22話 2人の戦い
「はぁぁあッ!」
俺は大狼と数合打ち合い、その強さを再確認していた。
先程までも結構強かったのだが、今の動きは完全にその時を凌駕している。
更にそいつは目に見える変化として、大きな爪を前足から突出させていた。
つまり、さっきまでは本気を出していなかった、ということだ。
「良いねぇ、楽しくなってきたぁ!!」
俺は回復タブレットを噛み砕きながら、次に備える。
速度では大狼、耐久でも大狼、火力でも大狼。
唯一勝っている点としては、回復手段の有無くらいだろうか。
戦兵の雄叫びを使ってこれなのだから、エリアボスというのはやはり他の魔物と比べて別格なのだろう。
……そして、一番厄介なのが。
「……ッち、もう覚えやがったか!」
今までの魔物には感じられなかった、知性。
先程との戦闘力の差から考えるに、要するにこいつには、弱者をいたぶる知性があるということだ。
それは嘲りでもあるが……同時に、人間並みの学習対処能力を有している、といっても過言ではない。
1回見せた削りは、次やろうとすると対処されている。
それだけじゃない、今ではそれに合わせカウンターらしきものも入れてくる様になってしまった。
……何より、相手の方が素早いため、それを止めることすらできない、ということだろうか。
……救いは、俺が有限だが回復可能なこと。
そして――
――ズドン――
大狼の、大きな爪の生えた前足に光束が直撃し、攻撃がそれる。
――俺が、1人では無いことだ。
――――
トナカイの逃げるという宣言、俺には全く理解ができなかった。
「………………はぁ!? お前、逃げるって……」
「……そう何度も言わせるな、俺は逃げるって言ってんの」
「……お前、そりゃ……」
トナカイ、お前は……知り合いを、見捨てるってことなのかよ。
短い時間とはいえ、話して、お礼を言われた相手を……?
ましろも流石に、疑いの目を向けた。
「……トナカイさん」
「……あー、そんな目で見ても無駄だぞ、俺は意見を変えるつもりはない、お前ら2人で戦ってくれ」
「…………」
「後、始めるなら急いだ方が良いと思うぞ、1人がもう死にかけてる」
「!?」
「っ! ほ、本当です! どどどどどうすればば」
まずい、早く行かないと。
……だが。
俺は、トナカイの腕を掴む。
「……ウォータム、この手は何だ?」
「……お前も、一緒に来いよ」
「……お前、何言ってんだ?」
トナカイは、心底理解できないような視線を向ける。
それは、こっちの台詞だ。
「早く、手を離せよ。本当に間に合わなくなるぞ」
こんなことをしている間にも、時間はどんどんと過ぎていく。
…………くそっ。
なんでだよ。
俺は……その手を離した。
「……わかった、もう勝手にしろよ」
「ああ、そうさせてもらう」
「2人とも……」
「……行くぞましろ、手遅れになる前に」
「…………はい」
ましろは最後まであいつのことを気にしていたが、気にする必要はない。
どうせ、浅層は魔物が弱い。
中層ですら余裕で戦えるであろうオーバースペックが逃げるには、十分だろうよ。
そうして、俺達2人で彼らを魔物から助けに行ったのだった。
――――
「……くそっ、ジリ貧かよ……!」
俺は増える傷を気にしつつ、狼から視線をはずさない。
理由は単純、少しでも視線を外したら、一瞬でお陀仏だからだ。
……だからと言って、時間を稼いだところで別にどうなる、ということでもない。
……ただ、死ぬまでの時間が延びる、ただそれだけなのだ。
その理由の一端は、俺の武器だ。
俺の武器は光剣、同じグレードの武器のなかでも、攻撃力は抜きん出ている。
……あくまで、同グレードの中で、は。
しかし最下級のこの武器じゃぁ、相手の毛皮を傷付けることすらできない。
さっき鼻先を傷付けられたのは、毛皮がない部分だったからだ。
ましろが相手の動きを妨害できているのも、あくまで打撃による衝撃で弾いているに過ぎない。
毛皮の下には、何一つダメージなんて、入っちゃいない。
……せめて、後1つグレードの高い武器だったら、いけたのかもしれない。
……だがそれも、こうなってはもう遅い。
「うぉっ」
狼が、その大きな爪を向け、突っ込んでくる。
俺は光剣を両手で支え、すんでの所で止める。
「ぐっ……うぁぉおおお」
衝撃で押し込まれるが、必死に耐える。
バチバチと、視界にスパークが走っている気さえする。
……イチかバチか、逃げるか?
……いや、無理だ。
狼は、俺のAgiですら誰かを犠牲にしないと逃げられないほどの速さを有している上、ここにはもう4人組はいない。
……ましろを犠牲に?
はっ、何の冗談だ。
狼は一旦離れ、次の攻撃の準備をする。
くそっ、これ以上好きにさせてたまるか!
俺は、光剣を握る手に力を込める。
「あ、諦めてたまるかぁぁぁあああ!!」
消えかけていた心の灯火が、また点る。
それに呼応するように、俺を覆う赤いオーラも、より一層強くなる。
――『生存本能』――
俺は、先程の速度が霞むような速度で突っ込む。
完全なる意識外からの、一撃。
果たして大狼は、それにすら反応してきた。
「ぐっ……がふあ」
前腕による、斬り払い。
俺は敢えなく吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。
肺の空気が押し出され、一時的な呼吸困難に陥った。
口と腹から、赤いポリゴンが散る。
内臓が傷付いた、という、ことだろうか。
真っ二つにならなかったのは、運が良かった方なのかもしれない。
だがどちらにせよ、このまま動けないなら、何も変わらない。
……俺は、役立たずだ。
このことが、たまらなく悔しかった。
「お兄ちゃん!?」
ましろの、叫ぶ声が聞こえる。
その声に反応し、大狼はそちらを向いた。
やめろ、ましろに、手を出すな……。
まずい、意識が……。
「よし、まだ2人とも生きてるな」
突如、閃光と爆音が轟いた。
……それがスタングレネードだと気づく前に、俺は気を失った。
「ってお前寝るなよ、お前の火力が無いと勝てないんだから」
一応買っといて良かったな、と彼――トナカイは何かしらの液体を俺にぶっかける。
目が、一瞬で覚めた。
そして、傷も徐々に治って行く気がする。
……色々言いたいことはあったが、とりあえずこれについてだ。
「……おい、なんだこれ、液体回復薬じゃねぇだろ」
「治癒力増強剤。かけるだけで軟膏レベルの回復力を得られる代わりにそこそこお高い」
「……まあいい、後お前、何で戻って来た?」
「は? 何言ってんだお前」
彼は、心底不思議そうな顔をして、言った。
「元々作戦の内だったからに、決まってるだろ?」




