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30話 時間制限

5/12:設定変更。

 とりあえずビル内に侵入できたのは良いが、まだ気を抜ける段階ではない。

 狙撃手がいたことから、その仲間が中にいてもおかしくないのだ。

 ……潜伏するということは、解体者と狙撃手と言った感じにチームを分けるということだから、可能性は低そうに感じるが。

 それでも、慎重に行動するべきだ。


 ……十人単位のチームとかも、あってもおかしくないからな。


「……とりあえず、気を付けつつ上に上っていこう。流石のウォータムも、そろそろきついかもしれないしな」

「……お兄ちゃん、大丈夫ですかね……」

「……多分、大丈夫だろ」


 良いポジションさえ取れていれば、4人相手でも生存可能だろう。

 例えば四方を壁で囲まれている場所なら、とりあえずそこに立て籠ればいい。

 ……天井空いてたら、手榴弾投げ込まれるから、一応そこは注意しとけよ。


 問題は、遮蔽物が一方向にしかなかった場合。

 その場合、囲まれて乱射、生存は絶望的になる。

 ……手榴弾使えば、ある程度の立ち回りは可能だろうがな……。

 果たしてあいつに、そんな知能があるかどうか。


 失礼っぽく聞こえるかもしれないが、人間、何かと視野狭窄に陥りがちなのだ。

 武器を手に入れた、小市民は、それだけ。

 今手に持っている武器を信頼し、依存しているが故に、それのみしか手段を思いつけない。

 逆に言えば、俺はその『サブ武器であるはずのアイテム』に特化しているからこそ、そう思うのかもしれないが。


 なんにせよ、武器がそれだけだと考えるのは、非常にまずい。

 なぜなら。


「対人戦においては、光剣は不利にもほどがある。火力は凄いが、防御手段にも乏しいし。……位置バレしている以上、奇襲による殲滅もできないだろうからな」

「ああ……成る程」


 位置バレさえしてない、つまり奇襲できれば、ウォータムは確実に4人を屠ってくれるだろう。

 相応に傷は負うだろうがな。

 そしたら俺達と合流しつつ撤退すればいいだけだ。


 だが、無線が途中で切れていたから、多分位置は割れている。

 その場合、ウォータムがのこのこと出てくれば蜂の巣だ。

 1人か2人は倒せるかもしれないが、流石にそれくらいが限界、体中に赤いエフェクトを迸らせながらやられるだろう。


 どこまで無傷で持ちこたえられるか、それが勝負だ。

 そこに間に合いさえすれば、俺達の勝ちだ。

 逆に間に合わず、ウォータムがやられていたら、せめて仇を撃ってやるくらいしかできない。

 ……あれ、それでも得れる金は変わらなくね?

 街に戻るまで、PKで得た分は確実にドロップするようになってるから、全員ぶっ殺せばウォータムのドロップも返ってくる。


「そ、そうなんですか!?」


 ましろはどうやら、そのことは初耳だったようだ。

 ……そりゃそうか、わざわざPKしたことないしな。

 あの5人も、どうやら沼では俺らが初ターゲットみたいだったし。



 PK、というかプレイヤーが死んで出る光の残滓、とも呼べるものに触れると、相手がドロップしたアイテムが手に入る。

 勿論、個人の携行重量の限界、もしくは所持制限以上は持ち運べないのだが、もし引っかかる場合、その中からどれを取得するか選べる。

 その場合光は残り、選ばれなかったアイテムはそのまま誰かが取得するまで残り続けるのだ。


 そして、そうして選ばれたもの、またはその全ては特別な欄に入り、街に戻ると普通のアイテム欄への引き出しが可能となる。

 だが、その特別欄に入っているものは、死ぬと必ずドロップするようにできている。

 街に戻るまでは変更できないから、それまでに殺せば確実にドロップする、という訳である。



 とまぁ、そんな仕様があるから、ウォータムが死んでも大丈夫っちゃ大丈夫なのだが。

 ……できれば、俺はウォータムを殺したくはない。

 ……利益が介在していれば考えるが、一銭の得にもならなければ、俺はウォータムを助ける。


「よし、早くウォータムを助けに行こう」

「はい、頑張りましょう!」


 ……さて。

 上階に上がるための手段は、主に2種類思いつくだろう。

 エレベーターか、非常階段か。

 エスカレーターもあるが、高層ビルで採用されているのは少ないので、ここでは前の2つに絞る。

 俺はまず、前者を探してみる。


 それ自体は、すぐに見つかったのだが……。


「……壊れてるな、これ……」

「……そう、都合よくはいかないですよね」


 ボタンを押しても、勿論反応しなかった。

 扉を腕力で無理矢理こじ開けようとしてみたのだが、どうやら特別な工具がないと流石に開かないみたいだ。

 ……ちぇ。


 あえなく、俺達は非常階段を上ることとなった。



 ────



 俺達は扉の先を恐る恐る確認をしつつ、非常階段を順調に進んでいた。

 プレイヤーはいないし、魔物も先の潜伏者が薙ぎ払ったのか、全くと言っていいほどいない。


「今の所、安全だな」

「そ、そうですね……」


 気を抜くことはないが、自覚はなくとも集中は削れていくものだ。

 平穏と言うのは、どこで気を抜いていいかわからないのが怖い。

 人間の本気の集中は30分くらいしか続かないという点から見ても、長期戦は望ましいものではない。

 だがまぁ、どこで気を抜かずに休息できるか、それがこのゲームの醍醐味なのだろう。


 まぁ、何が言いたいか。

 ましろが、慣れないことに対する長時間の集中で、目が回り始めている。

 多分実験の疲れも引きずっているからだろうな。

 だとしたら、申し訳ない。


「とりあえず、一旦休むか? ウォータムを助ける前に死んだら元も子もないし」

「……いえ、大丈夫です。お兄ちゃんよりは、楽でしょうから」

「……わかった、行こう」

「……はい……!」


 あくまでゲームだし、無理はしなくてもいいのだが。

 まぁ、ウォータムをほっぽって休めるような子じゃないのは、わかってたけどさ。

 するとこれは、意地悪な質問だったかもしれないな。


 俺達はそう思いつつ、先に10階への階段を上る。



 ────



 その、非常階段を上り切った俺は、ふと冷えるような感覚を覚えた。


 階段とビルを繋ぐ扉が開いたままなのは、他の階も同様だった。

 しかし、直前に軽い物音がしたのだ。

 まるで、金属製の何かが擦れるような、かちゃりという小さな音。


 そして、開きっぱなしの扉の奥、曲がり角あたりにちらりと見えた、無機質な銃口。


 咄嗟に、転がるように階下に身を隠す。

 刹那、ズガガガガカカカ、と壁をを抉るような音とともに、先程まで俺のいた場所を弾丸の暴威が襲う。


「トナカイさん!?」

「来るな、待ち伏せだ!」


 突然の銃声に驚いたましろが、階下から声をかけてくる。

 俺はそれを止めつつ、自分のポジションを整え、万が一にも当たらないように確認する。


 くそ、やられた。


 エレベーターが停止している今、唯一の移動手段である非常階段。

 相手もそれをわかっていて、待ち伏せていたのだろう。

 その可能性は考えていたが、どうやら俺も少し気が緩んでいたようだ。

 第一射を避けれたのは、不幸中の幸いだろう。


 着弾時、2種類の異種の音が混ざっていた。

 比較的軽い音と、少し抉るような音。

 機関銃の可能性は低いから、恐らく敵はアサルトライフルとサブマシンガンの混合部隊と考えられる。


 上に向かう階段とその方向にある扉、という位置関係から、俺は奇跡的に上階段の陰に隠れることができている。

 相手が移動してこない限り直接撃たれない、というのは僥倖だが、それも時間の問題だろう。

 陣取られる可能性は高いが、問題はそこではない。

 それに相対する俺達には、明確な時間制限がある。


 そう、ウォータムの援護、という役目が。


 できる限り早く突破したいものだが、これは普通に厄介だ。

 恐らく、あいつらは有利なポジションであるあそこから動くことはないだろう。

 そして、俺が一歩でも10階の床に足を踏み入れた途端、先程のような掃射が始まる。

 つまり実際、そこは通行不可、のようなものだ。

 Vitに振れば、もしかしたら強引に突破も可能なのかもしれないが、生憎俺達は2人とも無振り。

 力押しによる突破は、ほぼ無理と考えてもいい。


 そして、銃弾を遮れるというこの場所の性質が、少し裏目にも出ていた。

 手榴弾を扉の奥、数十メートル先に投げ込むには、腕を銃撃可能範囲に露出させる必要がある。

 そんなことをしたら、斉射されて腕が吹っ飛び、手榴弾投げるどころの話ではなくなる。

 完全に、自爆だ。

 だからと言ってこの位置から投げれるところに手榴弾を投げたところで、殺傷範囲にいれることは不可能だ。

 更に敵がそれを警戒し、伏せ撃ちしていたら、まぐれ当たりすらほぼなくなる。

 そうなれば完全に、無駄撃ちだ。



 ……つまり、殺傷力を有する手榴弾は敵のスキを作らない限り、使用不可ということだ。



 ……じゃあ、どうする?

 この下の階で、ましろに援護させるか?

 ……いや、これは現実的ではない。

 周りには10階以上のビルなんて腐るほどあるし、ウォータムを視認できない可能性が高い。

 このビルを諦め、別のビルを探す?

 ……時間的余裕があればいいが、生憎こちらにはない。

 ウォータムが生きていることを信じ、できるだけ早めに援護するには、やはりこの上の階が最適だ。

 ……やっぱり、突破するべきだ。


 だが、よく考えろ。

 俺とましろがこの状況で、取れる行動はなんだ?


 ましろの狙撃は、難しい。

 1人倒すことは、階段の隙間をうまく利用すれば可能かもしれない。

 だが、その先はどうする?

 狙撃地点はわかりきっているから、確実に長期戦になる。

 それじゃ、だめなのだ。

 手っ取り早く、突破しなければならない。


 手榴弾?

 まず攻撃的な手榴弾は先程も言ったとおり、角度的に敵に届かせることが難しいため却下。


 スモークグレネードは一見いい案に見えるかもしれないが、だめだ。

 掃射のできない狙撃手相手ならば効果的なそれも、敵が乱射可能なこの状況では、飛び込む合図でしかない。

 そして、敵が確実に通るであろう場所が分かっているのに、他の場所に撃ち込む馬鹿はいない。

 先程の件にも似た、ジレンマだ。


 残るは、スタングレネード。

 これは室内戦闘の非殺傷兵器として、最高のものだろう。

 最後の手段はこれになるだろうが、1つ問題がある。

 ……位置関係の問題なのだが、もしここから安全性重視で投げ込んだ場合、破裂時の距離が、こちらに圧倒的に近くなるのだ。

 勿論こちらは、タイミングを合わせて目や耳を塞ぐこともできる。

 ……しかし、それだけで埋められる差ではないと思われる。

 更に言えば、無我夢中で撃たれることがあれば、それこそ破滅だろう。


 ……つまり必要なのは、銃を撃つどころでも、冷静な思考すら展開できないような状況。

 先程はその状況を、手榴弾による砲撃で生み出した。

 だが今回は、その方法が使えない。

 その方法が使えていれば、もうウォータムを助けられているっての。


「…………ち」


 思わず、舌打ちをした。

 打開策が、思いつかない。

 手榴弾とましろの狙撃を組み合わせれば──いや、でも──。


「……トナカイさん……」


 ましろが、少し寂しそうな目で、俺を見つめる。


「……私は、役立たずですよね」

「いや、そんなことはないだろ」

「……そんなこと、あるんですっ!!」


 ましろが急に、声を張り上げた。

 その様子はどこか、悲しげに見えた。


「いつも、私はトナカイさんの後ろを付いて来ていただけでした!」


「Senで魔物やプレイヤーを感知することはできますが……もう、双眼鏡があるからいなくても問題ないですし!」


「荒野の戦いだって、銀狼戦だって、一番戦果を挙げていないのは、私です!」


「唯一役に立てたと思えた初陣も、元々私が狙われたせいですし!」


「……料理スキルも最初、手に入れられなかったですし……」


「そんな私に、なぜか性能のいい狙撃銃が回って来るし!」


「嬉しかったですが、何もしてない私が、もらってしまっていいのかと思ってしまって!」


「それを売却すれば、もっとお金に余裕があったはずなのに!」


「そもそも、初陣の時の戦果も、私が配ってしまっていましたし……」


「……何、してるんですか、私は」


「なんで、私はここにいるんですか」


「そんな私が、嫌いで堪らないんですよ」


 ましろは、弱弱しい様子で、俯いた。


「……これは」

「これはゲームだ、ってわかってはいるんですけどね。トナカイさんがいてくれるからか、どうしても本気になってしまって」

「…………」


 何も、言えなかった。

 ましろが、ここまで悩んでいたことを、俺は全く知らなかった。

 ……何が、心の機敏に聡い、だよ。

 何も、わかってないじゃないか、俺。


 ……馬鹿かよ。

 俺だって、ここが現実のように思ってしまっているっていうのに。

 普通のMMOですら鬱憤をため込みそうなこの子が、この世界で何も思わない訳がないのに。

 たとえ他人おれからすれば些細なことでも、彼女からしたら死活問題かもしれないのに。


 ……重要な点を、見逃してしまうくらいには。


「……ごめんなさい、今のは忘れてください。今はそれどころじゃないですもんね」

「……わかった」


 ああ、わかった。

 俺が今から、すべきことがな。

 ましろのおかげで、それが明確になった。


「ましろ、最初に言っておくが、沼での魔物の戦果はましろが一番だぞ」

「……確かに、それはそうかもしれないですけど……」

「……それでも納得が、できないならな」


 多分ましろは、自分に自信がないのだ。

 それ故に、自分が役に立っていないと思い込み、自分に都合の悪いところばかりを曝け出しているのだ。

 それを止めるためには、十分チームの1人として機能していることを証明するしかない。

 過去のことを言っても良いが、それだと実感が薄いかもしれない。

 ……だから。


「今から、証明してやろうぜ。ましろは俺達より有能だという、曲げられない事実を」

「……!?」


 俺は息を吸い、ましろが聴き洩らさないように、一字一句はっきりと呟く。


「必ず上に届けてやる。だから、1人でウォータムを助け出せ」


 上に、ましろを届ける。

 それが俺にできる小さなこと、無知に対するせめてもの罪滅ぼしだ。

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