的に纏めると、こうなるな」
息苦しさに苛まれながら、俺は自分の思考をそのまま声に出す。
「金を稼いで、そしてそのついでに街も救っちゃおうかなと」
ホムラは一つ、くぐもった溜め息を吐く。
どうやら俺の言葉が、全て真実であると確信したらしい。
「……ちッ、もういイ。勝手にしロ」
「なッ!? そんなこと、お前の一存で決められる訳ないだろうが! 俺がこの作戦に相応しくないから出てけなんて、たかが一参加者のお前に許されるわけが……!」
俺の顔色が青くなったのを見たのだろう、ホムラはにやりと笑みを浮かべ、
「確かにオレ一人の独断じゃ決められないだろうが……多数決ならば、どうかナ」
そう言って彼女は、その特徴的なこもった声で、参加者に問いかける。
「この素手野郎が、ここから消えてほしい奴は手を挙げてくレ」
……だが、手を挙げるプレイヤーは一人もいないみたいだ。
俺は先程とは一転、勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「どうやら、みんな俺が大好きみたいだな。わざわざ自分の取り分を減らし、ホムラの士気を下げてまで、俺に金を恵んでくれるらしいしな。いやー、儲かった儲かった」
俺がそう嫌味に叫ぶと、一人が手を挙げる。
それに続くように、ぽつぽつと手が挙がり始める。
そして最終的には、俺以外のプレイヤー全員の手が天に向けられた。
それはすなわち、数的有利をホムラが握った、ということに他ならない。
俺は頭を掻きながら、驚く様子を見せる。
「……まじか、冗談のつもりだったんだがな」
「……ふざけるなと、言ったはずなんだがナ」
「……まぁ、そこまで言うなら俺は、お前らとは一緒には行動しないよ」
俺はホムラの言葉を無視し、つい先程蹴破った扉に手をかける。
開けて外に出て、扉が閉まろうとした瞬間、ホムラは俺に言う。
「もう、二度とオレの目の前に現れるナ」
俺は無言で、足早にその場を後にした。




