45話 期末試験、一週間前
一か月近くの大遅刻m(__)m
本当に申し訳ない……けど、少し言い訳をさせてくださいな!
…………ごめん、言い訳も良い訳もないです。
強いて言えばさっさと終わらせるつもりが予想以上にシリアスになって余計な設定付け足しまくったせいと、最近少し執筆速度が劣化したせいですm(__)m
…………がっつり言い訳していくぅ!
……反省はしてるので、どうか許してください。
また前のような速度で、という訳にはいかないかもしれませんが、頑張りますm(__)m
「そういや、もうこんな時期か……」
『CWO』がサービス開始してから、おおよそ二週間後。
六月も、そろそろ終わりに近づいて来た時期。
俺は机に頬杖を突きつつ、窓際の席で青空を見つめていた。
一年に五回存在するその時期は、俺だけでなく全ての学生が嫌気がさす時期であろう。
殆どの部活動が活動を休止する一週間。
大量の課題が出され、一週間後にはそれらの範囲から試験が出される、そんな時期。
そう、テスト直前の一週間。
その憂鬱さに、俺は思わずため息を吐く。
「はぁ……」
「いつも通り、死んだ目で何してんの」
窓の外とは違う鬱屈とした一週間だと思っていたら、もっと面白くない奴が出てきやがった。
その憂鬱さに、俺は思わず溜め息を吐く(二回目)。
「……はぁぁぁあ」
「人の顔見て溜め息をし直さないでくれる?」
「溜め息吐きたくなる顔してんのが悪い」
「それってどういう顔よ!?」
「鏡見て来い」
「ふざけないで」
夕木茜。
俺より背が高く、そしていつも上から目線な同級生の女子。
こいつはわかりやすく秋人に惚れており、彼の昼食はいつも彼女お手製の弁当だ。
……今更だが秋人の奴、俺より圧倒的に青春を謳歌してやがるな。
まぁそれは置いといて、こいつはいつも、秋人の隣にいる俺を目の敵にして煽ってくる。
そのはずなのだが、今回はどうやら違うようだ。
「……で、何の用だ? 秋人はここにはいないぞ」
そう。
今言った通り、ここに秋人はいない。
彼は俺より圧倒的に交友関係が広く、友人と呼べる間柄が多い。
当然、俺の近くにいないときだって存在するわけだ。
流石にそんなことはこいつもわかっているだろうし、今回は秋人とは別の話題なのだろうが。
「……それを言われると弱いけど……今回は違うのよ!」
「わからないか? 言外にどこか行けっつってんだよこっちは」
「生憎あんたみたいに捻くれた価値観をしてないのでわかりませんね」
「俺の思考が高尚過ぎて常人には読み取れない? わかったならいいんだ」
「耳が悪いみたいね、耳鼻科行く?」
「別に行ってもいいが、その場合お前の言う話とやらができなくなるな」
「……一々うざいわねこのチビが……!」
「は? 今なんつった? 俺はほぼ平均身長だっての」
高低差のある睨み合いが続く。
折れたのは、いつも通り夕木の方だった。
「……はぁ。もういいわ、本題に入りましょ」
「お前も人の顔見て溜め息吐いてんじゃん」
「……本題に入るわ」
「わかればよろしい」
「…………」
夕木は頭を押さえ、何かに耐えるように首を数度振った。
そして言葉を選ぶように逡巡し、徐に口を開いた。
「あんた、前回の中間考査の結果、覚えてる? 勿論自分のよ」
「覚えているが、それがどうかしたか?」
俺の他人行儀な態度に、露骨に顔をしかめる夕木。
「……なんでそんな嫌味ったらしいのよ」
「……まぁ、そう見えるかもしれないな」
意味ありげに目を窓の快晴に向け、呟く俺。
机に両手を強く叩きつけ、叫ぶ夕木。
周りにいた同級生が、その音に反応してびくりと体を震わせる。
生まれた静寂の中、彼女はまくしたてる。
「学年一位取っといて、その余裕そうな口ぶりは何よ」
俺が黙っていると、彼女は刺々しい口調で呟く。
「……あんたさ、真面目に勉強している側の人間の気持ち、考えたことあんの?」
実際余裕だったから……とか言ったら殺されるんだろうな。
そんなことを考える俺を尻目に、彼女は尚も続ける。
「別にね、一生懸命努力して、学年一位取りましたー、なら何も問題ない訳よ、わかる?」
「……できることをして、何が悪い?」
「できるかできないかじゃなくて、そういう風に見せるか見せないかの差よ」
「…………」
確かに、それはある。
したくもないことをしてまで外見を取り繕うことというのは、避けては通れない道だ。
たとえいくらテストの点数がよかろうと、ある程度の態度や意欲が見られなければ成績は下がる。
だからみんな、少なくとも授業中は本気で取り組む姿勢を見せるし、宿題もある程度提出する。
まぁ。
俺はそのことについて、二つほど心当たりがあったのでそれを呟いてみる。
「一応今の所、宿題は全部提出してるんだが……」
「そんなの学年一位なら当たり前でしょうが。言い訳しないでくれる?」
「いや、勝手にお前の価値観を押し付けんなよ。この世には宿題しない学年一位もいるかもしれないだろ」
「そういう特例の話は今はしてないの、常識的な範囲内での話よ」
「……それを言われると弱いな……」
確かに、当たり前という言葉の定義はおおよそ、『誰もがそうであるべきだと考えること』だからな。
学年一位は本来そうであるべきだし、宿題をしないそれがありふれているかと言われるとそうでもない。
……この言い方だと俺がまるで異端みたいな言い方だが、俺は宿題を全て提出している模範生だということをここに明記しておこう。
ただ、授業の態度が少し悪いというだけで。
「……授業中に宿題をすることは、時間の使い方が上手いとは思わないか?」
「……そんな考えに至るような奇特な人間は、少なくとも教師の中にはいなそうね」
……後、俺の普段の態度も関係しているかもしれないな。
交友関係も狭いし、いつも気怠そうにしている。
たまにクラスメイトと話す機会はあるが、別に関わる必要もない故に事務的な態度。
感情を露わにするのは、秋人やこいつの前でだけ。
授業中は堂々と宿題をやり、指名されても手を止めずに回答。
その回答は全部正解だから、誰も何も言えない、と。
そんな俺が、学年一位を取った。
その時の反応は、主に二つに分かれそうだ。
ある意味当然だと考える人間と、なんであんな奴が、という意見に。
そして彼女は、後者側の人間だった。
だから彼女は、こんな行動に出た、という訳だ。
そう思うこと自体は、別に間違ってはいない。
……いや、他人の思考に正誤を求めること自体が間違っているとは思うが、これだけは言わせてほしい。
「まぁともかく、あんたの授業態度は悪い……とまではいかないかもしれないけど、学年一位としては相応しくないと思うのよ。授業中に教師の方を向かず、ずっと別の教科書やら課題をやってるにも関わらず、当てられれば涼しい顔で答える」
「別にそのくらい、みんなやってるだろ? さっきも言ったが効率的だし」
「確かに内職は、みんなやってる。でもね、あんた以外はみんな先生から見えないようにしてるの。でもあんたには、その意識が欠片も見えないのよ」
「それがみんなも薄々わかっているから。そしてあんたが『本当に何もせず、学年一位を取った』ことも、みんな漠然と理解しているから」
彼女はそこで言葉を区切り、
「……ところで秋人くんは、大変だと思わない?」
「……何が言いたい?」
「ただの小学生からの幼馴染という理由だけで、傍観者を気取ったクズに付き合わなければいけないなんて。」
「そうだな。あいつにはいつも迷惑をかけられっぱなしだからな。だからたまにはお前のストッパーとして働いてくれると助かるんだが」
「……わかってるの? 秋人くんがいなかったらあんた、確実にぼっちよ」
「わかってるさ、だからだよ」
暫しの、沈黙。
俺の『だからだよ』という言葉の真意を読み取ったのか、彼女は目を細めた。
「…………その先は、嫌な予感がするから聞かないでおくわ」
「まぁ、賢明だな」
「……まぁ、ともかく」
「あんたみたいに余裕そうな面をして、いかにも授業聞いていない風な顔をして学年一位を取ると、努力の無力を皆に知らしめることになるのよ」
「……で? 結局俺に何をさせたいんだ?」
「だから、授業中に宿題をするのを止めて、ちゃんとノートを取って勉強を……」
「……はぁぁ」
どうせ、そんなことだろうと思った。
あーあ、やっぱ時間と労力の無駄だったか。
二つの意味でな。
「……何よ」
「いや、時間の無駄だな、って思っただけだが」
「…………なんでそう思ったのか聞いても良い?」
「じゃあ、言わせてもらうが」
俺は欠伸を噛み殺し、
「本音を言えよ。『気に食わないから目の前から消えて欲しい』ってな。俺は比較的寛容な方だから、素直に消えてやるよ。別にそこに興味もないしな」
「ち、違う! わたしはただ、あんたに真面目に……!」
その反論は、予想していた。
俺はその言葉に、また容赦ない言葉を返す。
「それってさ」
「お前は俺に、わざわざやる意味もないことを強要したいってことか?」
「────ッ!!」
「さっき、言っただろ?」
「『時間の無駄』、だって。そういうことだ」
「……それはつまり、努力が無力だと言いたい訳? わたし達凡人にとって必須なものが、あんたみたいな天才にとっては時間の無駄だと?」
「……その言葉の解釈については色々あるが、まぁ俺にとっては必要ないかもな」
「……だったら、その先を目指したいとは思わないの?」
「どういうことだ?」
「……例えば、隅々まで勉強して、満点を取るとか。あんたは全部満点だったわけじゃないんでしょ」
「まぁ、そうだな」
「つまりあんたは、完全に理解した訳ではないんでしょ?」
「……だったら、逆に聞くけどさ」
「仮に俺が満点を取ったとして、何か意味があるのか?」
「残り一つのケアレスミスをなくすために、どれだけの時間がかかるのかわかって言ってるのか?」
「テストで満点を取っても、今後何かの役に立つのか?」
「そもそも満点を取ったとして、それが勉強した結果だと言い張って何になる?」
「俺は全知全能でもないし、万能っていう訳でもない。ただの一般人だ」
「…………ただ、自分の限界を知っているだけのな」
「だから、俺自身がケアレスミスをなくすまでの時間は、多少のズレはあるだろうが大体把握できる」
「そして、その満点の栄光は、それほどの時間と労力を消費するに至らないと思う。……まぁ、これはあくまで俺の中での価値だからな」
「……」
「ああ、認めよう。俺は努力をしたくもないし、これからもしないだろうな」
「……死ねばいいのに」
「お前が俺をどう思うとどうでもいいが、一つ言わせてくれよ」
「……努力が無力って、一体どこのギャグだ?」
「……どういう意味?」
俺は仕方なく、その発言の理由を説明してやる。
「俺が存在していてもいなくても努力の価値は等しく一定なのに、お前らが勝手に個人の目線、そして尺度で、他人と比較しているだけだろうが。努力を無力にしようとしているのは、他でもない、お前ら自身だろ」
彼女は、押し黙っている。
「確かに結果を求めて努力するのは、何も間違っちゃいない。だが、努力の対価が結果だと勘違いしている奴は大体、俺みたいな奴を見ると虫唾が走るんだ。理由は……言わなくてもわかるよな?」
そりゃそうだ、結果を努力もせずに手に入れているんだから。
自分が一生懸命頑張っている横で、いともたやすくそれ以上の結果を出しているのだから。
イラつかないはずがない。
俺がその立場だったら、勿論イラつくに決まっている。
…………少し違うが、今みたいにな。
その、モヤモヤとした気持ちをどう処理して、どうモチベーションに繋げるか。
それが世間の縮図なんだろうとは思う。
その理不尽を自ら体現しているというのは、俺にとってはあまり面白い話な訳でもないが。
……人間の存在意義なんて、所詮そんなものなんだろうな。
「俺がいることによってやる気をなくし、自分を諦めるような奴がいても、そいつはどうせ将来挫折する馬鹿ばっかりだろうから問題ないだろ。頑張る理由を、中途半端に他人に依存しているような」
「…………」
夕木の鷹のように鋭い瞳に、涙が溜まり始めた。
「そういう意味では、俺は世間の理不尽さを教えてあげている、という見方もできるな」
「努力しても全てが実る訳ではなく、むしろ叶わない夢の方が多い」
「夢のために努力しても、儚く散っていく人間は少なくない」
「圧倒的な才能との差に打ちひしがれ、途中で投げ出す奴が多いからな」
「……結局、この世間で生き残るのは大抵」
「ただ自分のために頑張れる人間、もしくはテキトーでも生きれるような、才能に満ち溢れた人間なんだろうな」
彼女は、一粒涙を零し、吐き捨てる。
「……やっぱり、わたしはあんたが大っ嫌い」
「奇遇だな、俺もだ」
……どちらの意味でも、な。
「…………」
彼女は無言のまま、走り去った。
俺はただ、いつもと変わらぬ、無機質な瞳でその方向を見つめていた。




