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繭の子  作者: みじんこしろいな
2/2

1話

1駅目、辺境のローカル線程度には続けていきたいです。

 捕まった。これから俺はどうなるのだろう。

 部屋を覆っているものと同じであろう糸で手足は縛られ、口も同様のものでふさがれている。目の前には、捕まえた張本人であろう蟲と人間の中間のような化け物がこっちを蜘蛛のような浅光する目で見つめてきている。

 目的は全く持って不明。こちらが目覚めたというのに化け物は無反応で何もアクションを起こさない。

 捕らえてどうするつもりだろうか。生かしているということは何か理由があるはずだ。状況からのみで考えるのなら、生餌だろうか。

 そうだとして食べるのは誰だ。目の前のこの化け物か、それとも繭の中身だろうか。

 前者だとすれば、なぜ今すぐに食べない?すでに満腹で、保存食にしているという可能性はある。

 後者なら、どうだろうか。羽化する虫は大概、羽化後は食事は必要最低限のものとなり、パートナーを見つけ子孫を残すことに集中するものだ。

 そうだとすれば羽化してすぐ、人ひとり喰わなければならないというのは効率が悪すぎる。

 いや、そもそもこんな化け物に普通の虫の生態をあてはめること自体が間違っている。おそらく目の前にいる化け物が羽化した後の姿なのだろう。だとすれば人間大の体を維持するのに相応の食糧を必要とするのは当然かもしれない。

 どちらにしても餌にされるのだったら、死ぬしかない。

 もしも、食べることが目的でないとすれば・・・・・。何も思いつかない。

 それも当然である。どう見ても戦隊ものの怪人にしか見えないこの化け物に捕まって、なにかしら希望的な考えを持つのはほぼ不可能である。パニックホラーや特撮の視聴者ならなおさらだ。


 ヌチャリ


 粘膜をまとったものがこすり合うような不快な音。この場でそんな音を出すものは一つしかない。あの繭だ。

 そして大きく蠢いたということは、あれの中身が出てくる準備が出来てきているということでもある。

 時間がない。時間はないが、何ができるというんだ。

 喚いて暴れたところで、手足を縛られ口をふさがれたこの様で大したことはできない。思考はすでに諦めの方向へ向いていた。

 どうせ死ぬのなら潔く。パニックホラーで逃れられない死を目の前にして必死にもがく姿を見て見苦しいと感じていた。当事者になって、その感情が活きたままなのは、良いことなのか悪いことなのか分からない。

 そうこうしている内にも、不快な音を立てながら繭に写るかげ影は大きく蠢き続けている。


 ピタリと音がやんだ、合わせて影も変形をやめる。先端が傷口に貼られたガーゼのように紅色がにじみ出る。紅色は広がりながら徐々に黒み帯びていき、ついに先端の方は暗影のような色になっていた。

 いや違う、色が変わったのではなく穴が開いたのだ。穴の奥に蠢く何かがうっすらと見えた。

 繭はすでに全体が赤黒く染まり、元の綺麗な白色は見る影もない。

 ヌタリ と真っ白な2本の腕のようなものが穴から這出てきた。一見、人の手と同じようにも見えたが余りにも白すぎるし、よく見れば指は関節ごとに区切られていて、色と相まってマネキンの手のようだ。

 それらは探るような手つきで、穴の淵を撫でる。触れたところから繭はあっさりと崩れ、穴が広がる。おかげで繭のなかにも光が差し込み、中の化け物がよく見える。

 姿はほぼ人の女性。胸は豊かで、肌は腕同様に、全身真っ白で生物感がない。顔は一般的に見れば美人の部類だろうが、人で言う虹彩は混じり気のない黄色で不気味だ。これが出来のいい人形だと言われれば、そうれを信じただろう。

 俺を監視していた化け物よりは、はるかに人間に近いとはいえ間違いなく人では無い、化け物だ。

 化け物は、一心に這いずるようこっちに向かってきている。さながら、おもちゃを手にしようとする赤ん坊のようだ。

 実際はそんなに可愛らしいものではない。アレは俺にとって不幸の元凶なのだから。

 いざとその時になると、はやり死は怖いのだろう。思考とは反対に、体は激しく死を拒絶する。体が震え、全身から汗が噴き出でて涙も流れる。心臓が痛いほどに鼓動する。

 ついに化け物が鼻先まで迫ってきた。

 終わりだ。死ぬ。目を固くつぶり、襲い来るであろう激痛に身構える。

 しかし、化け物は予想外の行動をとる。おぼつかない手で俺の頭を撫回す。恐る恐る目を開けると、浅光りする目に自分が写る。ひどい顔だ。

 化け物がゆっくりと口を開く。


「はじめまして」



2連続、主人公寝落ち。

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