Over (7)
顔に痛みが走った。
「った‥‥」
もう一度頬に痛みが走る。
誰かが、意識を飛ばしていた私の頬をピシリと叩いている。
…最低
「起きろよ」
仕方なく目を開けると、目の前に豊の顔があった。
「おまえの男はあいつなのか?」
顎で指す方を見ると、殴られて顔を腫らしたコジ君が倒れていた。
ぐったりとして目を閉じている。
「コジ君!」
起き上ろうとして手を床についたら、肩が酷く傷んだ。
「コジ君!」
もう一度呼びかけると、うっすらと目を開けた。殴られたせいで、目が充血している。
痛々しいその顔を見て胸が痛んだ。
「梨桜さん‥肩は痛みませんか?オレのせいですみません」
「私の事より自分の事でしょう!?」
こんな時も私を気遣う彼に涙が出た。
コジ君をこんなに傷つけて卑怯な真似をして…許さない!!
もう一度床に手をついて体を起こした。
「麗香ちゃんは無事なんでしょうね」
豊を睨むと、煙草を銜えながら笑った。
「まだ何もしてねぇよ?」
「まだ?…私が一人で来たら解放するっていう約束でしょう?連れて来なさいよ!」
豊は傍にいた男に顎で指示を出した。
「ホント、おまえって気が強いな。なぁ、藤島と宮野どっちが本命だ?」
私の顎に指をかけ、顔を自分に向けさせた。
目の前には嫌悪感しか浮かばない顔があり、近すぎる距離と煙草の臭いに顔を背けようとしたけれど、豊は指に力を入れて、それを許さなかった。
「藤島?――宮野?」
私が何かを答えて二人に危害が加えられるのが嫌だった。
答えないでいると、豊はまた歪んでいる笑みを浮かべた、
「二股かけてんのか?」
「そんなわけないでしょ!」
自由に動かすことのできる方の手で豊の頬を叩こうとすると、腕を掴まれて捻りあげられた。
「イヤッ!」
「気の強い女は嫌いじゃないぜ?…でも、刃向う女は好きじゃないな」
私を見て笑う豊を睨みつけていると扉が開く音がした。
「豊、女が目を覚ましたら教えろって言ったよな?」
野太い声をした男、豊から「哲さん」と呼ばれていた。
この男は多分、ここのトップ。この男に引き渡されたら、私はどうなるの?
こんな卑怯な手を使って来るんだから、すんなり帰してはくれない。
きっと葵は来てくれる。それまでどうやって時間を稼げばいい?
私は、どうすればいい?
「哲さん‥」
哲と呼ばれた男は体が大きくて、頭の悪そうな男だった。
どちらかというとこの豊という男の方が頭が良さそうだ。
開かれた扉から、麗香ちゃんが圭吾に連れられて入ってきた。
手を後ろに縛られていて、顔に涙の跡はあるけれど、殴られたような跡はない。
衣服も乱れた様子もなくてほっとした。
「梨桜ちゃん」
「麗香ちゃん!」
彼女に駆け寄ろうとすると、豊に腕を引かれて肩の痛みで声を上げてしまった。
「イタッ…」
「おまえはこっちだ」
哲の前に突き出され、抗ったけれど男の力には敵わなかった。
「地味な女だよな。アイツらはこの女の何がいいんだ?」
地味で悪かったわね!
哲は私を舐めまわすように見ると鼻で笑いながら言った。
「気の強い女ですよ」
「それだけだろ?まぁ、いい。青龍と朱雀がどう出るか‥‥楽しみだな、こっちには人質が3人もいる」
哲がニヤニヤと笑いながら言い、私はその笑い顔に嫌悪感しか浮かばなかった。
不良のチーム、同じように見えるけど全然違う。
葵も、寛貴もこんな卑怯なことはしない。
「あんた達、卑怯だね」
豊は口角だけを上げて言った。
「手段は選ばない主義なんだよ。利用できるものは利用しないと勿体無いだろ?」
その言葉に呆れたのと同時に笑いが込み上げた。
卑怯なことをして、正面からぶつかっていけないのは…
「あの二人よりも、弱いから?」