Scene 24 新たな覚醒
本当に、この小説は日に日に全体的なパワーバランスが底上げされ過ぎている気がしますね。
ちなみに、チートの領域に入っていますが、今後も京馬の成長は未だ未だ続きます。
「くっ、そんな……どうしてだ?」
右腕から滴る血、その断面を京馬は左手で覆う。
苦悶の表情から、溢れ出るのは凄まじい戦慄と、未知の力への疑問。
「俺達、『黄泉帰り』は、アストラル生命体としてこの世界に『存在』を認められた、言わば『亡霊』の類だ。だが、それだけではその存在を現世で保つのは限界がある。せいぜい、二、三時間程が限度だろう」
片足を地に伏せ、座りこむ京馬へと口を吊り上げて笑む剛毅は言う。
「だからこそ、『黄泉姫』──静子が俺達を『戦力』として現世に活動させるには、より強く強固な神性を持つ『器』が必要だった」
告げ、剛毅はその右腕に持つ刀を見やる。
「それが、この『素戔男尊』を宿した『天叢雲剣』。はは、日本の生まれとしちゃあ、日本神話の上位に位置する神を宿し、更には三種の神器の内の一つを扱うなんて光栄な事だわな」
にやり、と口を吊り上げる剛毅は言う。
「現人神となったお前や元管理者の桐人、アダムのごまんといる強者と渡り合うには、俺の宿すペイモンだけじゃあ心許ない。良い『副産物』を手に入れたぜ」
告げ、剛毅は天叢雲剣を振るう。
「くっ!」
咄嗟に、京馬は剣先が振り下ろされる瞬間、地を蹴り、左横へと身体を移動させて避ける。
キィンと、剣が鍔迫り合う様な音が響き、京馬が右肩に生やす翼の一片が綺麗にスライスされる。
剛毅と京馬の間には、100メートルはあろう間があった。
だが、京馬の腕と翼は斬り落とされたのだ。
「つまりは……『そういう』能力なのか?」
京馬は、徐に左腕に装着している『アストラル・リサーチャー』を見る。
あの『狂気の魔道士』が開発したこの発明品は、相手の精神力、そして『固有能力』の分析が出来る。
だが、その装置を京馬が使用しなかったのは二つの理由がある。
一つは、目の前にいる剛毅というかつての仲間の能力と実力を熟知していたから。
もう一つは、未だ実戦向きで無いのか、その分析には多少なりとも時間がかかるからだ。
厳密には、京馬は剛毅と対峙するに際し、その装置の起動ボタンを押していた。
しかし、数分のタイムラグを介してやっと相手の分析が完了するのだ。
故に、時間を経たと判断し、京馬はその腕時計の形をした中央の液晶に表示される文字を、この土壇場で確認する。
「万物を……『裂く』?」
剛毅の本来の『火属性魔法強化』と共に表示される固有能力は、至極単純なものであった。
(つまりは、あらゆる『物質』、『神』をも『裂く』事が出来るのよ! さあ、次が来るわ!)
京馬の内で、しばらく静観していたガブリエルが叫ぶ。
「何、ボーとしてんだよ!」
更に、剛毅は連続で天叢雲剣を振るう。
「くそ、どうする!?」
片翼で飛翔し、京馬は不可視の斬撃の剣先を確認しつつ、その照準を予測しながら回避してゆく。
「ぐっ!」
だが、それもあくまで『予測』。
剛毅の放つ変幻自在の軌道は、京馬の四肢の一部を剥ぎ取るかの如く、深い裂傷を負わせてゆく。
(こんなケース、アビスでも初めてだわ! 一人が複数の固有能力をもつなんて!)
戦慄した声色で、ガブリエルは心の奥底で告げる。
「だが実際に起こっている! 問題は、どう対処するかだ! ……『壊れた世界の反逆者』!」
京馬は、左手に再び蒼の奔流の剣を発現させる。
「『決意』」
京馬は感情を叫び、身体能力を高めてゆく。
切断された右腕の接合面は、その『効能』によって治癒能力が高められ、止血されてゆく。
「悪いな、京馬。死んでもらうぜ」
焦燥とする京馬に、一寸の悲しげな視線を剛毅は向ける。
その目尻の変化と共に、多量の赤の魔法陣が発現されてゆく。
「『炎帝の宴』」
放たれるは、空間を取り囲むかのような無数の焔の塊。
「まさか……! その剣の力は、分身にも作用するのかっ!?」
「その通りだ、京馬! 今の俺ならば、あのケルビエムでさえも圧倒出来るんだよ!」
戦慄、否、それは圧倒的な絶望と形容してもいい。
剛毅の『炎帝の宴』は、己と『同等』の精神力を持つ分身を多数発現する事の出来る、剛毅の『傑作』とする魔法である。
故に、その分身一つ、一つが、剛毅が宿す脅威の力を得ているとしても、成程、道理が適う。
「馬、馬鹿な……!」
だが、京馬の口から漏れ出たのは、唖然の一言であった。
理解すればこその、絶望の淵からの一声。
「『権天使の舞踏』!」
歯を噛み締め、白の魔法陣と共に発現する蒼の灯達は、焔へと駆けてゆく。
「無駄なのは、解るだろう?」
だが、それは焔から出た刀の一刀で虚しく、呆気なく両断される。
「ど、どうすれば良いんだっ!?」
京馬は、窮地の中、思索を巡らす。
固有能力というものは、決してその力が完全に作用する訳ではない。
美龍との一戦の時でもそうであったが、完全に相手の精神力を上回れば、その効力は減退する。
だが、どうも『おかしい』。
京馬は、現人神となり、普通のインカネーターならば、歯牙にかけない精神力を持っている。
対して、剛毅の精神力は、アストラル・リサーチャーを介して見ても、以前より多少上昇した程度だ。
それにも係わらず、絶大に京馬にその固有能力は発揮されている。
訳の解らない現象は、更に京馬の策を閉ざしてゆく。
(京馬君! 後ろ!)
思慮に耽る京馬に、不意に伝わるガブリエルの声。
振り返るは、焔の剛毅を象った分身が振るう死の宣告。
「ふ、が、ぐああぁぁぁっ!」
ガブリエルの声に呼応し、咄嗟にその軌道から逃れ、致命を避ける。
だが、腸まで達するであろう傷からは血が噴き出し、京馬の口から嗚咽と共に、血が滴る。
「が、がふ、うあ、あ……」
降下してゆく、翼を持つ少年。
地に落つる天使は、徐々にその『感情』をおぼろげにしてゆく。
(駄目、なのか? ここまできて……)
少年、京馬は回想する。
自身がその力に目覚め、そして悪魔に魅入られた愛するものを手に掛け、そして──
『僕を殺して』
京馬の内に響き渡る声。
幻聴であろう。
先程まで会話をしていた『氷室』という京馬が初めて殺した亡霊の声。
これは、何かの呪いの類であろうか。
自身が手に掛けた者達の『想い』を背負ってひたすらに『蒼』の道を突き進む。
その気持ちを改め、そして強く『想った』後に、『これ』だ。
『不甲斐ないねえ。さっき約束したばかりじゃないか』
氷室の嘆息とした声が響く。
やはり、人の可能性を絶ち、傲慢にも自身の『世界を創造』しようなどと想ったのが、そもそもの間違いであったのだ。
自分は所詮は矮小な一般人。
只でさえ、その社会に縋り付くだけであった凡人以外何物でも無い。
それを、こんな『力』を手に入れ、付け上がり、多くの人々の助けを借りて、さもそれを自身の力などと思い上がる、愚かで脆弱な餓鬼であったのだ。
『下らないね。そんなもの、神だって人だって変わらないさ』
更に、響く声が明瞭となってくる。
そんなにも、俺は罪深き事をしようとしたのだろうか。
否、それは以前に『この世界』を管理者としていたミカエル、ひいてはケルビエムにとって『大罪』そのものだ。
『ほら、起きろよ。偽善者。そんな卑屈は、お前らしくはないよ?』
「……ここは、どこだ?」
京馬が瞳を開けると、そこは荒涼とした風が吹く薄暗い一室。
「少しは目を覚ましたかい? 坂口京馬」
眼前、棺に腰掛け、その男は笑む。
「氷……室? 何で、俺はここにいる?」
茫然と、京馬は霞む目で氷室を見つめる。
「死んじゃったから? ……嘘、嘘。ぷ、はは! そんな驚いた顔するなよ! 腹痛い」
ははは、と大笑いをし、氷室は言う。
「じゃあ、これはどう言う事だ?」
眉間に皺を寄せ、問い掛ける京馬。
「どうもこうも、僕だって知りたいくらいだよ。君のその力に『こんなもの』があったなんて」
立ち上がり、氷室はその指を京馬へと向ける。
「これは、君がした事であり、『想った』事だ」
満面に笑む氷室は京馬の顔を覗き込み、告げる。
「……益々、訳が分からない」
「だろうね。これは、君の深層……深淵とした意識。そして、アストラルを介したアビスとの『結合面』だ。ガブリエル……君に宿った彼女、本当に何者なんだい? こんな事出来る住民なんて『特異』だよ」
氷室は自身の頭を人差し指でコツコツと叩き、続ける。
「ここにいる僕は所謂、『思念体』という奴だよ。ははっ! つまりは、君は君自身が思い描いた『僕』に問い掛けているのさ! 痛い子だねぇ」
馬鹿にした笑い声が響く。
だが、京馬はその声に、不思議と気を悪くする事は無かった。
「『思念体』……つまりは、今目の前にいるお前を、俺自らが造り出したって事か?」
「そう。それは、君が吸収した『さっきの僕』の『想い』が具現化したもの。『想いを力に変える』。つまりは、僕は君に『僕』を譲渡したのさ」
「『人の道を──』」
「『示せ、記せ』。だろ? ははっ! 残念だね! 君は、より重く、僕を『背負わなければならない』」
自然と伝う、涙。
自身が葬り、だが、助けたかった人物。
自身の想いで、救ってやりたかった。
結局は、恨まれるであろうと思った。
だが、その男は自身を赦してくれるだけでなく、その力を、『想い』を、自身に託してくれた。
「ありがとう……氷室」
「泣くなよ。気持ち悪い。言っておくけど、これは僕が君と言う人物と接した事で変わってしまった結果なんだ。僕は、悪くない」
ふん、とため息を吐き、氷室は背を向ける。
「折角の、僕の自慢の力なんだ。上手く使ってくれよ」
「ああ、約束しよう。必ず、俺の『世界の創造』を──」
目を瞑り、『想い』を高め、見開き、告げる。
だが、その視界が映すのは、黄土の空だった。
その空が徐々に遠ざかり、四方には焔の群。
「……戻ってきた、のか」
(京馬君! どうしたの!? 一斉に、必殺の一撃が飛んでくるわっ!)
必死に呼び掛けるガブリエルの声。
「──お前が、『してくれた』んじゃないのか?」
(……はぁ? 何の事? そんな事より、『想い』を!)
焦燥の中、呆れ声で告げるガブリエル。
どうやら、『これ』には何か謎がありそうだ。
「そうだな! 考えている暇は、無し、だっ!」
吹っ切る様に、京馬は新たに『感情』を爆裂させる。
「なっ!? やるじゃねえか!」
滾る『決意』は、一斉に振り出される天叢雲剣の斬撃を瞬間的な加速を持って、回避する。
「この下、と、あそこか!」
急降下する京馬が掴み取るは、剛毅が跳ね飛ばした『朧』の幹部の頭部。
(ちょっと! 急にどうしたの!?)
頭の中で響く天使の困惑の声。
やはり、ガブリエルは自身の力の『変化』に気付いていないらしい。
「これで、準備が出来た!」
一撃必殺の無数の斬撃が京馬を掠める。
皮や肉の一部がスライスにされるも、京馬は目的のものを更に掴み取る。
「今更、自分の斬られた腕でもくっ付けるってか!?」
地に降り立ち、取り囲む焔を前に、京馬はだがその瞳を揺らがせない。
「違う! こうするんだっ!」
京馬は告げ、その手に持つ腕と頭を剣で両断してゆく。
「さあ、氷室! お前の『想い』、借りるぞ!」
左腕に持つ蒼の奔流はそのバラバラの肉片へと吸い込まれてゆく。
「『死体遊戯』!」
発現するは『黒』の魔法陣。
屈み、京馬はその片腕に力を込める。
肉片は、眩い蒼の極光となり、宙を小刻みに震わせて漂う。
「な、何だと……? この力は──!」
「『過負荷駆動』っ!」
次々と肉片だったものは、蒼の京馬の影となり、その各々が持つ蒼の奔流は、それぞれの『焔』を見据え──
「『|解放された想いの群束撃』!」
京馬とその分身が放つは、空間を呑み込む様な、弾け飛ぶ無数の蒼の掃射。
「ちっ!」
振るわれた絶対的な『裂く』一撃。
しかし、『点』として無数に分散された京馬の凝縮された『想い』は、その斬撃を掻い潜り、剛毅の焔の分身を悉く消滅させてゆく。
「ぐ、ちくしょう! やっぱり、手前は強えよ! こんな土壇場で、また成長しやがって!」
だが、『剛毅自身』は未だ、倒れない。
システマティックな動きしか取れない分身に対し、剛毅はその軌道を読み、何とか『裂いて』ゆく。
「だが、力のタイミングを読み違えたな! 俺の『過負荷駆動』で──」
剛毅は、『限界』を突破し、強烈に精神力を膨れ上がらせようとする。
だが、それは成し得なかった。
「が、あふ、あ、あああぁぁぁぁぁっ!」
その背後、剛毅の胸を突き刺すは、蒼の槍。
貫かれ、血を噴き出す剛毅は、そこで悟る。
読み誤っていた。
自身が削ぎ落とした少年の皮や肉は空間内に散在する、この状況。
もし、京馬が『死体を操られる』様になっているのならば、『それ』からも力は発せられる事が出来る。
自身を貫いたのは、その京馬の体の一部が『蒼』の力となったもの。
「俺の、勝ちです。剛毅さん」
血を滴らせながら歩く京馬は、剛毅を前にして告げる。
息を荒げ、疲弊した両者は、再び相対する。




