46話 せめて……優しくしてね
改訂しました。
既読の方にはそこまで影響はありませんので、飛ばしても大丈夫だと思います。
主要な変更点は次話なので。
8/15:さらっと時系列を改訂~。
多分あれってなるだろうけど、勢いで何とかなる気がするから報告はなしで良いかな☆
8/25:ましろの言い分を、ただの精神論ではなく、完全なる正論に変えました。
後から伏線を追加していくスタイル☆
その日の、午後。
俺達はまたいつものように、ゲーム内マネーを貯めるために街の外に繰り出していた。
今日は森の中層をうろうろしているのだが、初日やその次の日のようにエリアボスが出たり、PKに奇襲されたりといったことは、あれからまっっったくと言っていいほど起きていない。
いや平和なことは良いことなのだが、やはりこれは一応ゲームだ。
ある程度の刺激があってほしいと願うのは、間違っているだろうか。
「そういえばさ」
ふと、暇そうに虚空に振り回していた光剣を止め、ウォータムが呟く。
「最近、戦いらしい戦いがないよな」
その言葉を聞いた瞬間、俺はまるで胸に渾身のボディーブローを受けたような衝撃を受け、膝から崩れ落ちた。
その様子を見て、2人が駆け寄ってくる。
「トナカイどうした!? 敵襲か!?」
「いや……」
俺は現実に起こったことを、ありのままに話した。
「ウォータムと考えが被るなんて、やっぱ俺は死んだ方が良いんじゃないかって思って」
「……よし、俺が引導を渡してやる、首を出せ」
ウォータムが光剣の柄を取り出し、かちりとスイッチを入れる。
瞬時に赤色のレーザーが撃ちだされ、一メートル伸びたところでぴたりと静止。
光学銃でもそこまで鮮明には見えない光の軌跡がはっきりと視認できることから、その計り知れないエネルギー量が推察される。
少なくともVitに振っていない俺では、首を斬られれば一撃死は免れないだろう。
というか、あれで首を攻撃されて生きてられるプレイヤーなんているのか?
それはともかく。
そんな凶器を構えているウォータムを前にして、俺の取る行動は一つしかない。
俺は襟をめくり、一言。
「せめて……優しくしてね」
「……素直に出すんじゃねえ!! 更に気色悪いんだよ今すぐやめろ!!」
「どっちだよ! 出せって言ったのはお前じゃないか!」
「確かに言ったが、、そういうことじゃねえだろ!? ほらあれだ、前フリみたいなもんだよ!」
「良かった、そこは考えが被ってないわ。ほっとした」
「斬るぞ? お前本気で斬るぞ?」
「そこまでにしてください、魔物が逃げちゃいます!」
……いや、流石に銃声よりは大きくないぞ?
とか思ったが、うるさくてましろが集中できないって意味か。
それはごめん。
とりあえずましろがいつも通り魔物を仕留め終え、俺達は話を再開した。
「……まぁ、心躍るような戦いが減っていることは否定しない。恐らくだがプレイヤーは効率を優先して、お互いに無言の不可侵条約を結んでいるみたいな状況なんだろうな」
……ちょうど、今の俺達みたいにな。
無益な戦闘をするよりも、個人個人が安全を優先し、保身に走っている、というべきか。
それか、そこまで余裕のあるプレイヤーが少ないのか。
みんな俺達の方針と同じ、平和主義ってだけなのか。
それらの理由から、最近はPKプレイヤーがめっきり減ってしまった。
故に俺達は魔物に期待するべきなのだが、最近俺達は中層にばかり入り浸っている。
理由としては、大抵はましろの正確無比な狙撃で1撃、もしくは2撃で倒せるため、浅層と倒す効率はほぼ変わらない。
更に浅層より中層の方が広い造りになっているため、仮に多少中層に多めにプレイヤーがいたとしても、獲物が横取りされる可能性が低い。
……まぁ、これは誤差みたいなみたいなものかもしれないが。
そして後は……一度上手くいってる場所に入り浸りやすい、こう言ってはあれだが万引き犯とかの発想ににてるな。
端的に言うと、まだ行ったことのない場所、つまりアウェイで何かするよりも、慣れた場所でする方が心理的抵抗が少ない、ということだ。
たとえそちらの方が危険性が高くとも、な。
ともかくそう言った理由から、俺達は中層にいるのだ。
つまりどういうことかというと、俺達にとって中層はもうヌルゲーと化してしまっている、ということだ。
だが、そんな現状を変えたいというならば、俺に提案できることは少ない。
環境自体を変えるか、俺達自身を変えるか。
その2種類しか、取れる方策はないのだから。
「解決策としては、俺からは3つくらいしか挙げられないな」
「結構多いな……1つめは?」
「1番平和的かつ逃げな方法なんだが、単純に俺達が別の場所、つまり深層に移る」
この方法の良いところは、誰にも迷惑をかけないことだ。
……だが、それだけに、一番つまらない選択であるとも言える。
何より、普通のフィールドでの対人戦が殆どなくなってしまうのがな。
だからこそ、逃げだと、俺は思う。
「まぁこれでも良いかもしれないな。どうせプレイヤー同士の戦争はその内来るだろうし」
「……どういうことだ?」
「別に、大した話じゃない。これが実弾銃を扱うゲームである以上、そっちが本命だと俺は思うからな」
「……成る程、つまり大会とかが来ると、そういう訳ですか」
「そうそう」
……だが、個人的にはこの選択は嫌だなぁ。
このまま、フィールドでの対人戦は少数派みたいな空気になったら、正直安全すぎてつまらない。
まぁだからこそ、PKの存在が浮き彫りになるかもしれないがな。
ある程度のスリルがあってこそ、ゲームをプレイする意欲って湧き上がってくるものだと思うんだが、どうだろうか。
「2つめ。ぶっちゃけ今は無理だが、その大会を自分達で開く」
「早い話が、対人戦の場を作っちゃおうってことですか」
「だがまぁこれは完全に夢物語でしかないので、ひとまず置いとこう」
「2つめでこれって……3つめはどんな魔境なんだ……?」
「安心しろ、3つめは全然可能だから」
更に言えば、これは完全にふざけて言った。
……でもまぁ、今の所は不可能ってだけで、今後の動きによっては可能になるかもしれない。
……今の所夢物語ってところには変わりはないがな。
少なくとも、健全な考え方だということは確かだ。
……まぁつまり、3つめはそうじゃない、と言い切ることもできるな。
「んじゃあ、3つめ。これは、ましろに少し負担をかけてしまうかもしれないものだ」
「わ、私なんでもしますよ? トナカイさん」
「うん、軽々しくそういうことは言うな、ウォータムに殺されるから」
俺を殺意の目で睨んでくるウォータムを無視し、俺は言い放つ。
「対人戦もある程度したいなら、俺達がPKになればいい」
────
「……あー」
「……うーん」
やはり、2人はそこまで乗り気じゃないようだ。
それはそうだよな。
ましろの意向もあってか、今まで自主的なPKはせずにいた。
しかし俺は、その主義を止めて自らPKをしたい、と言っているのだ。
あの、売却金バラマキ事件の意味を、根本から否定しようとしているのだ。
……いや実際はそこまでではないのかもしれないが、それに近しいことをしようとしているのは確か。
ましろやウォータムが渋るのも、それは至極当然のことであり、間違っているのはきっと俺だ。
「別に、2人がやりたくないならば1番の案でいこう。あくまでこれは提案だからな」
だから、無理強いする気はない。
これは謎が多いとはいえ、あくまでゲームだ。
楽しみたいように、やればいい。
2人にプレイスタイルの無理強いをする権利なんて、俺は持っていないからな。
……まぁ、基本エリアボスに遭わないようにするだけでも、まぁいいか。
銀狼は偶々相性が良かっただけで、次もあんな上手くいくとは限らないから、基本避けるべきだ。
そしてなんとかフィールドボスを倒し、迷宮に行けさえすれば、後は刺激的な戦闘が待っている……と思う。
少なくともエリアボス級の魔物がゴロゴロいるような所らしいからな。
それは少し、楽しみだ。
後、大会イベントの存在も忘れていない。
先程も言ったが、実弾銃がある以上、対人メインのイベントも存在するはず。
今後、専用の場所でバトルロイヤル、なんてことがある可能性がとても高いのだ。
その時のために牙を研ぎ、その瞬間に全てを費やす。
それもまた、楽しいかもしれないな。
ともかく、俺は3人でPKができなくともいいのだ。
別にそれ以外に楽しみは、たくさんあるしな。
金を稼ぐ方法も、な。
ましろが、どこか申し訳なさそうに呟く。
「……すみません。私は、誰かから一方的に何かを奪うのが、どうしても好きになれなくて」
「相手が不意打ちを仕掛けてきたら勿論抵抗しますし、それで殺してしまっても文句は言いません」
「ただ、戦う覚悟もない相手から、強制的に何かを奪う、その行為に好感が持てない、それだけなんです」
「戦う覚悟がなければフィールドには出ないだろう、とトナカイさんは仰るかもしれませんが」
「皆が皆、トナカイさんみたいに強い訳じゃないんですよ」
「一方的に搾取され続けて、その人たちだけゲームを楽しめないなんて、それはどこか違うと思うんです」
「……成る程、そうかもしれないな」
「……まぁ、最後のはあくまで建前で、最初の奪いたくない、というのが全てなんですが」
そこまで言うと、ましろはぺこりと頭を下げる。
「……ごめんなさい。自分勝手な感情で否定してしまって。トナカイさんにはいつもお世話になってるのに」
「いや、こちらこそ我がままだった。ごめん」
感情論という意味で言えば、俺の方がそれに近かったのは確かだ。
別に強い敵なんざ、魔物にもたくさんいるのだから、わざわざ人に絞る必要性なんてないもんな。
ウォータムも頬を掻きながら、
「……ましろがそう言ってるしなぁ……俺もやっぱ止めとくわ」
「そうだな。このチームの方針としては魔物狩りにしよう」
「トナカイさん、本当にごめんなさい」
「いや別に、ましろが謝ることじゃない。悪いのは俺だ」
勝手なエゴを押し付けてるのは、間違いなく俺だ。
それを頭ごなしに否定できるような厚い面の皮を、どうやら俺は持っていないらしい。
正直それは、とても喜ばしいことではあるんだがな。
「よし、時間も丁度いいし、そろそろ戻るか」
────
「そういや俺とトナカイは、今日からテスト一週間前なんだよな」
戦果を確認していると、ふとウォータムがそんなことを呟いた。
「ましろは確か明日からだったか?」
「うん。私はその期間はインできないから、どうしよう」
「時期も被ってるし、全員インせず勉強に集中するで良いと思うぞ」
「そうだな! 俺は今回こそ、トナカイに勝つっていう目標があるしな」
「トナカイさんって頭良さそうですし、それは難しいんじゃないでしょうか……」
「ましろ、それは違うぞ。難しいからこそ、燃えるんだろうが!!」
「無駄にかっこつけんな。見栄がバレバレだぞ」
「見栄じゃねーっての!」
そこまで言うと、ウォータムが考えるような様子を見せる。
「ところでなんで別の高校なのに、日にちがそこそこ被ってんだろうな。不思議なこともあるもんだなぁ」
「ウォータム、お前の夏休みは冬に来るのか? 中間考査のタイミングなんて大体被るに決まってんだろ」
「……あ、そうか!」
「……毎度毎度お兄ちゃんが、すみません……」
「いつものことだから、ましろは気にするなよ。ましろはな」
「いや、流石にそこまでのことじゃないだろ!? そこまでじゃないと、思いたいんだが」
「その様子じゃ、俺に勝てる日は永遠に来なそうだな」
「ちくしょぉぉおおおおおおお」
時間を確認して、ましろが少し寂しそうに呟く。
「……さて、私はそろそろ落ちなきゃ。トナカイさん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。ウォータム、お前はどうするんだ?」
「タイミングもいいし、俺も落ちるわ」
「そうか。俺は少しだけ残ることにするから、また一週間後な」
「ああ、またなトナカイ!」
「またテスト終わりに会いましょう!」
そう言い残して、二人は俺の目の前から消えていった。
残った俺は一人、曇った夜空を見ながら、思索に耽るのだった。




