35話 借金、返済。
「……まぁ、このくらいが妥当ですよね」
「まぁな。まだまだプレイヤーも発展途上だし、お金はあまり持ち歩けないからな」
戦利品を売り払い、その金の一部を使って病院で欠損を治した俺は、翌日改めて市街地での戦果を話し合っていた。
それは、銀狼戦に比べると微妙なものだった。
ちなみに今までの探索では、銀狼戦が圧倒的に戦利品が多かった。
やはり元々は、十人程度で集まって相手をするような敵なのだろう。
それを3人で撃破した事実については、何とも思わない。
ただ、運が良かっただけだ。
ウォータムという対魔物特化がいてくれたことで、安定した塞き止めが可能だった。
そしてその火力がなければ、そもそも銀狼を削ることすら難しかった。
……初期武器のみでエリアボスに挑むとか、あほすぎるだろ。
いやまぁ、2人なら放ってはおかないだろうとは、思っていたけどさ。
今回はウォータムと最も相性の良い近接型だったから、時間稼ぎに関しても最後の削りに関してもなんとかなった、という面が強いが。
もし遠距離型とかだったらどうなっていたか……あれ、その場合って耐久がそこまでなさそうだし、武器揃ったましろと俺で攻撃しまくればいけそうな気もする。
その場合は、まぁ、ウォータムは囮だっただろうがな。
それに、フィリト達が多少削ってくれたのかもしれないしな。
そんな背景もあるし、銀狼の戦利品については、何も言うことはない。
というか今の緩み切った感じの空気でまた挑むと、案外普通に負けそうな気もするからな。
あの一回くらいが、ちょうど良かったのかもしれん。
さて、話を戻そう。
今回の敵からドロップしたのは、薬や弾薬、手榴弾といったアイテム類。
主にアサルトライフルだが、ドロップした武器類。
それだけだ。
……流石に銀狼戦みたいな奇跡は起きるはずもなく、使わないであろうものもある程度落としてくれた。
当たり前か、そもそも使ってる武器種自体が違うもんな。
アサルトライフルは基本、スナイパーライフルとは違う弾薬を使用しているから、その弾も俺達は使うことができないし。
それを見て、俺は……
歓喜した。
よっしゃぁついに現金だぁやったわぁぁあああ。
使わないものを売り払うことによって、俺達はついに、現金(勿論ゲーム内の)を得ることができたのだ。
一文無しからの、脱却。
それだけで今回の探索も、やった甲斐があったというものだ。
「……あれ、トナカイ。その銃は売らないのか?」
「ああ。別に売ってもいいんだが、少しな」
そう言って俺は、件の銃とやらを取り出す。
勿論、今回の探索でドロップしたアサルトライフルだ。
「フィリトに売りつけたら、ショップで売るより多少は高く売れそうじゃないか?」
フィリト達の武器構成はそれぞれ、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、サブマシンガン(サイドアームにハンドガン)だ。
つまりそこのアサルトライフルをフィリトに売りつけようと、そう考えているのだ。
ある程度軽量だから、そこそこ使いやすいだろうしな。
知人価格として多少はまけてやるにしても、単にショップで売るよりは高く売ろうとは考えている。
……お、ちょうどインしてるな。
街にいるみたいだし、ここに呼びつけよう。
返事は……よし、すぐ来てくれるっぽい。
「なんか、やることが一々けち臭いんだよな……」
「まぁ、一応ウィンウィンの関係ですからね。良いんじゃないでしょうか」
2人が呆れた顔をしているが、気にしない。
俺はその銃とその弾薬をアイテム欄にぶち込み、暫く待つ。
ほどなくして、フィリトが来た。
「こんにちは……いや、こんばんはかな?」
「どっちでもいいわ。それよりも、いきなり呼びつけて悪いな」
「いやいや、良いよ。僕もちょうど暇だったしね」
「そういえば、1人だな。他の3人もインしてるみたいだが、喧嘩か?」
「いや、少し臨時収入があってね。3人初期武器に代わる新しい銃を買おうとしてるよ」
「へぇ……臨時収入とは、羨ましい限りだな」
「そうでもないよ。2人に安い銃を買わせるので、今は精いっぱいだからね」
「そうか……つまりフィリトは、まだ初期武器のままってことか?」
「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
よし、最低条件はクリア。
これで俺の作戦が、無駄にならずに済む。
俺はその銃とその弾薬である『5.45x39mm弾』を取り出し、渡す。
「これは……?」
「アサルトライフル、『AK-74M』だ。今回の探索で、PKを返り討ちにしてな」
それは、全体的に黒いプラスチックでできたアサルトライフル。
今まで見た銃は狙撃銃ばかりだが、それとは少し、毛色の違う銃。
『AK-74M』。
それは、今現在のロシア軍において、最も普遍的な自動小銃であり、高い信頼性と耐久性で高名な『AK-47』の後継種の1つ。
その間にいくつか後継を挟んでいるが、見た目の差は素人目にはそこまでない。
全体の色が黒一色に統一され、銃床に細長い溝、マズルブレーキの有無、材質くらいか。
しかしながらその中身には、ある決定的な差がある。
AK-47は自動小銃としては大きな弾薬『7.62x39mm弾弾』を使用しているのに対し、AK-74Mは『5.45x39mm弾』を使用している。
これは物理威力そのものは低下する代わりに、弾頭の軽量化による反動の低下、初速の上昇と小口径による貫通力上昇、命中精度の増加、携行可能弾数の増加などがメリットとして挙げられる。
現在のアサルトライフルはこのような理由から、弾薬自体は違えど小口径であるものが多いのだ。
携行性確保のため、その重量は大振りな見た目と比べるととても軽い。
またプラスチック製の折り畳み式銃床、左側面のオプション用レール、そして現実には専用のアップグレードキットが存在するなど、多機能な一面もある。
良くも悪くも、汎用的なアサルトライフルといえる。
「借金の返済代わりにこれでどうだ、ちょうど良いと思うんだが」
「……いや、絶対釣り合ってないよね、これ。主に値段的に」
フィリトはどうやら、俺達が無償でくれると思い込んでいるらしい。
そんな訳ないだろうが。
無償の善意ほど、信用できないものはない。
だからある程度打算で動いた方が、人間関係も案外上手くいきやすいんだよ。
「……いや、勘違いしてるところ悪いが、残りはちゃんと何かの形で払ってもらうぞ」
「……悪いけど、さっきも言った通り、お金に余裕がなくて」
「別に、今すぐ出せとは言ってない。いつかその分の何かを返して貰えれば、俺達もそれで良いしな」
それがたとえ、金以外の何かでもな。
「利息なし、無期限だ。返す方法も問わない」
耳心地の良い言葉を使うと、未来への先行投資だ。
別に使わないものを通常より高く売りつけつつ、ついでに恩も売ることができる。
正に、一石二鳥。
やらない理由がないな。
……勿論、返ってくる保証さえあればだがな。
……まぁ、フィリト達なら、問題ないと思っているからこそ、俺はこうした手段を取っている訳だが。
……あれ、今回借金してるのって俺じゃね?
ただその借金を返そうとしてるだけなのに、そんな傍若無人みたいな目で見られても困るんだが。
俺はいつも、誠実に生きてるっつの。
自分に、な。
「だから今は黙って使え。そして早く金稼いで、余裕ができたら来てくれ」
「……トナカイくん、ありがとう」
「別に、そうした方が得だってだけだ。……それに」
「……俺の時も、同じような条件だったからな」
なんかウォータムとましろが、後ろでこそこそと何かしら話し合っている。
「……トナカイさんってやっぱり」
「素直じゃないよなぁ」
「おい外野うるさいぞ」
全く、こいつらは話を聞いてなかったのか?
相場よりは安いだろうが売却額より多少高めで、金の余裕のない奴らに強制的に売りつけたんだぞ。
俺以上に欲望に素直な人間などいるものか。
……まぁ、ゲーム内の話だがな。
「AK用の銃剣も装着できるし、それはそこそこ長く使っていけると思うからまぁ、頑張れ」
「……うん、頑張らせてもらうよ。本当にありがとう」
「……一々大げさだな……借金を返済したのは俺なのに。俺が横暴な奴みたいなレッテルを貼られたらどうするんだ」
「「「今更ッ!?」」」
「そんな驚くなよ!?」
まぁ、目的は達成したし、良いと思おう。




