Scene 51 『神雷を超越する女帝』
さて、また最強クラスのキャラが完成されました。
「さあ、『死になさい』!」
黄泉の最奥、『神血晶』で取り囲まれた桐人を中心に、激闘が繰り広げられる。
その中、エレンは静子の圧倒的な『死』の『概念』で包囲され、絶対的な窮地に陥っていた。
「おばあちゃん……おじいちゃん……そして、桐人」
エレンはライダースーツの胸元から首輪を取り出し、何かを念じる様に呟く。
多種多様の宝石が散りばめられ、神秘的な『神』が掘られたその首輪。
名は無い。
否、あるが、『それを言ってはならない』。
そう、エレンは『おばあちゃん』である『サラ』から聞かされていた。
古代アステカ帝国。
その初期に当たる、語られない歴史の中で崇められた『巫女』は、名も無いその首輪を掛け、『神の寄り代』とされ、その後、生贄として自害するという儀式があった。
『巫女』となったものは数週間の『洗礼』を経て、人身供養の儀式に臨むという。
だが、歴代の『巫女』で拒むものはいなかった。
それは今のアダムの調査結果により、名も無き首輪によって『巫女』が『エロージョンド』となり、何らかの『本神』の意向によって操られていたと推察される。
しかし、長く続いたアステカの『裏の儀式』は、『テスカポリトカ』の化身を宿した『エロージョンド』による政略的な策謀などによって只の人身供養にとって代わる事となった。
来航したスペイン人の手によってアステカ帝国は崩壊し始めたが、ある研究者の話によると、それは本来の儀式を湾曲させられた『神』──『ケツアクウァトル』が憤慨し、『化身』を用いて引き起こした『事件』の為だとするらしい。
そして、その名も無き首輪は『表』の考古学者に発見されず、アビスと人間世界の狭間を漂う事となる。
それを発見したのが、当時、アダムで活動していた『裏の』考古学者ゲイリー・フローレンス……サラの父であった。
ゲイリーは、その首輪の歴史を辿り、ある『儀式の呪文』を解明した。
否、それこそがその首輪の『名』であったのだ。
名を告げた途端、ゲイリーにケツアクウァトルの化身が入り込み、そして『エロージョンド化』。
早急に駆け付けたアダムの幹部に殺害された。
その後、首輪は厳重にアダムで管理される事になったが、娘であるサラが首輪を引き継ぎ、見事、ケツアクウァトルの『インカネーター』となったのである。
だからこそ、サラは孫であるエレンに、『名を告げてはならない』と釘を刺した。
だが、それは当時のアダムを戦慄させた組織『C』の襲撃の際に、破られる。
エレンは生きたまま肌を切り取られる様な精神的、肉体的苦痛を乗り越え、サラと同じインカネーターとなったのだ。
「また、苦しむ事になるのね」
エレンは、首輪を眺め、呟く。
当然のことながら、今のエレンはその『名』を知っている。
『名』を告げれば、その『本神』が問い掛け、その『化身』を宿してくる事も。
だが、エレンは既にインカネーターである。
そんな事をする必要もないし、意味も無い──筈。
だが、『神の夢』というインカネーターでも稀な『本神との対話』が出来る状態であるエレンは、『その先』をケツアクウァトルから聞いていた。
だからこそ、この絶体絶命の今こそ、その『生死を賭けた賭博』に命を賭けしなければならない。
息を深く吸い込み、エレンはその『名』を告げる。
「『蛇神の再来』」
「……っ!? これはっ!」
エレンから迸るプリズムの光は、静子も、『黄泉』も、鮮やかに染め上げる。
「……ここは?」
石造りで建築された薄暗い一室、その寝台。
そこに、エレンは仰向けで張り付けにされていた。
「フシュルル、とうとう、『名』を呼んだか。余は嬉しいぞ」
エレンが声に視線を向ければ、羽毛で覆われ、僅かに『鱗』が見える『尾』が壁となっていた。
否、その『尾』は部屋を取り囲む様に、縦横無尽に『張り巡らせ』、そしてエレンを縛っているものの正体も『この尾』であった。
「ここじゃ」
視線を泳がせるエレンは上部へと顔を向ける。
そこには、大蛇の顔が。
エレンを品定めをするのか様な眼差しで見つめていた。
「ああ、どうも。元気にしてそうね」
「フシュルル、そうだな。化身を介し、貴様の生き様を眺めておれば、痛快で元気になるわい」
喜々として、蛇──ケツアクウァトルは告げる。
「毎度の事ながら、悪趣味ね」
「フ、フシュ、フシュルルル! その問答も、毎度の事だがね」
愉快そうに告げるケツアクウァトルが、『いつも』よりもより一層上機嫌な様子であると感じ、エレンは嘆息する。
「はあ……あんたと『一体』になるなんてね」
「それは、余も同じじゃ。まさか、こんなガサツな女を自身が認めるとは思わなかった」
告げた、ケツアクウァトルは、思わせぶりにその顔を逸らす。
「だが、あの京馬という小僧や、静子という女とは違い、余と貴様は全く整合性が無い。それ相応の苦痛がある。それも、激烈なやつじゃ」
「ふん。今更、私が怖気づくとでも思って? 覚悟の上よ。そんなに心配?」
「フシュルル! それ程の威勢を張っておられるのも今の内じゃぞ? 余は、『あの世界』の貴重な宝が無くなってしまうのか、心配なだけじゃ」
「『宝』、ね。あんたにとって、命落としても譲りたくないものと私が同列なんて光栄じゃない」
「だから、そういっておろう?」
そのケツアクウァトルの言葉に、エレンは言葉を無くす。
「『本神』が、人の『精神』と共に融合するという事は、つまりはそう言う事じゃ。貴様は余となり、余は貴様となる……それ程に、余は貴様を好いておる。まるで、余の子の様に貴様を見てやっているのだ。だから、『アビス』の秘密も、何もかも曝け出しておるのではないか」
そう告げるケツアクウァトルは、心なしか笑んでいる様に見える。
まじまじとその蛇神の顔を見つめていたエレンははっとして顔を背ける。
「本当に、気に入られているみたいね」
頬を紅潮させたエレンは、か細く告げる。
『サラのクローン』であるエレンは、実質、『親がいなかった』。
その為、『おばあちゃん』であるサラとその弟分であるサイモンが父母の様に世話をしていたのだ。
しかし、二人とももうこの世にはいない。
今、繋がりがあるとすれば、それは『おじいちゃん』であるリチャードの精神を持っている桐人だけである。
だからこそ、その蛇神の『余の子の様に』という言葉が、正直、嬉しかったのだ。
「さあ、頃合いだ。始めるぞ」
頭上を僅かに照らす『金星』が、天の頂へと登り詰める。
すると、妖しい琥珀色の輝きをケツアクウァトルは纏う。
「さあ、共に苦痛を分かち合おうぞ」
告げ、ケツアクウァトルはエレンの腹部目掛けてその身体を飛びこませる。
「う、うあ、うわ、あああぁぁぁぁぁっ!」
「フ、フジュ、フジュルルルルっ!」
身体が裂ける様な痛み、そして脳髄が弾け飛びそうな頭痛が互いを襲う。
常人ならば、痛みで気を失いそうな激痛を、エレンは必死に自我を保ちながら耐える。
「ぐ、ああ! た、耐えて、やるわ……! わた、私達の、世界、の、創造、の、為にっ……!」
──それからの時間は、どれ程のものか分からない。
体感としては、何十年も激烈な痛みが続いていたようであった。
常人ならば、途中で発狂し、その『精神』は粉々に砕かれていたであろう。
「あ……あが、が……」
完全に生気が抜かれた様な大口を開けた茫然とした表情。
死人とそう変わらない程の、青ざめた表情。
美しい金髪は、激痛によるショックによって、白髪となっていた。
「あ、ああ、あ……う、あ!」
だが、虚ろな瞳は突如、動き出す。
開けた口は、しっかりとその歯を噛みしだき、顔に血色が蘇る。
「あああああっ!」
覇気を込めた一声と共に、エレンは仰向けの身体の半身を起き上がらせる。
握り締めた左手からは、バチバチと雷光を迸らせ、周囲を取り囲む石膏の部屋を雷で粉々に砕く。
石膏の一室が崩壊すると共に、照らしだすは、夜空の半分は埋め尽くすであろう金星の眩き。
「乗り越えて、やったわよっ!」
エレンは、更に左手を握り締める力を込め、声高々に叫ぶ。
(フシュ、フシュルル……! 流石だ、よくぞここまでの『試練』を耐え抜いた)
エレンの心の内で、『蛇神』が呟く。
「当たり前でしょう? 『私達』は、『枝』を超え、『樹』さえも『配下』に収めようとしているんだからっ!」
口を深々と吊り上げるエレンを雷電が纏わりつく。
それは、エレンの白髪を再び、美しい金へと変え、その身体に神々しい『蛇神』の刺繍
を縫わせる。
(頼もしい、『余』だ)
「そうね。ありがとう、『私』」
ケツアクウァトルとエレンは互いを一瞥し、そして、その眼は輝かしい金星を見つめる。
「……時間は?」
(フシュルル……分かっておるだろうっ!? ここは、アビスの『余の家』だ。あの『黄泉』とはそもそもの空間、そして『時間』もかけ離れている)
「そうね。さあ、あの女との『想い』のぶつけ合い……改めて、始めましょうっ!」
エレンが瞬き一つで眼を見開くと、圧倒的な『死』が周囲を取り囲んでいた。
自身が『雷』となっても、防ぎようも無い密度を誇る『死』に対し、だがエレンは口を吊り上げる。
「さあ、静子っ! ここからが本番よっ!」
叫び、エレンは左手を翳す。
「雷子、滅びの因子! 滅するは……『氣』! 万物よ、『分解』せよ!」
告げた後、エレンから迸る雷光が『死』の一つ、一つと『接する』。
そして、その『死』の概念は……悉く、分子、クオーク、全ての根源の『氣』をも極小とした単一の名も無い『構成単子』へと分解されてゆく。
「嘘でしょうっ!?」
絶対的な『死』で取り囲まれたエレンの『死』を予期していた静子は、思わず驚愕の表情で叫ぶ。
「この土壇場で、あの『女狐』に何が起きたというのっ!?」
焦燥とした静子は、更に『死』の『氣』を振り撒く。
だが、それらは不敵に笑むエレンに突き刺さらない。
悠然と一歩、一歩踏み込むその女の周囲で活動している雷電──否、『その様に見える別の何か』によって、霧散されてゆく。
「さあ、拳と拳の殴り合いを、しましょうか?」
「くっ! どこまでも、嫌な女ねっ!?」
拳を捻じ込ませる体勢となったエレンに対し、静子は手に持つ扇子を振るう。
『アビス』という超常の力が込められた互いの一撃、一閃は轟音を響かせ、周囲の空間を震え上がらせる。
「一体、何をしたというの!? あなたの、その力の『形』……まさか」
「そのまさかよっ! 私も『現人神』となったの!」
「どこまでも、どこまでも……『私の恋路』を邪魔する気っ!?」
「勿論よ! 『桐人』は私が貰う!」
「『リチャードさん』は、譲らないっ!」
互いが、全力で振りしきる殴打と一閃は、周囲の『神結晶』を吹き飛ばし、空間にヒビを生じさせる。
「あの『過去』を見て、あんたが、『おじいちゃん』との固い絆で結ばれていたのは知ってる! だけど……それは、『桐人』じゃないの!」
「だけど、『リチャードさん』は仰ったわっ! 自分がまた転生するまで待っていてくれとっ!」
「……っ! そうなのよ! だから……だから! 桐人は、『あんたとの約束が守れない』から、『今、涙を流しているんじゃない』っ!」
エレンが告げた言葉は、静子を硬直させる。
その隙が出来た脇腹へ、エレンは拳を捻じ込ませる。
「ふ、ぐあっ……!」
吹き飛ばせれた静子は、地に倒れ伏せる。
「桐人は……『あんたと会ってから』……あんたを知ろうと、様々な文献と、そして自身の『過去』を必死に探っていたわ。そこで、『この過去』を知る前から、あんたとのある程度の『関わりと気持ち』は理解していたの」
倒れ伏せ、起き上がらない静子へと、エレンは告げる。
「あいつ……泣いていたわ。どうして、『リチャード』はその気持ちを自分に伝えてくれなかったのか。そうすれば、『自身の選択』も違っていたのかも知れないのに、ってね」
静子は、起き上がろうとしない。
まるで、エレンの言葉にひっそりと聞く耳を立てる様に、無言である。
「本当に、あのクソ『ミカエル』の掛けた『呪い』を恨むわ。あの『堕天』を乗り越え、桐人──ルシファーが転生する時の記憶と力の受け継ぎには、優先順位があるの。それは……『想いの時間と強さ』に比例するわ」
告げる、エレンの眼頭に涙が伝う。
「あいつが、初めて覚醒して過去の『おじいちゃん』の記憶を蘇らせた時にね……真っ先に出てきたのは、私の『おばあちゃん』の記憶だったの」
心苦しく、息を詰まらせるエレンは申し訳なさそうに、告げる。
「だから……だから! 『リチャード』がそれでも『想い続けていた』のは、『サラ』だったのよ!」
「う、うあああああぁぁぁぁっ!」
その一言に、静子は激昂する。
悔しさで、滲み出る多量の涙粒を宙に浮かせ、歯をきつく、きつく、噛みしだいて、扇子を振りぬく。
「五月蠅い、五月蠅いのよっ! 私と、リチャードさんは、本当に愛し合っていた! 愛し合っていたのよっ!」
「分かっている! 分かっているから……その『想い』を私は、『壊しにきた』のよっ!」
振り抜かれる静子の扇子を、再び、エレンは拳で受け止める。
だが、息を荒げる静子は、再び、二撃、三撃と扇子を振るう。
「あんたなんて……いなければ良かったのよっ!」
「そうね!? 私がいなければ、今頃、もしかしたら桐人はあんたと結ばれていたのかも知れないっ! だけどね!? 私と桐人はそれ以上に『固い絆』と『約束』がある……! だから、譲れないっ!」
「それは、私以上のものだとっ!?」
「そうよっ! ……『神の樹』すら相手しなければならない、全ての世界を掌握する私達の『決意』を、あんたに教えてあげるっ!」
そのエレンの言葉に、静子はその手を沈める。
その眼は、激情で歪み、
「……だったら、それを証明しなさい?」
静かに、静子は口を開く。
より一層とした静子から噴き出す様な覇気に、エレンはギリ、と歯を噛み締める。
「力勝負というわけ?」
「『神の樹』を相手にする……そんな大層な目的なら、私を超えないと、どの道、話にならないわ。それに、あなたはいけ好かない」
「単に気に喰わないだけじゃない……だけど、いいわよ。あんたに、私の全てをぶつけてあげる」
互いが、互いの眼を真っ直ぐに見つめ合う。
瞳で語り掛ける、二人は、同時にその口を開く。
「「『過負荷駆動』っ!」」
告げた後、二人の周囲の空間は完全に破砕し、二人は『無の空間』の宙を浮く。
「『全てを絶つ雷鳴』」
左手に纏わりつく様に、形成される機械『マッシヴ・エレクトロニック』。
その左手に無を閃光で埋め尽くすかの様な雷光が収束されてゆく。
「『終焉無き死』」
対し、静子は『無の空間』を紫の瘴気で埋め尽くす。
その瘴気は、妖しい光をぽつぽつと浮き上がらせ、それら一つ一つから濃縮された『死』の『氣』が噴き出す。
「はあああああああああっ!」
「死になさいっ!」
『死』、そしてそれを『分解』させる『因子』が衝突する。
呑み込み、呑み込まれ、互いの『氣』の鬩ぎ合いは、『無の空間』を鮮やかに照らし出す。
「私はね、桐人の転生を絶ち切り、『ルシファーであり、桐人でもある』桐人を留める。そして……全てを手に入れてると決めたの。『傲慢』な『真の』あいつの『想い』を理解し、その背を見つめると決めた」
「それが、私とリチャードさんとの『約束』以上の事なのっ!? 有り得ない!」
「あいつは、悩みに、悩み、そして私を選んだっ! 『クローン』という事実を知った私の痛みを知り、そして、受け入れてくれた! 『永遠』を私と共に歩もうと、そう『約束』したのっ!」
「だからっ!?」
「だからも何も、『それだけよ』っ! 確かに、あんたや『おばあちゃん』との『時間』よりも浅い! だけど、『想い』はそれ以上なのっ!」
「幾重、幾年、幾世紀、待ち侘びた私の『想い』の方が、何倍も強いわっ!」
「『愛』に時間は関係無いっ! 私は……勝ち取る!」
徐々に、エレンが放つ雷光は静子の『死』を呑み込んでゆく。
「私は……あんたの苦しみを乗り越える為、『同じ存在』となる事に決めた。私の『想い』の方が強いと証明する為にっ!」
「それが、『略奪』の贖罪となるとでもっ!?」
「贖罪じゃないっ! 『証明』よっ!」
エレンの雷光は更に勢いが増し、静子の眼前へと迫る。
「嫌よ、こんな女の『想い』に負けたくない……!」
圧され始める静子は焦燥としていた。
それは、力で圧倒されるという事よりも──
陳腐と感じる目の前の女の『想い』の強さに、自身が圧されているという事が。
「嫌よ、嫌、嫌っ! 私は、リチャードさんを……!」
完全に、『死』は雷光に呑まれ、静子の精神は薄れてゆく。
「リ、チャード、さん……」
極光の光に身体を呑まれ、それでも静子は呟く。
「あんたは、『リチャード』を見ていた。でも、今の『桐人』なんて、一切見ていなかった。……それが、敗因よ」
安らかに目を閉じ、倒れ伏せる静子にエレンは言う。
流石、『現人神』と言った所か。
普通なら、一瞬で消し炭になる一撃であるにも関わらず、静子は濃縮された『死』を身体中に纏わりつかせて防御していた。
その為、精神力は尽きたが、その身体は五体満足である。
「でも、良かった……未だ生きてる」
だが、それはエレンが予期していた事で、『そうでなくてはならなかった』。
「あんたとは、これからも『競い合わない』とね」
僅かに、口を吊り上げ、優しい笑みと共に、エレンも倒れ伏せる。
その間際、エレンは手を掲げて、『無の空間』から元の『黄泉』の世界へと二人を脱出させた。




