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31話 ウォータム、籠城

 トナカイやましろと一旦別れ、俺は市街地の散策を始めた。

 ……あいつ、俺がいないからと言って、ましろに変なことしたら承知しないからな。


 市街地はビルや崩れた建物が多く、視界が遮られっぱなしだった。


 ……双眼鏡、トナカイに持たせといて、本当に良かった。

 この視界じゃ、俺が持ってても上手く使える自信がないからな。


 とりあえず、このまま適当に進みつつ、魔物がいたら狩っていくとしますか。



 ────



 流石にましろのSenがないため、狩りの効率は今までに比べれば悪い。

 しかし、ここが市街地であり、かつ俺1人ということを考えれば、上々と言えると思う。

 今までプレイヤーにも遭遇しなかったし、俺は運がいいのかもしれない。

 今の所、トナカイやましろの援護がなくとも余裕だしな。


「……つっても、気を抜くのはだめだな」


 俺は姿勢を低くしつつ、移動速度を速める。

 ある程度、不規則な挙動を取ることも忘れない。

 こうすることにより、たとえスコープに捉えられていても、ある程度は誤魔化せる……と思う。

 勿論素人の動きではあるから、子供だましである可能性は高いが、片手間に殺される可能性は低いのではないか。

 そして、時たま物陰に身を隠すのも忘れない。

 だが、やっぱり止まっていると落ち着かないな。


 トナカイがしつこく厳命してくるから、仕方なくその通りに行動しているが。

 息が、詰まるな。

 ……まぁ、今までの雑魚魔物狩りよりは、魔物を斬れているし満足ではあるが。

 ……ていうか、今までがおかしかったんだろう。

 なぜ、解体だけしかすることがないんだ。

 全く。


「…………」


 なんとなく、嫌な予感がした。

 俺は、無線の送信スイッチを入れる。


『こちらウォータム、なんか嫌な予感がするんだが?』

『こちらトナカイ、気のせいだ』

『……あ、トナカイさん!? 帰ろうとしてませんでしたか今!?』

『こちらトナカイ、気のせいだ』

『はぁ!? トナカイてめえ!? 許さねーぞ!』

『こちらトナカイ、気のせいだ』

『急にRPGのNPCみたいにならないでください!』


 話を聞きだしてみると、どうやらあの2人、今までずっとビルの一室で色々としていたらしい。

 その話をする際、ましろがやけに恥ずかしそうだったし……まさか!?

 ……あいつるわ。


『こちらウォータム、トナカイ後でぶっ殺す、これ絶対な』

『こちらトナカイ。何でかは知らんが、やれるもんならやってみろボケナス』

『ちょ、2人とも止めてください!?』


 ましろに止められ、渋々光剣のスイッチを切る。

 無線越しじゃ斬れないが、気持ちの問題だ。


 ……街に戻ったら、覚悟しておけよ、トナカイ?


 一旦休戦し、これからについて軽く話し合う。

 自分の大体いるであろう座標を伝え、援護可能であろう地点を捜査。

 どうやらあいつらはすぐに見つけ、そこに向かって移動を始めたらしい。

 ……最初から、その行動力を見せてほしかった。

 俺の援護のスキを窺っていたのではなく、まさか2人で俺をほっといて色々とやっていたとか……。

 全く、俺がいる時じゃだめだったのかよ。

 ……いや、そういう意味では勿論ないぞ。

 トナカイはそんなことできないと、わかっているからな。



 ……そういう意味では、ないのだが。

 俺を除け者にする、その意味は果たして、あったのだろうか。



 少し、気を抜いて立ち止まった、その瞬間。

 小さな連続した衝撃とともに、緑色を示していたHPががくんと減り、黄色に染まった。

 散る、赤いポリゴン。



 撃たれた。

 そう理解するのに、時間はかからなかった。

 思わず手をかけていた、無線スイッチを押した。

 それと同時に飛来した弾丸が、俺の右足の根本あたりを掠めた。


 ……あれ、ちょっと待て、そこって……。


 無線機の中継器、入れてたところじゃね!?


 そんなことを考えつつも慌てて、最寄りの廃屋の扉に飛び込み、どうにか射線から逃れることができた。

 扉を閉めるとそこに、ガガガと何かが削れる音。

 ドアの前に即席のバリケードを作りつつ、ひと時の静寂が訪れ、俺はふうと溜め息を吐いた。


 ……危な、かった。


 俺は、運が良かった……と思う。

 確証はないが、恐らく良かったのだろう。

 奇襲を受けて一応、生存しているのだから。

 トナカイの、『常に身を隠せる場所を確認しておけ』という言葉が、偶然かもしれないが、ここで活きていたのかもしれない。

 気を抜いて一瞬立ち止まったことにより、走っている前提で放たれた銃弾が、致命傷を避けたのかもしれない。

 ……何が起こるか、案外わからないもんだな。


 ドアを除けば、外界と繋がる2つの場所の1つである、カーテンのかけられた窓。

 少し捲ったそこから少し目を覗かせ、回復薬を使用しつつ敵を視認する。

 敵は、5人。

 武装は皆、近接戦に強い、フルオート銃ばかりのようだ。

 彼らは2人に周りの警護をさせ、残り3人でこちらを監視している。

 いつでも、撃てるように。


 俺は、この前トナカイに聞いた知識を思い出す。


 フルオート。

 それは端的に説明すると、引き金を引き続ける限り、弾倉が空になるまで撃ち尽くす、という設計のことだ。

 一般的なアサルトライフルはこのことを指すことが多いが、無駄撃ちを防止するために、引き金を引いただけでまた撃てる状態になるセミオートと切り替えられるものもある。

 このゲームでは、フルオートといえば大体アサルトライフルのことを指し、サブマシンガンも一応、成り立ちは違えど分類するとすればここだろう。

 ちなみに、フルオートで弾丸を発射可能な拳銃のことを、『マシンピストル』と呼ぶこともあるらしいが、ここでは蛇足か。


 連射による反動の強さ、銃身加熱、機構の複雑化による精度や射程の低下、弾詰まりの起きやすさ等の欠点はあるが、それを補って有り余るほどの利点がある。

 その代表格はやはり、近接制圧力の高さだろう。

 ボルトアクションライフルやセミオートに比べ、多くの弾を短時間にばら撒くことが可能。

 また銃弾の大きさが普通の狙撃銃と比べ小さくても殺傷力を保てるため、反動の欠点もそこまでではない。

 射程も案外長く、サブマシンガン(何度も言うが、厳密にはフルオートじゃない)は100メートル、アサルトライフルは3~400メートル(マシンピストルは100メートル以内)。

 このゲームでも初期ならば十分、狙撃銃として機能するのだろうが。


 敵は、やはり突撃銃、アサルトライフルとしての本来の使い方で攻めるようだ。


 突然一つの銃口が、こちらに向けられた。

 俺が窓から離れるのと、ガラスが割れる音は同時だった。

 銃弾の雨が、室内に侵入してくる。

 それは床、壁、天井を抉り、そして途切れた。


 ……アサルトライフル、またサブマシンガンの装弾数は、30発前後が多い。

 また、機関銃と違って継続射撃に耐え得るものではないので、銃身が過熱しやすい。

 故に、弾倉交換や弾詰まり(ジャム)、銃身加熱による暴発のスキさえつければ、殺すことは可能だろう。


 ……もし敵が、1人の場合の話、だがな。

 流石に5人纏めて倒すのは、光剣では厳しいだろう。

 単純に弾幕も5倍。

 こちら側が奇襲側だったらダメージ受けつつもやれたのかもしれないが、そんなことを言っても仕方ない。


 今の課題は、どうにかして射程外に逃げ切る。

 もしくは倒し切ればいい。

 後、もしかしたらトナカイ達の援護が来るかもしれないが、期待しない方がいい。

 なんのメッセージも残せなかったしな。

 一応俺の大体の場所はわかっているのだろうが、たどり着くまでには時間がかかるし、他のプレイヤーがいる可能性もある。


「……とりあえず、窓から敵の様子を確認しつつ、ここに立て籠ろう」


 ドアのバリケードを破るのに、幾ばくかの猶予はあるだろうし、窓もこの1つを残して人間が入れるような大きさのものはないみたいだ。

 その2つさえ気を付けていれば、今すぐどうにかなることはないだろう。

 ……とりあえず、この廃屋の間取りは確認しておくべきか。


 俺は間取り確認のため、家の中を歩き回った。


 これは現実では普遍的な一軒家だが、二階部分が跡形もなく吹き飛んでおり、入り口入ってすぐの階段部分は瓦礫の山。

 天井はかろうじて残っているが、人が乗るには頼りなさそうではある。

 広さとしてはそこまで広くはなく、入り口の左手に階段跡、まっすぐ廊下が続いている。

 まっすぐ進むと右手側には、銃弾によって割られた窓とたなびくカーテンのある部屋、恐らく前はリビングとして使われていたであろう部屋。

 リビングの手前側の部屋にはぼろぼろの低めの机とテレビがあり、逆に奥には埃の積もったキッチンがあった。

 廊下に戻り、リビングの扉の少し先の左手にトイレ、そしてその先に洗面所と風呂場がある。

 洗面所とリビングは一つのドアで繋がっており、風呂場とキッチンが入り口から見て一番奥らしい。

 人が入れそうな窓は、リビングのものと風呂場のもののみだろう。

 他にも小さな窓ならばあちこちにあり、全てガラスは割られている。


 その確認に時間をそこそこ費やしてしまった。

 時間はもう、殆どないだろう。

 ……その間に、5人から逃げる、もしくは倒す方法を考える必要がある。

 ……そんな方法が、果たしてあるのだろうか。


 俺は、光剣を握る手の力を強める。


 光剣、『Clear』。

 1メートルの光線状の刃を伸ばし、全てを掻き切ることのできる武器。

 汎用性よりも一撃の威力に特化したそれは、銃を相手取るのに、あまりにも不利だ。

 圧倒的なリーチの差で、攻撃する前に蜂の巣にされて終了だろう。


 ……確かに、不利だ。

 それは認めよう。


 ……だが、もし。

 室内戦闘ならば?

 敵との距離が10メートルもなければ?


 ……いや。

 この、幅の狭い廊下では、光剣を振り回して敵を倒すのは、難しい。

 もう少し広い方が戦うのにはちょうどいいのだが……ままならないな。

 だったらそこそこ広い部屋で待ち伏せる……その案はありだろう。

 それで、行くか。


 そう結論を出そうとした俺は、ふと考え直す。

 何か、大切なことを見落としている気がしたのだ。


 ……そして、俺は理解した。

 違和感の正体。

 そして、この状況の、最適解も。


 ……どうやら俺も、視野が狭まっていたらしいな。

 トナカイだったらどうするか、ちゃんと考えれば、俺でも最適解が何か、わかる。



 俺は、アイテム欄から手榴弾を取り出した。

 ブービートラップを、造るために。

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