Scene 32 総統の策略
もっと長くなるかと思ったのですが、キリが良かったので、投稿します。
書きあげるまでめっちゃ早かった。
なろう投稿で屈指の短さかも知れない。
鬱蒼と生い茂るドイツトウヒの針葉樹林。
その中に身を包む様に、まるでその影を潜めるかの様に、その建造物はある。
秘密組織アダム『本部』。
その洋館の体を成す、裏世界の総本山とも呼ぶべき建造物は、しかし、その威厳を雄々しく主張する。
その洋館の執務室に座る少女は足を組み、踏ん反り返りながら、ホログラムで投影された映像へと言葉を掛ける。
「さて、通信が通るって言う事は、どうやら無事みたいね。マストゥーレ」
「はい、総統。ですが、こちらも相当に疲弊しました。本日中に本部への帰還は難しいです」
「僥倖よ。で、そこのガチガチに固まった氷に包まれた死にぞこないの糞爺は何なの?」
自身の流れ血と返り血。
血みどろとなったマストゥーレの姿を意に返す事も無く、その背後にある異様な『それ』を、シモーヌは指差す。
「見た通りです。劣勢と判断した織田様が、自身にコキュートスの『永劫凍結』をかけ、その体を封印しました」
振り返り、マストゥーレはシモーヌが差したものを見る。
全身に夥しい血が噴き出し、しかし、してやったりとした口の吊り上げで、深く笑む織田の表情。
気に食わない。
馬鹿にしている様な織田の表情はコキュートスの氷によって、そのままに凍結されている。
「まあ、予測はしてたけど、この糞爺……ホントやってくれたわね。これで、聞き出せる情報もゼロになるわ!」
苦虫を噛み潰した表情で、シモーヌは声を荒げる。
「ですが、織田様が敵対し、そしてあのアダムへの敵対組織の中で最も規模が大きいアウトサイダーへの関与があった事は明白です」
「そうね。だけど、桐人が一度、そのアウトサイダーの『王下直属部隊』が一つ、『朧』に狙われた事を鑑みると、完全にあっちに加担しているとは考えづらいわね」
「そうですね。これは、私見なのですが、恐らく桐人様側がアウトサイダーの情報を利用し、何か企てているのではないかと」
「恐らく? いえ、十中八九そうね。メイザースが調べ上げたあの『亡骸』の情報……多分、その情報をアウトサイダー側から受け取って、あのポーカーフェイスは意気揚々と私の提案した失踪調査を承ったのよ!」
ドン、と腕を置いた机を拳で叩き、シモーヌは叫ぶ。
「ですが、あちらには美龍がいます。今は、敵の複雑な『二重結界』によって阻まれていますが、あの『星砕き』です。直に通信が使えるでしょう」
「そうね……」
マストゥーレの言葉に頷き、しかし、シモーヌの顔は眉間に皺を寄せたままであった。
「『お嬢様』?」
不安を拭い切れないといった表情のシモーヌへ、マストゥーレは心配そうに問う。
「いえ、『こっちの息がかかった』ヴェロニカとフランツにも伝えて頂戴。あの二人では桐人に敵わないでしょうけど」
「はい。承知致しました。ヴェロニカ様はともかく、フランツ様は機転の効かした対応をして下さることでしょう」
「後は、残りの日本支部の連中ね……」
組んだ手に顎を乗せ、シモーヌは思慮に耽る。
「総統が危惧されていた、京馬様の桐人様側への加担でしょうか?」
マストゥーレは、シモーヌの考えを読み取ったかの様に、口を開く。
「……あの浅い考えの現人神? あいつはどうでしょうね? 私の考えでは、『意図しないで』加担していると見ているわ」
「つまりは、『利用』されていると?」
マストゥーレの問いに、シモーヌはこくりと頷く。
「あの様子だと、そうね」
「では、この件で桐人様の謀反が公になれば、検討していた『特務隊』へのあの少年の編入も打診されると?」
「いえ、京馬は未だそれ相応の『功績』が無い。前回の『フォールダウン・エンジェル計画』の活躍は、あの『サイモン』の助けがあってこそだという声が組織内で強いわ」
「成程。いきなり京馬様が『特務隊』に入れば、組織内で反発の声が挙がると」
「ええ。だからこそ、あのもう一人の現人神である夜和泉静子との一件を、『あいつの功績として』解決させたいのよ」
「それらを含めた、美龍及びエレン様の今回の作戦への参加という訳ですね」
「ふふ。まあ、エレンに関しては、桐人の件、そして『もう一人の裏切り者』を泳がす為でもあるわけだけど……」
ふと、シモーヌの言葉は止まる。
眼を横目に逸らし、眉間の皺は更に険しくなる。
「エレン様、ですか」
マストゥーレの発する言葉に、シモーヌは睨みを効かした様な細めた眼を向ける。
「下手したら、『私でさえもやられかねない』あの女の『マッシヴ・エレクトロニック』……正直、今、一番危惧しているのは、あいつの行動ね」
「共倒れを狙っていると?」
「桐人と繋がっているのは確実。出来れば、そう願いたいのだけど」
「それ以上に、夜和泉静子の企みが不透明で厄介。こればかりは、『神のみぞ知る』という奴ですね」
首を縦に振り、シモーヌは窓から差し込む光を見つめる。
「ふん。神なんて……所詮は、『木から生まれ落ちた断片の断片』でしかないわ」
薄ら笑いを浮かべるシモーヌを、マストゥーレは見る。
およそ自嘲染みたその笑みに、マストゥーレは顔を曇らせる以外の行動は、出来なかった。




