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壊れた世界の反逆者 第二部 -『管理者』不在の世界編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第一章:骸と魂塊の舞踏は神の所業をし、だが彼女は死を誘う
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Scene 41 英雄と黄泉姫①

 虹色に輝く槍は、空を切る。

 代わりに、強化スーツに深々と刺さるは、荒々しい黒色の氣。


「僕は……あなたに憧れていた。あなたを、越えてみたかった」


 白髪の少年は、錫杖を金髪の美青年へと向け、光の見えぬ眼から涙を垂らす。


「そうか……何故、俺はお前の──『サイモン』のそんな気持ちに気が付かなかったんだろう。俺が、『それ』に気付いてさえいれば」


「あ、あぐ、うう、ううう……! 言わないで下さい。僕は、『リチャードさん』や『サラお姉ちゃん』、そしてみんなに取り返しのつかない事をした」


 カランと、錫杖を船上の廊下に落とし、『サイモン』は顔を覆う。


「何故……僕に『止めを刺さなかった』んですかっ!」


 後悔。

 絶望。

 失望。

 髪を掻きむしり、地に何度も頭を擦りつけて──

 少年は、『自分の行い』に対し、強烈な憎悪を剥き出しにする。


「う、ううあ、ああ、ああああああぁぁぁぁっ!」


 自身の内に渦巻く、自分への蔑み、憎悪、殺意。

 少年は生きるのがこんなにも辛いと、そう叫ぶかの様に。


「もう止せ。俺は、これが俺の最後だと悟った。そして、最後のこの一撃は──間違いなく、お前の『勝ち』だったよ」


 意識遠退く美青年は、思う。

 少年の背後で眠っている自分の最愛の人『サラ』。

 それは、少年が『決死の理性の歯止め』によって、自らが手を掛けるのを拒んだが故に、生き残っているのだと。


「お前は、お前の中に『潜むもの』と充分に抗ったさ。そして、そんな『化物』を抑え込んでいた中でもお前を止められなかった。俺は、『英雄』失格だな」


 爆炎吹き荒れる、巨大艦。

 その手すりにもたれ、『英雄』──『リチャード・パーソンズ』は告げる。


「『サラ』を頼んだぞ」


「いやだ! 生きて下さい!」


「俺を殺したお前の報いだ。サラを──そして俺達の子供を幸せにしないと、『ゲヘナ』からでもお前をぶん殴ってやるからな?」


「いやだっ! サラお姉ちゃんの中に身籠っている子は、『英雄』に育てられ、全人類で最強で最高に幸せな子供になるべきだっ!」


「ふん。こんな自由人に育てられたら……どうしようもない社会不適合者になるさ」


 リチャードが言うと同時、甲板の手すりが轟音と共に崩れ落ちる。


「リチャーードさーーーーんっ!」


「来るなっ!」


 手を伸ばすサイモンに対し、リチャードは虹色の槍を向け、睨み付ける。


「『改変』せよ」


 リチャードが告げると同時、淡い光と共に、サイモンは倒れ伏せる。


「お前の『記憶を改変』した……お前は、『この出来事』を覚えていなくなる」


 安らかな笑みと共に、海底に沈むリチャード。


(だが、『破壊』された俺の『改変』の力……『マルドゥーク』の『本神』に力を貸しだしたが、どこまで効力が持つか)


 一抹の不安を残しつつ、『英雄』リチャードの精神(アストラル)は奥深くに消え失せようとしていた──











「あ、動いたっ! 幻(げん)さん、この人、生きてたわよー!」


 淡い陽が瞼を差し込む。

 囀る鳥の鳴き声が響く。

 ここは、天国?

 馬鹿な。

 そんなものは、俺が『インカネーター』になってから無いと……それが純然たる事実だと知った筈。


「もしもーし? 起きてますか? 生きてますか? ここがどこか分かりますか?」


 温かい、衣服の温もり。

 その温もりを風に乗せる様な穏やかな声色。

 天使?

 馬鹿な。

 天使とは、人を──俺達を『悪魔の子』と蔑む『断罪者』どもだ。


「聴こえてます?」


 リチャードが目を覚ますと、晴れやかな陽が目を晦ませる。

 おぼろげな視界が映すは、長い黒髪を櫛でうなじに結んだ、あどけない少女であった。


「あんたは……誰だ?」


 およそ見た事のない服装の少女は、目覚めたリチャードの声に、頬を緩ませる。

 その幼い顔立ちであるのに関わらず、雪解けの様な白い肌を歪ませる少女は、しかし大人びた可憐さを持つ。


「ほら、やっぱり生きてる!」


「『姫様』。生きていようが、いまいが、あなたのような方がこんな『異国人』に触れようなどと……お父上が何と言うか」


 少女の声に重なる様に、野太い声がリチャードの耳に入る。


(この気配……中々の手練(てだれ)だな)


 リチャードは、その男が放つ気配から『インカネーターでなくとも』ある一定の強さを誇っていると分析する。


「もうっ! お父様なんてどうでもいいわ! それより、異国の御方? 大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。迷惑掛けたな」


 差し延べられた手を掴み、リチャードは言う。


「……! やっ……!」


 だが、少女は途端にその手を離す。


「どうした?」


 まるで、手に棘でも刺されたかの様な反応に、リチャードは怪訝な表情で見つめる。


「あ、いえ……何でもないです。さあ、どうぞ」


 再び、少女は手を差し伸べる。

 また、先程の様な反応をしまいか不安なリチャードであったが、しかし少女は今度は何事も無く手を取る。


「申し遅れましたわ。私は、『夜和泉静子』。そして、後ろに控えるのが『冥月幻(めいつきげん)』です」


「俺は、リチャード・パーソンズだ。助けてくれて、ありがとう。 ……所で、ここはどこだ? 見慣れない植物が多いが……『日本』か?」


 立ち上がったリチャードは、周囲を見渡す。

 自身が漂着していた海岸。

 そこから向こうは林が生い茂り、先が良く見えない。

 だが、明らかに自身が住んでいたアメリカとは異なる風景、そして目の前の『異国』の人物が身に纏う『和服』。

 それだけでリチャードがここは『日本』であると確定出来る十分な情報であった。


「そうです。ですが、その日本の中にあり、ここは厳密には『日本ではありません』」


「……どう言う事だ?」


「それは私が説明しよう。姫様は下がってくだされ」


 リチャードは静子の言葉に、怪訝に耳を傾ける。

 そのリチャードと静子の間に幻が割って入る。


「ここは、現世と異界の狭間にある世界──『淵黄泉(ふちよみ)』という地だ。つまりは、日本という国に寄り添ってはいるが、その国に支配されず、侵入する事さえ出来ない……隔離された地なのだ」


 告げ、幻はその細い眉尻を吊り上げてリチャードを睨み付ける。

 赤や黄色といった煌びやかで派手な袴を着たその手には、不釣り合いな鋼色の鎖鎌。

 口を覆う鉄製のマスクは、まるで自身の言葉を封じているかの様な重々しさがある。


「普通ならば、どう足掻いても侵入出来ないこの地に──あなた様はいる。『私達』が不審に思わない筈が無い」


 排他的な目線で告げる幻の言葉に、リチャードは頷く。


「確かに、その通りだ。俺だってそう思うし、警戒するだろう。だが、それならばどうして助けた?」


「それは『巫女』である『姫様』の予言によるものだ」


 目を脇目に逸らし、幻は言う。


「そう! 私の『巫女』としての『お告げ』なのですわ!」


 前にのめり出して、静子は興奮して告げる。


「『満月が消え、陽が浮かぶ十六夜の後、淵黄泉に嵐が訪れ、そして地響きが七晩続く。全てが過ぎ去り、静寂と化した地の果てで、英雄が降り立つ』……と。そこで現れたのが、あなたです。リチャード様」


 静子の言葉に、リチャードは思わず苦笑する。

 『英雄』。

 それこそは、確かに自分が持っていた『肩書き』の一つだ。

 成程、間違ってはいない。


「はは、残念だが……人違いだ」


 だが、リチャードはそう告げる。

 結局は、『救えなかった』。

 あの巨大艦にいた仲間達──それだけでない『真の平和』を追求した結果、自分は諦め、そしてその直後のサイモンの裏切り。

 何が、『英雄』か。

 自分を最強足らしめた『改変』の力も、サイモンの持つ『破壊』によって、ほとんどは使えなくなってしまった。

 今は正直言って、並みのインカネーターですら敵うかどうか怪しい。

 そんな自分が『英雄』だと?

 否、自分は結局は──只の『蛮勇』であったのだと。


「──そうか。ならば、残念だが……消えてもらう」


 リチャードの言葉と同時、幻は静子を抱え、後ろへと跳躍する。

 突き出た岩肌に足を掛け、鎖鎌を振り回す。


「止めて、幻さん!」


 幻に抱えられた静子は叫ぶ。


「この『淵黄泉』に余所者が来るとロクな事は無い……それは、『姫様』が一番分かっておいででしょう!?」


 言葉と同時に、遠心力最大に放たれた鎖鎌。

 鋭利な切っ先は、正確にリチャードの首を真っ二つにしようと、振り払われる。

 リチャードは、その軌道を読み、背を伏せて躱(かわ)す。

 だが、その表情を苦悶とする。


(……ち。やっぱり、俺の『精神(アストラル)』はボロボロだ……『アビスの力』を使う度、身体が軋む様に悲鳴を上げる)


「ほう。このスピードで刈られぬとは……やはり只者ではないようだ」


 続いてくる第二撃。

 今度は、胴体を縦にバッサリと割くであろう垂直の軌道。

 再び軌道を読み、リチャードは真横に避けようと試みる。


「『五行』が『金』。『鏡障錯乱』!」


 だが、その試みは失敗に終わる。

 幻の言葉と共に、空間全体が鏡の檻に囲まれる。

 その鏡一つ一つから写り込まれるは、鎌の一太刀。

 それらは鏡を抜け出し、リチャードの身体をズタズタに引き裂こうと迫る。


「……! これは、『アビスの力ではない』、『異能』……!?」


 『インカネーター』というものは、その力と現実世界の『軋轢』によって生じる拒絶反応によって、相手の力を察知出来る能力を備え持っている。

 だが、幻の放ったその正体不明の異能の力は、それで察知出来なかったのだ。


「くそ、『ちゃんと、制御出来るか』……!?」


 四方八方からの必殺の一撃。

 絶体絶命の窮地であるにも関わらず、リチャードは『相手』への心配で不安を募らせる。

 それは、サイモンの手によって『破壊』された不完全な『改変』の力の解放が、何をもたらすのか不透明であった為。


「──『マルドゥーク』! か、『改変』せよ!」


 迸る、プリズムの光。

 強烈なまでの重圧が自身の身体を震えさせる。

 ゴガァ、と猛々しい息吹が舞い、周囲を吹き飛ばす。


「な、何だと……! 馬鹿な!?」


 リチャードを取り囲んだ鏡は、全て綺麗さっぱり無くなっていた。

 ──否、それらは『改変』され、一つ一つが、美しい白鳥となり、空へと飛び立って行く。


「ふ、ううあ! あああああ!」


 脅威が過ぎ去った後、だがリチャードの『改変』は止まらない。

 水は木に。

 岩は金塊に。

 ──リチャードの力の『暴走』は、周囲を悉く『改変』してゆく。


「あ、ああああ! 収まれ、『マルドゥーク』! 収まるんだっ!」


 同時、『改変』の力の発現と共に出現した虹色の槍を地に抉り突かせ、リチャードは歯を噛み締める。


「止めろ」


 意識が薄れ、力に呑み込まれようとしていたリチャードの『深層』。

 威厳の満ちた声が響き渡る。

 絶対的な『服従』の言葉は、リチャードの内で暴れまわっていた『マルドゥーク』の力を鎮めてゆく。


「『矮小な創造神如きが……我に平伏せ、服従を誓え』」


 リチャードから漏れ出る『リチャードであってリチャードでない』言葉。

 それは、暴走していた力を完全に制御してゆく。


「今のは……一体?」


 意識を途絶え、再び倒れ伏せたリチャードを、幻は驚愕の眼差しで見つめる。


「やっぱり、やっぱりそうだったんだわ! あの人は、間違いなく予言の人ですわ!」


 幻の腕を振り解き、嬉しそうに静子はリチャードの下へ駆ける。


「間違いない……『五行輪廻』。『神の創造』……『伊邪那岐(イザナギ)』様の御力」


 静子に抱き抱えられるリチャードを唖然とした表情で幻は見つめる。


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