1話 悠莉とあきひと。
SF要素少なめでお送りいたします★☆
4/25:話の流れを、より納得できる感じに改訂。
ついでとばかりに少々修正。
4/26:上手い書き方が思い浮かばない……orz
VRMMO。
それは、人類の夢だった。
それはいつだって、人々の心を魅了して止まないものだった。
もし、現実とほぼ変わらぬ感覚でプレイできるゲームがあればと考えた人間は、少なくないだろう。
……もしそれが、現実に存在したら、どうする?
俺は多分、こう答えるだろう。
──有り得ない──と。
────
「じゃあ、またな悠莉!」
「ああ、また明日な、秋人」
俺、半井悠莉は、十年来の親友兼、このアパートにおける隣人である戦場秋人と高校から一緒に帰宅していた。
理由はまぁ、俺にそこまで友達と呼べるような存在がそこまでいないこと、また前述した2つの理由を見ればわかるだろう。
言わせんな。
俺は秋人と別れ、いつも通り生体認証をして中に入った。
……ふと、違和感を感じた。
いつも通りであるはずの玄関に、異物が混ざり込んでいるかのような。
「……何だこれ」
その理由は、すぐに分かった。
玄関のど真ん中、つまり靴を脱いだ一歩目に踏み込む場所といえばわかりやすいだろうか。
そこに、見覚えのないものが置かれていた。
それは端的に言えば、小包だった。
白い包装紙に包まれた、両手で軽く抱えられるほどの大きさ。
実際手に持ってみるとそれは、予想以上に軽かった。
指先でつ、となぞってみるとそれは固い感触を返してきた。
「……何だこれ」
思わず、二度めの呟きを漏らしてしまった。
……普通に考えて、部屋の中に配達されているなんて考えられない。
そういう場合はドアの前に置いておくか、再配達が基本だろう。
このドアには、配達物用のポストもあるしな。
どう間違っても、配達員が何らかの手段でカギを開けて侵入し、印を勝手に拝借して押して帰っていく、なんてことは有り得ない。
あってはならない。
……印?
「そういえば」
……これ、そういう痕跡が一切ない。
普通の配達物ならば、何かしら宅配会社のわかるようなものがあるはずなのだが。
これにはそれが、存在していない。
つまりこれは、
──限りなく、怪しい──
誰でもたどり着けそうな、そんな陳腐な結論に俺がたどり着いたその瞬間──
「おい、悠莉、何だこれ!?」
秋人が慌てたように飛び込んできやがった。
その手には俺の持つものと同じ小包があった。
とりあえず、これだけは言える。
また明日という俺の言葉は、完全に間違いだったってことだ。
────
とりあえず俺の部屋で、2つの小包を並べてみる。
一応どちらのものか混同しないように、名前を書いた紙を張り付けてな。
悠莉、あきひとっと。
「なんで俺の名前がひらがななんだ……?」
「気にするな、決して馬鹿にしてる訳じゃない」
「十分してるじゃねーか!?」
「画数が多くて面倒くさい」
「『秋人』より『悠莉』の方が多い気がするんですがねぇ!? 画数!!」
「気のせいだ」
「気のせいじゃない! 断じて気のせいじゃないぞこれは!」
そうして少し観察して、わかったことなのだが……
「……少なくとも見た目は、同じものみたいだな?」
「ああ、そして手口や目的も同じなんだろうさ」
こんな似通ったものが、しかも同時期に、別の存在から届けられるはずもない。
これはほぼ確実に、同一犯によるものだろう。
てかそれは、今の所結構どうでもいい情報だ。
部屋を確認したが、別に何も盗られていなかったからな。
……何者かが入り込んでいたという事実が怖い人間もいるのかもしれないが、俺は違うので問題ない。
そして秋人も、そんな些事を気にするような性格じゃないしな。
……そもそも、そのことに気づいてすらいない可能性はあるが。
「……で、これ結局なんなんだろうな」
「さあな、知りたきゃ開ける他ないだろう」
「そりゃそうだろうが……」
秋人はそう言って、2つの小包に視線を落とす。
その瞳には、僅かの怯えが見て取れた。
……仕方ないな。
「よし」
俺は小包を手にし、躊躇なくこじ開けた。
……あきひとのを。
「うおおおおおおおい!?!?」
秋人が絶叫し、俺の肩を掴んで揺する。
うるさいな、近所迷惑だろうが。
アパートの一室だぞ、ここ。
「お前、何で開けた!? しかも俺のを!?」
「仕方ないだろう、開けなきゃ始まらないんだからさ、物語」
「そういう問題じゃねーよ! てか唐突に物語とか言うな、読者が離れるぞこら!?」
「まぁまぁ、とりあえず中身わかって良かったじゃないか」
俺はびりびりに敗れた包装紙の中から、2つのものを取り出す。
「ほら、これがお前の中身だ、包装紙の残骸2枚」
「……どう見てもそれより大切なものがあるよな!? 後言い方!」
秋人は俺から包装紙と諸々をひったくると、そこから包装紙以外の2つのものを取り出した。
「ほら、これだよこれ!」
秋人が高々と掲げるそれは……ヘルメットのようなものと取扱説明書のようなものだった。
────
──世界は時に、残酷で狂っている──
クルーエル・ワールド・オンライン。
通称CWOは、世界初の没入型VRMMOだ。
科学の衰退した未来の世界が舞台となっており、突如世界各地に現れた迷宮から這い寄る異形の生物、魔物によって人類は絶滅の危機に瀕していた。
残された人々は武器を取り、身を守るためそれらと戦うことを決意した。
魔物は軍を壊滅させた際に大量の武器を体内に保持しており、倒せば弾や武器が手に入る。
また小規模だが人類側も生産しており、弾やある程度のグレードの武器ならば買うことが可能。
この世界において、プレイヤーは等しく全員兵士だ。
といっても傭兵のようなもので、魔物を殺して得られる物資を糧に生活している。
基本的に非戦闘地域に設定されているのは街のみで、そこではプレイヤーはどんな行動をしたとしても、特殊な場合を除きダメージを受けない。
街の外だと普通にダメージを受けるが、例外として街の中からの攻撃によるダメージは無効化される(境界から銃口のみ出していてもそれは同様)。
ゲーム内で死んでも街の泉で生き返るが、所持金の半額とアイテムのいくつかが死んだ場所にドロップし、デスペナルティとしてステータスが一定時間半減する。
またこの世界の貨幣(G)は、単位1につきリアルマネーに変換可能。
そのレートや方法に関しては、目次を参照していただきたい。
手数料等に関しては全面的にこちらが負担する。
6月xx日、午前10時に、このゲームは全面的にスタートする。
プレイすると決めた人類は、それ以降の時間に同梱したVRギアを被り、スイッチを押してくれ。
それ以前の時間には、何の反応も示さないだろう。
またそのギアは、普通にコンセントで充電可能だから、安心してくれ。
このゲームに関してはその電気代以外、君たちに負担させないと約束しよう。
この残酷な世界で、君達が充実した生活を送れることを祈る。
PS.ログアウトにもログインにも制限はないため、あくまで普通のゲームとして気楽にやってほしい。
前書き
ここからは、取得可能なスキルの一覧や、ステータスの要素など、ゲームをする上での大切な条項を述べる。
その中では、時々ミスリードするような文面、そして書いていないような情報が存在するかもしれない。
それに対し、私はこれだけ言っておこう。
「血も涙もないこの世界では、食われる方が悪い」
初期さえ生き残ることができれば、君達は必ずこの世界の美しさの虜になると、今ここで断言しよう。
……1人でも多く、このゲームをプレイしてくれることを願っている。
────
「ふむ……」
俺のものと、あきひとのもの。
2つある本は、どうやら同じものであるらしい。
そこにはゲームの仕様などが淡々と綴られていた。
ステータスの恩恵や、リアルマネートレードの方法まで。
「……どう思う? 秋人」
「……胡散臭いが……とてもよく作り込まれているな」
「だよなぁ……」
一瞬、こんなゲームがあれば面白いだろうな、と考えてしまった自分がいた。
しかし。
世界初の、VRMMO。
もしこれが事実なのだとしたら、これは確実に、世界的な発明として世に送り出されているはず。
断じて、こんな怪しいやり方で配られるようなものではない。
更に言えば、どれだけの金をかければ、このレベルでの手厚いサービスを続けられるのだろうか。
しかもこちらからは、充電時の電気代のみで良いと来た。
勿論電気を馬鹿食いする可能性も高いが、リアルマネートレードやVRMMOをできる時点でそれはあってないようなものだ。
そのサービス料は、VRMMOの開発費に比べれば微々たるものなのかもしれないが、普通におかしい。
こんなもの、有り得ない。
期待はしてしまったが、あり得ないものはあり得ない。
確実に、詐欺の類か何かだろう。
俺はそう考え、あり得る可能性を探ってみる。
まず、この説明書とやらに書いてあることが丸々嘘で、VRMMOは存在せず、請求が来る可能性。
俺達がこれを受け取ったことにより、後に謎の請求がくるのだ。
こちらの住所も割れているし、可能性は高い。
……だが。
なぜこれは、部屋の中に置かれている?
このアパートはドアの下方に、ポスト代わりに受取物を入れる用の空間が存在する。
そしてこのヘルメットとか説明書は、問題なく入るサイズなのだ。
部屋に侵入してこれを置いて帰る、その意味がわからない。
なぜそんなことをする?
そして、どうやって?
ここのカギは、俺以外に開けられるような物ではないのに。
少なくとも俺には、形跡も残さずにそんなことをできる存在に、現状では心当たりがない。
そういう違和感。
そして、説明書の言葉には、こちらを騙そうという意思は感じられない。
……いろいろと、秘匿されているようではあるが。
……ち。
洒落や冗談の類だと一笑に付そうとしたのに、なぜだろう。
数々の違和感と、俺自身の心が、引き止めてくる。
……そうだ。
正直俺は、VRMMOをやりたい。
そう熱望してきたが、この世界の現状では、それは不可能だった。
少なくとも俺が生きている間に、それが完成する可能性は、皆無と言ってよかった。
……昔だったら、可能だったのかもしれないが。
だから、これを見て、期待してしまっている俺がいる。
……だが、安易に信じるのは危険だと、わかってもいる。
どうするかなぁ……。
「……俺はさ、信じてみても良い、と思う」
そう口を開いたのは、秋人だった。
野生の勘か?
「だが……」
「何より、悠莉と久しぶりにゲームしたいしな!」
「……そうか」
……まぁ、確かに?
最近は、ゲームすること自体、少なくなってきたからな。
ましてや一緒になんてな。
……だがなぁ。
騙されるのは、本意ではない。
理性では、止めとけと言ってるのだが。
もし秋人がプレイすると豪語しているのなら、俺も乗るべきだ。
俺にはどうせ、毟り取られるような金もそこまでないしな。
ここで俺だけ捨てても、損失はそこまで変わらない。
だったら────
何の面白みも感じられない、この人生。
少しくらい期待しても、良いんじゃないのか。
限りなく0%に近いその可能性に、ベットしてみてもいいのではないか。
どうせ俺が失うものは少ないし、秋人も同様の気持ちらしいしな。
やってやる。
やってやるよ。
俺は自分の心と秋人の気持ちを盾に、騙される可能性に目を瞑り、首肯した。
「……じゃあ、やってみるか」
「よし、決まりだな!」
「じゃあ今度こそ。また明日な」
「ああ、またな!」
……VRMMO、か。
虚偽や詐欺の類である可能性が高いとわかっていても、胸が高鳴るのは、なぜだろう。