閑話
王城の暗い一室でこの国の王とヒューキンがワインを片手に話している。それだけなら普通のことだが二人の顔は今までに見たことがないような歪んだ笑顔をしている。
「それでどうだ?勇者達の様子は?」
「はい。一人しか転移させられませんでしたが、効果は絶大でした。皆さん今までより必死に訓練しています。」
「そうか・・・狙い通りだな。」
「ええ・・・何人か消すことで危機感をあおり、そして敵意をエデルリート帝国にも向けさせる。これほどうまくいくとは思いませんでしたけど。」
「なあに、元の世界ではぬくぬく育ってきたらしいではないかそんな奴らが目の前で人の命が失われる場面を見ればすぐにそうなると思っていたよ。それにいなくなったやつというのも全然使えないやつというじゃないか、ふははこうも思惑道りに進むと笑いが止まらぬよ。」
「はいそうですが・・・ただその者のことを慕っていたものが何人かいましてそいつらがいっこうに部屋から出てこないみたいで、メイド達の話では中からは声がするみたいなので逃げ出してはいないみたいですが」
それを聞くと王様は嫌らしい笑みを浮かべる。
「そうか・・・それは使えるな。」
「というと?」
「憎悪とは人を強くする物なのだよ。いいかそいつらを絶対に逃がすなよ・・・これで私が天下を取る日がどんどん近づいてきたな」
「そうですね。王様」
この国は集達が来る前から腐っていた。
いやこの王が王位についた時から腐り始めたのだ。
だから召喚された勇者達は被害者なのだ。例え殺しが禁止されている異世界から来たとしても世界が違えばその世界に染まっていく。そしてこの世界では殺されても言い訳は出来ないのだ。なら殺すしかない。「やられるまえにやる」そういう考えのもと勇者達は強くなっていく。いずれ彼らを助けてくれる者に出会うまで。
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そんな中王様達が話していた件の集の家族達は・・・
「さて、集はどこの国にいるでしょう」
陽気に話し合っていた。
「そうですね。集先輩のことですからドラゴンとか生息していそうな国にいそうです」
「そうね・・・あとどこかの国の王女を助けて王城に呼ばれているとか」
「いやどこの主人公だよ・・・まあ集だったらありえそうだけど・・・」
そんな話について行けないのが一人
「皆さんなんでそんな話出来るのですか。集さんは死んだかもしれないのに」
五月だった。
それを聞くと一斉に笑い出した
「な、なんで笑うのですか」
ちょっと恥ずかしそうにしている自分の彼女に仁は笑いながら教えてあげた。
「集は死んでないよ」
「えっ、どういうことですか?」
「だってあいつの死ぬとこなんて絶対に想像出来ないでしょう。どんなやばい状況でも笑顔で帰ってくるようなやつの死ぬところなんて想像しろといわれても出来ない」
「それにね五月ちゃんは知らないかもしれないけど集は絶対に約束を守る男なの。集は私たちを守ると言った。それなのに自分が死ぬわけ無いでしょ」
それに五月以外のみんながうなずく。
だから五月もそう思うことにした。
「そうですか・・・そうですね!集さんは生きてます」
「というわけでどこの国に飛ばされたかね」
「難しいですね。ステフィさんは分からないといってましたしね」
「あっ、そのステフィとかいうやつもグルよ」
「えっそうなのですか」
「ええ。だって集がいなくなって泣いてる振りをしているときに私を見て笑っていたもの。大方私たちの憎悪がエデルリート帝国に向くように出来たと思っているのだろうね」
「え~~あれ嘘泣きだったですか。気付かなかったです」
「そりゃそうよ。集を振り向かせるために頑張って練習したもの」
「はぁ~なんかもう台無しですね。でもそういうことならお力になれるかもです」
「どういうこと五月ちゃん?」
「私のギフトは魔力の残滓を頼りにその魔力の持ち主の場所を特定することが出来るんです」
「「「本当!」」」
「はい。でも集さんの魔力の残滓が残っていればですが・・・」
「そうね集は魔法を使ってないものね」
「「「はぁ~」」」
とため息をついた時にドアをノックする音が聞こえた。
「皆さん大丈夫ですか?」
「姫様何か用」
そう聞くと姫様はニコッと笑い言った。
「いや~皆さんシュウ様を探しに行くのかな~と思いまして」
「何でそれを」
「夏!」
「はっ、しまった」
姫様はしてやったりという顔をした。
「それでシュウ様を探す手段は見つけたのですか?」
「はぁ~しょうが無いわね」
そう言って優香がこれまでの話をした。
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「なるほど。魔力の残滓ですか・・・確かシュウ様は転移するときナツ様を投げたのですよね?」
「・・・そうか転移した場所だ!」
「そこがどうしたの仁君」
「さすがの集でも人を投げるのは生身では無理だ。つまりあそこでは身体強化魔法を使ったはずだ。たぶん一瞬のことだがそれでも場所が分かるか」
「魔法を使ったのならたぶん分かる」
「よしでは行こう[行きましょう]」
「ちょっと待った!」
「何ですか澪先輩。早く集先輩に会いたくないのですか」
「会いたいわよ!会いたいけどこのまま行くわけにはいかないの。私はこの国を怒っているのこのまま行ったら仕返しができないじゃない」
「そうですかならばこの魔法はいかがでしょう」
そう言って姫様は魔法を使った。
すると部屋の至る所から
「集どこ行ったのよ」
「集先輩早く帰ってきて」
「しゅう~・・・しゅう~」
澪達の泣いているような声が聞こえた。
「なるほどこれならばいいわね」
「では皆さん行きましょう」
こうして集の元へ家族達は向かうのであった。