14話 ボーナスタイム
役所に行ったのだが、最初に入ったウォータムがまだ出てこない。
あいつ、役所の受付嬢に色目使いやがって。
そんなことは途轍もなくどうでもいいのだが、それに俺が今待たされているという事実が気に食わない。
「よし、ましろ。あいつ置いて先行こう」
「おい待てや」
ちっ、図ったようなタイミングで出てきやがったなウォータム。
そのまま置いてかれて、『ちょ、待ってくださいでげす、置いて行かないでくださいでげす』とか言って土下座でもしてるのがお似合いなんだよお前は。
……完全に脳のリソースの無駄だ、めちゃめちゃ後悔。
「……絶対お前変なこと考えてるだろ?」
「……敬えウォータム」
「それは誤魔化しと捉えていいのか? 斬るぞ?」
「全く……最近の若者はすぐ物騒な方向へと話を進めたがるな」
「お前同い年だろ! そしてさらに言うとお前の方が暴力振るってるよな!?」
「……おれとなかい、17ちゃい。むずかしいことは、よくわかんない」
「そう言いつつ手榴弾構えるのを止めろ!!」
仕方なく、本当に仕方なーく手榴弾を仕舞い、俺は地図をアイテム欄から取り出す。
……さて、今回はどこに行こうかね。
候補は先程行った沼地以外の3つ、市街地、森、荒野のどれか。
「……ましろは、どこに行きたい?」
「……おい、俺にも聞けよ!」
俺が前と同じく、ましろのみに判断を仰ぐのが気に入らないのだろう、ウォータムがすかさずツッコミを入れる。
……えー。
「……仕方ないな、目立ちたがりのウォータム君、君の意見を聞こうじゃないか」
「市街地!」
「却下ぁ!」
「何でだよ!?」
「ちゃんとお前の意見は聞いたじゃん」
「……言い返せねぇ」
はっ、よくあるこの手法に引っかかるお前が悪い。
それを考えに入れる、なんて言った覚えはないからな。
次ウォータムが言ってきたら、『善処します』でいいや。
これ、最近では確実にやらないフラグとなってるからな。
俺もよく使ってる。
「で、改めて。ましろはどこに行きたい?」
「えっと…………荒野とか?」
ふむ…………荒野か。
それは最初に否定したはずなんだがな。
それでもここでそれを出してくるか……。
それは、流石に……。
流石としか、言いようがない。
俺は口角を吊り上げ、高らかに叫んだ。
「採用! よく言ったましろ、大正解だ!」
「え!?」
「おいトナカイ!?」
ウォータムとましろが信じられないものを見るような目で見てくる。
……ましろ、お前もか。
……いやむしろ、よく荒野に行こうと思ったなましろ。
いや、兄に気を使って間違えようとしたのか?
……それなら残念、それが最適解なんだよなぁ。
「確か、PKが集まるから荒野は絶対ダメだって言ってなかったか?」
「はっ、これだからウォータムは」
「馬鹿にするんじゃねえ!?」
確かに、それは真実だ。
確かにPKは、馬鹿な初心者ども(失礼すぎる)を狩るために、荒野の初心者が集まる所に居着いている。
それはつまり、初心者向けの狩場が人で埋め尽くされているということを表している。
……だけどさ、考えてもみろよ。
今日は初日、つまり……
「プレイヤーの殆どが初心者ってことだ!」
「……だからなんだよ?」
「……あ、つまり、PKもまだ弱いってことですか?」
「違う違う、もっと根本的な問題だ」
そもそも、初心者が荒野に集まる理由を考えよう。
開けていて周りが見渡しやすく、魔物を発見しやすいから。
そして何より……魔物を楽に倒せるから。
そう、初心者共はみんな、浅層にいるということ。
そして何度も言うが今日は初日、初心者ばかりの日だ。
……言いたいことは、わかるな?
「……つまり、中層に行く、ということですか?」
「ましろまたまた正解! と言っても、どちらにせよ浅層は通る必要があるから、注意するのは必然だが」
「……無茶、じゃないか?」
ウォータムが、そんなチキンな案を出す。
わかってないな。
今行かないと、今後行けない可能性だってあるんだぞ?
PKが増えすぎて、な。
「俺達は今は、優位な立場にいるんだ。高火力前衛の光剣使いに、討ち漏らした敵の個別処理が得意なスナイパー。そして全体を俯瞰しつつサポートが可能な俺。大丈夫、負ける要素がない」
それに今なら、魔物しか相手に集中できる、というおまけ条件付きだ。
……これは、行くしかないよなぁ?
「……だが……」
「……うーん、やっぱり中層は厳しいかもしれませんね……」
ち、流石に根拠のない精神論じゃなびかないか。
そしてウォータムの否定を見て、ましろも影響され始めている。
……まずいな。
このままじゃ、森か市街地に行くことになってしまう。
市街地はないにしても、森はあり得る。
あり得てしまう。
Sen高いましろと、双眼鏡があれば迷うことはないとは思っているが、それじゃダメだ。
それじゃ、俺の企みが完全に無駄になってしまう。
「ま、待ってくれ。……ウォータム、お前市街地に行きたいって言ったよな?」
「……言ったけど、お前が素気無く却下したんじゃねえか」
「まぁそうなんだが……今から、その理由を説明してやる」
そう、あの否定にはある程度の理由があったのだ。
決してウォータムの意見だから否定したという訳では……少しあるが、勿論それだけではない。
市街地は高低差があるため、位置取りが大切であり、そしてそれには連絡手段が必要不可欠なのだ。
できれば連絡手段ありきで行きたいと思っていたんだよな。
俺、リスクの高いことはあまりしない性質なので。
「つまり、俺達に必要なのは、連絡手段! それを買うために必要な物はなんだ?」
「「お金」」
お、おう。
よくわかってるじゃないか、2人とも。
「そう、そうなんだよ! ……そこで俺は、1つ予想をたてたんだ。そしてもし、その予想が正しければ、今頃荒野の中層では……」
俺はそこで言葉を一旦区切り、咳払いをしてから言い放った。
「ボーナスタイムが、起きているはずだ」




