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28話 ましろの感度チェック2

「……やっぱりか」


 俺はましろの発言を聞き、納得していた。

 そもそもましろのSenがあるのにも関わらず、俺が階段周りを念入りに調べたのは、これを予見していたからだ。

 ……予見と言うのは、過言にすぎるか。

 少し考えて、その可能性も考えていただけだ。


 ましろが違和感を口にしたとき、その可能性にはなんとなく気づいていた。

 多分日常的に感じている情報が、いきなり掻き消えたことによる、不安だろう。

 あくまでシステムによる第六感だから、それの存在がなくなったことに気づき辛かったのだろう。


 今まで彼女の周りには、俺かウォータムがいた。

 いないときも、彼女はいないものとして認識していたに違いない。

 それがこの現象を引き起こした、と考えられる。


 恐らく、五感による情報と、その感覚との乖離に、違和感を感じていた。

 俺の存在は理解しているのに、それが急に希薄になってしまったかのような、そんな違和感。


 街では恐らく、Senの情報はカットされているだろう。

 そういう意味では現実にもひきずる可能性はなさそうだが、少し注意しておいた方が良さそうだ。


「……ましろ、現実ではそういうのはないよな?」

「……心配してくださって、ありがとうございます。はい、そういうのはないです」

「そうか、良かった」


 ましろは俺の憂慮を正確に読み取り、返事をしてくれた。


 そうは言っても、注意しておくに越したことはない。

 Senで感知することに慣れ過ぎて、現実でも違和感、喪失感を感じる可能性。

 そのことを自覚して、現実とここは別の世界だということを頭に叩き込まないといけない。

 ……そしてそれは、俺も同じだ。


 その点で言えば、ガブリエルは恨むべきだ。

 ここまで現実に近い情報量の世界を創りやがって。

 ……どうせあいつは、始めた俺達が悪い、止めたきゃ止めればいい、と言うのだろうが。

 俺は、後悔なんてしていない。

 感謝は、変わらない。

 ここでなら、俺も変われると、確信しているから。


「……恐らく、私はこの世界で、2人に慣れ過ぎてしまったんだと思います。銀狼戦も不安で一杯でしたし、先程もそばにトナカイさんを感じられないだけで、取り乱してしまいましたし」

「……それは、ウォータムにでも言ってやれ。あいつ喜ぶから」


 ましろの危ない発言に適当な返事を返した。

 そして話を戻すために1つ、咳払いを零した。


「ところで、Senの感知機能が使えない、という件についてなんだが」

「……やっぱり、足手まといですよね、私」

「いやいや、むしろ使える方がおかしいんだよ」

「……え?」


 ましろの、見開かれた深紅の双眸が、こちらを射抜く。

 俺はわかりやすいように、簡潔に一言で表現する。


「狭い建物の中で、敵の速度と座標が常にわかるとか、チート過ぎるだろ」


 そういうことだ。


 一応、補足説明をましろに行う。

 一生懸命潜伏していても、Senで一発で場所バレ、手榴弾や銃弾叩き込まれて死亡。

 すると、どうなるか。

 Sen持ちが集まり、敵と味方の座標を理解した上での戦いが始まる。

 それはおそらく、現実の戦闘とはかけ離れたものになるだろう。

 そしてあまりにも現実と乖離したそれは、最早銃ゲーではなくなり、ファンタジー世界のゲームと本質的に変わりがなくなる。

 要するによくわからない力の応酬だからな。

 運営もそれを理解しているからこそ、建物内部においてSenによる感知を封じた、ということだろう。


 だから別に、感知が使えないというのは、別に恥ずかしいことでも何でもない。

 むしろ、使えない方が燃えるだろう。

 市街地戦の面白いところは、『どこから撃たれるかわからない』だからな。

 ……いや、基本どこでもそれは変わらないが、市街地戦はより顕著というか。

 というか建物じゃなければSen普通に使えるが。

 市街地の交戦距離は基本300メートル以内らしいから、狙撃手にとっては100メートルでちょうど良さそうだな。

 むしろちょっと足りないくらいだが……それ以上行くと完全にチートだから仕方ない。


 ……Sen特化の、観測手タイプとか出てきたら、とんでもなく厄介そうだ。

 勿論、負けるつもりは毛頭ないがな。


「だから、別に気に病む必要はないぞ。運営のやってることだし」

「……わかりました、私、Senがなくても全力で頑張ります!」

「よし、じゃあ……」


 俺は振り向き、にっこりと笑う。

 改めて。


「検証を、始めよう」

「………………え?」



 ────



「……よし、こんなものか」

「……なんか、疲れました……」

「お疲れさま、お陰で良いデータが採れた」

「完全に、実験台に対する研究者の態度ですよね、それ」


 肉体疲労が存在しないこのゲーム内で、疲れた表情をするましろ。

 まるで妻の買い物に突き合わされた亭主のようだ。

 ……ある意味間違ってないな。

 男女のエネルギーのベクトル差の、わかりやすい例だ。


「これで俺の疑問は殆ど晴れた。改めてありがとな、ましろ」

「……もう、調子が良いんですから」


 にこり、と微笑むましろ。

 その笑顔を見て、なんとなくましろの勘違いがわかったような気がした。

 ……気のせいだったみたいだ。


 俺はましろを使って、文字通り色々な実験をした。

 例えば、外部から建物内部のSenによる感知は可能なのか。

 不可能な場合、どのくらい身を乗り出せば感知範囲に入るのか。

 屋上は外からでも可能なのか否か。

 Senによる感知は、実際どのような範囲なのか。

 その他、色々な検証をましろに課し、気づけば1時間が経っていた。


 その間も、通りがかった魔物は倒したし、ドロップの回収もした。

 だがまぁ、普通に狩りをするより効率が下がってしまった感じは否めない。

 更に言えば、ここ浅層だしな。

 まぁ、これからの安全のためだ。

 許してくれ、ましろ。


 Senによる感知は、パッシブ、つまり何かしらの無効化されるトリガーがない限り、常に発動しっぱなしだ。

 ちなみにその無効化される条件は、『範囲内の人数が一定以上』『戦闘フィールド外』『建物内』の3つの条件(あくまで仮だが)の内のどれかが該当する場合だ。

 街で無効化されるのは前の2つ、ショップでは全部。

 そしてこのビルは、最後の条件に該当するから無効化されるとみて、まず間違いない。


 少し話は逸れたが、つまり、こう言いたいんだ。

『基本ずっと発動しているから、何も感知しない=誰もいない』という図式が、Sen振りプレイヤーの中でできあがっているのだ。

 ましろが、ビルの前で何も言わなかったように。

 その思い込みが、実は一番恐ろしい。


 例えば、の話をしよう。

 もし半径100メートルの球状に感知範囲が展開していると勘違いしたままだと、外部からまるまるビルを感知範囲内(だと思われる)に入れ、そこに敵がいないと安心して探索し、実は内部にいた敵に気づかれ銃撃受けて即死エンド、とかがあっても仕方ない。


 1つ、大切なことを言っておく。

 実際のSenの範囲の形は、ましろを中心とした球形では、ない。


 ましろの足元を起点に、およそ2メートルの高さの、円半径100メートルの薄い円柱形。

 つまり上下はほぼ感知できず、また地面から両足が離れている場合、感知が途切れることも発見した。

 膝立ちや伏射態勢ならオッケーだったところを見るに、恐らく『両脚が地面から離れている場合、感知不能』となっているのだろう。

 ……相変わらず、よく作られてるな。


 ……まぁ、それはもう良いか。

 追々、それらの検証結果が活きる時が、来るかもしれないし。

 そしてそれは、今この瞬間じゃないしな。


「じゃあ、ましろ」

「はい!」


 俺はましろに、次の行動を指図する。





「帰るか」

「了解です!」


 俺とましろは、市街地の浅層を後にした。




『こちらウォータム、なんか嫌な予感がするんだが?』

『こちらトナカイ、気のせいだ』



 結局無線で気づいたましろに言い負かされ、渋々舞い戻ることになった。

 ウォータム、可哀相に。

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