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29話 とある榴弾の空中炸裂(エア・バースト)

「よし、あそこにするか」

「そうですね、見通しも良さそうです」

「損傷も比較的少ないから、窓からの狙撃も可能だしな」


 ウォータムの無線を受けた俺達は、潜伏に良さそうな場所を探す。

 すぐに見つかり、そこへ移動を開始した。

 時折物陰に伏せつつ移動していると、ましろが声をかけてくる。


「そういえば、なんで窓からの狙撃が良いんですか?」

「咄嗟に身を屈めれば攻撃を回避できるし、屋上に陣取るより発見されづらい。ウォータムの移動範囲はある程度指示するつもりだから、全方位を見る必要もないしな」


 銃身を出したまま撃つのは、狙撃手としては2流だと聞いたこともある。

 勿論そこまで目指せ、とは言わないが、位置バレしにくい場所を取りたいと考えるのは間違っているだろうか。

 いや、間違ってない。

 浅層だからと言って、気を抜く理由にはなりえないからな。


「成る程……」



 俺がましろに、次の行動を指示しようとした、その瞬間。

 俺とましろのトランシーバーが、共に電波を受信した。

 それを聞き、俺とましろの体が一瞬、強ばった。



 それは、無数の銃声だった。

 そして何かの破砕音とともに、音声が途切れた。

 本人の声は何一つ記録されていなかったが、それだけで誰に何が起きたのかは馬鹿でも理解できる。



 ウォータムが、襲撃された。

 思えば、当たり前だった。

 いくら少人数チームとはいえ、1人行動を作るべきではなかったか……?

 いや、どちらにせよ分割する必要はあるだろうし、それならこの配置が適当だ。

 ……これが、最善択だった、はずだ。



「お、お兄ちゃん!? どどど、どうしましょうトナカイさん!?」



 ましろが慌てているのを見て、俺は幾分か冷静になれた。

 あの場ではあれが最善択だった。

 よし、問題は。



 これから、どう動くか、だ。


「質問はもうないか? 早く行くぞ」

「は、はい! でもどこに……」

「決まってるだろ、さっきのビルだ」



 ウォータムは、あれくらいで死ぬタマじゃない。

 だから俺は、生存している可能性に全ベットしてやる。

 あいつを置いて撤退なんて、冗談や余程の理由がなければやらないわ。


 俺はましろを先導しつつ、先を急いだ。



 ────



 俺達が目標とする潜伏場所、他に比べ高めなそのビルは、大通りに面していた。

 窓ガラスはその殆どが割れているが、窓自体は当たり前のようにそこにある。

 潜伏しても位置バレはしづらいであろう、絶好の拠点だ。


 俺達の今の位置からだと、その大通りを横切る必要がある。

 だから、ここを突っ切るしか方策はないわけだが。


「トナカイさん、行かないんですか?」


 なんとなく、俺は建物の陰に留まる。

 ましろが隣から、当然の疑問を問いかけてくる。


 それでも俺は、その場から動けずにいた。


「……なんか、不安だな……」


 嫌な、予感がしていた。


 もし先に潜伏している人間がおり、銃口が既にこちらに向けられていたら。

 もしくは、別の建物から狙われていたら。

 撃たれるのは、自明の理。

 俺とましろは、一発撃たれたくらいで死にかねない、虚弱なステータス構成をしているのだ。

 急いでいるのに、少しの恐怖と言うか、何かしらの予感が、俺の足を止める。


 ……なんか、アリサの気持ちがわかったようなわからないような。


「Vitに振っとけば、もう少し楽だったのかな」

「いきなりどうしたんですかトナカイさん!?」


 ましろがいきなり、なんか変なものを見たかのような表情を浮かべる。

 ……そこまでか?


「筋力こそ至高、とか言ってたトナカイさんらしくないですよ!」


 ……そんなこと、言った覚えはないんだが。

 ……うん、そこまでのことは言っていない、絶対に。

 そのことを、言及すると。


「あれ、そうでしたっけ?」


 ましろがペロッと舌を出す。

 なんか、あざとい。

 ……だけどまぁ、少しだが緊張は解れたな。

 ありがとう、ましろ。


「よし、じゃあ行くか……と、言うと思うじゃん?」

「……え?」


 俺は手榴弾を取り出し、眼前のビルに向かって振りかぶる。


 無駄話をしている間も、俺は警戒を怠っていなかった。

 物陰からわざと体の一部を出しつつ、相手の出方を窺っていたのだ。

 そして相手は、それにひっかかり、俺に動きを、つまり居場所を視認させた。


 俺達の目指すビルの、屋上の下の階の窓から俺達を撃ち抜くつもりだ。

 場所はもう、視認できた。

 伏せて移動したところで、時間的にそこまでの誤差はない。

 そこに投げ込めさえすれば、問題なく、餌食にできる。


 そこまでわかれば後は、そこに正確に手榴弾を投げ込みさえすれば、いい。

 幸いにも距離は、俺の最大投擲距離には遠く及ばず、また高さを見越しても余裕で届く。

 問題は精度だが、今までを省みるに、たぶん行ける。

 ……なんでも、数撃てば当たるんだよ。

 停止目標にならな。


「食らっとけ」


 連続で手榴弾を投げつけ、その中の半数あたりが目標近くの窓に叩き込まれ、爆裂。

 それらは衝撃や破片で、そいつのいるであろう空間を蹂躙する。

 よし、これで……。


 俺はスモークグレネードを投げて周りからの視線を遮断しつつ、ましろに、ビルの方向を指し示す。


「よし、ましろ、さっさと行くぞ」

「は、はい!」


 これで少なくとも、狙撃はできまい。

 たとえ何かの間違いで生きていたとしても、それどころの騒ぎではなくなるはず。

 この短距離を走破するには、スモークグレネードも合わせ、十分な時間稼ぎだ。


「一応、空中炸裂エア・バーストは成功したみたいだが、生きている可能性も考慮しつつな」

「……えあ、ばーすと? なんですかそれ?」


 ましろが、オウム返しをしてくる。


 エア・バースト。

 直訳すると空中炸裂という意味のそれは、そのままの意味だ。

 手榴弾を空中で破裂させることにより、爆発のエネルギーが下にも牙をむき、伏せている相手にも効果的なダメージを与えられる。

 メリットはたくさんあるのだが、デメリットはタイミングがシビア、ということだろうか。


 このゲームにおいて、手榴弾は現実と少し違う点がある。

 それは、爆発までの時間をこちらで設定できる、ということだ。

 信管を入れ替えることで爆破の条件を変えることもできるのだが、俺は基本時限式、つまり栓を抜いて何秒後に爆発する、みたいにしている。

 そしてその時間は、自分で予め設定しておけるのだ。

 勿論限界値、そして多少の誤差もあるらしいが、今の所は苦労していない。


 その仕様を利用し、俺はタイミングを合わせて手榴弾を投げ込んだ。

 それでぶっつけ本番だったが、どうにか成功できた、という訳。

 勿論失敗もしたが、それでも狙撃の妨害はできる。


 まぁつまり、伏せててもダメージ与えられやすいけど、タイミング面倒だよ、ってことだ。

 ちなみに初陣のあれも、実はそうだったらしい。

 水中で破裂してたら、破片手榴弾の威力半減だもんな、良かった。


 そんなようなことをましろに簡潔に説明しつつ、俺は一応入り口奥を衝撃手榴弾で爆破してから中に滑り込んだ。

 どうやら、一応今すぐ撃たれる危険性はなさそうだな。


「はー、撃たれなくて良かったな」

「ですね……」


 ましろが、少し疲れた風に肩を上下させる。

 実際には息が切れるとかはないのだが、やはり精神的なものか。


「……ところで、なんですが」

「なんだ?」


 と、ましろがなぜか、俺にジト目を向けてくる。

 何か疑問でも、あるのだろうか。


「なんで、スモークグレネードだけを使わなかったんですか? 別にわざわざ敵を視認して攻撃的な手榴弾投げ込まなくても、それだけで良かったと思いますが」


 それは、確かにそうだろう。

 本来スモークグレネードだけで、敵の狙撃は回避可能なのだ。

 建物の内部からはSenが機能しないし、逆も然りだ。

 故に視覚さえ潰せば、相手に狙撃される確率は低い。


 そう、言いたいのだろう。

 それは、確かに正しい。


 その尤もらしい考えを聞くも、俺は首を横に振る。


「残念ながら、それだと敵に最善択を与えることになる」

「……最善、択……?」

「ああ。スモークグレネードで敵影が見えなくなった場合、こうすればほぼ勝てる、という択だ」


 ましろは首をかしげる。

 ……まぁ、それはそうだ。

 そんなものがあれば、とっくに使ってるという顔だ。

 勿論、俺もそんな択があれば、即座に使ってるさ。

 ……限定的な状況下のみでしか使用できないという、その特性さえなければな。


「時間がないから、言っちゃうな。それは、手榴弾だ!」

「………………あ、そういうことですか!!」


 ましろもそれを聞き、納得がいったようだ。


 手榴弾の、使用における推奨環境。

 敵が確実に存在し、かつ自分に影響がない場所から投げ込めれば、相手もスモークグレネードでそれを視認できないのだから、ほぼ間違いなく殺せる。

 その状況こそが、正にましろが言った状況。


 スモークグレネードで狙撃を封じたと安堵し、油断して駆け込むプレイヤー。

 そんなことは、敵だって余裕で理解できる。

 そこに手榴弾をいくつか投げ込めば、十中八九巻き込める、という訳だ。


 ……え、届くのかって?

 それこそ愚問だ。

 筋力最低値でも、ただ上から手榴弾を落とすだけで完遂できる。

 プレイヤーがそうまでして目指すのは、一際高いこのビルだろうからな。


 上階からの爆撃をされていれば、Vitに全く振っていない俺達では確実に死に戻り。

 もっと損していたことは確かだ。


 だからその余裕をなくすため、殺す気で手榴弾を投げ込んだ。

 狙撃どころではないだろうし、勿論動揺で、手榴弾を落とすこともできないだろう。


 殺すことも勿論目的ではあったが、それよりも行動を阻害するのが最低目標だったのだ。

 万が一にも、最善択の存在に、気づかれないために。


「うぅ……すみません、差し出がましい真似をしてしまって」

「いや、気になったことはどんどん質問してくれ。そっちの方が俺も助かる」


 ここまで、考える必要はなかったかもしれない。

 ……だがまぁ、楽しいからいいかな。

 なんか、相手を上回ってやったような優越感がある。


 ……つくづく、性格の悪い奴だな。

 まぁ、そんな俺も嫌いではないがな。

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