44話 カオスなお食事会
昨日なかった分ちょい長めだやったね☆
「……で、何?」
月曜日。
客はそこまで来ないという俺の予測を見事覆し、予想以上の大反響を見せた『馬のしっぽ亭』。
午後4時過ぎになってインした俺達も加わり、ようやく騒ぎが収まった。
……のだが、なぜか茶髪美少女店員であるアンの機嫌が悪い。
俺を睨みつけ、どことなく素っ気ない態度だ。
「……なんだよ、客が多いことはいいことだろうが」
「それはそうなんだけど、待たせるのが申し訳ないのよ。どうしてくれんの?」
「客は来たいから来るんだ、待ちたいから待ってるんだ、だから存分に待たせてやるといい」
「前から思ってたけど、なんであんたそんなに上から目線なのよ!?」
どこの店も集客に人を回す余裕がない中、俺達は集客にましろという最終兵器を投入したんだ。
流石にここまで来るのは予想外ではあるが、多少は増えることは予見していた。
そのための方法ってか助言も、俺はしたつもりだったんだがな。
「そもそもさ、他人にももっと頼れっつってんだろ。だから店の看板にでも書いとけばいいんだよ、『日曜日以外は人員不足なので、多少お待たせするかもしれません』とかさ」
「……あれってそういう意味なのね……じゃなくて! 書いててもそんなことしていいの!?」
「……あのな」
できないことをできないと言って、何が悪い?
むしろできないことを2つ返事で引き受け、結局処理しきれなくなって爆死する奴の方が悪質だろうが。
俺はそんなことになりたくないから、安請け合いはしないことにしている。
「……そうかも、しれないけどさ……やっぱりさ、折角来てくれてるお客さんに、申し訳ないじゃん……」
つまり、こう言いたい訳だ。
来てくれたお客さんには、できる限り満足してもらいたい。
それも、できるだけ多くの人を。
……はぁ。
だから、書いとけって言ってんの。
「そう思うんなら、尚更そう書くべきだ。それに加えて人員募集でも貼っとけば、誰か食いつくだろうからな」
そして接客係さえ増えれば、茶髪店員が厨房に立ち続けることもできる。
もしくは料理できる人間なら尚良しだが……そう簡単に釣れたら誰も苦労しないだろう。
どちらにせよ作業効率はアップするだろうしな。
そういえば、ただの興味なのだが。
……もしもここで完全予約制を提案したら、どうなるのだろう。
プレイヤー完全禁制とかに、なるのだろうか。
それはそれで面白そうだが、流石に実行する勇気はない。
「……わかった、やってみる」
「ああ、そうしてくれ」
彼女は一度、こほんと咳払いをした。
「……で、そんなことを言うために来たわけじゃないんでしょ?」
「流石。実はちょっと頼みごとがあってな」
「何? 多少のことなら聞いてあげてもいいわよ」
「それは助かる」
俺はウィンドウを操作し、アイテムの魚肉を実体化させた。
「私用なんだが、少しだけ厨房を貸してもらいたいんだ」
アンは少し考えこむ素振りを見せる。
そして徐に、口を開いた。
「その魚、そこまで美味しくないだろうけど……いいの?」
アンの言葉に、正直息が詰まるかと思った。
「え……そうなのか?」
「……兵士さんから見れば、全部同じような値段で売れるんだろうけど」
彼女は溜め息を吐き、やれやれと首を振った。
「美味しい食材もあれば、美味しくないのもある。当然でしょ」
「……それは、そうだな」
……普通に考えれば、至極当たり前のことだった。
街の体制が話をややこしくさせているだけで、本来魔物の素材にはそれ相応の価値がある。
街がそれに関わらず魔物を狩らせようとしているお陰か、俺達には食用に適す素材を価値によって判断することが困難なのだ。
……それは勿論、それだけ街の体制が安定しているという証明でもあるわけだが。
つまり総合的に見れば、とても良いことだ。
……今この場においては、確実に微妙なことなのだが。
「そうか……素人が勝手に口出して、すまなかったな」
「いや、良いけど……良ければ、こっちから食材出そうか?」
「いいのか!? それは助かるが……」
アンの魅力的な提案に、すぐさま賛同しかけた。
……だが、少し考えればわかる。
それが、とても難しいということに。
俺は無言で、ウォータムとましろの方を向く。
「なぁウォータム、どう思う?」
「うーん……場所代や調味料代はバイト代と恩で相殺できるとして、確か食材はこの魚を使うつもりだったんだよな?」
「そうそう。今の俺達は一文無しだから、場所代や調味料代はともかく、食材はどうにか負けてくれないか頼むしかないんだよな」
「……ちょっと? 本人の前でそんな会話するの、どうかと思うわよ?」
「……お兄ちゃん、思考がトナカイさんに寄ってきてますよ」
「……本当だっ!? やばい、感染がもう始まってるのか!?」
「人を何だと思ってるんだお前ら、冗談はアンとウォータムだけにしてくれ」
「そっちこそ私を何だと思ってるの!? 無視しないでくれる?」
俺は無言で、アンの方に向き直る。
「……という訳で、アン。お願いだ」
「……あーもう、わかったわよ!」
「ましろくれない?」
「!?!?!?!?」
「ぜってえーー渡さねーぞこのボケナスビ!!」
「何が、という訳で、なのよ!? てっきり食材の話かと思うじゃない!?」
俺の完全にいらない一言で、場がカオスになった。
おかしいなぁ?
ちょっと真面目に頼もうと思ったのに思わず口が滑った。
ボケが脊髄反射的に身についてる、ということかな。
良き良き。
「……はぁ、もういいわよ。その代わり、働けるときはちゃんと働いてよ?」
「ああ、ありがとう。作ったものはちゃんとこちらで処理するからさ」
そう俺が言うと、彼女は少し寂しそうに俯いた。
「……1つ、条件があるんだけど」
「………………何でしょうか」
なんだろう。
正直、嫌な予感しかしないんだが。
こっちは使わせてもらう側な以上、断れない。
……くそ、油断した。
こいつ相手だとどんな無理難題をふっかけられるか、分かったもんじゃないのに。
彼女が言い放った言葉は、俺の予想の範疇を超えていた。
「私も、参加するわ!!」
「………………了解」
────
「……ふと、思ったんだが」
なんとなく疑問を覚えた俺は、アンにその疑問をぶつける。
「なぁに?」
「肉や魚はともかく、他の食材はどうしてるんだ? 魔物が落とす訳じゃないだろ?」
そう、魔物からドロップするのは基本、肉か魚なのだ。
そして食材というのは、勿論それだけじゃない。
野菜や調味料、穀物も含めて食料、と呼べるのだ。
そしてそれは、魔物が落とすことはほぼない。
唯一植物系の魔物がいそうな森フィールドにも、俺が知るのは中層までだが、そこまででは残念ながらそんな都合のいいものは存在しない。
全員が全員、肉か魚肉か、食材を落とさない魔物なのだ。
そんな中、どうやって食料を確保しているのか。
俺にはそこが気になって仕方がなかった。
「……そういえば、そうだな」
「確かに! そこまで考えてなかったです!」
俺達の声をを聞いたアンは、なぜか勝ち誇ったような表情を浮かべた。
ふふん、という擬態語がもれなく附いてきそうだ。
「あんた達、そんなことも知らないの?」
「……悪かったな、無知で。その無知から脱却するためにも、早く教えて欲しいんだが」
「教えてあげよーかなー、どうしよーかなー。そこの無礼な人が、丁寧に頼んでくれるなら、考えないこともないかなー」
「…………ちっ」
くそ、これだからこいつに弱点は見せたくなかったんだ。
だがどうせ、ましろとウォータムもわからないだろうしな。
俺のちっぽけなプライドと引き換えに情報が得れるならば、喜んで頭でもなんでも下げてやろうじゃないか。
「……お願い、します、頭脳明晰で容姿端麗なスーパー美少女、アンさま……」
「よし、じゃあ私が、この私が、無知なあんた達に教えてやろうじゃないの、感謝しなさい」
「……死にたい……」
「そこまで言う!? ねぇそれは流石に泣くわよ!?」
────
この街は、10km×10kmの正方形、面積およそ100km2だ。
そしてその面積の半分近くを、工場で埋めている。
それは安全性重視で、中心に殆どが集まっており、そこを『工業区』と呼ぶ。
残り外周50km2が、人間の居住区だったり、兵糧通りだったりその他施設だったりするのだ。
その名前は単純に『外周区』。
そしてアンが言うには、工業区というのはエネルギー関連、武器関連、食料関連を全て担っているという。
勿論面積が狭いため、生産している食物の種類は限りがあるが、普通に食って生きる分には特に問題のない範囲らしい。
エネルギー面も当面は問題なく、武器においては、物資は魔物が落とし、銃身自体は使えなくなったものを再利用すればいい。
……つまり、この街は既に独自のインフラを確立している、ということ。
……そう聞くと、途轍もなく凄いな。
いやまぁ、この街以外の地域には人間いないみたいだし、それは必然ではあるのだろうが。
小規模の国家と同等、と言えばその凄さが伝わるだろう。
むしろ他国に頼れない以上、こっちの方が圧倒的に優れている、といっても過言じゃない。
……まぁ、これで俺の疑問は大体解決したな。
ライフラインは大体、中央の工業区に集中しており、魔物からの安全性が確保されている。
外周区に住む大多数の人間、通称庶民は外周区に住み、時折魔物による被害に悩まされる。
そしてその中から、現状を変えるべく、もしくは高い給金に釣られて戦うことを選んだ人々が、兵士。
つまりは俺達プレイヤー(と少しのNPC、基本会えない)、なわけだ。
成る程な。
……あれ、じゃあゴーシュの父親、エリンズはなんで襲われたんだ?
あいつの武器工場は、流石に工業区にあるだろう。
仮に工業区を急襲されて、何かぶっ壊されるなんてことは絶対にあってはならない。
それがそのまま、街の破滅に繋がるからな。
だから工業区の守りは完璧だと思う。
そんな工業区にいたのならば、魔物の脅威なんてほぼあり得ないはずなのに。
……そういやあいつ、工場で魔物に襲われたなんて一言も言ってなかったな。
偶然か必然か、エリンズが外周区にいる時に魔物襲来が起きたと予想できる。
……あくまで予想だが、可能性が高いのは食事時かな?
「……まぁ、この話はもういいや。で、肝心の料理はどうしようか?」
「……え、まだ決めてなかったのかよ!?」
「これでも料理初心者だぞ、何作ればいいかなんてわかるはずもないだろうが」
「……てっきりなんか考えがあるとばかり」
「……ねえウォータム、考えるのは俺の仕事、みたいに丸投げするの止めない? 俺がミスした時、カバーするのはお前らだぞ? わかってる?」
「……トナカイが思いつかないことを、俺が思いつくわけがないな」
「潔く言っても、誤魔化されないぞ俺は?」
やいのやいの言ってる間に、アンが手を挙げる。
「それなら、私に考えがあるわ」
アンはその小さな手を、ぱちんと叩く。
「ハンバーグを、作りましょう」
────
「……よく考えたらさ」
ひき肉、玉ねぎ、卵など諸々を混ぜ込んだ種を捏ねつつ、俺は独り言ちた。
「……ましろを繁忙期に厨房に投入しとけば、わざわざこんなことしなくても良かったな」
「……」
……勿論、ましろによる接客は、俺やウォータムを突っ込ませるより効果が高い。
明らかに無害そうで、さらに可愛いからな。
初見でも彼女のにこにこ笑顔を見れば、少なくとも俺に睨まれるよりは来たくなるに違いない。
更に言えば、ここの客層は男性が多め。
アン目当てで来る客が多い(と思われる)中、俺が接客するとか……ねぇ。
だから無意識でそのまま運用していたが、今回の目的を考えれば厨房に回すべきだった。
……ま、まぁ、俺は金貰ってる立場だからな、その辺はちゃんとしてるんだろう、うん。
ゲームだけど。
「あ、でも、私は接客結構好きですし、こういうのんびりしたのも好きです!」
「……ありがとう」
俺の隣で同じように種を捏ねているましろに心からの礼を言い、俺は後ろを振り向く。
「……で、それはともかく、こんな人数必要か?」
俺達は今、ましろ、ウォータム、アン、そして従業員さん2人も加え、合計6人で厨房を占拠していた。
それなのに、実際に料理しているのは4人。
……それが表すのは、ただ一つ。
こいつら、見てるだけだ。
……ちなみに言い忘れていたが、ここはファミレスみたいに遅くまで開店してる訳じゃない。
昼時(最近は少し遅めの時間帯になってるが)と夜に少し開くのみ。
だから今の時間帯は、全員が全くの暇なのである。
従業員の1人、主に接客を担当する彼女が言う。
「みんな、暇なのよ。そしてできればお相伴にあずかりたいと……」
「プロが作った方が断然美味しいだろうが!」
「レシピが同じならあまり変わんないし、偶には他人が作った料理を食べたいのよ」
「……立場的にあんた、料理してなくないか?」
今回は料理長(俺とウォータムをこき使ってくれた)も、アンのレシピの補足はするが、手伝ってはくれないらしい。
俺ははぁ、とため息を吐いて追及を諦めた。
「……とりあえず、6人前、ちゃちゃっと作っちゃうか」
「はい! 頑張っちゃいましょー!」
「はははははーーーッ」
ひき肉と微塵切り玉ねぎを量産するウォータムを見て、俺はこんな奴に料理を任せようと思ってたのか、と改めて退いた。
────
「完成、か……ましろ、どうだ?」
「はい! 料理スキル、覚えられた気がします!」
「それは……良かったな」
ハンバーグ作りにおいて、ましろは即戦力として活躍してくれた。
包丁はウォータムに任せておけたので、後は捏ねる作業と焼く作業のみだ。
それをましろと俺で分担したため、労働量としてはそこまででもない。
後ついでとばかりに、アンがささっと副菜のスープを作りやがったのだ。
一応俺も加担したのだが、アンのそれはやはり付け焼刃の俺達とは比べ物にならないな、と改めて感じた。
結局料理時間としては、そこまでかからなかった。
切り終わったウォータムも一応働いてくれたし、何より百戦錬磨のアンもいる。
そして俺とウォータムも、メインスキルに料理スキルが追加されているのだ。
レベル1では気持ち丁寧にできたくらいの違いくらいしかないのかもしれないが、少なくともハンバーグはちゃんとしたものができた。
「これはこれは、美味しそうなものができたわね……じゅるり」
「うぉぉおおおい!?!?」
接客さんが異様なまでにハンバーグに顔を近づけたと思ったら、あろうことか口の端から涎をたらしやがった。
ぎりぎりで俺はその皿を持ち上げ、その暴威をなんとか回避させることに成功する。
……ある意味これが、一番の強敵だったかもしれない。
「あら、ごめんなさい、あまりに美味しそうで」
「全く……飲食店なんだし、衛生面には気をつけてほしいんだが」
「あらら、怒られちゃったわ」
「……俺、あんたのことはアンの次に苦手かもしれない」
「ちょっと、トナカイそれどういう意味!?」
どういう意味も何も、そのままの意味だよ。
アンは初対面の印象が最悪、この人はわざとなのかそうでないかがわからないからな。
……そういえば、俺はこの人の名前すら知らないんだな。
……まぁ、追々覚えてくだろうしいいか。
「ともかく、早く食べないか? この人の毒牙にかかる前に」
「そこまでしないわよ、全くもう。なんでそんな扱いなのかしら」
「自業自得だ」
毒牙かけようとしたのは、どこの誰だよ全く。
え、日本語間違ってる?
知るか、全ては常に変遷していくものなんだよ。
「それじゃ、みんな席に座って!」
アンが軽快に2回手を打ち鳴らした。
みんなに合わせ、俺も6人掛けのテーブルの余った席に着いた。
目の前に置かれているのは、ハンバーグ、コンソメスープ、パン。
ちなみにパンはその辺からテキトーに用意させて貰った。
「よし、みんな座った? じゃあ挨拶するね」
座ったか座ってないかくらい見ればわかるだろ、とはツッコまない。
俺ってば気遣いのできる大人なんだから、もう。
「せーの」
「「「「「「いただきます」」」」」」
そこそこ美味しかったことは、言うまでもない。
そういえば、誰かに目の前で何かを作ってもらったことなんて、数年ぶりだろうか。
後日確認したら、ましろにも料理スキルが付いていた。
良かった良かった。




