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25話 やっちまえ

「……成る程なぁ」


 俺はゴーシュから、一通りの内容を聞き、改めて自身の考えの方向性の間違いを噛み締めていた。

 そもそもこいつがプレイヤーであるという考えが間違っており、こいつはNPCだったのだ。


 ……そう、NPC。

 俺も最初は、何を馬鹿なと思った。

 こんな人間そっくりな行動をするNPCが、いるわけがないと。

 そんな高性能な人工知能が、存在しているはずがない、と。


 有り得ない、と切って捨てることは簡単だ。

 ……だが、そう考えるとしっくりくることもあるのだ。


 彼は『ウォータムのフレンドだから』という理由付けをしてから、俺に向き直ったこと。

 ウォータムが銀狼にトドメを刺し、素材を持っていることを知っていること。

 それらを考えれば、自ずと……もしかしたら……。

 ……いや、やっぱり俺には無理だわこんなもん。


「なんか、本当にごめん、完全に見当違いだった」

「いいや、俺も説明不足だったからでござるし」

「ほんとだよ」

「おい」


 ウォータムに軽く頭を叩かれた。

 ちぇ、調子乗るからいけないんだよこの高慢NPCが。

 どこに調子に乗った発言があったのかはとりあえず置いといて。

 とりあえず、結構恥ずかしい。

 はぁあ、穴があったら入れたいとは、このことかね。

 ……冗談です消さないでください。

 というかそんな年中発情期野郎は手榴弾で爆殺されてしまえ。

 ……いや、日本は最近少子化だからな、子供をポンポン作る分には良いんだよ。

 良くないけど。

 ともかく、俺が言いたいのは、子供を作る行為に快楽を求めるんじゃなくて、新たな命を求めろと。

 我慢できないなら、命を背負う覚悟をしてからにしろって。

 元々そういう行為なんだからさ、快楽目的でやるのはおかしいだろって。

 だから少子化が進むんだよ、それで俺たち未来の世代が税金というか過去の世代の扶養に苦しめられて?

 あーもうね、これが個人の価値観による偏見だとわかっててもね。

 それが不景気が原因だとわかっててもね。

 言わずにはいられないわ。

 ……決して、今までしたこともなく、また彼女がいたことのないことによる妬みじゃないからな。

 俺はあくまで、日本全体の問題として言っているんだ。

 本当だぞ。

 そのせいだとは言わないが、年々国債が増え続けてるんだぞ。


 ……はぁ。

 どうでもいいことに思考を使ってしまった。

 やっぱり俺、さっきの失敗が堪えているのかもな。


「それで、対価は払ってくれるのか? 仮にも責任者なんだろ?」


 そう、仮にも責任者ならば、この素材を買い取るくらいのお金は出せて然るべきだろう。

 代理だがな。

 俺はそう思ったのだが、彼の口からはある種予想通りとも言える言葉が。


「…………研究費に全て」

「アホか」

「……仕方がないのでござる。あくまで代理だから、私用で工場を動かしたりみんなの金を使ったりする訳にもいかないから、当然自腹で小規模にやるしかない上、元々金をそこまで持っている訳じゃないのでござる」


 聞くと、彼の武器工場の責任者であり彼の親でもあるエリンズ・アルベルトロンは、1ヶ月前、街に侵入してきた魔物に襲われ、意識不明の重体となってしまったらしい。

 魔物は被害を出しつつもなんとか撃退されたのだが、エリンズの傷が癒える訳じゃない。

 だが彼は前々から、もし俺に何かあったら、息子のゴーシュに工場を頼む、そう言っていたらしい。

 そんなこんなで急遽代理として就任した彼は、父親であり責任者であるエリンズを傷付けた魔物を駆逐するため、今までよりももっと強い兵器を。

 つまり、魔物の素材を利用した武器を作ろうと躍起になっていた、という訳だ。

 それで自分の貯金や給料も使い果たし、現在に至る、と。

 つまり俺が何を言いたいか、それは。


「親の七光りで金も持ってねえとか使えねえ」

「今の話を聞いて、その感想なのか!? でござる!?」

「冗談に決まってるだろ?」


 そもそも本当に七光りだったら自信満々に工場を任せられるはずもない。

 ……エリンズが余程の親馬鹿じゃなければ。

 ……うん、少し心配になってきたな、こいつ浪費家だし。

 その研究に自腹を切っているのは良いが、それは普通のことだしな。


「しかしさ、こんな話で感動するのがどんな奴らなのか、見てみたい気も……」


 そう言いながら、後ろを振り向くと。

 顔を下に伏せながら、肩を寄せ合う2人。

 えっ、お前ら無言だと思ったらまさか……。


「うぅ……なんていい話なんだ……全部やるよぉ」

「ぐすん……ひっく、こんなわらひらひれ良けれは、協力、ひまふ……!」


 そりゃもう、ボロッボロに泣いていた。

 ウォータムは泣きながら素材全てを手渡そうとしているし、ましろもなんか意味不明な決意固めてやがる。


「……えぇ……。お前ら、えぇ……」


 とりあえず2人を筋力に任せて止め、ウォータムには手榴弾を投げ込んどく。

 地面とキスして痙攣するウォータムをほっといて、俺はゴーシュに向き直る。


「随分と手荒な手段で止めるでござるな……」

「気のせいじゃないか? それで、そうまでした研究に成果はあったのか? 高々1ヶ月如きで」

「なんだか嫌味を感じるのでござるが!?」


 それこそ気のせいじゃないか?

 それで、何か進展はあったのか、高々1ヶ月如きで。


「成果、か…………仮に加工できたとしても、雑魚魔物の素材ではむしろ従来よりも弱くなる、といった所でござるか」

「それつまり何の進展もしてなくないか!?」

「そうとも言うでござるな」

「ドヤ顔で言い切るなボケ!!」


 当たり前だろ。

 例えば現実の熊とかは、ショットガンでも散弾じゃ、1発では止めをさせない。

 精々音とダメージで驚かせ、こちらが止めをさされるのがオチだ。

 ショットガンで1発で仕留めるには単弾、つまりスラッグ弾を使うべきなのだが、その辺にいる魔物は散弾で事足りる。

 つまり何が言いたいのかというと、熊から有用な素材が取れないのに、それよりも弱っちい魔物からもっと凄いものが取れるとかあり得ないだろ、てこと。

 もしかしたら一部、使えなくもない魔物とかがいるのかもしれないが、


「本当に有用な素材は削ることもできないし、加工は難しいと言わざるを得ないでござる、これは魔物歴1ヶ月の俺でもわかるでござる」


 ……魔物歴って何だよ。


「……希望ないみたいなので、帰ってもいいですか?」

「もう少し聞いてくれでござる!?」


 そう言って、彼は復活したウォータムの腕から牙と大爪、更に1本の骨までひったくる。

 おいこら。


「君、トナカイ君でござるな、人間の部位で1番硬いところと2番目に硬い部分を知っているでござるか?」

「歯、次に骨だな」


 そりゃ、そこまで見せつけられれば誰でもわかるわ。

 で、その次が爪だな。


「そう、それに続いて爪がランクインする訳だが、そこで俺は考えたでござる」


 ……ほう?

 何だか先が読めるような気がするけど、どうぞ続きを。


「歯で爪を、同様に骨を削れば、武器が生み出せるのではないかと」


 俺は思った。

 こいつ……馬鹿か? と。


「……馬鹿か?」

「……そう思うかもしれないが、俺は本気だ、でござる」

「……一々理由も説明してやらなきゃわからないのか?」

「いや、わかっているでござる。銃を量産するには精密な作業工程、つまりは工場が必要不可欠。そしてそれは、加工のやり方が周知されている、尚且つしやすい素材だからこそ可能だということも」

「じゃあ、なんで」

「……そこの彼が、可能性を示してくれたからでござる」


 そう言ってゴーシュは、呆けるウォータムを指差す。

 当人は、えっ俺? って感じのアホ面を晒しているが。


「えっ俺?」

「そう、光剣1つでエリアボスに挑む、その覚悟。そして剰え打倒してしまった、その強さ。それを知った時、俺の心に激震が走ったのでござる。獣に対して剣で戦う馬鹿が、まだいたのかと」


 ゴーシュのその言葉に、ウォータムが動く。


「……なぁ、こいつ殴っていいか」

「生温い、斬れ」

「了解」

「2人共止めてあげてください! 気持ちはわかりますけど!」


 そんな俺達の前にましろが立ち、妨害してくる。

 ……今回だけだぞ。


 よし、少しこいつの発言を纏めよう。

 つまり、銃だと難しいけど、剣なら作れるかもー、丁度使いこなせそうな人もいるし万々歳ー、ってことか。

 ふざけるなよ?


 こいつ体の良いこと言いつつ銃作製を諦めたってことだよね? よね?

 それならうっかり爆破しちゃっても仕方ないよね? よね?



「はぁ……それで? 遺言は済んだか?」

「待ってくれ、銃を諦めた訳じゃない、ただ前例を創りたい、ただそれだけなんでござる!」


 前例、ねぇ。

 まぁ確かに、今まで成し遂げられなかった、魔物の素材でできた武器ができたという前例さえできれば、魔物の素材を真面目に加工しようとする奴も出てくるだろう。

 いつだってそうして、まず前例が作られて、技術が発展してきたのだから。

 そうしたら、もしかしたら、魔物の素材を利用した従来よりも強い銃が作られるかもしれない。

 勿論、量産品じゃ不可能だろうが、少量の生産ならば可能性はある。



「……ウォータム」

「……良いのか?」

「(もう面倒臭いから素材をこいつに)やっちまえ」

「おう」


 ウォータムは無言で光剣を振りかぶる。

 そっちじゃないつもりだったんだが、まぁわざとわかりにくい表現を使ったからな。

 仕方ないよね? よね?

 大人しく介錯されやがれ。


「ちょちょ、もう少し待ってくれでござ」

「もう十分待った」


 何度同じ表現を使ってるんだ、もう聞き飽きた。

 じゃあ、またな。

 かねとアイテムは拾ってやるよ。



「お許しをぎゃああああああ」




 光剣は正に当たる寸前で、本当にギリギリで止められていた。

 そいつが目を瞑ったのを確認し、ウォータムは素材をアイテム欄から取り出した。

 ……まぁ、今回は俺もそのつもりだったしな。

 やっちまおう。


 俺は無言で素材を手に取り、ゴーシュの頭に骨やらなんやらを落とした。

 勿論安全重視で、でき得る限り最大限の痛みを与える角度でだ。

 投擲スキルの無駄遣いも、ここに極まれりって感じだな。


「いった!? 痛い!? 一体何が!?」


 いや、光剣で斬られた方がよっぽど痛いと思うんだが。

 ……当たり前か。

 予想してたのとベクトルの違う痛みだったから驚いているとか、そんな感じか。

 後『痛い』と『一体』って何も面白くないからな。


「ほら、やるよ」

「へ? …………ほ……本当に……!?」

「早く受け取れ、俺の気が変わらない内に」


 俺は改めて拾い直し、ゴーシュの顔面に突き付けた。


「あ……ありがたいでござる! 絶対に、成功させて見せるでござる!!」


 ゴーシュは涙で瞳を潤ませつつ、それを受け取った。


「……受け取ったな?」

「……え?」


 俺はにっこりと笑顔を浮かべつつ、ゴーシュに問う。


「……これで今、お前には俺達に対する恩が生まれた訳だ」

「……そ、そうでござるね」

「だったら、俺のお願いはできるものなら聞いて然るべき、だよな?」

「……そうでございますね」

「なぁに安心してくれ、些細な願いだ。些細な、ね」

「……全然安心できないでござるっ!?」

「勿論、先に何でもするとか、そう約束した訳じゃないからな。できないことは断ってくれていい。それはそうだよな、今お前を縛り付けているのは、恩義という言葉だけなのだから」

「……少なくとも恐怖は存在していると思うでござる」

「……ん、何か言ったか?」

「いえいえ、何でもないでござる!」

「そうか、てっきり恐怖政治だ何やらって言ってた気がしたが、気のせいか」

「そそそそそそそうでござるよ?」

「そうだよな、俺はお願いしようとしてるだけだもんな、恐怖なんて単語関係ないもんな」

「…………」


 俺を辱めた罰だ、存分に堪能しろ。

 あ、いや違う、俺はただお願いをしようとしてるだけだ。

 些細なお願いを、な。


「……トナカイ……」

「……トナカイさん……」


 なんか2人が哀れな目で俺を見ているんだが……なんでだ?

 俺はただ、弱い者いじめをしてるだけだぞ?

 どこに責められる要素があるんだ……?

 けけっ。


「……さあ、ゴーシュ、俺の些細なお願いを、聞いてくれよ」

「ひっ」


 失礼な。

 俺にできる最大限の脅しをしたが、そこまで変なことは言わないっての。


 俺はゴーシュに毛皮をかぶせ、言った。


「……もし魔物の毛皮で服が作れる様になったら、是非素敵な物を作ってくれ」

「…………へ?」

「……だから!」


 俺はゴーシュの胸倉を掴み、言った。


「さっさと裁縫針作って裁縫してくれって言ってるんだよ!」

「はひぃぃいいいい!?!?」


 ゴーシュは物凄い速度で走り去って行った。

 ……なんだあいつ。

 予想はしていたが、面白いな。



「……トナカイ、お前は人に物を頼む態度も知らないのか?」

「知らなかったらからかうこともできないだろうが、あえてだよあえて」

「…………なんだか、ゴーシュさんが不憫です」

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