プロローグ
終末世界を舞台とした、世界に唯一のVRMMOにおいて、こう呼ばれる存在がいるという。
『黒銀の悪魔』
彼はその世界では珍しい漆黒の髪に、見慣れない材質の銀色のコートを肩にかけていることから、そう呼ばれたという。
戦場で敵として会えば、最早死ぬ以外の選択肢がないとまで言われる、たった1人のプレイヤー。
彼の周りには常に、2人のプレイヤーがいるのだが、その2人も勿論異常に強い。
しかし、彼の異様さに比べればまだ理解できるレベルのものだ。
──曰く、初見殺しゲーであるこのゲーム内で、一度も死んでいない。
──曰く、謎の中距離範囲攻撃による奇襲は、生き残った者が存在しない。
──曰く、超遠距離からの狙撃を、まるで最初から見えているかのように躱す。
──曰く、近接戦で光剣使いに圧勝した。
──曰く、NPCの交友関係が異様に広い。
何よりも、その異名は広く知られているのにも関わらず、彼の武器種を知る者が存在しないこと。
数々の噂がゲーム内で飛び交い、その尽くが否定された。
こんな化け物、いるはずがないだろう。
いや、そのような存在はいるのかもしれないが、そんな伝説的な存在ではないだろうと。
そう言って、彼を小馬鹿にするものの殆どが、彼の攻撃の犠牲になったという。
それが偶然なのか必然なのかはわからないが、これだけは言える。
『黒銀の悪魔』は、実在する。
──そしてこれは、そんな彼の物語である──