四人組
厭なことは当然のように立て続けに起こるもので、僕の周りには、初老のおじいさんとガタイのいいお兄さん系、そして、
「なんですか?……これ」
「五人組ならぬ四人組だ」
高橋さんと名乗った男(上司)は腕組をして言った。
「隣組ならぬ四人組か!」
お兄さん系(ここからは勝手に兄貴と仮に呼ばせてもらおう)は楽しそうに納得していた。
そう、先輩(『高橋さん』とか面倒だし、そう呼ぶと「生意気だ。『高橋様』とか、もっと敬意を払え!」とキレられそうだから)が現れた後、その後ろからいかにもエリートが現れ、僕らはエリート1人と新人3人で組まされた。
それが、先輩曰く、五人組ならぬ“四人組”らしい。
「2年C組(高校の時のクラス)ならぬ四人組ですか」
と、いうわけで、兄貴に続けて僕も参戦。
「なんかちょっと違うな」
あっさり兄貴に否定された。
「3年D組○八先生ならぬ四人組ですか」
おじいさんも参戦。
僕には『2年C組』より分からなかったが、
「そうそう、それだよ!」
あっさり兄貴は肯定。
どう違うんだ!
じゃあ、『ご○せん』ならありなわけ!?『○王の教室』も!?
てか、おじいさんはドラマとか見る人なんだ。ガーデニングとかにはまってそうな気がしたのに。
「霧津はホームドラマからRまでOKだ」
その時、先輩が軽く問題発言をしたのを僕は危うく聞き逃すところだった。
上司が部下の名を知っていたのには驚かないが、
RってR指定のこと!?
僕が困惑していると、霧津さんは僕の疑問に答えてくれた。
「ちょっと外へ出ない内にロリショタやBLなどと……私にはお屋敷のお世話があると、見ないフリをしていましたが、お坊っちゃまがお外へ出るのならば私も見て見ぬフリはできぬと思いまして」
「お屋敷にお坊っちゃまって、霧津さんって執事か何か?すげーな」
僕も兄貴と同意見だ。
「この前向きな姿勢、七瀬も見習っとけ」
霧津さんを崇める僕らの横で先輩は大きな欠伸をして言った。
確かに、霧津さんのそのやる気は見習いたいと思う。そこは崇めたい。
だけど、
「すっごいマニアックなんですけど……」
と、ツッコミをいれてもいいはずだ。
チーフの先輩が軽く雑務の説明をした後、それぞれのグループでリーダーの指示で動くことになった。
「先ずは我ら運命共同体、自己紹介しよーぜ!」
兄貴が仕切る。
それに対して、先輩は黙認。と言うより、欠伸が凄い。
「俺は優しさ一番、大野優一」
兄貴は大野さんと言うらしい。
霧津さんと僕は一応、先輩を伺うが、
「俺はもう最初にしただろ」
何て無愛想なやつなんだ。
霧津さんに目配せをすれば、先にと頭を下げられた。僕は最初が肝心と心の中で一息吐いてから、俯いていた顔を上げた。
「僕は七瀬咲也でしゅ……――」
ん?
何だ?
今……僕は……――
「噛んだだろ」
そして、先輩のウザいくらいの嘲笑。
間違えた。
先輩はウザい。
あんた、老け顔じゃなきゃ僕より歳上だろ!一応、社会人なら、言っていいことと悪いことの区別ぐらいできんだろ!
と、あの寝癖なのかぴょんと跳ねている髪を嘲笑いながら叫びたい。
が、
僕は社会人なので言っていいことと悪いことの区別ぐらいつく。ここで僕が言えば、僕自信はすっきりするが、僕がこれから掴む予定のハッピーライフに支障が出る可能性がある。
それに、僕は社会人である前に二十歳過ぎた大人だから社会人に成り損ないの子供の嫌味くらい軽く流せる。
あーあー!
僕は大人なんだよ!
「僕は七瀬咲也です。これからよろしくお願いします」
「ん、よろしくな」
そのくせ、子供扱いするように僕の頭を先輩は撫でる。てか、押さえ付けてるんですけど!
「にしてもちっさいな」
「は、な、し、て、下さいっ!」
従兄達もよく僕を子供扱いする。だけど、ちっさいのは父の……遺伝なんだ!
僕は上がらない頭でもがく。くわっと聞こえるのは先輩の欠伸。欠伸できるほど余裕で僕を押さえているのと、このままだと先輩にまで従兄達とのように玩具にされる危機感が僕を追い詰めてくる。
畜生。
僕は餓鬼じゃないんだ。大人なんだ。分かれよ!
そう、あの時の僕は無性に苛々していた。だから、先輩の悪意のない(かもしれない)スキンシップも大人として受け流せなかった。多分、薬の瓶を落としたことに一度、薬がなくて発作で死にそうになった時の恐怖を思いだし、それと酷くなってきた頭痛のせいだ。
なんか色々とヤバい。
「ん?七瀬……お前……」
僕の髪をボサボサにする先輩が何かを言おうとした時だった。
「高橋さん、我らの華を虐めちゃいけませんよ」
大野さんだ。
彼は先輩に捕まった僕を然り気無く助けてくれる。その手に促されるように彼の背に隠れ、頭を撫で付けて先輩をそっと見やると……。
僕と目が合った。
黒……だ。
重なってはいけないのに一瞬、先輩に隼人が重なった。
ドクッ……――
やめろ。
思い出すな。
隼人は傍にいないんだ。
思い出すな!
「やめろ!!!!!!」
叫んでた。
はっとした時には既に遅く、僕は奇異の眼差しの中心にいた。同じように会議室に残っていたグループまでもが僕を怪訝に見てくる。
ヤバいぞ……これは。
「ごめん、厭だったか?」
大野さんが謝ってくる。
違う。そうじゃないんだ。
大野さんは悪くない。
「七瀬さん、お加減が悪いようなら少し休まれては……」
陸奥さんはふらつく僕の肩を押さえてくれる。
だから、違うんだ。
周囲からの目が痛い。
こういう視線は厭だ。あの時を思い出す。
トラウマが……思い出してしまうんだ。
『弱虫っ!』
煩い。僕は弱くなんかない。
『七瀬なんか学校来んなよ!』
従うかよ。絶対に来てやる。
君を守るために。
『七瀬君、ぼくに近寄らないでくれ』
どうして?
『君が近くにいると折角ぼくから君に標的が変わったのに、また、ぼくまでもハブられちゃう』
なんで?
『死ねよ、七瀬!』
やめて。
『しーね、しーね、しーね』
やめてよ。
君からも言ってよ。
『七瀬君、ごめんね。死んで?』
ウソ…だよね……。
『ウザいんだよ!ぼくに触るな!クソ七瀬!!』
「やめろぉお!!!!!!!!!」
もう何が何だか分からなくなっていた。
周り全てが怖い。
ただそれしかなかった。
散々時間を空けといて短いな!と、自分で突っ込みたいです。正直、執筆に行き詰っていました(これに関してだけ)。「啼く鳥」だけ、自分でも驚くぐらいバンバン出しているのに…。これの続きは多分近いうちに。この話を改めて続けて書くかもしれませんし、次の話として出すかもしれません。
それでも、この話の無理矢理な終わらせ方が許せなくもなく…(どっちなんだ!)。途中から違うの書きたくなったんだよっ!ってことなんですよ。
待っていただける方は気長にお待ちいただけると嬉しいです。待つ以外何があるんだと聞かれたら答えられないんですけどね(^^ゞ