Over (3)
「解散」
会議が終わり、委員会の人達は生徒会室を出て行った。皆が私を見ていた。
『どうして朱雀のトップがこんな女を構うのか?理解できない』そんな目をしている。
私だって分からない。
今日改めて、朱雀のメンバーは私の事を快く思っていない。それが良く分かった。
だから余計に寛貴には言えない。
会議に使った資料を集めていると、拓弥君と悠君の視線を感じた。
気付かないふりをして後片づけを続けながら時計を見た。
男から指定された11時に葵は家にいるのだろうか?
最近は夜遅くに家に帰ってくるけど、葵が家に居たら一人では外に出られない。
「いった…」
指先に鋭い痛みが走り、そこを見ると紙で指を切っていた。
「っ~!」
痛いっ!紙で切ると痛い!
「梨桜ちゃん、何やってんだよ」
切れた所をティッシュで押さえていると、拓弥君が呆れ顔で言った。
ここにいるのが葵じゃなくて良かった。絶対に感づかれる
「消毒しとけよ」
寛貴に言われて、救急箱から消毒薬を指先に塗り、溜息をついた。
私、凄く動揺してる…
「さっきから、考え事?」
拓弥君に聞かれて頷いた。
まぁ、考え事。だよね、どちらかといえば悩み事かな?
「‥そうかも」
葵が家に居たらどうやって外に出よう…コンビニに行く。って言ったら、一人で行かせてくれるかな?
「そうかも。って自分の事だろ?…まぁ、あんなメールを流された後じゃ悩み事も増えるよな」
コンビニに一人で行く言い訳を考えたけれど、どれも却下されてしまうような気がした。
葵は絶対に私を一人にはしてくれない。…どうしよう?葵を丸め込むのって凄く大変なんだよね…
「梨桜ちゃん、オレの話聞いてないだろ」
拓弥君に言われて、慌てて首を横に振った。
ごめんね、全然聞いてなかった…
「葵、出かけるの?」
夕飯を食べながら聞いたら、逆に「一緒に来るか?」と聞かれて首を横に振った。一緒にチームに行ったら監視の目が増えるだけ。
絶対に一人にさせてもらえない。
「ウチにいる」
怪しまれないように、いつも通りに返事をした。
葵がいつも通りに出かけるなら、男が指定した場所に行ける。
“麗香ちゃんを助けにいかなきゃ”
やっぱり、私だけが安全な場所にいる訳にはいかない。
「今日ね、紙で指を切っちゃったの。染みるから食器洗うのをお願いしてもいい?」
葵の様子を窺いながら聞くと、絆創膏を貼った私の指を見て頷いてくれた。
「ああ。ちゃんと消毒しておけよ?」
「うん、ありがと」
ごめんね。葵に食器洗いをお願いする程深い傷じゃないんだ…
シンクで食器を洗ってくれている葵に見つからないように、テーブルに置いてあった葵の携帯を自分の服のポケットに入れた。
葵なら気がついてくれる。
私を捜してくれる。
「オレが出かけたら戸締まりしておけよ」
「ん。行ってらっしゃい」
そう言って葵は出掛けた。
バルコニーから葵が迎えの車に乗るのを確認して出かける準備をした。
葵の携帯は首からかけて下着の中に入れて隠し、シャツを着て上から葵のパーカーを羽織ってマンションを出た。
葵は私が1人で出歩くのを許さなかったから、こんな遅い時間に1人で出歩いたのは久しぶりだった。
どれだけ大切にされていたか、こんなところで実感している自分が情けなくなった。
駅前についてコンビニに目をやると黒塗りの車が停まっていた。
私の携帯が震えていたけれど、そのままにした。
葵の携帯はサイレントにしておいた
葵、私がいないことに気がついたら、捜して。
――待ってるから