Over (8)
クスリと笑いながら『あの二人よりも、弱いから?』そう聞いたら、バシン!と音がして口の中に血の味が広がった。
哲に殴られた。
平気で女に手を上げる卑怯な男達。
「圭吾の言う通り生意気な女だな」
豊は片眉をあげて何か言おうとしたけれど、口をつぐみ私と哲のやりとりを見ていた。
哲は眉を吊り上げて怒っている。
私の言葉に素直に反応するなんて、自分で暴露しているようなものじゃない?
「弱いって図星だった?」
またバシッと音がした。同じ側の頬を殴られて、メガネが飛んだ。
口の中に広がる嫌な味に眉を顰めて痛みを堪えながら、床に落ちているメガネを見ていた。
どうしよう…
「お前もこの男みたいになりたいか?」
顔を上げずにいると、哲はぐったりと横になっていたコジ君を足で転がした。
コジ君は痛みに顔を歪めて、苦しそうに呻き声をあげていた。
「やめて!酷いことないで!!」
苦しそうなコジ君を見て、ごめんなさい。と何回も謝った。
私のせいで彼を巻き込んでしまった。
コジ君の傍に行こうとして豊の腕を振り解こうとしていると、髪の毛を掴まれて顔を上げさせられた。
「おまえ…」
何故か間抜けな顔をして固まっている哲を睨みつけていると、豊がヒュッと口笛を吹いた。
意味が分からなくて豊を見ると、私を見てニヤリと笑った。
「今まで、どんなに調べてもおまえの情報は挙がってこなかった。藤島も宮野も隠したがる訳だ」
豊の言葉に頷きながら、哲は厭らしい笑みを浮かべて私を見た。
「楽しみが増えたな。この女をモノにしたらあいつらはどんな顔をするだろうな?」
この厭らしい顔を見て、寒気がする。この男達に負けたくない、屈したくない。
どうすればいいか、そんなことを考えられないくらいに腹が立っていた。
「私を傷つけてもあの二人は倒せない」
「なんだと?」
凄んで見せたって、大声を出しているだけじゃ迫力なんかないよ?
「だって、葵と寛貴よりもあんたは弱い。その事実は変わらないでしょう?どんなに卑怯な手を使ってもあの二人には勝てないって言ってるの。意味、分かる?」
「なっ…てめぇ!女だと思って甘くしてやれば!!」
ダン!と床に倒されて、背中を強く打ち付けた
「うっ‥‥」
痛い!
床に倒されたまま、背中が痛んで動けずにいると、哲が私の上に馬乗りになった。
「お前バカだな。どんだけ大事にされてるか自覚してねーなんて…宮野と藤島に言えばこんな思いをしなくて済んだのに」
憐れむような豊の言葉に、哲は薄笑いを浮かべると、私の着ていたシャツに手をかけて引き裂いた。
布を引き裂く音が響き、私は恐怖と腹立ちを同時に感じながらはじけ飛んだボタンを見ていた。
葵、早く。
早く来て‥‥もう時間稼ぎが出来ない。
「梨桜ちゃん!」
麗香ちゃんの悲鳴が部屋に響き、彼女を見ると泣きながら私の名前を呼び続けていた。
哲を睨みつけると、薄笑いを浮かべながら残っていたシャツのボタンを引きちぎるようにして裂いた。
「オレさぁ、あんたみたいな可愛い子とヤッてみたかったんだよね。ケバい女ばっかでつまんねえ」
…もうダメなのかな。
弱気な考えが頭に浮かんだ時、寛貴との会話を思い出した。
『助けて。って言ったら助けてくれるの?』
『ああ。だから必ずオレを呼べ。分かったな?』
ねえ、呼んだら本当に助けに来てくれる?
「寛貴、助けて」
「呼んだって誰も来ねぇよ。二度と威勢のいい言葉が出ないようにしてやる」