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壊れた世界の反逆者 第二部 -『管理者』不在の世界編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第一章:骸と魂塊の舞踏は神の所業をし、だが彼女は死を誘う
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Scene 17 突入前

「もう昔のアダムでは無いのだから、正直に総統と言えば良いじゃない」


「何を仰っているのですか!? 代々、私達、メイザースはアダムの総統を秘密の首領と呼称するのが(おきて)なのです! それを破れば、私はメイザースとして失格です!」


 ははー、と、土下座するメイザースに総統──シモーヌは嘆息する。


「ホント、妙なこだわりね」


「妙ではありません! 必然です!」


 そのシモーヌへ、力強くメイザースは告げる。


「そう。まあ、あんたが呼び易ければ、何でも良いわ。で、調査結果はどうなの?」


「ふふ。私の解析の見立てでは、あの『朧』が所持している『トバルカインの遺産』モノリスの一つは、空間内外に及ぼす様々な因子を操作出来る様です」


 シモーヌの問い掛けに、先程まで緩めていた表情を険としてメイザースは告げる。


「例えば、空間に干渉する力の一つをAとし、そのAのベクトルを別座標に転換、またはAという力を増減させる事が出来る」


「成程。だから、桐人が行った捕縛結界という無理矢理な別空間への移動の事象を、無効化する事が出来た訳ね。だけど、エレンの電磁ネットワークが遮断されていたのは、どういった原因が?」


「あー、それは、めっちゃ悔しい事なんですが……先程、空間内外と言いましたが、『七十二柱支配の貴公子(ソロモン・プリンス)』はその時、既に敵の捕縛結界に捕らわれていたんですよ」


「『メイザース・プロテクト』に似た、疑似捕縛結界か」


「御名答! そうなのよっ! あの『エンジェルフォール計画』の際に、この私が開発した技術が、横流しにされてしまったのね」


「だが、あの時に俺が捕らわれた空間には一般人も通過出来た。そして、一般人がアビスの生物の被害を受けたのを、俺は目撃している」


「まあ、そこは私の誇らしい所よ! あの『メイザース・プロテクト』をあちら側の技術が解析し切れなかったという事ね! おほほほ!」


「……つまり、あくまでも『疑似』という事ね?」


 さも誇らしげに笑い声を挙げるメイザースに対し、表情を崩さずにシモーヌは問う。


「そう! 言うなれば、世界というものを遮断する『膜』を形成するという事ですかね? 見かけ上はまるで同じ空間ですが、アビスの力学で言えば、確かに異なった『世界』と言えます」


「成程、一見無意味な装置だが、そのモノリスとの組み合わせによって、強力な戦略装置になるわけか」


「そうね。あちらの管理下に置かれたその『疑似捕縛結界』に捕らわれれば、実力差のあるインカネーター同士の戦いでも、同等、あるいはそれ以上の実力で対峙出来る様になる」


「そうか。やはり、あの時に幻覚や分身を使った戦法で立ち回ったのは正解だったようだな」


 メイザースの解析に、桐人は唇に手を当てて思慮する。


「今まで朧と戦ってきた幹部達が軒並み殺されたせいで、その手の内の情報が全く無かった。流石、『殲滅部隊』というだけあるわね。でも、今回の件で少しはその力の一端は解明出来そうよ。……ぬ、ふふ。『七十二柱支配の貴公子(ソロモン・プリンス)』には感謝しなきゃねえ」


「だが、未だそれとあの『ゾロアスターの悪星』の一人、マシリフ・マトロフがその部隊に所属している事以外分かっていない。存分に注意して行かないとな」


「そうですねえ! 日本支部は私のお気に入りですからねえ! 生き抜いて貰わないと」


「ふふ。そういってくれると嬉しいな。出来れば、メイザースも参戦して貰いたい所だが……その、『人工化身』とやらの力を是非とも見てみたい」


「え? あ、ああ。私の化身は未だ不完全だから、お披露目するのは当分先かしら」


「数々の敵の手からイギリス支部を守ってきたその化身の力が未だ不完全か? ふふ。まあ、そんなに手の内を明かされたくないのであれば、俺もそれ以上は言わないよ」


「お、おほほほ! そうね。未だ極秘と言う事で」


「ところで、メイザース。もう一つの件だけれど」


「ええ、はい! 勿論、そちらの話もしますよ? 秘密の首領」


 コホンと、メイザースは軽く咳払いをし、再度、口を開く。


「えー、あなた達日本支部には色々と疑いがあるようなので、今回、期限内までに失踪事件の解決をしなければならないという事ですが──」


 チラチラと、京馬達へと視線を向け、メイザースは叫ぶ。


「今日行う『黄泉比良坂(よもつひらさか)』への調査では、この私が数々の試作を経て完成させた『アストラル・リサーチャー』を身に付けて貰うわっ!」


 喜々として言い放つメイザースがローブの懐から出したのは、デジタル式の計測器であった。

 その形状は少し大きめな腕時計の様であり、近未来的なデザインが施されている。


「この『アストラル・リサーチャー』はね! 一個人の精神力を正確に測定出来、更にはその固有能力の詳細を分析、おまけに探知機能まで付いている超優秀な装置なのよ!」


 おほほほ、と自慢げにメイザースは告げる。


「このアダムの技術の最先端を、こんなこじんまりな島国にプレゼントしたのは、二つの訳があるのを心得なさい」


 告げるメイザースは、その指先を一同へと向ける。


「まず一つ目! それは、あなた達日本支部の行動の監視ね! そこの『星砕き(スター・ブレイカー)』、美龍(メイロン)の眼が常にある状態よ! 下手な行動を起こしたら、世界でも一、二を争う実力者の剛腕で捻じ伏せられるわ!」


 そう告げ、メイザースは各々の反応を観察する。

 京馬を始め、周囲が表情を崩さずに聞き入るのを確認し、そして続ける。


「そして二つ目! 個人的には、それが一番の目的なんだけど、相手の戦力などのデータ集めね! 只でさえその力の詳細が不明なアウトサイダーの王下直属部隊及び敵対する可能性のある『現人神』夜和泉静子の戦力を少しでも解析出来れば、今後の戦闘で大いに役立つと思うわ!」


 メイザースが告げ終わると同時、シモーヌは二度、頷いた後に口を開く。


「そういう訳。まあ、あなた達日本支部への疑いが杞憂である事を願うわ」


「ちょっと待ってくれ」


 淡々と告げ、背を向けて自身を映すホログラムを消そうとするシモーヌに対し、桐人は呼び止める。


「何?」


「総統──いや、シモーヌ。お前は、本当に俺達への疑惑の為だけに美龍とエレンを日本支部に寄越したのか?」


「ふふ。どうでしょうね? 只──私は物事が単純な善悪で判断出来る程、軟なものであるとは思わないし、選択と言うものに絶対的な解があるとは思わない」


 そこで、シモーヌの言葉は途切れる。

 だが、桐人は口を吊り上げて、確信を得た様に笑む。


「ふふ。はは、ははっ! 同感だ! 方程式に解が無いのと同時に至極単純な事だ! 全く、俺とした事が両極端に思考してしまったよ!」


 次第に、馬鹿笑いとも取れる、面白可笑しく笑う桐人。


「き、桐人さん……?」


「い、いや、済まない。咲月ちゃん。何でもない、何でもないんだ。だが、安心してくれ。京馬君を始めとした君達は大丈夫だ」


 首を傾げる咲月に、桐人は言う。

 何時もとは違う、気の触れた様な桐人の反応に、咲月は不気味がる。


「さあ、もう質問は良いかしら? では、日本支部の健闘を祈るわね」


 静かに口を吊り上げ、シモーヌを映すホログラムが消え去る。


「おほほほ! そう言う訳よ! さあ、がっつりぐっつり、行ってきなさい!」


 甲高い笑い声と共に、メイザースのホログラムも消え去る。

 会議室は静かになり、織田がその一寸の間の後に口を開く。


「では、解散だ。襲撃もあり、よって予定を変更し、明日の早朝に出発する。この基地泊まり込み、各自で『整備室』などで準備を済ましておけ」


 その織田の言葉に一同は頷き、席を離れてゆく。


「ふん。こんなんで良いのかよ。あいつ……」


 そんな中、遅れて席を立ったウリエルは、深いため息をついて呟く。




「いやー、ヴェロニカちゃんがいるおかげで、最近、僕の気分は毎日ウキウキしてるよ!」


「あー、そうかい。じゃあ、何時もの頼む」


「合点承知で! この深山銀二! 渾身のチューンナップでお届けするよ!」


 短めの金髪と、背丈の男の興奮の言葉に、冷めた口調でヴェロニカが告げる。

 アダム日本支部、地下基地──

 実質、日本本土でのアダムの活動における中心地となるこの場所には、様々な施設が所々に存在する。

 その一つが、この『整備室』。

 アダムが開発したアビスの力に対応した武器や道具、装置を管理、整備する施設。


「今度は、ちゃんと弾の照合をお願いするぜ。また、あのメイザースの野郎が箱の中身をすり替えたんなら堪ったもんじゃねえからな」


「勿論ですとも! ああ、でも前回水の属性の敵と出くわして火力不足だったらしいから、錬成で『火』が発生する『ルビー』辺りを詰めておきます?」


「ああ、そうだな。この世界では、アビスの力は『四元素説』に依存する。相反する属性の方が与えるダメージはでかい筈だ」


 告げ、ヴェロニカが手を翳す。

 すると、側の空間が裂け、巨大なカートリッジが側面に出現する。


「毎度思うんですけど、その『兵器』達ってちゃんと管理されてるんですか? あんな何十、何百とある兵器を一個ずつアタッシュケースに入れてるんじゃあ、あんなに瞬時に発現出来ないでしょう?」


「あたいの『戦鬼無双の凱旋トライアンフル・ウェポン』は、私の化身である『バルバトス』の固有能力である『あらゆる銃器をアビスの法則に従属させる』事で集めた現実世界の兵器コレクションだ。故にそれはあいつの『愉悦』の一部であって、その管理をあいつは快く承ってくれている」


「つまりは、ヴェロニカちゃんのバルバトスがその兵器達の倉庫番を勝手にやってくれる訳だ?」


「そういうこった。全く、本当に『アビスの住民』つーのは、良く分かんねえ奴等だよ」


 呆れ声を漏らすヴェロニカの隣り、そのヴェロニカの浅い胸板を嘲笑うかのような豊満な双丘が押し寄せる。


「どうも」


「ちっ……どーも、エレンさん」


「ちょっと、いきなり舌打ち!? 全く、新入りは教育がなっていないわね」


 エレンの胸を一寸見やり、舌打ちをするヴェロニカに対し、エレンは眉間に皺を寄せる。


「生憎、あたいは『応援』の身でね。あんたが長い事いた、この支部のローカルルールを一欠片も理解していないんすよ」


「あら、目上への挨拶は全世界共通だと思うけど?」


「それも生憎。あたいの生まれ育った場所は、強者が捻じ伏せれば、目上だろうが何だろうが関係ねえ。犯し、蹂躙し、何でもござれだ」


「そう。だったら、『それ』も学習しておきなさい? 縮こまった世界で生きるなんて勿体無いわ」


「大きな御世話だ」


 エレンの忠告に、ヴェロニカは目を背け、言う。

 無論、エレンの言葉と、その真意をヴェロニカは理解していた。

 そうしないのは、ヴェロニカが自身に打ち立てた方針(ポリシー)

 只、自身が認めるか否か。

 それだけで対応が変わるだけ。

 そこに、エレン・パーソンズという人物が未だ値しない存在というだけなのであった。


「なら、好きにすれば良いわ。銀二。この子の調整が終わったら、私のマッシヴ・エレクトロニックもお願い」


 軽くため息をつき、エレンは何食わぬ顔で銀二に言う。


「──ねえ。あなた、京馬君の事どう思う?」


 自身の右手に発現したモーター式の駆動部が所々に剥き出している装置を眺めながら、エレンはヴェロニカに問う。


「ああ? どうも思ってねえよ」


「そう? あなたみたいな子なら、イラついてるんじゃないかと思った」


 そのエレンの言葉に、ヴェロニカは眉をピクリと反応させる。

 その反応を見、エレンは微笑して続ける。


「だろうと思った。でしょうね。彼の『想い』は、あなたの『世界』から見れば、本当に荒唐無稽で、全く意味の無い事の様に映るかもね」


「逆に聞くぜ? あんたはあいつの『想い』とやらが、大層に素晴らしい事に映っているのかい?」


 そのヴェロニカの問いに、エレンは首を振る。


「そんな訳ない。言うなれば、彼の目指す事は、只の安穏が続く世界。そこに暮らす者は何も意志は無く、全てが平坦」


「ほう。じゃあ、あんたにとってあいつはどんな存在何だ?」


「競う者、かしら」


「競う?」


「そう。互いが互いを高め、競い合う存在の一人。自分の求める『世界』を掴み取るためのね」


 ふふ、と微笑し、エレンは呟く。

 不思議そうに眺めるヴェロニカを脇に、エレンは只、別のものを見つめていた。

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