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秋桜  作者: 七地
94/258

Over (5) side:悠


あんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ。


苛立ちに紛れてあんなことを言ってしまった事をずっと後悔していた。

目が合うたびに、少し困ったような悲しそうな顔で微笑まれて…そんな顔をさせているのは自分だと思うたびに辛かった。



朱雀の倉庫で雑誌を読んでいると携帯が鳴った。

見たことのない番号だった。いつもなら知らない番号からの着信は無視するけれど、何となく気になって出てみた。


「はい‥」


『海堂か?先生だ』


先生だ、その声はいつも教室で聞く担任の声と同じだった。

なんでオレの携帯にかけてくんだよ?オレ、何もしてないぞ


「え?マジで先生?」


そう言うと、口早に要件を言い出した。


『ああ、聞きたい事があってな。笠原が学校から帰ってきてないそうなんだが、何か聞いてないか?』


担任の声から焦りが伝わってくる。

帰ってきてないって…今日、笠原は学校を休んでいたハズだ。

梨桜ちゃんが休み時間に一人でいたから間違いない。


「オレは聞いてないけど‥オレより梨桜ちゃんが知ってるんじゃねぇの?」


オレが言うと、担任は溜息をついた。

困り果てている。そんな感じだ。


『東堂に連絡がとれないんだよ。自宅の電話も携帯も連絡がとれない』


「家族には連絡とれねーの?」


門限にうるさい弟がいただろ。

そう思って担任に言うと、


『弟にも連絡がとれない。まったくどうなってるんだ』


なら、弟と出かけてるんだろ。そう思っていると

バン!と荒々しく扉が開き、拓弥さんが入ってきた。


「寛貴!梨桜ちゃんに連絡をとれ!」


珍しく声を荒げている拓弥さんを寛貴さんも見ていたけれど、手に握られていたモノを見て、寛貴さんは顔を強張らせながら携帯を耳に当てた。


「先生、なんか分かったら連絡する」


『おい、海堂!?』


一方的に電話を切った。

拓弥さんの手に握られていたのは、20センチ位の長さに切られた髪の毛。

ストレートで、柔らかそうなそれに見覚えがあった。


「駄目だ。留守電に切り替わる‥」


拓弥さんから渡された髪の毛を寛貴さんが受け取り、髪の毛を巻いていた紙を広げた。

その紙に書かれていた文字を見て、息を飲んだ。


“殺 紫垣”


“朱雀”ではなく、敢えて“紫垣”と書かれている。

まさか…梨桜ちゃんが、捕まった?


「拓弥、三浦に連絡をしろ。青龍に行く」


拓弥さんが携帯を耳に当て、寛貴さんがソファから立ち上がると、部屋の外が騒がしくなった。

「どけ!」という怒鳴り声が響き、拓弥さんは苦笑しながら寛貴さんに扉を親指で指し示した。


「手間が省けたようだぜ?向こうから来た」


「邪魔だ!」


また怒鳴り声が響き、拓弥さんが扉を開けるとそこには宮野と三浦が居た。


「梨桜はどこだ?」


宮野は部屋に入るなり、寛貴さんを睨みつけていた。


「なんだと?」


宮野の言葉に寛貴さんは奴の胸ぐらを掴みあげた。

寛貴さんがキレた…


「こっちが聞きたい。梨桜が住んでいるのはお前達のシマだろ?何やってんだよ!」


「うるせぇ!」


寛貴さんの胸ぐらに掴みかかった宮野を三浦が制した。


「葵、相手を間違えるな。今は梨桜ちゃんが先だ。藤島、それ…」


三浦が言うと、宮野は寛貴さんの腕を振り払い、寛貴さんの手に握られていた髪の毛を奪った。


「学校で梨桜ちゃんの様子は普通だったか?」


髪を指先で撫でる宮野を寛貴さんが冷たい目で見ていた。


「上の空だったな」


寛貴さんが答えると三浦が頷き、宮野に「どうだった?」と聞くと宮野は首を横に振り、握りしめた手を額に当てると目を閉じたまま「梨桜」と言った。

その声と表情は辛そうで、泣いているようにも見えた。


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