11話 どうだかな
4/11:武器のグレードの訂正。
4/16:武器のグレードを再設定。
……というか、実弾銃は殆ど実在するものに変更しました。
「……やっぱり、こうなるよな……」
「うぅ……すみません」
「いや、気にするな」
俺達3人は、溜息を吐きつつ帰り道を歩いた。
────
時は3時間前に遡る。
PK5人をキルし、そこで得た一部の金をPKされた人に渡す、そう決めた俺達は街に戻り、昼食を摂りに一旦別れた。
そしてその1時間後に集合した俺達は、とりあえずスナイパーライフルと今回の探索で得た素材や要らない弾を売りに行くことにした。
「このライフル、少し勿体無いが店売りでいいよな、もう見たくもないだろうし」
「はい、できればそれで」
という訳でそれらを全てデータの藻屑にして、得た資金は、
「……うーん、少し微妙だなぁ」
そういう感想を、抱かざるを得ないものだった。
まず、この狙撃銃──ドラグノフというらしい──は、そこそこの値段で売れた。
それは、良いことだ。
だが、どうせ配る金だ、どれだけ高くたってそこまで関係ない。
問題は、それによる、今回の戦果の少なさだ。
……ドラグノフの売却額を見てしまうと、今回の利益が少なく見える。
1時間半の狩りでこの額というのは、少し微妙では無かろうか。
あいつらが持っていたお金1000Gを含めても、3人で分けると初期資金にすら満たない。
更に言えば、俺は色々手榴弾を使ってしまっているのだ。
それを考えると、完全に赤字だ、くそったれが。
勿論、双眼鏡を得られたのはでかい。
むしろそれだけで全て精算できそうな気もするが、それはそれ、これはこれだ。
「……別に、均等にしなくてもいいんだぞ」
「いや、俺が言ったことだ、守るさ」
関係ないが、今回の主利益、双眼鏡によって、俺達は念願の別行動が可能になった。
と言っても、連絡手段が確立されるまではやるつもりはないが。
あくまで、エンカウント率を2倍にすることも可能、ということを言いたいのだ。
……その場合、3人による会話ができなくなるのも痛いしな。
「……さて、あまり気乗りしないけど、行きますか。……あまり気乗りしないけど」
「う、……ありがとうございます」
CWOに置ける復活地点、役所の前の泉へ。
……ちなみにこの時点で1時間40分なので、回想はまだまだ続く。
────
目的地に着いた、のだが……。
「……やっぱり、きついんじゃないか?」
そこには、今もなお増え続ける犠牲者達の姿。
その中には恐らく魔物に殺された部類の人々もいるのだろうが、大体は多分PKによる仕業だろう。
少なく見積もっても、30人はいる。
1人1人に配れる額は、当然少なくなってしまう。
勿論そのお金に救われる人もいるだろうが、デスペナによって落とした物は恐らくそれよりも多いだろう。
……いや、そうでもない……のか?
お金は確かに半分になり、装備している物を落とすこともあるが、初心者装備はドロップしない。
そしてアイテム群も、実はそこまでドロップしないのだ。
後はデスペナとしてステータスに下降補正がつくくらいだが……。
この条件で俺らが配るのより損をした人間っていうのは、よっぽど運が悪いか、初心者セットを頼って何も買わずに突っ込む様な無策な人間しかいない、てことだ。
逆に言えば、それ以外は殆ど得をする、もしくは殆ど損をしないはずだ。
そのことをましろに伝えると。
「それなら、尚更やるべきですよ」
損する人が少ないからこそ、損してしまった人の立場が浮き彫りになる。
彼女はきっと、そう言いたいのだろう。
「……そうかもな」
その答えを聞いて、覚悟が決まった。
俺はドラグノフの売却金をましろに譲渡し、
「ましろ、ショップである程度準備した奴には100G、買わなかった奴には200Gあげろ。安心してくれ、嘘吐きは俺が見抜く」
「……はい、わかりました!」
仮にここに40人いたとして、それで計算すると……馬鹿が半数近くいない限りは、不足するような事態には陥らなさそうだ。
……まあ、なんとかなるだろう。
「皆さん、聞いてください! 今からPKにやられてしまい、失意の底にいる人皆に、お金を配りに来ました! このお金を使って、ショップでしっかりと準備をしてから、またフィールドに向かってくださると私は嬉しいです!」
最初は、皆訝しげにこちらを見ている。
当たり前だ、先程同じプレイヤーにやられて死に戻りしてきたのだ。
最初から信じて、こちらに並んでくれるなんて思っちゃいない。
……そこで、必要なのは前例。
そう、つまり──
「……んじゃあ、俺にお金をくれないか?」
泉の縁に腰かけていたウォータムは、ましろにそう言い、ぶっきらぼうに手を差し出した。
──必要なのは、サクラだ。
「はい、喜んで!」
ましろは、いつもと変わらない満面の笑顔でウォータムの手を取った。
────
ウォータムの演技が俺には大根に見え、少し心配にもなったが、概ね成功と言えるだろう。
ほくほく顔のサクラが去った後、獣の唸り声のような声をあげ、プレイヤー達がましろに突進してきた。
それを俺が筋力に任せて止め、
「順番に並んで頂ければ、今いる方々全員にお渡ししますのでどうか!」
と何度も叫び、なんとか彼らは並んでくれた。
疲れた。
……ウォータムもいればもっと楽だったのだろうが、生憎あいつはサクラであり、一緒に止めてるのを見たら嫌でも関係性を疑われるから、無理だった。
ちくしょう、巻き込みたかった。
とは言え、作戦は順調だ。
ましろが数少ない若い女性プレイヤーで、尚且つそこそこ可愛いのもあるだろう。
今のところそこまで200Gは出ていないらしく、このままなら問題なく終われそうだ。
……と、思ったのだが。
「おいおい、ここでお金配ってるらしいぜぇ」
「まじかよ、なぁ、俺らにも分けてくれよ」
いかにも柄の悪い2人が列に横入りして、無理矢理こちらにきた。
……はぁ、めんどくさい。
「……お二方は、死に戻りしてここに来たんですか?」
「……ああそうだよ、それがどうかしたかい嬢ちゃん」
「……!」
嘘だな。
ある程度人の心の機敏が理解できる俺には、それが嘘だということがわかった。
何より、あいつらは役所から徒歩でこちらに来た。
つまり、端から死に戻りなんてしていないのだ。
勿論死に戻りしてから役所行って、その帰りかもしれないが、俺にはわかる。
あいつらは、死に戻りなんてしていないと。
「で、では、お金を……」
震える手で、お金をトレードしようとするましろ。
それを俺は、手で制した。
全く……嘘吐きはほっとく訳にはいかないからな。
ついでに横入りしてやがるし。
俺の時間と手間を無駄にかけやがって、覚悟はできてるんだろうな?
「すみません、この子は今少し体調が優れない様でして……この子の代わりに、俺が担当します」
────
「ああ? おれはこの子に頼んでんだっつの。関係ないやつは引っ込んでろよ」
こめかみに青筋を浮かべ、こちらに怒気を向けるチンピラA。
はいはい、わかりましたわかりました。
「関係ない訳じゃありません、俺は彼女の代理であり、彼女の代わりにお金を渡す義務があります」
「……そうか、それならいいんだ、ほらさっさとしろよ、後が支えてんだろ?」
それはお前らのせいだ。
早く退けよこの野郎、横入りしやがって。
……はぁ、なんか疲れるなぁ、こういうの。
「では、渡しますね」
笑顔を浮かべつつ、俺はトレードを始めた。
「……はぁ!? 何だよこの額はよぉ!!」
「あら? お気に召しませんでしたか?」
「あったりまえだろこの野郎、なんだ3Gって!!」
そう、3G。
地味に困ってたんだよな、この3G。
1G単位で買えるものが存在せず、最低でも5Gだったから、ちょうど良かった。
この3Gで、こいつらが満足してくれるなら、こちらとしても万々歳だ。
「……はぁ。でもこちらはお金を渡すとしか言ってませんし、何G渡すかなんてこちらの裁量に決まってるじゃないですか。あ、安心してください、今までの方々には全員ちゃんと100G渡していますから」
俺の言葉の前半で恨めしそうにこちらを見る人がいたが、後半でそれもなくなった。
実際は嘘だが、まぁ多めに貰ったやつはラッキーと思ってくれるだろう。
というかこっち見た奴ら。
俺はお前らのために配ってやってんだぞ。
自分だけ少し少ないかも……とか、下らないこと考えてんじゃない。
頭が高いんだよ。
「だったらおれらにも寄越せよ100G!」
「そうだそうだ、贔屓して良いのか!?」
「……一々うるさい奴等だなお前ら、贔屓ならもうとっくにしてんだよ不本意ながらな」
あ、やべ、イライラでつい本音が漏れた。
もういいや、このままごり押そう。
「あ、成る程、もう少し欲しかったんなら言ってくださいよ~。…………2個追加」
俺はアイテム欄から、初心者用手榴弾を2個取りだし、同時に歯で栓を抜いて2人の口内に叩き込む。
爆発。
口から煙を吐きつつぶっ倒れる2人を見下ろし、俺は呟く。
「……やっちまったなぁ」
まぁ不快だったし、これはこれですっきりしているのは確かなんだが。
もうちょい穏便なやり方もあったよなぁ……。
「まあ、やっちゃったものは仕方ないか……ウォータム、こいつら運んじゃって」
「あいよ」
もうどうせ、十分愛護精神は伝わっただろう。
サクラだとばれても特に問題ない。
ウォータムがどこか目立たない所に死体(死んでない)を遺棄しているのを背景に、俺はにこりと笑顔を浮かべて言った。
「……さて、すみません、少し立て込んでいましたが、再開したいと思います。ですが初期から並んで頂いている方は確実に渡せますが、途中からの人は渡せない方も出てくると思います。その時はどうか……ご賢明な判断をと、思います」
『……………………はい』
これで、良いだろう。
……なんだか恐怖政治みたいになってしまったが、まぁ何でもいいや。
────
結局ドラグノフの売却金どころか、俺とましろの所持金の殆ども使って、漸く騒ぎが収まった。
……というより、残金がなくなってもう渡せなくなったのだ。
俺は元々売却金を使い切ったら帰るつもりだったのだが、騒ぎが大きくなり引くに引けなくなった。
それに加え、途中で止めようとすると、ましろがやけにうるうるとした瞳で見てくるのだ。
……畜生が。
……はぁぁ無駄骨だぁ、俺は一体何をしてたんだろう。
めちゃめちゃ損してんじゃねえかよふざけんな。
……まぁ、なんとなくこうなる気はしてたけどな。
「……やっぱり、こうなるよな……」
「うぅ……すみません」
「……いや、気にするな」
「……俺のも含めた合計900Gを、また分けなおそうぜ」
「……気遣いありがとう、ウォータム……」
ちなみに3Gはトレード完了する前に爆破したため、まだ手元にある。
良かった良かった。
良くねぇよ馬鹿野郎。
これで売却金全て吹っ飛んでんだぞ。
更に消費したものの合計を考えれば、もう完全に赤字……ではないけど確実に破産への一途だ。
……はぁ。
「あの……」
ふと、ましろのものでもウォータムのものでもない声が、後ろからかけられた。
……勿論、俺のでもないぞ。
女性の声だ。
「ん? 俺達に何の用だ?」
振り向くと、そこには大学生くらいの男女4人組がいた。
……見覚えがある、確かこいつらにもあげたな。
それも、全員200Gを。
覚えてるぞこんちくしょう。
何の用だよ本当に。
「……ありがとう、ございました」
「ありがとうございました……」
「……本当に、助かりました……」
「これで、また頑張れます」
彼らはそれぞれ、お礼の言葉を述べた。
「……そうか」
なんと言うか、言うべき言葉が見つからなかった。
だから俺は、とても陳腐な言葉を、かけてしまうのであった。
「……頑張れよ」
彼らは、思い思いの返事を返してくれた。
────
「…………」
「…………」
「…………」
俺達は暫く、無言で歩いた。
ましろが、ぽつりと呟く。
「やって、良かったですね」
「………………どうだかな」




