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43話 相談

「あ、あれって」

「アリサ、だっけか?」


 今日もまた、のんびりとインしていると、ふとアリサらしき金髪迷彩服の人影を見つけた。

 俺はあえてスルーしようとしたのだが、2人が声をかける。


「アリサさーん、こんにちはー!」

「よお!」


 案の定気づかれ、その緑色の双眸がこちらを射抜く。


「あ、トナカイくん達じゃん、奇遇だね!」

「ああ、そうだな」

「元気してる?」

「……そういえば、一週間ぶりだな、会うの。俺達はなんやかんやありつつ、楽しくやってるよ」

「ですね!」

「それは……良かったね」


 アリサのその、翡翠の瞳が、左右に揺れる。

 悩みか?

 一応今は金を貸してる立場だし、聞いてやるのもやぶさかではない。


「何か、あったのか? 聞いてはやるよ」

「トナカイ、いい加減上から目線止めようぜ」


 何言ってんだ、俺にとってはこれがデフォルトだっての。

 協力者が強くなるのも、悪いことではないからな。

 できる範囲で、協力しよう。


 アリサは俺の言葉を聞き、少し逡巡し、口を開いた。


「実はさ、同じ筋力重視としてさ、アドバイスを聞きたいんだけど……」

「ああ。良いから早く話してくれ、まずはそれからだ」



 ────



「……ふうん? つまり、筋力値を重点的に上げたのに、ショップにはそれを活かせそうな銃がない、と」

「……まぁ、そういうこと。機関銃がてっきりあると思って筋力重視にしたのに、実際はショップにもそれらしいのはなくてさぁ」


 そう言ってサブマシンガンを取り出して、力なく笑うアリサ。


「仕方なくサブマシンガンを使ってるんだけどさ、やっぱり振ったからには筋力を活かしたいじゃない?」

「それは、そうだな。だがアサルトライフルを使うっていう発想はなかったのか? あっちの方が必要筋力値は高いだろうし、基本性能も上だ」

「確かにそっちの方が良いけど、フィリトが使うって知ってたしね。被るのはちょっと、面白くないじゃん」

「……まぁ、な」


 その考えは、否定できない。

 かく言う俺も、その考えのもと、こんな変な戦闘スタイルになっていることだしな。

 ……爆破したかった、というのも勿論あるがな。

 ……だが。


「……で、何が言いたい? 本音を言え」


 俺の目は、隠し事に気づけないほど節穴じゃない。

 ある程度会った相手なら、尚更な。


 アリサは目を見開き、硬直している。


「……敵わないね、やっぱり」


 当たり前だ。

 被るのが嫌だという理由は、それを続ける理由。

 それと同程度、もしくは上回る懸念が存在しない限り、止めようなんて発想にはならない。

 ……それが、武器種の話ではなくとも、な。


「正直、後悔してる。筋力重視にしたことに」

「それは、銀狼戦で足を引っ張ったからか? Agi振っとけば不意打ちを避けられたかもしれない、あるいはVitに振っとけばもっと軽傷で済んだかもしれない、という想定を妄信しているからか?」

「……!」


 予想通り、アリサはそのことで悩んでいたのだろう。

 俺の指摘に、またも驚いたような仕草を見せる。


「確かに、筋力重視では速度が遅く、まともに攻撃を避けられず、致命傷も負いやすいのは事実だろう」

「……それお前が言う……?」

「うるさい黙ってろ」


 空気を読まずにツッコんできたウォータムを黙らせ、俺は続ける。


「だが、それと同等、もしくは上回るメリットもあると俺は思う。そうじゃなきゃ俺も死んでるからな」

「……それ単純にお前が規格外なだけじゃぁ……」

「うるさい黙ってろ」


 またも反省しないウォータムを口内手榴弾の刑に処し、俺はアリサに向き直る。


「……でも、それを活かせなきゃ意味ないよ」

「今すぐ活かす必要が、どこにある」


「これは、ゲームだぞ。例え別世界にどれだけ近くとも、これはゲームだ」


 俺も忘れそうになるが、これはあくまでゲームだ。

 出所が謎で、世界初のVRMMOで、人間そっくりのNPCが出てきたとしても。

 これは、ゲームを自称しているから、ゲームだ。


 ……故に、本人が楽しむことが先決。

 勿論、オンラインゲームだから、最低限のマナーは守るべきだがな。


「だから俺は、自分のやりたいことをやれ、としか言えない」

「……そっか……」


 過去は、変えられない。

 勿論やり直す方法はあるだろうが、それは過去を変えてなんかいない。


 だから、過去をすっぱりと諦め、未来に干渉するしかない。

 この場合、筋力値重視を選んだアリサは、その事実を変えることはできない。

 また、銀狼に深手を負わされた事実もまた、覆すことなどできやしない。

 じゃあ、それを踏まえた上で、どのように行動するか、しかない。


 その原動力こそが、『何かをしたい』という気持ちだ。

 それは、ゲームでも現実でも、何も変わらない。


 そのステータスのまま、それが活きる方法を探すか。

 そのステータスを変えることに、尽力するか。

 すっぱりと諦めて、このゲームを辞めるか。


 どうするかなんて、個人の自由でしかない。

 故に、俺はなんとも言えない。


「生憎、俺にできることは少ない」


 ……だが。

 今俺にできることを、精一杯やってやろう。

『機関銃』という可能性が存在するということを、実際に見せてやる。


「だが、可能性を示すことはできる。……ましろ、見せてやってくれ」


 ましろは頷き、とある武器を実体化する。

 それは銀狼戦で手に入れた、『M110』、ショップでは決して売られていない、セミオート狙撃銃だ。


「これは……!?」


 アリサは一瞬で、これがショップでは売られていない型の銃であることに気づいたらしい。

 そして、その意味にも。


「そう、これは魔物からドロップしたものだ」


 つまり、例えショップに売っていなくとも、他の銃が存在する可能性は高いということ。

 そして、それは1つの可能性も指し示している。


「恐らく機関銃も、魔物からドロップする可能性が高い。……勿論、確実とは言えないがな」


 本来、アサルトライフルと機関銃の定義と言うのは、曖昧なものだ。

 アサルトライフルは普通のライフルをフルオート、つまり引き金を引きっぱなしでも撃てるようにしたものであり、機関銃は元々、掃射のために生まれたものだ。

 そういう由来による差はあれど、当時の軽機関銃(兵員個人で運用可能なほどに軽量化された機関銃)とアサルトライフルの間には、そこまで性能差はない。

 今でこそ汎用機関銃と呼ばれるものができ、軽くとも長時間の連射が可能になったが。

 そう考えると、この世界に機関銃がないと考えるのは、とても不可解に思える。


 ……だが。

 ショップに売られている武器が、全てでないとしたら。

 その前提は、たやすく崩れ去る。


 アサルトライフル、サブマシンガンの親戚として、魔物からドロップしてもおかしくないと俺は考える。

 根拠は、勿論ないがな。

 強いて言えば、ゲームバランス的にありそう、みたいな。

 そんな気がする。


 さて、ここでもう一度、アリサの取れる、対処的行動を纏めてみよう。

 そのステータスのまま、それが活きる方法を探すか。

 そのステータスを変えることに、尽力するか。

 すっぱりと諦めて、このゲームを辞めるか。

 この、3つだ。


「自分の、やりたいことを選べばいい」


 機関銃の存在に賭け、このまま頑張るか。

 運営に連絡し、イチかバチかやり直しを要求してみるか。

 諦めるか。


 ……俺だったら、断然1番を選ぶね。


「……トナカイくんって」




「……やっぱり、優しいんだね」

「……さぁな」


 俺の中身の話は別として、そう考える分には自由だ。

 否定も、肯定もしない。


「……ふふ、私からも、1つ良いですか?」

「……気乗りしないが、なんだ?」


ましろは少し間を開け、言い放った。


「素直じゃ、ないですね」

「俺以上に、欲望に素直な人間がいるわけないだろ」

「ふふっ」


 ましろはくすりと、声を零すように笑う。

 言うべきことは言い切った、そんな表情をしていた。


 なんだそれ。

 ……だがまぁ、悪い気分ではないな。

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