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壊れた世界の反逆者 第二部 -『管理者』不在の世界編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第一章:骸と魂塊の舞踏は神の所業をし、だが彼女は死を誘う
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Scene 19 襲撃者達は集う

予想以上に早く仕上がったので、今週に投稿です。

とはいえ、追加の描写ですが……


次回から、本格的な戦闘になりますかね?

 一方、京馬達が『黄泉比良坂(よもつひらさか)』へ向かう前の闇夜の帳。


「ほい、ほい、よっと……ふふ、さあさあ。こっちにおいで」


「ウジュ、ウジュルルルッ!」


 その闇の細路地。

 異様で異形な這いずりまわる化け物が、獲物を追い掛ける。


「そうそう。良い子だから、一般人に喰らい付いては駄目ですよ?」


 その獲物となる彼女──

 黒の装束、そして胸を月明かりに照らす(くさび)帷子(かたびら)を着る、世間一般で言う『忍者』の格好をしたアダムの『監視班』加奈子は剥き出しの配管や、配電線を足場に跳躍、疾走。


「うん。そろそろですかね?」


 だが、その危機的状況であるのに関わらず、加奈子は笑む。

 懐から取り出したクナイ。

 柄に怪しい輝きをする『サファイア』をめり込ませた『アビスとこの世界の概念の混合兵器』を加奈子は取り出す。


「ウジュ、ジュラアアアァァァッ!?」


 指に挟み込まれたそのクナイを、加奈子はその化け物へと投擲。

 空間を弄ぶかの様な、変則次元の加奈子の跳躍。

 そこから放たれた刃の群は、化け物の俊敏にうねる体を的確に射抜く。


「おとなしくして下さいね?」


 更に、怯む化け物へと遠心力最大に振り切ったクナイの投擲は、深々と化け物の体に捻じ込まれる。

 雄叫びを挙げる事無く崩れゆく蛇であり、芋虫でもあるかの様な化け物。

 それは、致命打である事以外に、クナイから発生した『冷気』による凍結。

 物言わずオブジェと化した化け物を、加奈子は更に腰に差した刀を居合し、両断する。


「ふう……私は、インカネーターでも何でもない一般人ですよ? 何でこんな業務外な危険な仕事を。前期のボーナス底上げしてくれないかな」


 深いため息を吐き、加奈子は愚痴る。

 世界を裏で牛耳る組織『アダム』。その『監視班』の中でもすこぶる優秀であると、『自身』では自覚している(ひいらぎ)加奈子(かなこ)

 元新体操部所属の加奈子は、その身体能力を買われ、世間ではあまりに怪しそうなその組織へとヘッドハンティングされた。

 だが、加奈子はその組織の配属を快諾する。

 それは、事前の説明と、そしてその説明の時にたまたま居合わせた少女に、心躍らされたからであった。

 自身が知らなかった魔法や未知が拡がる世界。

 そして、その世界へと入り浸る天真爛漫な彼女。

 夢想であると片付けられた『その世界』を、自身が焦がれた世界を前にして、どうして断れようか。

 まあ、断った所で『処分』されたであろうが。


「さっちん達は、こんな死と隣り合わせを何度も経験してるんだよなあ。それも、こんな『エロージョンド』ではなく、『本物』と。やっぱり、インカネーターって凄い精神力だと実感しますよ」


 加奈子は、改めてその自身が魅入られた少女に敬服する。


「まあ、私は、私の業務をしっかりこなしますか」


 諦めのため息を再度吐き、加奈子が動き出そうとした刹那。


「ああ。あなた、アダムの子だよね?」


 加奈子の背筋に、悪寒が走る。

 毒蛇の牙が喉元、側に制止している様な、絶対的な生命の危機感。

 その粘り付く様な、逃れられない圧倒的な『氣』は、加奈子に逃走という選択肢が無い事を告げる。

 唇を強張らせ、加奈子は『ああ、今日は大好きな納豆御飯でも食べておけば良かったな』なんて後悔を現実逃避に思い馳せながら、問いへと返答する。


「は、はい。そうですよ。ワタシに敵意はアリマセン」


 カチカチに強張りながらも、加奈子は声の主へと答える。


「だよね。前に、『京ちゃん』達と一緒にいたのを見た事あったから」


「『京ちゃん』……? あ、ああ。あなたがあの『管理者殺しゲートキーパー・キラー』の想い人ですか?」


「ええっ!? 京ちゃんがそんな事、言ってたの!? ……嬉しい。それだけで濡れちゃいそう」


 そう告げる声の主は、だが決して加奈子の背後へと向けた『多数の先の尖った触手』を退く事は無かった。

 少女らしい屈託ない嬉し声を闇夜に響かせながら、彼女──葛野葉美樹は続ける。


「よく、ここの近くに『扉』があるって分かったね? やっぱり、アダムは恐ろしいよ」


「な、何を仰いますか。私達、一般人用の『アビス・ウォッチャー』の『アビスの力』の探知にも引っ掛からないなんて、あなたこそ恐ろしいですよ」


「ふふ。あなた、『混在覚醒状態』って知ってる? 何も、京ちゃんみたいな『現人神』で無くても、その『探知』からは逃れられるんだよ?」


「『混在覚醒状態』……? あなたが、あの?」


「そう。人類でも私が初めてかもね? その性質上、私は『この世界』の住民でもあるし『アビスの住民』でもある。でも、『現人神』と違う所は、『本神』そのものとなった訳では無くて、あくまで『化身』とその精神をシェアしている点ね」


「これはこれは……メイザースが知ったら、どんな手を使っても手に入れたがりそうなVIPになれますよ」


「そう。その前に、私は殺すけどね」


「ヒエッ……!」


 告げると同時、鋭い切っ先の触手の刃が加奈子の頬を撫でる。


「ふふ。この反応、新鮮ね。まあ、一般人なら、しょうがないか。でも……」


 呟き、美樹は加奈子の全体を見やる。

 その情報は、美樹の所属している反アダム組織アウトサイダーでも報告されている。

 加奈子が手に持つ『魔法鉱石』を搭載した一般人用、『対アビスの力』の兵器『アヴェンジャー・アビス』シリーズ。

 それは、その手に持つクナイのみだけで無い。

 その忍び装束に隠されているだろう、両手、両足、そしてボンテージの様に体に装着している『マーキュリウム・ドライヴ』という精神力の伝搬でよく用いられる『水銀』を血液、電流と同義の(パワー)とする『身体強化装置』も該当する。


「こんな戦闘態勢万全な一般人を……この『王下直属部隊』、『禍』のリーダーである私が見逃しても良いのかな?」


「ウ、ウヒ、お助け!」


 更に詰め寄る触手の先を凝視し、思わず加奈子は悲鳴と懇願をしてしまう。

 その加奈子を見、だが美樹は可愛らしい子猫を愛でる様に見つめる。

 ああ、この子。

 人殺した事、無いんだな……


「ふふ。ちょっと意地悪が過ぎちゃったかもね」


 自嘲気味な笑みを隠す様に、美樹は自身でも妙に明るいと思う明朗な声で言う。


「え、それって……!」


「しばらく、『作戦』が終わるまで私の捕縛結界内に拘束させて貰うよ」


「あ、ちょちょ、ちょと待っ──」


 美樹の手から生える無数の触手が加奈子を包み込む。

 紅い繭の様に、触手が加奈子の全身を丸めこむと、同時、その繭は裂かれた異空間へと引き摺りこまれる。




 薄い蛍光色と、モニターのLEDライトのみが照らす一室。

 機械の配管が中央の巨大な漆黒の石を取り囲む。

 その石をジャックに差しこんでいる白銀の機械は、怪しく黒光るそれを護衛するかの如く、きっかりとシステマティックに組み込まれていた。


「おう、美樹。遅かったじゃねえか。行きづりの男の相手でもしてたんか?」


「いいや。ちょっと、周囲を散歩してただけだよ」


 その機械を取り囲む様に、怪しい集団が屯する。

 美樹が部屋に入るや否や語りかけたその眼前の相手は新島であった。


「『散歩』ねえ……『黒炎魔王の淫魔女(アスモダイ・ラスト)』がそう言っちゃ、本当に淫らな事しか想像出来ねえなぁっ!」


 ぶわっはっは!

 と、豪快に笑う角切りの金髪の屈強な男は言う。


「えー、と。あなた、誰だっけ?」


「あぁっ!? この、格闘王、エルネスト様を忘れただと!?」


 憤慨する男の言葉に、美樹はポンと掌を叩く。


「ああ、あの薬物使用の疑いで干された格闘家だっけ?」


「手前……その綺麗な顔をグチャグチャにしてやろうか……!」


 こめかみの血管を浮き上らせ、エルネストは美樹を睨む。

 その犬歯を剥き出した猛獣とする様なエルネストの憤怒の顔を、美樹はクスリと笑んで挑発する。


「ふ、へへ。ほらほら、止めなさい。エルネストも、そんな挑発に乗っては底が知れてしまうよ?」


 その様子を、面白可笑しく見つめていた明朗とした少女──マシリフ・マトロフは告げる。


「……ち。分かりました。『教授』」


 エルネストは、マシリフ・マトロフの言葉に渋々頷き、前のめりにした体を戻す。


「さて、皆、揃った様ですね」


 エルネストが元の席に戻ったのを確認し、マシリフ・マトロフは薄暗い室内で僅かに照らされる一同に言う。

 その言葉に、一同は笑みを深々とし、その眼光は未だ見ぬ獲物へ。


「ち、糞娼婦めが……俺様の実力に腰抜かすなよ」


「日本のアダム共が、この俺達、『朧』にどう対抗するか。楽しみだな」


「ふふ。エレンは私が()る。他の奴は手を出すなよ?」


 これから始まる殺し合いに各々が闘志を滾らせる『朧』の一団。


「がっはっは! あいつと久しぶりに闘うのか! 楽しみだ」


「まあ、妥当な相手ね」


「うぐ、あー駄目だ。今から鬱になってきた。何で私があんな化け物の相手を……」


 そして向かい合う様に座る『禍』の一団。

 その『自身』が長を務める隊をまとめるかの様に中心に座る美樹とマシリフ・マトロフ。


「ふへ、へへ。いやはや、『瞬間転移』とは、『禍』のモノリスは便利で良いね」


「それはお互い様だよ。『空間操作』なんて、贅沢な能力」


 互いが口を吊り上げ、笑む。

 それは、その見つめる瞳同士で腹を探るかの様な、実に思わせぶりな不敵な笑みであった。


「さあ、準備は良い?」


 しばらくマシリフ・マトロフと見つめ合った美樹は、双隊に問う。

 一同の頷きに、美樹は頷きで答え、その手を漆黒の石──モノリスに触れさせる。


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