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18話 泣かないで

4/12:ミスを修正。

トナカイはミスしなくても、どうやら作者はするようですねてへぺろ。

 あの後ウォータムを担いで全速力で街に戻って来た俺たちは、ウォータムの様子がおかしいことに気付いた。

 固く閉じられた瞳。

 時折何かを呟くように動かされる口。

 恐らく自分の意思ではないであろう、空を掻くような動作。

 そう、奴は……



 寝 て や が っ た 。



 ただ寝相が悪く、時々寝言を呟いているだけだった。

 そう言えばそうだ、こいついつも早く寝るタイプだったっけか。

 ……というか運営さん、寝ててもインしっ放しなんですがそれは。

 ……流石に直した方が良いんじゃないのかこれ。


「えっと、眠ってしまった時は、ある程度の時間経過しても反応がない場合に強制ログアウトされるようです。勿論その時街の外にいたら、そのままアバターは一定時間残り、殺されて死に戻りしても文句は言えないみたいですね」


 ましろが先に調べ、回答してくれた。

 ふうん。

 まぁ何にせよ、運んどいて良かったということか。


「……それじゃ、ウォータムがログアウトするのを確認してから、俺達も落ちようか」

「ふふふ、そうですね」


 俺が泉の縁に座ると、ましろもその隣に座った。


 沈黙。

 なんとなく、話しかけるのが躊躇われた。

 ……言わなきゃいけないことは、沢山あるはずなのに。



「……あの、トナカイさん」


 ましろがふと、俺に声をかける。

 柔らかくて耳をくすぐられるような、耳心地の良い声だ。

 どこかで俺は、その声を聞いたことがある気がして──


「……なんだ?」


 俺が応えると、ましろが俺の手を握り、


「……あまり、気にしすぎないでくださいね」

「……なんの、ことだか」


 俺が精一杯強がって見せるも、どうやらましろにはお見通しのようだ。

 彼女はにっこりと、慈愛の笑みを浮かべている。


「……あくまで荒野に行くことを決めたのは、私達の意思ですから」


 ……まるで、俺には非がないような言い方をしやがる。

 そんな訳が、ないのに。

 荒野を嫌がっていたお前らを無理矢理説得して連れて行ったのは俺だ。

 お前らじゃない。

 そして仮にましろの意見が正しかったとしてもだ──


「だが、後一歩で詰みかけていたんだぞ! 主に俺の失策のせいでな!!」


 俺の見通しが甘く、荒野の戦闘は苛烈を極め、途中で衝撃手榴弾を使い切ってしまった。

 ウォータムが眠い中最後まで頑張ってくれなければ、俺達は大損、また1からやり直さなきゃならないところだった。

 更に俺は、そうなるリスクを、知っていた。

 知っている上で、2人の反対を押し切ってまで、俺は自身の勘を信じていた。

 成功さえすれば、莫大なお金が手に入る、と。

 失敗した時のことを、考えもせずに。

 俺達ならば失敗しないだろうと、高を括っていた。


「今更そんな、無責任なことを言えるかよ……」


 これは自分のせいじゃない、なんて。

 言える、訳がない。


 このゲームは、俺の心を溶かしてくれるような、そんな気がしていた。

 それ故に俺は、今まで本気で戦ってきたつもりだった。

 こちらの戦力を確かめ、死なないように。

 その中で、俺達の取れる最善の択を。

 取ってきた、つもりだった。


 ……実際はどうだ?

 ウォータムは戦闘不能直前まで追い込まれ、俺達もあわや敗走、と言うところまで追い詰められた。

 もし俺が判断をミスり、逃げるしかない状況になっていたら、その後は完全に詰みだ。

 最初っからやり直し……いやそれよりももっと酷い状況になっていたはずだ。


 もしウォータムが本調子だったら、死ぬ要素は皆無だったろう。

 だがそれはただの言い訳であり、あいつの状態を見抜けなかった俺の責任でもある。

 成り行きではあるが、俺は仮にもリーダーなのだ。

 それなのにこんな……。

 俺はただ……。


「……ごめん、少し気が立ってた」

「……いえ、私も無責任でした」

「……」


 何か言うべきことがある気がして、口を開いた。

 だがそこからは、言葉が出てこなかった。

 ……何を言うべきか、わからなかった。



「……トナカイさん」


 ましろは静かに、そしてまっすぐに俺を見つめた。



「……ありがとうございます」


 ……止めてくれ、俺は、失敗しかけたんだぞ。

 お礼を言われるようなことなんて、していない。

 できてすら、いない。


「私達のことを考えてくれて、ありがとうございます」


 そう言うましろの瞳は、先程よりも強くなっていた。



「私は、知っています」


「トナカイさんが、優しい人だと言うことを」


「私達のために、一生懸命ボケてくれていることも」


「私達のために、最善の策を考えてくれていることも」


「私は……いえ、お兄ちゃんも知っています」


「……だからどうか──」


 そう言って彼女は、俺の頬に付いた何かを、指先で拭った。



「──泣かないで」



 その言葉に、俺の心臓が、高鳴った。


 ──泣かないで──


 一瞬見えたそれは、まるで雑踏の中に消えてしまったのように、すぐに見えなくなってしまった。


 ……それよりも、俺が泣いている……?

 あり得ない。

 今まで殆ど泣いたことのない俺が、こんなことで涙を流す訳が──


 自分の目元を拭ってみる。

 俺の服の袖に、小さなシミができた。


「あなたの泣いている顔は、もう、見たくないんです」

「…………そうか」


 ……そんな嫌いなものを見せてしまって、本当に申し訳ないな。

 ……次からはもう少し、頑張ってみるさ。


 そんな俺に相応しいのは、きっと、こんな言葉なのだろう。



「……善処、するさ」



「……ふふっ。言葉通りの意味に受け取っちゃって、良いんですか?」

「さぁ、どうかな」

「じゃあ、あっさり信じちゃいますね」


 ……本当にこの子は良い子で……強い子だ。

 俺とは比べものにならないくらいに。

 俺はそのまっすぐな生き方に、少し羨望を感じた。


「でもまぁ、元気になってくれて、良かったです」

「……ありがとな」


 夜は、更けていく。



 ────



「2人とも、すまなかった!」


 翌日インした俺は、ウォータムとましろに改めて謝った。


「もうちょっとで大損するとこだった、次からは気をつけるから!」


 それを聞いた2人は顔を見合わせて。



「……ぶふっ」

「……ちょ、笑っちゃ悪いですよ……くす」


 2人して笑い始めやがった。


「……ちっ」

「舌打ち!?」


 ちっ、ウォータムうざいな。

 ……まぁ、仕方ない。

 このくらいなら甘んじて受けてやろう。

 だが次はないぞウォータム。


「……まぁ、俺も途中で寝ちまったしな……もしかして、それがなきゃ余裕だったのか?」

「……言い訳でしかないが、多分そうだったろうな」

「うぐっ」


 ウォータムが胸を押さえつつ蹲る。

 ははっ、ざまぁ。

 ……よし。


「……よし、俺を弄れるタイムの終幕だ、これからはウォータムをいじめまくってやるからな」

「おい!? くっそ、もうちょい弄っときゃ良かった!」


 本気で悔しがるウォータムに嘲笑をくれてやる。

 はっ。


「……私も、弄ってみたかったな」


 そう残念そうに呟くましろの方を向き、俺は誰にも聞こえないよう、静かに言った。


「十分、弄られたわ……ありがとう」


 なんとなく気恥ずかしくなり、俺は向こうを向いた。

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