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秋桜  作者: 七地
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--『もう、どうなってもいい』そんな投げやりな感情を抱いてしまったことが災いしたのか--


『なぁ、友達助けに来る?』軽いノリで楽しそうに言われて、すぐには言葉を返せなかった。


口調は楽しそうで、まるで“ウチに遊びにくる?”と誘っているようだ。

けれど、男から発せられる言葉は恐ろしい意味を持っている。


「無事なんでしょうね」


怖いけれど、麗香ちゃんが心配だった。『拉致した』その言葉が本当なら、彼女はどんなに怖い思いをしているのだろう?


『今のとこはね。あんたが来なかったらこの女をボロボロにする。宮野と藤島に言ったらもっとボロボロにするよ』


さっきまでの楽しげな口調から一転して、低くて恐ろしい声で言った。

どうして麗香ちゃんなの…


「あの二人と彼女は何の関係もないでしょう?」


『あんたのガードが堅いからだよ。利用できるものは何でも利用する、それだけだ。なぁ、冗談じゃないぜ?あんたが来なかったらマジでこの女は可哀想な目に遭う。まぁ、お友達を見捨てるのも助けるのもあんたの自由だけどな』


卑怯者!怒鳴りつけてやりたかったけれど、廊下には人がいたから唇を噛んで堪えた。


助けなきゃ。

本当なら、葵をおびき出すために私が利用されるハズなんだ。それなのに関係のない麗香ちゃんが拉致されて怖い思いをしている。


辺りを見回し、朱雀のメンバーがいないことを確認して話を続けた。


「私が行ったら麗香ちゃんを返してくれるの?」


『お前が一人で来たらな。無傷で返してやるよ』


もしも、この言葉が嘘だったとしたら…?罠だったら?

男の言葉を疑っているけれど、さっきの言葉がどうしても頭から離れなかった。


『あんたが来なかったらこの女をボロボロにする』


私が行かなかったら麗香ちゃんは一人で酷い目に遭わされる。

脅しなんかじゃない。今電話をしてきている男達は笑いながら人を嬲れるような奴等なんだろう…


「…どこに行けばいいのよ?」


『さすが進学校に通うだけあって、物分りが良くていいね~。夜11時に駅のそばのコンビニに来いよ。…あいつらに言ったらどうなるか、わかってんだろうな』


脅す事を忘れずに念を押した男は電話を切った。





どうする?

私はどうしたらいい?


何度も何度も自分に問いかけた。

葵と寛貴に黙って男達のところに行くのは危険なことは分かってる。話をしたら葵と寛貴は麗香ちゃんを助けてくれる。

…自分だけが守られて、安全な場所にいて見ているのは嫌。私が行かなかったせいで彼女が傷つけられるのは絶対に嫌だ。


両手で顔を覆い、深く息を吐いた。

何度考えても答えは見つからない。


「梨桜?」


名前を呼ばれて顔を上げると皆が私を見ていた。


「梨桜ちゃん、聞いてた?」


今は各委員会との会議中。

寛貴に「来い」と言われていた生徒会は、各委員会との会議だった。

何の議題だったのかすら良く分からない。何も聞いていなかった。


「ごめんなさい…」


謝ると、各委員会の委員長達が私を見ていた。

冷たい視線を投げかけられて思わず俯くと、「会長も大変ですね…」冷笑しながら誰かが言うと「宮野も物好きだな」小さな声が聞こえた。

彼等の中にも朱雀のメンバーがいるんだろう…

私が寛貴にこの事を話したら、彼等を動かすんだろうか?


「梨桜、顔を上げろ」


寛貴が席を移動して私の隣に座ると、私の頬に手を当てて自分に顔を向けさせた。


「具合が悪いのか?」


心配そうに言いながら額に手を当てて熱を測った。熱なんかないよ…

首を横に振ると「何があった?」そう言いながら、親指で私の頬を撫でた。


「何も無いよ」


やっぱり、言えない。『無い』と答えた私を信用していないのか、寛貴は探るように私の目を見ていた。


「皆が見てるよ?寛貴も物好きって言われちゃうよ」


真っ直ぐな視線に嘘を見破られてしまいそうで、はぐらかす為に言うと寛貴は私の頬に触れたまま、各委員会の委員長達が座っている方へ鋭い視線を向けた。


「見たい奴には見せておけばいい。梨桜、何かあったらすぐに言えよ」


小声で話していた彼等は、寛貴に視線を向けられるとピタリと話をやめて私達を見ていた。


「助けて。って言ったら助けてくれるの?」


「ああ。だから必ずオレを呼べ。分かったな?」


その言葉には頷かずに、「ありがとう」とだけ言った。

寛貴、ありがとう。その気持ちが嬉しい…


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