9話 ナンセンス
「あ、あっちの方に潜伏中のスワムプワームがいますが、どうします?」
「じゃあ俺が手榴弾投げるよ、どこにいるんだ?」
「えっと、北北西方向の距離約95メートル先です。……行けますか?」
「余裕だよ、爆破に巻き込むだけならな」
ましろサーチは、今も変わらずその猛威を振るっている。
そして弾や魔物の素材も、結構ゲットできた。
これを売れば、そこそこのお金になるだろう。
どれもこれも全部、ましろのお陰だ。
俺なんて、今手榴弾投げてワーム仕留めたのと剥ぎ取りくらいしかしていない。
……あれ、俺ってばもしかして、いらない子?
「……あれ、俺さっきの以外働いてなくない?」
「……そういえばですね」
「……あ、仕事量としてはウォータムもあんま変わんないなー、むしろ沼行くことを提案した分、俺の方が仕事してるかなー」
「おい、トナカイ? お前後で覚えとけよ」
嫌だなぁ、もう。
俺って都合の悪いことは忘れちゃうタイプなのよね。
「そういえば、働いていない関連の話なんだが」
「……なんかまともな話題にならなそうな振り方だな」
「今日の収穫って、どのくらいなんだろうな?」
「意外とまともな話題だった!?」
アイテム量としては、そこそこ貯まってきている。
これを売れば、まぁ、初陣としては上出来な量ではないだろうか。
そしてこの戦果は、ほぼましろのおかげ。
つまり、ましろ最強、ということだ。
「……ましろ様様だな、一家に1人は欲しいなぁ……なぁウォータム、ましろくれない?」
「っえええええええ!?」
「ダメに決まってんだろ!! お前みたいなクレイジー守銭奴になんて絶対にやらん! ましろも騙されるな、こいつは口先だけが達者なドケチ詐欺師だぞ!」
「……ちぇ、そこまで言うことないじゃんかよ」
「お前にはいつももっと酷いこと言われてるんだがな! 後否定してくれよチクショウ!」
否定も何も、否定できる要素がないっていうね。
どう否定すればいいのやら。
……と、そろそろ時間だな。
「……よし、そろそろ帰るか?」
「……そうですね、もうすぐ時間ですしね」
「よし、じゃあ誰が1番早く帰れるか、競走しようぜ!」
「お前に決まってんだろ。後、帰るまでが探索だ、気を抜くなウォータモ」
「ここにきて言い間違い!?」
ドアホ、今のはわざとだが、俺だって言い間違いはするぞ、全く。
今のはわざとだがな。
……ふと、背筋が凍るような感覚を覚えた。
咄嗟に走り出す。
その時、いきなりましろが叫んだ。
「っ! 前から高速でなにかが」
なんとなくそれを察していた俺は、ましろに横から突進し、押し倒してその射線上から庇う。
あれは、そう、銃弾だ。
目視はできなかったが、あれはそうだ。
……ははっ、なんてことだ。
初陣では、魔物狩りをするって決めてたのになぁ。
どうやら神様は、どちらの要望も、叶えてくれるそうだぞ。
随分と心優しい、神様だなぁおい。
はぁ、嬉しいなぁ。
奇襲されるという、最悪の要素さえなければな。
更にこんな、視界の制限された所で、狙撃手の攻撃を、な。
くそが。
俺は奇襲をしたかったんだよ。
されたい訳ないだろうが。
ウォータムも何が起きたかを察し、銃弾が飛んできた方向へ突進する。
「ウォータム待て! 早まるな!」
ウォータムはそこで止まり、こちらを振り返る。
彼も妹を攻撃され、頭に血が上っていたのだろう。
この一瞬で、突っ込むのが愚行だと悟った様だ。
「……だったら、どうすればいいんだよ!」
ましろが感知できなかったと言うことは、少なくともましろの感知範囲外にいることになる。
また、この霧の中、ましろに正確に銃弾を撃ち込んできた事実から、相手はましろ以上のSenを持っていると予測される。
……いや、それにしては弾道が正確すぎる。
ましろと比べても圧倒的な差があると見ていい。
……ある程度日が経過しているならともかく、初日に、なんでそこまでの差が生まれる?
……まあいい。
そんな相手に、いくらAgiとVitに優れているウォータムとはいえ、こんな霧の中、更に沼地で接近戦を挑む……?
ナンセンスだ。
それは自殺行為にも等しい。
相手も移動して、霧の中一人で迷うのがオチだろう。
……だからと言って、このままでは次の弾丸で恐らくましろが死に、俺が死に、ウォータムも死ぬ。
……だが、相手の場所がわからない上、相手の数も未知数。
恐らく仲間がいるとすれば、固まっているとは思うのだが、どのみち居場所がわからなければ関係ない。
まずいまずいまずいまずい!
考えている間も、刻一刻と時間は過ぎていく。
ふと気付いた。
ましろが、震えている。
その顔は悲哀に染まっていて、今にも泣き出しそうだ。
「……ごめんなさい」
その声は掠れ、か細いものだったが、俺の耳ははっきりと捉えていた。
違う、悪いのは俺の情報不足だ。
沼地に濃い霧が漂っていることを、俺は知らなかった。
だが、ましろの感覚の鋭敏さに気付き、見て見ぬふりをしていた。
襲撃を受けた瞬間も、俺は無意識下で思っていたのかもしれない。
“ましろに任せて置けば、問題ない”、と。
『銃で撃たれても体は痛くないが、精神は痛んだままってことだろ?』
『そんな奴等、辞めてしまえばいいんです』
クルーエル・ワールド・オンライン。
残酷な世界。
……それがどういう意味の言葉なのか、果たして俺は本当に知っていたのだろうか。
PKされる側の気持ちを、果たして俺は本当に知っていたのだろうか。
わからない。
わからないが――
今ここで俺が考えるのを止めたら、きっとこの子はこのゲームを辞めてしまう。
なぜだか、そんな確信があった。
根拠なんて、無いはずなのに。
考えろ。
考えろ。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
ただひたすらに考えろ。
脳が焼ききれるほどに考えろ。
俺の頭はなんのために付いている。
こういうときに、考えるためだろうが。
考えろ。
考えろ考えろ考えろ。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
この状況を打開する一手を。
……そして俺は、一つの考えに行き着いた。
……これも一つの賭けだが……勝算は悪くない。
少なくとも、このまま黙ってやられるよりかはましだ。
……逃げることも考えたが、どうにも性に合わない。
戦おう、最後まで。
「ウォータム、ましろを抱えて走れるか?」
「走れるが……何か思い付いたのか!?」
「まあな。……ましろ、後少しでいいんだ。頑張ってくれないか?」
「っ! ……はい……!」
その声は恐怖からか少し掠れていたが、どこか力があった。
強い子だ。
……俺とは、大違いだな。
俺は二人に軽く作戦を伝え、その準備をする。
まあ、両手に手榴弾を持っただけなんだがな。
「準備はいいか? 行くぞ!」
「おう!」
「が、頑張ります!」
そして俺は……手榴弾を自分の足元に投げつけた。




