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Guilty or not guilty

作者: 光雪 彼方


 ここはどこだろうか?

 目隠しをされているのか、真っ暗で何も見えない。

 眠っていたのだろうか? 意識はしっかりしているから多分そうなのだろう。

 しかし……いつまでも真っ暗のままというのも困る。

 目隠しを外そうと思い手を動かすが、意思に反して俺の腕は少しも動かすことが出来なかった。

 脚も動かそうとするが、やはり腕と同じで動かない。

 そこまで確認して、ふと妙な音が聞こえるのに気づいた。

 その音は二つ。一つは俺以外の誰かの声。低音の声音から男だと分かる。

 位置的には……恐らく俺の正面。

 しきりに騒いでいる所から俺と同じ状況なのだろう。

 そしてもう一つは……微かにだが徐々に音が大きくなっていく金属の音。距離は遠そうだ。


「おい! お前喋れるか!?」

 対面の男から俺に向けてだろう、声をかけられた。

「あぁ喋れる。今俺達はどうなってるんだ?」

 その問いかけに声を出すことで返事とした。

「分からねぇ……気づいたらここにいて……あんたはどうなんだ?」

「俺も同じだ」

「くそっ! ……あんたその目隠しで周りが見えないのか?」

「っ!? そっちは目隠しをされてないのか?」

「あぁ……だが正直目隠しをされていた方がマシだったぜ」

 対面の男は一つ溜息を吐いた。

「どういうことだ? それは……この音と関係があるのか?」

「あんた頭良いんだな……。あぁそうだ! 俺達の命はもう諦めた方が良いってことだよ!」

「意味が分からない。周囲がどうなってるかもう少し説明してくれ」

「……説明するのも怖ぇ。でもまぁこのまま死ぬよりは良いか……端的に言えば俺達の左右から徐々に金属の棘が……無数の棘が近づいてきている」

「棘だと?」

「あぁそうだなんと言ったか……西洋の拷問に使われてたような――」

「アイアンメイデンか。……それは徐々に足先から頭に向かって近づくように――階層状に作られてないか?」

 男が息を飲むのが空気で伝わる。次に対面の男が言う台詞が俺には分かる。

『どうして知っている!』

「って同じ言葉言うなよ!」

「悪い悪い。こんな状況だから少しでも楽しくしたかったんだ」

「楽しくってよぉ……」

 対面の男が目隠しをされていない。階層状に近づくアイアンメイデン。これだけで状況はお釣りが来るくらい分かるものだった。

「そっちは……何をした?」

「何をって?」

「……しっかり言うならどんな犯罪を犯した?」

「っ!? あんたそんな事までなんで知ってるんだ! まさかあんたがこんな事をしたのか!」

 対面の男の声が怯えている。……このまま、怯えを解かなければ俺達は間違いなく死ぬだろう。


「良く聞いてくれ。この仕掛けを作ったのは俺だ」

「はっ? あんた何を言ってるんだ!? 自分でかかる奴がいるか!?」

「かかったんじゃない。かけられたんだ」

「……訳が分からねぇよぉ」

 一から説明しないと無理か……。

「俺は拷問器具を制作することが仕事だ。今回頼まれた仕事はこのアイアンメイデンの制作。依頼主は……どこぞの政府の高官だったな」

「政府のっ? まさか……」

 この目隠しが無ければ男の絶望に歪んだ顔を見ることになっただろう。

 それだけは俺にとって唯一の救いだった。

「徹底的に惨たらしく、最後の最後まで苦しめて殺してくれと依頼を受けてね。作ったのがこのアイアンメイデンだ」

「惨たらしく……」

「あんたが轢いた娘さんのようにと」

「ひぃっ!」

 普段のお得意様以外で初めて来た政府の高官からの依頼。

 多少、嫌な予感はしたがまさかここまでやってくれるとはな。

「知ってるよな? 娘さんは助からなかった。その復讐ということだ」

「……う……ぁ」

「こんなことを言うのはどうかと思うが俺も人のことは言えないんだよ」

「ど、どういうことだ?」

「実験に犯罪者を使ってるからな」

「ひっ!」

「まぁそんなに怖がるなよ。頑張れば……俺達なら……助かるかも知れん」

「そうか! あんたが制作者ってことは」

「解除の方法も知ってるってことだ。だが試作品にしかその機能は付けてないんだ」

「こ、これは!? どうなんだよ!」

「……それを知る為に、まず協力してほしい」

「どうすれば良いんだ! 早く教えてくれ! もうすぐ針が脚に刺さりそうなんだ!」

 ……想定していた時間よりも針の近づく動きが早い。

 最悪の状況だ。対面の男の勇気に賭けるしか無いか。

「俺は今から酷なことを言う。覚悟は良いか?」

「良いから早くしろっ!」

「右足に針が刺さったら右足首の枷が壊れて外れる。針には返しが付いているが……外そうとしないでそのまま右足を押し込んでくれ」

「はっ? お前馬鹿か! そんな事したら――」

「そこに左手の枷が外れるスイッチがある! 外れたら……俺の右にある……あんたから見たら左だな。その針の奥に最後のスイッチがあるからそれを押せ。それで助かる!」

「それって……外れても左手を針に押しこめってことかよ! 出来ねぇよ!」

「じゃあ二人共お陀仏だ」

「クソっ!」


 徐々に耳に聞こえる音が大きくなっていく。それは近づく針の音。

 階層状のアイアンメイデン。それは通常のアイアンメイデンと異なり刺さった時にはまだ死なない。

 まず二人を向かい合わせに座らせる。そして片方には目隠しを。

 これによって見えない側には見えない恐怖を。見えてる側には敢えて口に出して見えない側に状況を伝えるという苦痛を。

 そして時間と共に左右から、両足、両腕、頭の順に針が刺さっていく。

 針も注射針を少し太くした程度なので、本家のように極太でない分苦痛を与え続ける仕様だ。

 四肢を拘束しているのは皮のベルト。だから刺さっていく時に千切れる。

 その時に男が己の右足を処刑具の奥へ捧げることができるか……。

 刻一刻と己の身体に近づいていく処刑具。

 俺は目隠しで見えていない分、見えている恐怖とは無縁だ。

 だが対面の男は見えている分、助かる為とはいえ、そこに自分の足や手を突っ込む事への恐怖は死に値するだろう。

 対面の男の心が折れた時……俺の人生も……終わりだ。

「後一分もしない内に俺の両足に針が刺さる。……本当に助かるのか?」

「……嘘偽り無く話そう。それも運だ」

「なにっ!?」

「そこに解除スイッチが無ければ。これは試作品じゃなかったことになるからな」

「う、うぁ……」

「大丈夫だ。もし出来なくても恨みはしない」

「…………」

「この仕事をすると決めてから、良い死に方はしないと分かってたからな」

「はぁ……はぁ……」

「もう時間無いだろ? 検討を祈るよ」

「く、クソッタレがぁああああああ!」


 対面の男の叫び声と同時に針が肉を刺す音が聞こえる。

 一本一本の血管が千々に千切れていくのもだ。その中で異音があった。

 もっと奥まで押しこむような靴擦れの音。

 カシャンと外れる枷の音色。

 どうやら……ここまでは成功のようだ。

「や、やったぜ! ぐぁあああああああ!!」

「喋ってる暇は……無い。針はそこからどんどん上がっていくぞ」

「駄目だ……そんな、針の、中に左、手突っ込めねぇよ!」

 ……やはり心が折れたか。

 いや、むしろ最初の段階で良く折れなかったものだ。

 それだけでこいつは良くやった。賞賛に値するだろう。

「残念だが、これで――」

「うわぁあああああああああ!!!!!!」

 対面の男の絶叫と共に右耳の近くに肉が抉れていく音と、生暖かい粘液が耳を覆っていく。

「良くやった……」

 最後の枷である、俺の左手の枷が外れる音を確認し、躊躇なく左手を対面の男の右耳近くへと突き出す。

 見えていなくとも、男の身体的特徴は頭の中にある。そこから考えれば容易に――

 目の前で花火の爆発を見たかのような光と共に意識が沸騰しかけるが、それを無視して奥へと捻じ込む。

 左手の感覚が殆ど無くなり始めた所で針とは別の感触に触れた。

 その瞬間騒音が鳴り響くと同時に……機械の動く音が、止まった。

「痛てぇ……痛てぇよぉ」

「お前の勇気の証だ……あぁ……最後にもっと痛くなるけど我慢しろよ」

「はっ? どういうぐぁああああああああ!!!!!!」

 再び騒音を奏でて、機械が一瞬にして元の位置へと戻った。

 即ち、返しが付いた針が全て引きぬかれたのだ。

 自由になった右手で目隠しを外すと対面の男は息はあったようだが瀕死と言って良い状態だった。

「はぁ……はぁ……あんた……大丈夫、か?」

 この仕掛けは、相手と同調して動く仕掛けだ。当然俺の足も血だらけになってるのだが、相手の心を折らないように声を出さなかったのだ。

 しかし対面の男もまた傷の度合いは同じ。それでも自分の状況を置いてまで相手のことを心配するこの馬鹿に、不覚にも俺は胸が熱くなってしまった。

 懐から携帯を取り出し電話をかける。


「ドク。俺だ至急仕事場に来て欲しい。俺達が死ぬ前にな」

 携帯を切ると倒れている男の肩に手を貸す。

「あ、あんただって……」

「拷問器具の作り過ぎでな、大分痛覚が死んでるんだ」

「ふ、不公平だ……」

「すまんな。それに過去のトラウマで拷問をかける相手のことを直視出来ないんだ」

「ん……?」

「ようするに目隠しされていて良かったってことだ。じゃなきゃパニックになって二人共お陀仏だったよ」

 男は苦笑いを浮かべた。

 そんな男を見ていて、柄にも無く俺は聞かなくて良いことを聞いてしまった。

「……あぁ、あんたさ娘さんを轢いたよな?」

「…………」

「あれって娘さんの方が飛び出したんだろ? で、後ろに娘さんがいなかったから……車の下で気づかなかったから、そのまま去ってしまった。だがその時にはまだ娘さんは生きていた」

「そ、それは……」

「あんたは赤信号に気づかず轢いてしまったとそう証言した。だが実際は青信号。事実は話さなかった」

 男の目から涙が流れる。

「あの後……走ってからサイドミラーを確認したら……女の子がいた。直ぐに……戻った。彼女はもう瀕死で……最後にパパとだけ言って息を引き取った。状況は……関係ない。俺が殺したことに間違いは……無いんだ」

「…………これさ何で二人分の仕様か分かるか?」

 先ほどまで拘束されていたアイアンメイデンに首を向ける。

 男は静かに首を横に振る。

 伝えるべきか悩んだが、伝えておいたほうが良いだろう。この世には最悪で下衆な奴がいることを。

「これさ……あんたとあんたの奥さん用に作られたんだ」

「なっ!?」

「あんた一人の命じゃ足りないとも依頼されててね。まぁ奴からすれば俺も一緒に処分したかったみたいだ。一人だけで使えば解除出来ないのに依頼した手前しっかり二人分で試したのが奴のミスだ」

 扉の向こうが騒がしくなってきた。恐らくドクが来たのだろう。

「依頼は最悪な形で裏切られちまった。俺はその復讐をしなくちゃいけないんだが……あんたはどうする?」

「妻に……会いたい……」

「そうか。それが一番だ……ともかくあんたのおかげで助かったビジネスライクな俺だが……」

「……?」

「命を救ってくれたあんたは友達……いや同じ血を流したんだ……親友と言っても差し支えないな。この後どうなったかは親友のよしみで最後まで報告してあげよう」

「……殺すのか?」

 どことなく悲しい目で見る彼の目を見つめ返して頷く。

「当然。奴が下衆なら俺は更にそれ以下だからな。どうやって拷問しようかしかもう考えられない」

「じゃあ……俺からの依頼だ」

「なんだ?」

「その父親が……あの娘さんが最後に想った父親なら……見逃してやってくれ。それが俺の……親友の頼みだ」

「…………ふぅ。親友の頼みとあっちゃあ、しっかり答えなくちゃならない……な」

 俺は勇気ある男に肩を貸しながら、彼と一緒に微笑んだ。


 ―完―

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