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秋桜  作者: 七地
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物憂い (7)

「これ、東堂さんだよね?」そう言われて差し出された携帯に写っていた画面を見ても意味が解らなかった。

私と寛貴が歩いている画像と、葵と並んで写っている画像。

これが何だっていうの?


「これがどうかしたの?歩いているだけじゃない」


そう言うと、小橋さんはガシッと私の肩に手を置いた。


「東堂さんは分かってない!これがどんな事を意味するのか!…あ~…もうっ!」


「小橋さん、梨桜ちゃんは転校してきたんだから分からなくても仕方ないよ。梨桜ちゃん、後で説明するから。小橋さんも梨桜ちゃんも落ち着いて?」


麗香ちゃんの言葉に頷くと、小橋さんも頷いた。


「とにかく、この写メのせいで東堂さんが危ないの。朱雀と青龍のファンに恨まれてるから気を付けてね?」


この写メとさっき小橋さんが言っていた“メール”昨日、私に絡んできた男子高校生が言っていたのはこの事なんだ…


「小橋さん、教えてくれてありがとう。麗香ちゃん、戻ろう?」



誰もいない屋上で麗香ちゃんとお弁当を食べた。


「梨桜ちゃんは藤島先輩と宮野君が男女共に人気があるのは知ってるよね?」


「知ってるよ」


朱雀ファンに嫌がらせをされていたことを思い出してしまった。

あの時は、毎日嫌がらせの手紙が入っていたな…


「二人とも、女の子を自分の傍に置こうとするのって凄い事なんだよ。梨桜ちゃん、前に言われたよね?あの事が噂になってるんだよ」


麗香ちゃんは真剣に言うけれど、いつも葵と寛貴に小言を言われている私にはいつのことを言っているのか分からなかった。


「何だっけ?」


笑って誤魔化そうとしたら、麗香ちゃんは目を見開いて驚いた顔で私を見た。


「梨桜ちゃんってば!忘れちゃったの!?北陵の生徒に絡まれたときに言われたでしょ!」


思い出した。


「ああ、あの売り言葉に買い言葉的な宣言ね」


ご飯を口に入れてうんうん、と頷くと麗香ちゃんが「あんな凄い事を言われて忘れていられるってある意味凄いよ?」と私を諭すように言った。


「忘れてたわけじゃないよ。ただ、どっちも負けず嫌いだから思わず出ちゃったんじゃない?本気じゃないと思うよ」


「梨桜ちゃんて…」


溜息をついて首を横に振る麗香ちゃんに「私と葵が付き合ってるわけないよ」そう言って笑いかけると疑わしそうに「本当?」と聞いてきた。

本当だよ。葵にだって恋愛感情があるわけないから。



「大体おかしいでしょ?制服を着て並んで立っているだけの写真で付き合ってるとか無理があるよ。寛貴だってそうだよ、一緒に歩いているだけで恨まれたら生徒会に居れないでしょ」


もしも、この前の屋上での事を誰かに見られていたのなら…それこそ大騒ぎになるけど、今回の事は騒ぎ過ぎだよね。


「もう、梨桜ちゃんは呑気なんだから!あの二人を名前で呼んでいることだけでも凄いんだよ?…とにかく、小橋さんの話だと梨桜ちゃんは恨まれているみたいだから気を付けてね?」


あのね、名前で呼べって迫ったのは寛貴だから。言いたいけれど、その言葉を呑み込んでお茶を飲んだ。


「うん、わかった。気を付けるね」



午後の授業は自習になり、皆は真面目に問題を解いていたけれど、私は殆ど手をつけずに窓の外を見ていた。


『梨桜ちゃん、ズルいよ!』

まだ小学生だったときに女の子から良く言われた言葉。

『梨桜ちゃんがいると、葵君とおしゃべりできない』

葵は小学生の頃から『アイツ、男と女の前だとしゃべり方が違うんだぞ!そんな奴、信じられるかよ』そう言って、自分にまとわりついてくる女の子には冷たくて、いつも私と一緒にいた。

葵の気持ちも理解できるけど、文句を言われるのは私ばかりで

『葵君を一人占めしないで、梨桜ちゃんはズルい』

何度となく言われてきた。

まさか、高校生になっても葵の事で恨まれるとはね…

余りの馬鹿馬鹿しさに笑いが込み上げてきた。


席を立って教室を出て慧君がくれた鍵を持って屋上へ向かった。

向かいながら、寛貴にメールを送った。

“変なメールが流れてるみたいだね。昨日、私の事に家に帰れって言ったのはそれが原因?”


屋上の扉を開けると、メールが届いた。


“メールを見たのか?今どこにいるんだ”


葵と寛貴はそのメールを見ているんだろうな…互いに敵チームの総長と私が写っているのを見て何を思ったんだろう?


「蒸し暑い…」


日陰を見つけてそこに座ると、返事を送った。

“メールは見てないよ。恨まれてるから気を付けてって教えてもらったの。学校にいるから、心配しないで”


葵にもメールを送ろうと思って、文章を作ったけれど途中で止めた。葵が私に教えないのは、私を不安にさせないようにする為だから…知らない事にしておこう。


大体ね、最初から無理なのよ。

双子だということを隠しても隠さなくても、葵が私に接する態度は同じなんだから。

それに葵から他人行儀な態度をとられたら、寂しくて、悲しくて泣いちゃうかもしれない。


今度、葵に言おう。私が危険な目に遭うなら、葵の双子の姉として狙われた方がいい。

葵が護ってくれるなら、大切な家族として守って欲しい。


寛貴からまたメールが届いた。


“どこにいる?答えろ”


寛貴って心配性なんだね。 “屋上。私一人しかいないから大丈夫”意外な一面に苦笑しながら返事を送った。


“一人になるな。今行くからそこから動くなよ”


直ぐにメールが返ってきて、吃驚した。最初にメールを送った私も悪いけど、今って授業中だよね?

――寛貴も私を生徒会に入れたせいで面倒なことに巻き込まれて可哀想に…



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