母上との外出
優利子誕生から十五年が経った。
優利子は学校で優秀な成績を修め、才女として有名になった。教育熱心な両親の下で、学校が終ってからも家庭教師と共に勉強に励み僅か十歳にして日本語の他に英語とドイツ語が話せるまでになっていた。また、多くの友人にも恵まれ何もかもが上手く行っている幸せで順風満帆な日々が送られていた。
「優利子、一緒に新しい着物を見に行きませんか。」
「はい母上、参りますわ。」
「では、後十分程したら玄関の所で待ち合わせにしましょう。」
「分かりましたわ。では後ほど。」
久しぶりの母上との買い物に胸を躍らせながら準備をした優利子はいつもより少しばかりお洒落をして玄関に出た。母は優利子が玄関について暫くしてからやって来た。優利子の目には母上も心なしか普段より少しばかりお洒落をしているように見えた。普段は中々着ない結城紬の色留袖なのだ。
「今日は新しい着物を買う他にも何か用事でもあるのですか?」
不思議に思った優利子の問いに母は嬉しそうな顔をしながら
「女学校時代の友人の家にも行くのです。優利子にも会わせたい程面白い人なのよ。二十年以上お会いしてないけれど、多分変わってないと思うわ。」
そう答えた。母上自身、普段から面白い人なのにその母上が面白いというなんてどういう人なのだろうと期待を胸に膨らませながら母と優利子は家を後にした。