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秋桜  作者: 七地
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Over (1)

普段は鍵が閉まっている屋上にいる事を見られたら面倒なことになる。

寛貴のメールを無視して屋上を後にした。


「何処に行ってたの?」


階段を降りていると声をかけられた。

悠君から声をかけられるのは久しぶりだったから、笑いかけたけれど、彼は硬い表情で私を見ているだけで、笑みを返してはくれなった。


「屋上」


まだ、無理なんだ。

諦めて返事をすると悠君は眉を顰めて私を見た。


「寛貴さんから、一人になるなって言われなかった?」


悠君の口調は私を咎めるようだった。彼にとっては寛貴の言葉は絶対なんだろうな…

だから私の事を避けていても、こうやって捜しに来るんだよね?


「だから教室に戻るの。寛貴に言われ…「宮野と付き合ってるのか?」


『寛貴に言われて授業中なのに来てくれたの?』そう言おうとした私を遮って悠君は言った。


「え?」


また、あのメールの話?

悠君に聞き返すと、言いにくそうにしながらもう一度同じことを言おうとした。


「だから、宮野と…「どうしてそう思うの?」


今度は私が彼の言葉を遮って聞き返した。悠君にそんなことを聞かれるとは思わなかった。


「ねぇ、悠君は何を見て、何を聞いてそう思うの?」


「…」


私を睨むように見て、何も答えなかった。

悠君も噂話と画像を見て信じているの?


「メールが流れているんでしょう?それを見て私と葵が付き合っていると思ったの?それとも、今までの私を見てそう思ったの?」


どっち?と聞くと目を逸らして背を向けた。

噂を信じて、私自身を見てくれていなかった。そういう事?


「答えられない?」


「わかんねぇ…梨桜ちゃんがわからない。寛貴さんに抱き締められてたのに、なんで宮野と親しげにするんだよ。宮野は敵だろ?梨桜ちゃんは寛貴さんや朱雀を裏切るのか!?」


“裏切り”そう言われた事が…悠君の言葉が悲しい。


もう、どうなってもいい。

その感情が急に大きく膨れ上がった。これで、前以上に気まずくなってしまったとしても仕方がない。


「悠君にとっては敵チームかもしれないけど、私にとっては二つのチームの事はどうでもいいことだよ」


振り返った悠君は、驚いたように目を見開いたけれど、すぐに私を鋭く見つめた。


「葵や愁君は私にとって敵じゃない」


私と葵の関係がバレて、悠君が私を敵視してもいい。嘘をついているよりマシだ。

何も言わない悠君に背を向けて教室に向かった。



・・――――

   ―――――


紫苑よりも東青の方が早く試験が始まり、コジ君の家庭教師から解放された私は家と学校を往復するだけの生活になった。

学校に来ても、生徒会の活動にも参加せずに試験が終われば家に帰り、次の日の試験科目の勉強をする。

朱雀とも、葵以外の青龍のメンバーとも関わらない。この学校に転校してきたばかりのような日々を過ごしていた。






期末試験が終わった次の日の放課後、生徒会に行こうかどうか迷っていると携帯電話が鳴った。

表示は麗香ちゃんからで、今日は学校を休んでいて心配だったから躊躇うことなく電話に出た。


「麗香ちゃん?どこか調子が悪いの?」


『あんた東堂梨桜?』


麗香ちゃんとは似ても似つかない男の声に名前を呼ばれ、驚きで答えられずにいると男はまた私の名前を口にした。


『なぁ、東堂梨桜本人だろ?』


どうしてこの男は麗香ちゃんの携帯から私に電話をかけてきているんだろう?私を確認するという事は、私と話をしたことのない人物。そうだよね?


視線を感じて振り返ると、悠君が私を見ていた。

朱雀を関わらせてはいけないような気がして、私は廊下に出ると声を潜めて会話を続けた。



「あなた、誰?麗香ちゃんは?」


『拉致った』


男の口からとんでもない一言が飛び出した。


「え?…なに?」


楽しそうに言う男に呆然と聞き返すと、電話の向こうではクスクスと楽しそうに笑っている。

私はからかわれているのだろうか?


『だから、拉致った』


言葉と楽しそうな口調が一致していない。その言葉に軽く眩暈がした。



『なぁ、友達助けに来る?』





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