3話 これでも食ってろ
真っ白だった視界が晴れ、俺の目に映ったのは、まさに“終末世界”の様相だった。
厚い曇天の空はそこに太陽があることを感じさせず、そんな世界を照らすように明るい街灯と看板のネオン。
壁に囲まれたその街並みは発展しているが、どこか暗い、寂れた雰囲気を醸し出している。
火薬や硝煙の臭いが鼻につき、街の周囲を囲む壁の向こうから銃声のようなものが聞こえる……気がする。
自分の掌を見つめ、軽くグーパーをしてみる。
そこに違和感は存在せず、ここが現実だと言われても信じてしまいそうだ。
「……凄いな」
その再現度は、正にその一言だった。
勿論こんな世界に来たことはないし、詳しくもないのだが。
ここが単なるCWOの舞台ではなく、“魔物の脅威にさらされ、それでも抗う人類の世界”だと思わせる何かがある。
そう思わせるのはきっと、想像の何十倍も難しいのだろう。
ガブリエル、いい仕事してるな。
……でしょでしょ!と聞こえた気がしたのは、きっと気のせいだろう。
……気のせいだと、思いたい。
それはそれとして、少し気になることがある。
周りのプレイヤーらしき人は、色々な色の髪と瞳をしていたのだ。
自分の髪を1房摘まんで確認してみたが、現実と何も変わらない黒髪だった。
この様子じゃ、恐らく目もだろう。
「あんのクソ天使ぃぃぃいいいい」
天使としてキャラメイキングくらいさせろやぁぁぁああああ!!
ガブリエルへの評価を一瞬でひっくり返す俺。
いきなり叫び始めた俺を見て、距離を取り始める彼ら。
すみません、退かないで。
……くそ、全てあのガブリエルのせいだ。
VRMMO創ったことは感謝してやるが、今度会ったらただじゃおかねえ。
はぁ、初っ端から心にダメージを負ってしまった。
切り替えていこう。
さて、まずは秋人と合流するべきか。
確か東部にある銃士の石像前集合、だったか。
えと、マップマップ。
俺はアイテム欄から街の地図を取り出し、石像の場所を確認。
お、意外と近いな。
――――
待ち合わせ場所に着くと、既に何人かいる。
その中には秋人らしき姿もあった。
「おーい!」
俺が呼び掛けると、そこにいる殆どの人がこっちを向いた。
だが俺が自分の待ち人ではないとわかったのか、秋人らしきプレイヤーと他の一人以外は、興味を無くしたように視線をずらした。
「遅いぞ、ゆう……いや、トナカイ!」
「ごめんウォータム、色々あってな」
秋人――ウォータム――は現実とそこまで代わり映えしない姿だった。
強いて言えば、髪色が黒から明るい茶色になり、目が橙色になったくらいか。
というか名前安直じゃないか?
苗字と名前の頭文字を英語にして、組み合わせただけじゃないか。
……俺――トナカイ――が言えたことではないかもしれないが。
その隣にいるのは……少女だ。
白いショートボブの髪に、赤い瞳。
比較的小柄な体躯をしており、平均身長より少し低い俺の肩の高さにも満たないくらいだ。
そんな背の高さも手伝って、まるで小動物のような印象を抱かせる少女だ。
何となくその子の様子を見ると、ウォータムの関係者であることが窺える。
「……おいウォータム」
「ん? なんだ?」
「いつからリア充に?」
「何言ってんだお前、こいつは」
「問答無用だこの裏切り者」
そう言って俺は貰った初心者セット(地図もこれの1つ)から手榴弾を取り出し、栓を抜いて叩き込んだ。
ウォータムは、こいつはの『は』の字で口を間抜けに開けていたから、そこに遠慮なく押し込んだら入っちゃった。
そのまま起爆、爆発。
口から煙を出しつつひっくり返る男を見て多少溜飲が下がった。
ちなみに街ではダメージは入らないので、こんなことをしても全く問題ない。
街中での乱闘を禁止するゲームもあるようだが、流石pvp推奨ゲームだ。
「あ、あわわわわ」
そんなウォータムを見て、おろおろと困惑する少女。
純真そうなこの子を爆破するのは気が引けるため、流石に止めとく。
というかウォータムだからやった、後悔はしてない。
「……でウォータム、この子は?」
「げほっ、ごほっ…………お前は鬼畜か!!」
「そんな褒めるなよ、照れる」
「褒めてねえ! ……この子は真白、俺の義理の妹だ」
「真白です、いつもお兄ちゃんがお世話になってます」
「ああ、よろしく」
そう言ってペコリと頭を下げる彼女。
ふむ、動作の1つ1つが小動物、うさぎやらリスやらを思い起こされる。
てか義妹……?
うん、確か話には聞いたことはあるが、実際にあったことはなかったし、今まで名前も知らなかったな。
……てかさ。
「……おいあき……いやウォータム、この子にも届いていたのか? そんな素振り1度も見せなかったじゃないか」
「おう、あ、言ってなかったな。悪い」
「……まぁ、良いんだけどさ。人数が増える分にはむしろ好都合だからな」
最悪、2人だけなら……街中で募集することも考えたんだが、どうやらこのままで良さそうだな。
「俺は半井悠莉。プレイヤーネームは『トナカイ』で、由来は苗字にとを足しただけだ。短い間かもしれないが、よろしく」
「あ……はいです。私は戦場真白です。プレイヤーネームは『ましろ』で、そのまんまです! 悠莉さん、これからよろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな。後ここではトナカイって呼んでくれ」
「了解です、トナカイさん!」
やっぱりうさぎみたいだな……1人だと寂しくて死ぬのか?
……発情期の方は、人間としてできれば再現していないと嬉しいが。
「じゃあ最後は俺だな……俺は戦場秋人」
「いやお前は良いだろ、俺とましろはお前の知り合いだし、どうせ戦と秋で『ウォータム』だろうし」
「何故それをっ!?」
俺もそうだが、みんな名前が単純すぎる。
ましろに至っては、本名丸々付けてるし。
……一番複雑なのが秋人だなんて、世も末だな。
そういえばここは終末世界だったな。
だからいいのか。
「……あ、ところで、2人の武器種は何なんだ?」
秋人が、いやウォータムが、さも今思い出したかのようにいう。
……嘘がヘタクソだな、今まで気にしていたのがバレバレだぞ。
……武器、か。
確か初期武器は、選んだ武器種に応じて実弾と光学の2つが渡されるんだったか。
後それとは関係無しに、街のマップと銃弾とバッテリーパック、薬や手榴弾が入った初心者セットも貰えた。
だが量はそこまででもないので、ショップに行くことは必須そうだ。
「あ、私はライフルとレーザーです」
そう言ってましろは、アイテム欄から猟銃のような物を取り出す。
それがライフルの初期武器か。
……なんか、全体的に兵士っぽくはないな。
どちらかというと、狩る側より狩られる側じゃないか?
服装はよくある迷彩服で、猟銃も背負っているのだが、今一つ覇気がない。
……いや、狩られる側だと思えば似合ってると言えるか。
それが誉め言葉なのかどうかは、知らないが。
「で、トナカイは? なんの武器を選んだんだ?」
ウォータムがずいずいと近づいてくる。
近い近い、それ以上近づくな気色悪い。
「……はぁ、言っとくが、ウォータムが先に言った方がいいと思うぞ」
「いやいや、俺のよりインパクトのある武器なんて……あれ、ないよね?」
俺の助言に、不安さを隠しきれないウォータム。
……なんとなく、こいつの武器の予想はついたな。
てっきりショットガンかと思っていたが、違ったか。
まあ、らしいっちゃらしいな。
「じゃあ言うぞ、ウォータム後悔するなよ」
「ぐぅ……いや、そんなはずはない、ハッタリだ!」
よし言ったな、あの世で後悔しやがれ。
「俺の武器は、これだ」
俺が取りだしたのは、銃でも剣でもないが、敵を殺傷するために造られた武器。
初心者セットとして、誰もが持っているであろうもの。
そのフォルムは丸く、栓が付いており、それを抜くと時間経過で爆発する。
手榴弾だった。




