15話 正体
やば、昼寝してたら遅れた……。
「荒野に着きましたが……また見事に人で一杯ですね」
「……だな」
「よし、予定通り」
予定通りボーナスタイムという言葉で、ウォータムとましろを荒野に釣り出すことに成功した俺。
その内容については深く言及せず、『効率よく魔物を倒せる』とだけ言っておいた。
これだけ人がいれば、破片手榴弾ならば他の人に吸収されてしまうだろうし、衝撃なら範囲が狭いからこちらが範囲内である可能性が低い。
……アサルトライフルバンバンやられない限り、死ぬ要素はないだろう。
元々最初、荒野を却下した理由というのは、人が多く時間当たりのリスクが高く、その癖リターンは少ないと悪いことだらけだったからだ。
時間当たりのリスクと言っても、駆け抜ける分には殆ど問題ないし、中層ならばリターンも見込めるし人も少ない。
……ほぼ確実に死闘になること以外、良いことずくめなのだ。
「んじゃ、ウォータム。ましろ背負って移動してくれ」
「……軽いし、全然良いんだが……何で?」
「多少でも移動速度上げるためと肉壁だお前は」
「後半言う必要あったかね!?」
うるさい、俺の案の1つに、お前が俺とましろを抱えて運ぶ案もあったんだぞ。
そっちの方が総移動時間では早く済むが、ウォータムの消耗がとても激しいから止めたんだ。
それに比べれば色々と、マシだろう?
双方にとって。
ちなみにましろがおんぶされる理由というのは、先程も言った通りだ。
人数が増えれば増えるほど移動速度は遅くなる、と言った傾向があってな。
更に移動速度が一番速く、筋力もそこそこあるウォータムが持つことで、実質俺の速度での移動が可能となる。
それに加えてウォータムが撃たれ弱いましろのダメージを肩代わりしてくれる。
良いことずくめじゃないか。
やらない理由がないな。
「さぁ、行くぞ。ウォータムは光剣持って片手でましろを支えてくれ。ましろは精一杯しがみつきつつ索敵。俺は双眼鏡で念のため周囲の警戒をしながら走る」
さぁ……狩りの時間だ。
────
「……なんか、急に人がいなくなったな」
「もうすぐ中層だってことだ、気を引き締めろ」
「……ドキドキしますね」
閑散とした荒野をひた走りつつ、俺達はそんな会話を交わしていた。
つい先ほどから人影が全くと忽然と消え、道程を邪魔し得るのは魔物のみとなっていた。
勿論、プレイヤーから襲撃を受けた訳でもないが、プレイヤーが視界に存在しないこの状況は、少し肩の荷を下ろせると言っても差し支えないだろう。
と言っても警戒をするに越したことはないのだが。
「ああ、そういえば言い忘れていたことがあったな」
「……なんだ? なんか物凄く嫌な予感がするのは俺だけか?」
「お前だけだ。……実はな、魔物の感覚器官も基本、視覚か嗅覚、聴覚なんだ」
「「……つまり?」」
「気を抜いたら死ぬぞ」
どどどどど、という微かな音が遠くから聞こえた。
前方を目を凝らしてみると、大量の砂埃が舞い上がっているのが見える。
砂埃が舞う理由は、俺の知る限り2つしかない。
1つめは、強い風が吹いたとき。
2つめは──
「あれは……魔物の群れ!?!?」
「………………は!?」
──何者かによって、地面が踏み荒らされたとき、だ。
────
「おま、ちょ、知ってたのかこれ!?」
「当たり前だ、ボーナスタイムだぞこれは」
まだ殆ど誰も、中層に足を踏み入れていない時にしか行えない、文字通りボーナスタイムだ。
荒野の洗礼、とでも呼んだ方が良いのか?
視覚や他の感覚で俺達が中層に入ったことを感知するが否や、襲いかかって来る魔物ども。
沼や森、市街地では障害物があってほぼ起こり得ない事象が、今起きていた。
つまり、俗に言うモンスタートレインが引き起こされていた。
それも、非人為的に。
……いや、運営が引き起こしたのだから、人為的かこれ。
ウォータムはましろを優しく下ろし、俺の胸倉を掴んで前後に揺らした。
視界がぐわんぐわんする。
「なんで言わなかったんだよ!?」
「言ったら来てくれなかっただろ?」
そもそも俺の発言を少しは怪しんでいれば、予測して止めることも可能だっただろう。
例えば、俺がお前らを説得した時の言葉。
『俺達は今は、優位な立場にいるんだ。高火力前衛の光剣使いに、討ち漏らした敵の個別処理が得意なスナイパー。そして全体を俯瞰しつつサポートが可能な俺。大丈夫、負ける要素がない』
まさに、今の状況に照らし合わせた言葉だと言える。
高火力を持ち、更に壁としての役割をこなせるウォータム。
ウォータムが止めきれなかった敵をこちらに来るまでに撃ち抜くましろ。
指示を出しつつ、ウォータムに当たらない場所に手榴弾を投げて範囲ダメージを与える俺。
完璧だ。
勿論、機関銃とかがあれば最高だったのだが、そう贅沢は言ってられない。
「それはそうだが……言い方ってものがあるだろ!?」
「………………あのな」
はぁ……仕方ないな、言ってやるよ。
俺の……本音って奴を、な。
「俺は、お前らのできないようなことを提案した覚えはないぞ?」
「……そうだな、ここはむしろありがとうと言うべきか」
ウォータムは光剣をアイテム欄から実体化し、スイッチを入れる。
ブゥンという音ともに、蒼刃が姿を現す。
「こんなに獲物を連れて来てくれて、な」
そう言ってウォータムは獰猛な笑みを浮かべる。
「ふふ、そうですね。そこまで言われたら私も」
ましろもレーザーライフルを手に持ち、くるくると器用に回す。
「頑張っちゃおうと、思います」
そう言って彼女もまた、声を零すように笑うのだった。
「……ありがとう。じゃあウォータムは50メートル前方で『戦兵の雄叫び』。捌き切れなくなったら下がりつつ魔物を抑えててくれ。ましろは俺と一緒にここで待機だ。戦い方は追って説明する!」
「「ラジャー!!」」
『戦兵の雄叫び』。
これは叫ぶことによる純粋なステータス上昇の効果があるが、それ以外にも効果がある。
それは、使用時の座標が一定範囲の生物に送信されてしまう、というものだ。
端的に言えば、周りの魔物のヘイトを稼ぎやすい、ということ。
定期的に叫んでくれさえすれば、大体の魔物のヘイトがウォータムに向く、という訳である。
「うぉぉぉおおおおおお!!!」
ウォータムが大声で叫ぶと、体の周りに赤いモヤモヤしたものが漂い始める。
あれが『戦兵の雄叫び』による、ステータス上昇効果か。
……なんだあれ。
「めちゃめちゃカッコいいじゃねえか!? ウォータムの癖にぃぃいいい」
「最後は余計だ!!」
青色の刃を構えたウォータムが、こちらに振り向いて叫ぶ。
おいおい、接敵はもうすぐだから気を抜くなってのに。
「よし、じゃあ景気づけの1発、行きますか」
俺は衝撃手榴弾を取り出し、振りかぶって投げる。
ウォータムの20メートルくらい先にある群れの先頭に見事当たり、爆破。
爆風を直接浴びた何匹かがくずおれ、その魔物どもが邪魔で行軍が少し滞った。
まだ生きている同士を踏みつけつつ猪突猛進する彼らは、余程ウォータムにご執心なようだ。
くずおれ、そして踏まれまくった魔物達は無事、ポリゴン体となって弾を残し消滅した。
うーん、あれもフレンドリーファイア扱いになるのか。
俺ら全員剥ぎ取りナイフ持ってるから、もし俺達が倒したとしたら死体が残るはずだもんな。
「うわ……えぐ……」
「……魔物さんが、可哀想になってきました」
「いやいや、これ普通のことだからな!? 俺魔物倒しただけなんですけど!?」
確かに、死因:踏まれまくり、とかは全力で回避したいところだが。
景気付けどころか、テンションだだ下がりじゃねえかふざけるな。
……味方殺しを誘発させただけでこんな目で見られるのは、ちょっとないわー。
くそ、こんなことなら破片手榴弾で、微ダメージでもウォータムも巻き込むべきだった。
というか、もう少し強いの使って普通に倒しとくべきだった。
俺の些細な後悔など気にも留めていないかのように、1匹の魔物がウォータムに飛びかかった。




