Over (6) side:悠
「まだ、梨桜ちゃんと決まったわけじゃない」
拓弥さんが言うと、宮野は首を横に振った。
「これは梨桜だ」
確かに梨桜ちゃんの可能性が高いけど、どうして切り取られた髪の毛だけで梨桜ちゃんだって分かるんだ!?
「なんで分かるんだよ!?」
オレが言うと、三浦が携帯でどこかに電話をしながらオレ達と宮野を見比べていた。
「葵がそう言うなら、それは梨桜ちゃんの髪の毛なんだろ…――オレだ、まだ分からないのか?ああ…分かった」
三浦が電話を切り、テーブルに置かれた紙切れを手に取った。
「青龍に髪の毛が投げ込まれた。ストレートで色はブラウン…髪の毛は紙に巻かれていて、そこには“奪 寵姫”と書かれてある」
『殺 紫垣』と『奪 寵姫』それはやっぱり寛貴さんと宮野に対してのメッセージ…梨桜ちゃんをもらった。そう言いたいのか?
「悠、さっきの電話は誰からだ?」
寛貴さんが宮野と睨み合いながらオレに聞いた。
「担任からでした。笠原が家に帰ってないらしくて、梨桜ちゃんに何か聞いていないか確認したいけど、梨桜ちゃんと家族に連絡がとれないからオレに何か知らないかって…」
寛貴さんは頷き、声にはしなかったけれど「北陵」と呟いていた。
北陵にはオレ達を闇討ちしてきた卑怯なチームの幹部がいる。朱雀に憧れていた笠原の元彼は北陵に進学したって聞いている。
「笠原?」
宮野が名前を呟いた。
「「笠原 麗香」梨桜ちゃんと同じクラスの‥‥――オレだ」
三浦の携帯に連絡が入った。
笠原のフルネームを聞いた宮野は、誰の事か分かったようで「そういうことか」と頷いていた。
「葵、コジとお前の携帯の場所が分かった。梨桜ちゃんの居場所はまだ分からない」
「北陵の倉庫だろ?梨桜もそこにいる」
宮野の言葉に三浦が頷いた。
どういうことだ?梨桜ちゃんが笠原とトラブルに巻き込まれているのはほぼ間違いない。でも、どうして小嶋と宮野の携帯が北陵の溜り場にあるんだ?
拓弥さんも納得がいっていない様子で宮野と三浦のやり取りを見ていた。
宮野は携帯でどこかに電話した。
「オレだ。桜庭、車で北陵の倉庫に迎え。奴らに見つかるんじゃねぇぞ。‥‥他の奴の運転じゃ駄目だ。梨桜を不安にさせるな。オレもすぐに向かう」
何がどうなってるんだ…桜庭は幹部の運転手だったよな?どうしてソイツじゃなきゃ駄目なんだ。それって梨桜ちゃんが不安にならない位に桜庭と面識があるっていうことだろ?
分かんねぇ…
部屋を出て行こうとする宮野の腕を掴んだ。
「押しかけてきたのはそっちだろ?説明しろよ!」
「梨桜がオレの携帯を持っているはずだ」
オレを振り返りもせずに答えて、部屋から出て行こうとする宮野に腹が立ち、掴んでいた手に力を込めると、宮野が振り返った。
苛立ちのせいで凄みの増した目で見下ろされ、思わずたじろぎそうになった。
拓弥さんがオレの代わりに宮野に向き合った。
「はずってなんだよ、確定じゃないんだろ?」
コイツの言う事は分からない。どうして梨桜ちゃんが宮野の携帯を持っているんだ?
苛立っていた宮野が口調を荒げた。
「うるせーな!オレには分かるんだよ!」
「わかんねーだろ!なんで梨桜ちゃんがお前の携帯持ってんだよ」
拓弥さんが宮野に食って掛かると、寛貴さんが宮野と拓弥さんの間に入った。
「悠、拓弥、やめろ。今はそんなことを言い合っている場合じゃない」
今の宮野の話を聞いて、何も疑問に思わないのか?
寛貴さん、どうしてそんなに冷静でいられるんだ?梨桜ちゃんに惚れているなら宮野との関係が気にならないのか?
「紫垣に売られた喧嘩だ。今は朱雀も青龍も関係ない、梨桜が第一優先だ。宮野、それでいいな?」
「あぁ、それでいい」
宮野と寛貴さんは部屋を出て行った。
二人の総長の背中を見て、また自己嫌悪に陥りかけた。今、寛貴さんは梨桜ちゃんの事しか考えていない。
梨桜ちゃんに惚れてるなら、彼女を助け出すことが一番大事なのに、オレはくだらないことに拘ってる…
三浦の携帯が鳴り、画面を見ると嫌そうな顔をして電話に出た。
「何?兄貴」
兄貴?
「…良く知ってるな。―――あのさ、コジを連れて行くと思うから準備しててくれねぇかな。―――あ?…面倒って、あんた医者だろ!?仕事しろよ!―――――え?あの人がこっちに向かってる?…マジかよ」
話しながら目に手を当てて項垂れている三浦。
ますますわけが分からねェ
「……分かってるよ、梨桜ちゃんは助け出す!」
電話を切ると、大きなため息をついた。
「おまえの兄貴って医者なのか」
「ああ…今は説明をしている時間はない」
そう言うと部屋を出て行った。
「悠、おまえも行くんだろ?…売られた喧嘩は買わねぇとな」
拓弥さんが楽しそうに言った。
そうだ、売られた喧嘩は倍にして返してやる。しかもオレ達の梨桜ちゃんを拉致しやがって…10倍にして返してやる。